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第5話

帰宅すると、なんと明彦がマンションのドアの前に立っていた。私の姿を見つけると、彼はいきなり腕を掴み、無理やり部屋の中へ引きずり込んで、壁に押しつけてきた。

「桐谷、何のつもりよ!」

「結花、君の勝ちだよ......俺が負けた。君がいなくなってから、何もかもがうまくいかない。お願いだ、俺のもとに戻ってくれないか?」

そう言いながら、彼は私の手を取り、まるで心底から反省しているかのように見つめてくる。だが私はそのあまりの演技臭さに、思わず吹き出してしまった。

私が笑うと、明彦は眉をひそめ、まるで決め顔をして尋ねてきた。

「どうして笑うんだ?」

「いや、桐谷さん、演技力が上がったのね。西園寺さんと一緒にいるうちに、教えてもらったのかしら?お似合いの先生だったんじゃない?」

この言葉に、彼は一瞬固まった。

私は手を振り払ってドアを開け放ち、冷たく告げた。

「出て行きなさい、今すぐ。さもないと通報するわ。明日のニュースで『盛岡テクニックの桐谷社長、女性の部屋に不法侵入』とか見出しに出てもいいわけ?」

彼は唖然とした顔でこちらを見つめた。

「......結花、本気なのか?」

「もちろん。私は今シビックテクニックの社員よ。ここで何かすれば、桜庭社長が黙っていると思う?それにもう退職して、きっちり引き継ぎも済ませたの。今の私に、あなたが関われる立場なんてないわ。何、私が冗談を言ってるとでも?」

「そもそも、あなたが浮気して八年間の関係を裏切ったんでしょ?」

明彦は、私を初めて見るかのように驚きの表情を浮かべて言った。

「でも、結花......君、昔はこんなじゃなかっただろ?」

「昔は我慢していたけど、今は全くその気がないの。私がどうして自分を犠牲にしなきゃならないの?」

その言葉に、私は自分でも呆れて笑ってしまった。確かに昔の私はこうじゃなかったかもしれないが、昔の明彦もこんな人じゃなかった。

彼に過去を語る資格はない。

「まだ私を放さないつもり?」

一瞬ためらった彼を前に、私は遠慮なく膝を突き上げた。彼は痛みに顔を歪め、私はその隙に彼の首元を掴んで外に突き飛ばした。

「桐谷、これ以上みっともないことはやめな」

警察沙汰にはしたくなかった。せっかくシビックテクニックに転職したばかりで、私の働きが結果を出さなければ、祐一だって私を守るのに限
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