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─3─ 接触

Penulis: 内藤晴人
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-23 20:30:00

  敵国内の情報網を統括する知人は、すぐに息子を連れてくるように自分に告げた。それを聞き、自分はとあることを察した。我が国は今、重大な問題に直面しているという話が水面下で持ち上がっていた。息子の目は、その問題を打破するのに適したものだったからだ。

 初めて自分と二人で外出すること、しかも外出先が自分の職場と関係がある場所であると知った息子は、年相応の子どもらしく嬉しそうだった。自分はそんな息子に若干の後ろめたい気持ちを感じていたが、これも息子のためなのだと無理矢理に思い込もうとしていた。

 自分と息子を執務室に入れると、知人は座るようにうながした。そして、猫なで声で息子に向かいこんなことを言った。

「君か。この国を助けてくれる有望な少年は」

 初めての場所に加え、それなりの地位を持つ人物に対峙しているということもあり、息子はかなり萎縮しておびえている。かすかに震えながら、無言で一つうなずくのが精一杯のようだった。

 その様子を察したのだろう。知人はいかつい顔に似合わぬ笑顔を浮かべてみせた。

「そう固くなることはない。話はお父上から聞いているよ。君は見えないけれど見えているんだろう?」

 まったく矛盾するようなその問いかけに、息子は戸惑いながらももう一度うなずいた。その反応に知人は満足そうな表情を浮かべると、卓に片肘を付きながら息子ににじり寄る。

「どういうふうに見えているのか、教えてくれないか? 私の顔は、どうかな?」

 すると、息子はぽつりぽつりと話し始めた。ふくよかな顔に太い眉に立派なひげ。息子は知人の顔の特徴を紛うことなく答える。その言葉は知人を満足させたようだ。にやりと笑うと、知人はおもむろに本題へ入った。

「どうだろう、その不思議な能力を、この国のために貸してはくれないかな?」

 思いもよらないことだったのだろう。息子は不安げに隣に座っている自分の顔をのぞき込んできた。

 無理もないことだろう。いきなりこんなところへ連れてこられ、力を貸せなどと言われるのだから。

 知人は鷹揚に頬杖を付き、睨めるような視線で息子を見やった。

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     息子や娘という存在は、無条件に愛せるものだ。親にとって自らの血を分けた存在であるならば、なおのことだ。 自分は、ずっとそう思って疑わなかった。 けれど、実際自分が親という立場になってみると、その考えは単なる理想論に過ぎない、そう思い知らされたのである。 自分はこの国ではありふれた中流の武人の家に生まれた。なんの疑いもなくその職業を継ぎ、戦場ではそこそこ武勲を上げた。その結果かどうかはわからないが、縁あって上官の息女を妻として迎えることとなった。 初めて会った上官の息女は、無骨で無愛想な上官に似ても似つかないほどの美しく優しい女性で、特につややかな黒い髪と瞳が魅力的な人だった。 はじめのうちこそぎごちない共同生活を送っていた自分たちではあったが、日々を共に過ごすうち自然と愛情が芽生え、それは小さな形になった。 けれど愛情の結晶が息子という形でこの世に生まれ落ちた瞬間、妻はそれと引き換えにあっけなくこの世を去った。 子を産むという行為は、女性にとっては命がけのことだ。 そう頭では理解していたつもりではいたのだが、その事実を目の前に突きつけられた自分は、泣きわめく息子と冷たくなっていく妻を前にして呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 けれど、武人という立場上、戦乱が続くこのご時世では妻の死を悲しんでばかりはいられない。 自分は戦のため家をあけることが多く、息子の世話は信頼の置ける乳母や召使いに任せ切りだった。 そして、家に戻っても何かと理由をつけ、自分は息子と向かい合おうとはしなかった。 その理由は、息子の容姿にあった。 黒い髪に黒い瞳を持つ息子の容姿は、失った妻を彷彿とさせ、なんとも言えない気分になる。 愛憎入り混じった感情、そう言ってしまえば簡単だが、そう単純なものではない。 だが下手をすると、自分はふつふつと湧いてくる複雑な感情から息子を手にかけてしまうかもしれない。 それが一番恐ろしく、自分は息子に会わないようなしていたのである。 そんなある日、戦から開放され自室で酒をあおっていた自分の

