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第 4 話

Penulis: 水沼早紀
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-12 19:37:13

【母の味、試作作り】

大翔さんと結婚してからニ週間。わたしたちは夫婦としての道を歩み始めた。

そして本格的に、わたしたちはスイーツ開発に向けて動き出したのであった。

「天野川さん、材料はこれで全部かしら?」

「はい。これで全部です」

まだ結婚した実感は、あまりない。

けど【天野川さん】と呼ばれる度に、あぁ……わたしは本当に結婚しているんだなと感じる。

「天野川さんのお母様のレシピ通りに、まずは試作品を作ってみましょうか」

「は、はい」

いよいよ、アップルパイの試作作りが始まろうとしている。

「天野川さんのお母さん直々のレシピになるから、まずはそのままの材料でそのままの手順で作ってみましょう」

「は、はいっ……!」

あぁ、なんか緊張する……! お母さんの味をわたしたちが作るなんて、初めてだし。

ちゃんと上手く作れるのかも分からなくて不安があるけど、やってみるしかない。

「じゃあみんな、やるわよ」

「はい!」

そしていよいよ、アップルパイ作りを開始した。

「天野川さん、リンゴの角切りってこんな感じだった?」

「はい、多分」

一から再現するのって、難しい……。

「あ、焼き上がったわね」

「はい」

「取り出して確認してみましょう」

そんなこんなでレシピ通りに作ったアップルパイが、焼きあがったようだ。

開発部専用の大きなオーブンから、アップルパイを乗せたトレーをそっと取り出してみると……。

「うわっ……美味しそう」

「本当ね。美味しそう」

「いい香りしますね」

見事な見た目のアップルパイが姿を現した。

「天野川さん、見た目はどう?」

「見た目は同じに近いです。いつも食べてたアップルパイも、見た目はこんな感じでした」

こんがりとした焼色に、ふわっと香るバターの香り、そしてリンゴの爽やかな香り。

これがわたしの大好きな母の味だと思うと、なんか感慨深い。

「見た目は上々ね。 さ、とりあえず切り分けてみましょう」

「はい」

焼き上がったばかりのアップルパイを、ケーキナイフを使って片山さんが一切れずつ切り分けていく。

「すごく美味しそう……」

お母さんのアップルパイを思い出して、なんだか懐かしい気持ちになった。

「天野川さんのお母さんのアップルパイって、中身は少しトロッとしてるのね」

「そうなんです」

お母さんのアップルパイは、いつも中身が少しトロッとしていて、食べた瞬間にとろける感じが好きなんだ。

「みんな、食べてみましょうか」

「はい」

「いただきます」

まずは母のレシピ通りに作ったアップルパイを食べてみることになった。

「天野川さん、まずはあなたが食べてみてくれない?」

「え、わたしですか?」

「ええ。まずは本人から、でしょ?」

そう言われたわたしは、フォークを片手に持ちそのまま出来たてのアップルパイを口にした。

「どう?天野川さん?」

「美味しいです。……母の味に、結構近いと思います」

「食感とかはどう?」

そう聞かれると、食感とかはあまり変わらない気がする。

「食感はあまり変わらない気がします。サクサクした感じとか、バターの風味とかもあまり変わらない気がしますね」

「そっか。 じゃあわたしたちも、頂いてみましょうか」

「はい」

そして今度は、片山さんたちが出来たてのアップルパイを試食していく。

「ん、美味しいですね」

「美味しいです。サクサクしてて」

「リンゴの酸味もちゃんとありますしね」

食べてみた感想は、みんな美味しいだったが……。

だけど甘いものが苦手な方もいるため、甘いものが苦手な方からは「少し甘めな気がする」という意見も出た。

「シナモンの香りがふわっと香る感じはいいと思いますけど……。シナモンが苦手な方にはちょっと強いかもしれませんね。 実際わたしは、シナモン結構苦手なので……ちょっと香りが強いかなって感じました」

