【母の味、試作作り】 大翔さんと結婚してからニ週間。わたしたちは夫婦としての道を歩み始めた。 そして本格的に、わたしたちはスイーツ開発に向けて動き出したのであった。「天野川さん、材料はこれで全部かしら?」「はい。これで全部です」 まだ結婚した実感は、あまりない。 けど【天野川さん】と呼ばれる度に、あぁ……わたしは本当に結婚しているんだなと感じる。「天野川さんのお母様のレシピ通りに、まずは試作品を作ってみましょうか」「は、はい」 いよいよ、アップルパイの試作作りが始まろうとしている。「天野川さんのお母さん直々のレシピになるから、まずはそのままの材料でそのままの手順で作って
【二人で朝食作り】「おはよう、大翔さん」「おはよう、由紀乃」 それから一ヶ月が経った。わたしたちの結婚生活が何か変わってるのかというと、特にそうでもないような気がする。「由紀乃、朝食はパンケーキでいいか?」「はい……じゃなくて、うん」 敬語で話すなと言われるのだけど、やっぱり敬語の方が落ち着くような気もする。 だけど大翔さんからは、敬語じゃなくていいと言われる。「今日は俺が作る。由紀乃は座っててくれ」「え、いいの……?」「ああ、俺が作るよ」 大翔さんもたまに料理をするみたいで、休みの日はこうして朝食を作ってくれたりする。「由紀乃、今日はパンケーキに何を乗せる?」 パ
「あ、写真撮ってもいいですか?」 「写真?」「Instagramに載せたくて」 せっかく二人で作った朝食だ。見た目も良かったから、Instagramに上げたいと思った。「撮ってもいいぞ」「……じゃあ、遠慮なく」 写真を撮ってInstagramに投稿したわたしを見て、大翔さんは嬉しそうに笑っていた。「え、なんですか?」「いや、スイーツじゃないのに、幸せそうだなって思って」「……そうですか?」 幸せそうか……。大翔さんはどうなんだろう?大翔さんは幸せなのかな……?「さ、食べようか」 「はい。……いただきます」「いただきます」 大翔さんの作ってくれたパンケーキをナイフで切
ハンドルを持ちながらそう言ってきた大翔さんの横顔に目を向けると、その横顔があまりにも素敵で思わず見とれてしまう。「……なんだ?」 わたしの視線に気付いたのか、大翔さんはチラッとわたしを見てきた。「い、いえ! 別に……!」 思わず見とれてしまった……。だって大翔さん、カッコいいし。 こんな人がわたしの旦那さんだなんて、まだ信じられないくらいだ。 結婚したとはいえ、まだ実は結婚指輪をもらっていないせいか、結婚したという実感が湧かない。「後十分くらいで到着するぞ」「分かりました」 一体そこには、どんな景色が待っているのだろうか……。とても楽しみだし、とても気になる。 そし
「由紀乃、遅くなってごめん」 そしてその箱から小さな何かを取り出すと、わたしの左手の薬指にその何かを嵌めてくれた。「え……これって……?」「結婚指輪だ。買ってやれてなかったから」「結婚……指輪……?」 そして大翔さんは、わたしのその左手の薬指に結婚指輪をそっと優しく嵌めてくれた。「……キレイな指輪」「よし、サイズもピッタリだな」 小さなダイヤの付いたその結婚指輪は、とてもキレイに光り輝いていた。「似合ってるよ、由紀乃」「……ありがとう、大翔さん。すごく嬉しい」「ちなみに指輪の裏には、お互いの名前を刻み込んだ」 え?お互いの名前が入ってるの……?「俺は由紀乃と名前を入
そんなことを言われたら、抗えなくなってしまった。「いい子だ」「んっ……」 そしてまた大翔さんから、キスの雨を降らせられる。 わたしは大翔さんの背中にしがみついて、大翔さんの全てを受け入れる覚悟を決めた。 そして大翔さんからの熱いキスと共に、下着の上から自分の敏感な所に触れられると、更に体温は上昇していった。「あっ……いやっ……」 自分で思いがけない声が出てしまい、思わず口を手で覆った。 な、何、今の声……? まるで違う人みたいだった。恥ずかしい……。「由紀乃、声我慢しないで」「で、でも……」 ダメ……恥ずかしい。 だってわたしじゃないみたいだった。 こんなの無理だ
【新しい食材選び】 そんな幸せな夜からしばらく経った時のことだった。「天野川さん、今回思い切って材料新しくしてみようと思うんだけど、どう思う?」「え? 材料ですか?」「そう。使っている材料自体を、産地のものとかブランドのものとかに変えてみようっていう案が出てるんだけど」 スイーツ開発に携わってから約一ヶ月。母のアップルパイの商品化を目指し、わたしは片山さんたちと奮闘していた。 レシピ通りに作ってみてからは、砂糖やハチミツなどの量を変えてみたり、焼き方を変えてみたりなどを繰り返していた。「なるほど……。材料自体を新しくしてみるってことですよね?」「そう。使うりんごにもこだわった