  • 名も無き星たちは今日も輝く   ─30─ 旅立ち

    「……本当に、行くつもりなの?」 慈愛に満ちた大司祭の茶色の瞳は、卓を挟んで目の前に座す最愛の『息子』を不安げに見つめている。「ようやく、続けていた書写が終わりました。聖地リンピアスへ納めるならば、冬季の休戦期間に入る今を置いて他にはない。そう思います」 常の如く感情が全く感じられない声が、それに答える。 下級神官の長衣をまとった彼は、だが今日はその髪を無造作に束ねていた。 言葉もなく見つめてくる大司祭に、彼はさらに続ける。「確かに、自分が犯してしまったこと、そして忘れ難い過去の事実は、記録上抹消されたことですし、あくまでも非公式な物ですから、高官達も何も言えないとはわかっています。ですが……」 一端言葉を切り、自分を見つめる『母』の視線から逃れるように、彼はうつむく。「自分について公文書に記載されている事柄は、それこそ他者の血で塗り固められています。それでは……」 あの方のそばにいる資格はないとでも言いたげに唇を噛む彼に向かい、大司祭は諭すように言う。「……休戦期間だからこそ、内政は混乱を極めるでしょう。そんな時だからこそ誰かが殿下をお守りしなければいけなくはないくて?」「血と汚物にまみれた今の自分では、それに相応しくはありません」 せめてしかるべき地位を、とほとんど即答と言って良い速さで戻ってきたその言葉に、カザリン=ナロードはようやく折れた。どうやらその決意は固いらしい。 困ったような表情を浮かべながら、彼女は用意されていた書類を卓上に置いた。 それはルウツ大司祭の名で記された、正式な聖地への通行証だった。 だが、そこに記されている名は、『無紋の勇者』と畏れられている彼のそれではなかった。 前触れもなく失われてしまった『過去』に彼を繋ぎ止める、唯一のそれだった。「どうやら、決心は変えられないようね……。でもこれだけは約束してちょうだい。必ず帰ってくると」

  • 名も無き星たちは今日も輝く   ─29─ 真実

     雑草の上に、血の飛沫が舞う。緑の草むらに真紅の雫(しずく)がこぼれ落ちる。 刃を紅に染めた短剣が、やや遅れてその上に落ちた。「どうして、止めたんですか? 僕は貴方にとっては、恨んでも恨みきれない、ご両親の仇の子なんですよ?」 短剣を払いのけられると同時に、後方へと突き飛ばされたユノーは、体勢を立て直しながら言った。 その視線の先には、短剣をなぎ払った左腕から血を流すシーリアスが、傷口を押さえ草むらにうずくまっている。 長い前髪に阻まれて、どんな表情をしているのかは、うかがい知ることが出来なかった。「だから、貴方は『寂しい』方だったんですね。……僕と違って、声を上げて泣くことも許されなくて。一人で、戦場を巡って……」「……違う……」「同じ事です! 同じ罪を僕に押しつけて、貴方は一人で逃げるんですか? それでは……それでは僕は、あなたを助けようとした父に顔向けが出来ません」 返答は、無い。 立ち上がったユノーは、雑草の上に落ちた短剣を拾い上げ、手巾で丁寧に血糊を拭うと元通り鞘に収めた。 そして、身じろぎもせずうずくまるシーリアスに歩み寄った。「お返しします……。お父上の形見なら、大切な物でしょうから……」「……た、と……」「え?」 聞きとがめ、ユノーは首をかしげる。 その時になって初めて、ユノーは『無紋の勇者』と敵味方から畏れられているその人が、泣いていることに気が付いた。 低いつぶやきが、再びその口から漏れる。「君が死ななくて良かった、と……貴官の御父君の、最期の言葉だ……」 息を飲むユノーを気にするでもなく、懺悔の告白にも似た言葉は、更に続いた。「その瞬間、こちらに向け

  • 名も無き星たちは今日も輝く   ─28─ 事実

     そして、夜が明けた。 常ならば父や母の好物や花を手に、人目を避けるように家を出て墓参をしていた、父の命日が来た。 ようやくその無念を晴らすことができた、騎士籍を取り戻すことができた。そう父母に伝えられる日が。 が、ユノーはなぜかよからぬ胸騒ぎを感じていた。 適当な口実で不審がる祖母をはぐらかし、一足早く家を出た。 まだほとんどの店が鎧戸(よろいど)を閉めていて人通りがまったく無い街を、一路墓地へと向かい走る。 開門直後の入口は、既に先客がいたのか、僅かに開いていた。 さらに嫌な予感がした。 ユノーは思い鉄製の扉を押し開く。 墓地に溜まる邪気が街に流れ込むのを防ぐ結界でもある扉を通り抜けた途端、ユノーはある物を感じた。 押さえ込まれながらも溢れ出ようとする哀しい『力』の波動。 これと全く同じ物を、ユノーは以前ごく最近感じたことがある。 それは忘れもしない、ルドラの最終決戦の後……。 なるべく自分の気配を消しながら、ユノーはその『力』の波動が来る方向へ足を向ける。 記憶が確かであれば、滅多に足を運ぶ人もいない区域──皇帝に対する逆賊者をまとめて埋めている場所から流れてきている。 苔むした道を歩くユノーの足は僅かに震えていた。 鬱蒼(うっそう)と茂っていた木々が次第にまばらになる。 その木々の中、申し訳程度に整地された草むらに、やはり申し訳程度の粗末な石塔が建っている。 その前で祈る人の姿が見えた。 無造作に束ねられたセピアの髪が、風に揺れている。 その人が祈り終えたとき、だが現れるはずのあの光の群は、浮かび上がっては来なかった。 信じがたい現実。 言葉もなくユノーは木の幹にもたれかかる。 静けさの中、ユノーが良く知るその人の声が、いつもと同じく無感動に告げる。「罪人の魂が浮かばれないと言う伝承は本当らしいな。ここで何度祈りを捧げてみても、誰も天に呼ばれて行こうとはしない」 すでにユノーの存在に気付いていたのだろう。 

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