シナモンが苦手だというスイーツ開発部の富田さんからは、正直な意見が出ていた。

「確かに最初は、リンゴの酸味が来るけど、後からシナモンが香る感じよね」

「ですね。でもジャムにも近いこのトロッとした感じは、僕は好きです」

「それはわたしも好きです。トロッとしてると、なんかテンション上がりそうですし」

母のアップルパイのトロッと感じはすごくいいという評価を受けた。

「はちみつが入ってるから、とろみの中にもまろやかな感じもあって、個人的には好きですね」

「このままでも充分、美味しいと思います」

嬉しい意見を言ってもらえると、とても嬉しい。……いつか母のアップルパイが商品化されたら、本当に嬉しいな。

「まずは改良するために、いい所と改善すべき所をホワイトボードに書き出してみましょうか」

試食を終えた後、片山さんかの提案でホワイトボードに色々と書き出すことになった。

「まずは意見をまとめる所から始めましょう。その後のことは、また次回のミーティングの時にみんなで考えましょうか」

「は、はい……!」

「分かりました」

母のアップルパイの味をなるべくなくさずに生かす方法を考えることで、懐かしさと新鮮さを残すアップルパイが出来るかもしれないと、片山さんはわたしに言ってくれた。

わたしも母の味を残したいからこそ、この開発に携わっているのだ。……絶対に成功させたい、何が何でも成功させたい。

その日のミーティングが終わって本社の中を歩いていると、大翔さんがわたしの方に歩いてきた。

「おう、由紀乃」

「大翔さん、お疲れ様です」

と挨拶をすると「夫婦なんだから、敬語で話さなくてもいい」と言ってくれた。

「でも……」

「なんか敬語で話されると、距離を感じるから」

そう言われたわたしは「……分かりました。じゃない、分かった」と返事をした。

【行きつけのお店】

「フッ……」

そんなわたしを見て、大翔さんは笑っていた。

「えっ。な、なんですか?」

「いや、由紀乃が可愛いなって思ってさ」

「か、かわ、可愛いっ……!?」

ここで可愛いと言われると、恥ずかしくて仕方ない。

「由紀乃が俺の妻だということを、みんなに自慢したくなるな。俺の妻はこんなに可愛い人だと、今すぐにでも伝えたいくらいだ」

そんな恥ずかしい言葉を堂々と言える大翔さんに、感心してしまう。 わたしなら、そんなこと恥ずかしくて絶対に言えないもん……。

「由紀乃、今日の夜は一緒に外で食事をしないか?」

「え?」

そんなことを考えていたら、いきなり大翔さんからそんなことを言われた。

「連れていきたい店があるんだ」

連れていきたいお店……?

「由紀乃はもう今日は、終わりだろ?」

「はい」

「俺も今日は定時で終わるんだ。 そうだな、この近くにコパンというカフェがある。良かったらそこで待っててくれないか?」

そう言われたわたしは「分かりました」と返事をした。

「終わったら由紀乃のこと、迎えに行くから」

「わ、分かりました」

迎えに行くからか……。そんな言葉、家族以外に言ってもらったことないから、妙にドキドキした。

好きな人に言われたら嬉しい言葉って、こういうことなのかな……?