頼んだは定番のつがる、ジョナゴールド、そして気になっていた紅玉、王林、シナノスイートを頼むことにした。 リンゴが届くまでに一週間はかかるとのことだったので、とりあえずパイ生地組と合わせて一週間後にリンゴが届き次第ミーティングを再開することにした。「天野川さん、この後時間ある?」「え、わたしですか?」「ええ。お腹空かない? 何か食べに行かない?」 片山さんの小野寺さんから食事に誘われたわたしは「じゃあ、ご一緒させてください」と言って、食事に出かけることにした。「ここよ、ここ!」 案内されて向かった先には、雰囲気のいいカフェがあった。「うわ、すごい。可愛いですね」「実はここ、
大翔さんがいなきゃ、わたしはスイーツを作ろうと思えなかったかもしれない。 単純にスイーツを食べることが大好きってだけで、ここまで来ることは思ってなかった。「わたしは、スイーツが大好きだよ。食べることも、作ることも大好き。……だけど、わたしは大翔さんと一緒にいる時間が、一番大好きなんだよ。大翔さんがいないと、わたしは生きていけないもん」「由紀乃……」 だってわたしは、天野川由紀乃。スリーデイズの副社長である天野川大翔の妻だ。 大翔さんのことを誰よりも尊敬しているし、誰よりも愛おしいと思ってる。 大翔さんは誰よりも頼れる存在で、わたしにはもう大翔さんと過ごすこの時間がかけがえのない大切な
【〜最高の幸せは家族三人で〜】 「ただいま」 「大翔さん、おかえり。 今日もお仕事、お疲れ様でした」 「ありがとう、由紀乃」 わたしは大翔さんに「先にご飯食べる?」と聞くと、大翔さんは「ああ、そうするよ」と答える。 「今日の夕食、大翔さんのリクエストのチキン南蛮にしたよ。後豚汁とピリ辛キュウリ」 「お、チキン南蛮は嬉しいな」 「すぐ用意するね」 あれから気が付けば、半年が過ぎた。 半年間色々とあったけれど、無事にオンラインショップでのスイーツ販売にもこぎつけることに成功した。 そしてスリーデイズのオンラインショップでも自慢のアップルパイをハーフとホールでの販売も開始したところ、これがまた大反響なのだ。 大人気のためオンラインショップがサーバーダウンしてしまうことがあり、お客様には迷惑をかけてしまったが、無事にサイトも復旧しまた販売が出来るようになった。 思わぬサーバーダウンにわたしたちもてんやわんやでバタバタしてしまったが、サーバーに強いスタッフがいるおかげで割とすぐにサーバーは復旧することが出来たのも良かったと思う。 「お、チキン南蛮美味そうだな」 「ふふふ。正直、自信作」 「そうか。 よし、食べよう」 二人で「いただきます」と手を合わせると、大翔さんは早速出来たてのチキン南蛮に手を伸ばす。 パリパリというチキンの音が、口にした瞬間にいい音を奏でている。 「うん、美味いっ」 「でしょ? 自信作だからね」 「本当に美味いよ。最高だわ」 「ふふふ。良かった」 大翔さんがこうやっていつも美味しそうにご飯を食べてくれるから、わたしも作って良かったと思える。 一人で食べるより、やっぱり二人で食べる方が何倍もご飯は美味しい。 「豚汁も最高に美味い」 「良かった」 わたしが作る豚汁は出汁に特にこだわっている豚汁で、味噌は白味噌を使っているのだけど、出汁が美味しいから豚汁がもっと美味しくなっている。 「いつも美味しく食べてくれるから、わたしも嬉しいよ」 「本当に由紀乃の料理は美味い。疲れた身体を染み渡る」 「良かった」 大翔さんと色々と切磋琢磨しながらこうして美味しいスイーツ作りをしてきたけど、美味しいスイーツでみんなが喜んでくれるのはやっぱり嬉しいし、作ってて良かったと実感する。 「そうそう。ネットでのアップルパイの注
片山さんがそう伝えると、新メンバーの人たちは驚いているようで、「えっ! あ、天野川副社長の奥様……ですか!?」とわたしを見ている。「はい。わたしは副社長の妻です。……片山さん、伝えてなかったんですか?」「言ってたつもりだったんだけどね」「すみません。聞いてなかったのでビックリしました」 そう言われたけど、「わたしのことは普通にリーダーでいいですよ。 副社長の奥様だとか、気を張ることないですからね」と念の為伝えておいた。「お、恐れ多いです……」 と言われたけど、「わたしだって普通の一般人ですよ?元はスイーツ大好きな一般人です。 なので、気負わず話しかけてくれたら嬉しいです」と笑顔を見
