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第4話

拳を強く握りしめ、爪が深く食い込んでいるのに痛みすら感じなかった。

かつて愛した男が、今やこんな形で私を侮辱してくるなんて......

思わず手を上げかけたその時、そばから声が聞こえた。

「彼女が君の私物だなんて思わないがね。それに、彼女の実力に君が及ばないのは明白だ。出世のために女性を利用しておきながら、成功した途端に蹴り飛ばすような真似をする男こそ、最も愚かだと思うが?

そう思いませんか、桐谷さん」

明彦が驚いて振り向くと、そこには祐一が立っていた。明彦は目を見開く、「桜庭社長!」

そばにいた華音も嬉しそうな顔で彼に視線を送っている。彼女が祐一に興味を持っているのは知っていたが、あいにく彼が興味を持つタイプではなさそうだ。

「結花、祐一を紹介してくれないか?二人はどういう関係だ?」

私は彼の言葉を遮り、きっぱりと言い返した。

「桐谷さん、私はすでにシビックテクニックに転職したの。つまり、これからはあなたのライバルよ。それに私たちはもう他人なんだから、私のことは白崎さんと呼んでくれる?」

私が明彦との関係を祐一の前で断ち切ると、明彦の顔はみるみる険しくなった。すると、横から華音が茶々を入れるように言う。

「白崎さん、早々に新しい居場所が見つかってよかったですね。ずいぶん前から桐谷さんのもとを離れるおつもりだったんでしょう?

桐谷さんもお心配には及ばないですよ」

私は淡々と微笑みながら返した。

「そうね、心配ご無用。私はどこへ行ってもやっていける。桐谷さんに頼らなくても、必要とされるところがあるのよ」

私の言葉に明彦は表情を曇らせた。私がここまで言い切るとは予想していなかったのだろう。私と祐一が手を組むことで、今後、明彦がシビックテクニックとの取引で困難を強いられることを悟ったに違いない。

けれど、私はそれほど小さな人間ではない。利益があるならビジネスは歓迎するつもりだ。だが、その条件は、彼が私にもう二度と偉そうな態度を取らないことだけ。

華音を一瞥し、笑みを浮かべて言った。

「契約については桜庭社長の判断次第ですね。私はまだ入ったばかりの新人ですから」

祐一はうなずきながら静かに言った。

「私の会社では、実力だけではなく―」

「じゃあ何を重視しているんですか?」

華音が目を輝かせ、媚びるような仕草で尋ねた。祐一は淡々と答
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