「悪い、由紀乃。もう行くな」

「はい。……じゃあまた」

わたしは大翔さんから言われた通り、スリーデイズの本社があるビルの近くにある【コパン】というカフェに来ていた。

そこでカフェラテを注文し、スマホを眺めながら大翔さんが来るのを待っていた。

「……早く来ないかな」

大翔さんと結婚してから、外で食事をするのは初めてだ。 どんなお店に連れてってくれるのか、今からとても楽しみだ。

「由紀乃、遅くなってごめん。待たせた」

仕事を終えた大翔さんがカフェにやってきたのは、定時を少し過ぎた17時半くらいだった。

「大翔さん、お疲れです」

「だから、敬語はやめろと言ったろ?」

「……うん、そうだったね」

大翔さんはわたしの目の前に座ると「店には18時半に予約してあるんだ、行こう」と言ってきた。

「よろしく、お願いします」

「ほら、また敬語だぞ」

「……ごめん、大翔さん」

敬語で話すなんてまだ慣れなくて緊張するけど、段々と慣れてくるものだと大翔さんは言っていた。

「ここだ、由紀乃」

「……え、ここ、ですか?」

大翔さんが連れてきてくれたお店は、ちょっと古風な和食屋さんだった。

「ここは俺の行きつけの店なんだ」

「そ、そうなんだ……」

行きつけのお店と聞くと、高級レストランとかを思い浮かべてしまったのだが、意外と古風な和食屋さんで驚いた。

「なんだ、高級レストランとかでも行くのかと思ったのか?」

「えっ!?」

「その顔は、当たり、だな」

ズバリ言い当てられてしまい、さらに驚いた。

「う、うん……」

「いきなり高級レストランだと、由紀乃が緊張してしまうかもと思ってな」

「……バレましたか」

と言うと、大翔さんは「由紀乃のことだから、そうだと思ったよ」と言ってきた。

「よし、入るぞ」

「う、うん」

大翔さんはわたしの手を握り、お店の中へと入っていった。

「いらっしゃいませ、天野川様。お待ちしておりました」

「わざわざありがとう」

お店に入ると、スタッフさんが入口で出迎えてくれた。

「天野川様、お席に案内させて頂きます」

「奥様、お荷物お持ち致しますね」

「えっ!? あ、ありがとうございます……」

まるで旅館みたいなそのお店は、雰囲気も良くてなんだか馴染みやすいような気もした。

「いつものヤツを二つ頼む」

「かしこまりました」

いつものヤツ……?って、どんなのなんだろう。

「ここの料理はとても美味いんだ」

「そうなんですね」

どんな料理なんだろう……。とても楽しみだ。

「どんな料理、なんですか?」

「それは来てからのお楽しみだ」

ええ、そう言われるとさらに気になるのに……。

「大翔さん、ヒントください」

「ヒント? そうだな……。ヒントは、俺が一番好きな食べ物だ」

大翔さんの一番好きな食べ物……? ええ、分からない。

なんだろう?大翔さんの好きな食べ物って……。

「まぁまぁ、そんな焦るな。そのうち来る」

「……はい。分かりました」

そしてその十分後。

「天野川様、大変お待たせ致しました。すき焼きセット、お持ち致しました」

「ありがとう」

ええっ!? す、すき焼きっ……!?

「す、すき焼き……ですか?」

「ああ、ここのすき焼きは絶品なんだ。肉も美味い」

そ、そうなんだ……。ってことは、大翔さんの好きな食べ物はすき焼きってことだよね?

そっか……。大翔さんはすき焼きが好きなんだ、初めて知ったよ。

「美味しそう……」

「いい香りだな」

「……めちゃくちゃいいニオイします」

すき焼き独特の甘辛い、いい香りが部屋いっぱいに広がる。

「ちなみにこの肉は、最高級のA5ランクの霜降り肉だ」

「ええっ!? し、霜降り肉……!?」

しかもA5ランク……!? うわ、それはヤバすぎる……!

最高級と聞くだけで、テンションが上がる。

「ほら由紀乃、食べよう」

「う、うん。……いただきます」

器にお肉と野菜を取ってくれた大翔さんは「由紀乃、遠慮なく食べてくれ」と言ってきた。

わたしはお箸を持ち、卵にお肉を絡ませて口の中に運ぶ。

「ん、美味しいっ……!」

なにこれ、めちゃくちゃ美味しい! お肉柔らかい……!

