第48話

最後の日々を過ごすために。

小林水子は、南雲華恋の異変に敏感に気付いた。彼女は南雲華恋の手を取って言った。「もちろん、問題ないよ。どれだけでも住んでいいから、行こう」

二人は車に乗り込んだ。

小林水子はゆっくりと車を運転し、時折南雲華恋の方を振り返って見た。

南雲華恋は窓の外を見つめ、空っぽの目をしていた。まるで壊れた磁器の人形のようだった。

その姿に小林水子は胸が痛んだ。

「華恋、お父さんがそんなに急いで呼び出したのは、いったい何があったの？」

南雲華恋は振り返り、柔らかく微笑んだ。「賀茂哲郎と結婚しろって」

小林水子は言葉を失った。「なんであんなクズと結婚しなきゃいけないの？」

「賀茂家の力を借りて、南雲家を再び栄光の座に戻したいから」南雲華恋の声は冷淡で、まるで他人事のようだった。

彼女の様子を見て、小林水子はさらに胸が痛んだ。「まさか、引き受けてないよね？」

「引き受けたわ」

小林水子は急ブレーキを踏んだ。「華恋、正気じゃないでしょ？」

南雲華恋は微笑んだ。「引き受けないとどうなる？彼らが私の目の前で毒薬を飲むのを見過ごすしかないの？」

小林水子はハンドルを叩いて叫んだ。「自殺で脅すなんて、最低だ！まったく、あの人たちは本当に君の親なのか疑いたくなるわ！」

南雲華恋は青い空を見つめた。なんて奇妙なことだろう、運命を受け入れると、不思議とまったく苦しく感じなかった。

「水子、怒らないで。これが私の運命なの。生まれたときから、私は賀茂哲郎と結婚するために生まれてきたんだって家族から教え込まれてきた。運命を受け入れれば、皆が私を愛して、大切にして、敬ってくれる。それも悪くない......」

彼女の声は冷たく、哀しみが溶け込んでいた。

小林水子は胸が締め付けられる思いだった。「でも、賀茂哲郎と結婚したら、肾を南雲華名に差し出さなきゃいけないんだよ。くそっ、想像するだけで吐き気がする。あの愛人が華恋の頭にのさばるのはまだ我慢できるとしても、華恋の臓器を奪うなんて、我慢できない！」

南雲華恋は小林水子の怒りをじっと見つめ、その表情を心に刻んだ。そして、静かに微笑んで言った。「医者に相談したけど、片方の肾だけでも普通の生活には何の支障もないって」

小林水子は、結婚と引き換えに肾を提供するという背景に、南雲華名が彼女を死に追いやろうと