わたしたちは頷きながら「はいっ!」と返事をした。「求人募集についての補足になるが、募集開始後の面接は俺と片山、二人で行うことになった。 片山、宜しく頼むよ」「えっ!わたしですか……!?」 片山さんは驚いたような表情をしている。 大翔さんは片山さんに「片山は俺がスイーツ部門を立ち上げた時からの初期メンバーだからな。片山が一番適任だと俺は思ってるんだが……どうだ?」と聞いている。「わたしも、片山さんが適任だと思います」 わたしがそう伝えると、片山さんは「そこまで言われたら、断れないじゃないですか」と言っているものの、「わかりました。面接担当、引き受けます」と受けてくれた。「ありがとう
無理だけは絶対にさせられない。「なんとか人手を増やせない、ですかね」「人手が増やせれば、なんとか回せるんだけどね……」 今の人数でやれることがギリギリになり、仕事を増やしてしまうと負担を掛けてしまう。 そうなると、なかなかお取り寄せにまでは辿り着くのは難しいかもしれない。「片山さん。副社長に、求人募集の依頼をかけてもらいませんか?」「求人募集?」「はい。社員でなくても、例えば短時間でも働けるスタッフとか、土日だけ働きたいみたいな人たちを募集してみませんか?」 派遣みたいなスタイルにしてもいいし、その人が働きやすい環境で働いてもらえるように、募集をかけていくしかもうない。「パ
ワンホールでの販売すれば、家族みんな分け合って食べられるし、自分なりにアイスを乗せたりしてアレンジも効くから、そっちの方がいい気もする。「そうだな、店舗では4/1カットが基本だもんな。……なあ、お取り寄せにするなら、ワンホールとハーフカットが選べるってのはどうだ?」 「ハーフカットとワンホールを選べるようにするってこと?」「そうだ。少人数だとワンホールは多いだろうし、ハーフカットを選べたら少人数でも食べやすいと思わないか?」 ああ、確かに……!「そのアイデア、素敵だね」「カップルや友人で少人数で食べるなら、ハーフカットくらいがちょうどいいだろ? ワンホールじゃ多くて食べきれなくなる
【スリーデイズの進化の時】 「副社長、後百個の追加、OK出ましたよ」「本当か? 良かったな」「うん」 後日の話し合いの結果、アップルパイの百個の追加注文を受けられることになった。 思ったより反響があったおかげで、製造数を増やすことが出来て、わたしたち自身も嬉しく思う。「ところで、大翔さん」「ん?」「この前言ってた冷凍スイーツの件、なんだけど……」 わたしたちみんなで話し合った結果、アップルパイを冷凍スイーツとして売り出すのであれば【お取り寄せ】として販売するのはどうか、という話が出てきたため、わたしはそれを大翔さんに相談することにしたのだ。「アップルパイを冷凍として
「うん。パフェの人気が思ったよりすごかったから、冷凍スイーツみたいな感じで販売出来たらいいなって思って」 わたしがそう話したら、大翔さんは「冷凍スイーツか。それはいいアイデアだな」と言ってくれた。「今冷凍スイーツが結構流行ってるじゃない? 今結構多いのが、無人販売スイーツみたいなのなんだけど、二十四時間買えるところもあって。 冷凍スイーツにして販売したら、いいかなって思ったの」「それがスリーデイズの第二のスタート、って所かもな」「第二の、スタート……」 確かにアップルパイが大成功したし、そしてイベントも大成功した。 次のステップは、冷凍スイーツにシフトしていったほうがいいのかもし
「大翔さん、ありがとう。大翔さんのおかげだよ」「それは由紀乃が頑張ったからだろ?」「……わたし、なんか泣きそう」 大翔さんはわたしの頭をそっと撫でてくれる。「泣いてもいいぞ」「……でも、ここでは泣かない」 家に帰ってから思う存分泣くことにする。「家で思いきり泣くことにするね」 「そうか。じゃあその時は俺の胸を貸してやるよ」「ありがとう」 こういう時に助けてくれるのが大翔さんだから、いいんだよね。「パフェが全部完売なんて、実はちょっとビックリしてるんだ」「そうなのか?」 わたしは「うん」と頷いた。「正直、完売は無理かなって思ってたし」「でも完売したな」 「うん