「な、美味いだろ?」

「めちゃくちゃ美味しいです。こんなに美味しいお肉、初めて食べました」

美味しくてヤバイ……。お箸が止まらない。

【大翔さんのお母さんのこと】

「由紀乃、今日の試作はどうだった?」

夕食を食べながら、大翔さんはわたしに聞いてきた。

「一応、母のレシピ通りに作ってみました。そこからみんなで、試食をしました」

今日の流れを一通り説明すると、大翔さんは「そうか」と答えた。

「一応、母のレシピ通りに作ってみたんです。出来上がりは、母の味に近かったんですけど……。何かが違うような気もしました」

レシピ通りに作っても、同じ味にならないものなんだなって今日感じた。 母のアップルパイと同じ味かと言われると、ちょっと違ったのだ。

「そうか。……確かに母の味って、自分で再現しようと思って作っても、なかなか再現出来ないものだよな」

と、大翔さんはすき焼きを食べながら言った。

「……やっぱり、そうなんですかね」

わたしたち、母の味を再現出来るのかな……?

「母の味って言っても、そこには母の愛情っていうのもあるんだろうしな。 そこには母親の努力や愛情が、たくさん詰まってるってことだな」

「母親の努力と、愛情……」

大翔さんにそう言われると、そうなのかも思った。

「俺は少なくとも、そう思う」

母を亡くした大翔さんにとっての母の味って……一体なんだろう?

「……大翔さんの母の味って、ありますか?」

と聞くと、大翔さんは少し黙り込んだ。

「母の味、か……」

もしかして……。わたしなんか、変なこと聞いちゃったかな?

「……すみません、変なこと聞いちゃいましたね」

「いや、母の味が何か考えてただけだ。……俺の母の味は、肉じゃがだな」

「肉じゃが……?」

肉じゃが……意外だ。 大翔さんみたいな世界の人なら、高級なものとかを食べているイメージだったから、肉じゃがと答えたのは意外だった。

大翔さんのお母さんって、どんな人、だったんだろう……。

「なんだ、意外か?」

「……はい。ちょっとだけ」

と言うと、大翔さんは「俺の母さんは、料理が得意な人だったんだ」と言ってきた。

「……え?」

「母さんは金持ちだからと言って、高級な物ばかりを食べさせてくれた訳じゃないんだ。 母さんは普通の家庭と同じような物を出してくれていた」

その話を聞いたわたしは、驚いてしまった。ずっと高級品を食べていると思っていたわたしは、衝撃をそれを聞いて衝撃を受けた。

「意外だな、とか思っただろ?」

「はい。意外……です」

大翔さんは別世界の人だとばかり思っていたわたしにとって、驚きばかりしかない。

「俺の母さんは、すごい人だった。 母さんは亡くなる前まで、俺に人に優しい人間になりなさいと言っていた」

「優しい……人間?」

「そうだ。人を見下したり、バカにするような人間にはなるなと、いつも母さんは言っていた」

大翔さんのお母さんは、優しい人なんだな……。大翔さんに優しい人間になってほしいから、そんな風に育てていたんだ。

大翔さんの今の人柄は、お母さんのおかげなんだな。

「……大翔さんのその優しさは、お母さん譲りなんですね」

「そうだといいがな」

大翔さんのお母さんが生きていたら、一度会ってみたかったな。

大翔さんをこんなに優しい人に育ててくれたことを、心から感謝したい。

「大翔さん」

「なんだ?」

「今度、大翔さんのお母さんのお墓に、行ってみたいです」

わたしがそう言うと、大翔さんは「……分かった。 母さんにも結婚したこと、報告しないとだしな」と言ってくれた。

「……ありがとう、大翔さん」

大翔さんのお母さんのことを少し聞けたわたしは、ちょっとだけだけど、大翔さんと距離を縮めることが出来たような気がした。

* * *

「大翔さん、ごちそうさまでした」

すき焼きを堪能した後は、シメのうどんも食べた。お肉の脂や旨味が染みたタレがうどんに染み込んでいて、とても美味しかった。

「シメのうどんも、最高だったな」

「はい。すごく美味しかったです」

「それは良かった」

大翔さんの行きつけのお店に連れてきてもらえて良かった。こんなに美味しい物を食べられたことは、奇跡と言える。

大翔さんの好きな物を知れたりして、ちょっとずつ夫婦としての道を歩んで行けているような気がしていた。

「また連れてきてやるぞ」

「……はい」

「由紀乃、少し散歩しないか?」

「散歩?」

わたしと大翔さんは、食事を終えてお店を出た。 帰り際、大翔さんからの提案で少し散歩をすることにした。

「由紀乃と二人で、少し歩きたいんだ」

「……は、はい」

そんなことを言われたら、断れない。……大翔さんの言葉の魔法というのは不思議だ。

大翔さんに何かを言われるとそういう気になるし、なぜかキュンとしてしまうから。

「行こう、由紀乃」

「は、はいっ……」

大翔さんから右手を握られ、そのまま二人歩き始める。 握られたその手はとても温かくて、ちょっとだけ嬉しくなる。

夫婦って、こういうものなのかな……。なんて考えたりした。

「なあ由紀乃」

「はい?」

「由紀乃は前に俺に、あまり恋愛経験がないと言っていたが……。俺と出会う前に、彼氏とかいなかったのか?」

いきなりそう聞かれてしまったわたしは、少し驚いたけど「いなかったですよ。……ストレスとかはスイーツを食べて発散していたので、そんなのはなかったですね」と答えた。

「そうなのか。 スイーツがあれば、男なんていらないとでも思っていたのか?」

そう聞かれると答えに困るけど……。多分そうなのかもしれない。

「悪い、冗談が過ぎたな」

と大翔さんは謝ってきたけど、わたしは大翔さんに「いえ。実際にそうなので、気にしないでください」と言った。

「実際わたしは、スイーツのことしか興味がなかったので。男性とデートしたいとか、付き合いたいなとか、あまり考えてなかったですし」

「それでも由紀乃は、俺と結婚してくれた。感謝している」

感謝……? ううん、感謝しているのはわたしの方だもん。

大翔さんにお礼を言わないといけないのは、わたしの方だから。

「何言ってるんですか、大翔さん。感謝しないといけないのは、わたしの方ですよ」

大翔さんと結婚したから、わたしはスイーツも食べさせてもらっている訳だし。

毎日刺激をもらっているから、毎日が新鮮な気もする。

「由紀乃」

大翔さんに名前を呼ばれるだけで、胸が高鳴る。

「は、はい……?」

「由紀乃のこと、必ず幸せにするから」

そんな言葉を告げられた後、大翔さんはわたしのことをそっと優しく抱きしめてきた。

その瞬間に、さらに鼓動が早くなっていく。ドキドキして、顔が赤くなってしまいそうだった。

「……由紀乃」

そしてそのまま大翔さんに見つめられると、さらに体温が上昇していくのが分かった。恥ずかしさが込み上げてくる。

頬を撫でられ、顔を近付けられるだけで、ドキドキが増していく。

「ひろ……とさん?」

そんなことを考えている間に、大翔さんから優しく唇を重ねられていた。

その瞬間にわたしは、無意識にその目を閉じていた……。
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    「大翔さん、ありがとう。大翔さんのおかげだよ」「それは由紀乃が頑張ったからだろ?」「……わたし、なんか泣きそう」 大翔さんはわたしの頭をそっと撫でてくれる。「泣いてもいいぞ」「……でも、ここでは泣かない」 家に帰ってから思う存分泣くことにする。「家で思いきり泣くことにするね」 「そうか。じゃあその時は俺の胸を貸してやるよ」「ありがとう」 こういう時に助けてくれるのが大翔さんだから、いいんだよね。「パフェが全部完売なんて、実はちょっとビックリしてるんだ」「そうなのか?」 わたしは「うん」と頷いた。「正直、完売は無理かなって思ってたし」「でも完売したな」 「うん

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