All Chapters of 貴方の願いを叶えたい: Chapter 41 - Chapter 50

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夢の中 2

◆◆◆「ティアごめん」目の前にはロットバリーとマリアンヌが手を繋いで此方を見ている。「如何して?」「観劇に行っていたんだ」「何故二人で行くの?ロットは私と婚約しているのよね、何故マリアンヌ様と一緒に行くのかしら?」「そっそれは⋯俺達の婚約は子供の頃に結ばれたからな親によって。別に俺は君じゃなくても良かった。でもティアの事は好きになったしそのまま結婚してもいいと思ったけれど、母上が儚くなったあと俺を支えてくれのはマリアンヌだ。マリアンヌの思いに俺は答えたいと思ってる」「婚約は解消するの?」「それが出来ればとっくにしてるよ、男爵の俺が公爵家に逆らえるわけ無いだろう。君の方からしてくれると助かるよ。じゃあ俺達は予定があるから」「⋯ロット待って!」「あっもうその呼び方も止めてくれ。マリアンヌが気にするから、悲しませたくないんだ」ロットバリーとマリアンヌは繋いだ手を離し、今度は腕を二人で絡ませながらティアナの前から立ち去った。「嘘⋯⋯ロット。嘘⋯よ」《《また》》休みの日にスティル男爵家に行くとまたトーマスが明らかに狼狽していた。ロットバリーの部屋に行くと彼は出てこなかった。一緒に来たモリナが弟のアルトから街に行ったようだと聞いて、ティアナも馬車を出してもらったのだ。途中で降りて街中をロットバリーを探していて二人に会ってしまった。こんなにあっさりと別れを告げられるとは思っても見なかった。12歳で婚約してもうすぐ6年。卒業したら結婚式だったはずなのに、ついこの間まで仲睦まじくしていたのに⋯如何して?気付いたら大通りの噴水前のベンチに座っていた。行き交う人々が皆ティアナを見ているようだ。“ティア”愛称の無かったティアナに初めて愛称を作ってくれたのはロットバリーだった。そしてその愛称を呼んでくれる人もたった一人だったのに、今日はもう呼んではくれなかった。俯いていると足元の煉瓦にポツンと水滴が落ちた。(雨かしら?)空を見上げてもティアナの心に反して青空が広がっている。雲がゆっくりと流れて⋯ティアナの頬を涙が伝っていく。(あぁ泣いていたのね私)思う存分泣こうと思いたち枯れるまでその場で泣き崩れた。◆◆◆カフェにモリナと入った。ミランダやルルーニアとは最近話しをしないから専ら二人でお茶をしている。ジロジロ見られるのが嫌で個
last updateLast Updated : 2025-04-03
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夢の中 3

◆◆◆「ロットは私が生きてることも嫌なのね」自室のベランダから夜明けの空を見る。「私執拗くしてたのかしら?」まるで覚えがないティアナは考えてみるけどやはり身に覚えはない。マキシムに婚約解消の話しをしにいっても避けられていて何時も何処にもいないから話すことも出来ない。そしてお腹の中の子⋯。ロットバリーと話し合おうと男爵家に行くけれど最近はトーマスが会うたびに気不味そうにしている。(私はどうすればいいのかしら?)『ティアナ⋯死んでくれないかな』(大好きな貴方のためなら何でも出来ると思っていたけれど、まさか貴方の願いが私の死だなんて、笑えない冗談よね)「フフ⋯フフフ⋯アハハ、ハッハハハ⋯グッ⋯ううう⋯」笑えない冗談に笑っていたけれど何時しか泣き声に変わっていた。(貴方の願いが⋯たった一人の大切な貴方の願いがそれなら、私は叶えてあげなくちゃいけないのね。でも⋯私は死ねないのよね、如何しよう⋯⋯あっ!でもあそこなら体がバラバラになれば流石に元には戻らないかもしれない。バラバラになっても安らかな気持ちのまま往けるかしら?メリーナ様に会いたいな⋯)ティアナはバッグにありったけのお金を詰めて部屋を出た。◆やっと此処まで辿り着いたここで私の魂は安らかに眠れるかしら?魂の安住を求めて歩いて歩いて、時には走って。疲れ果てたけれど漸く⋯⋯漸く。国の最端に位置するこの領内の此処は《《その》》志願者が後を絶たないと聞いていた。ティアナはそろそろとそこへ近づく、下をそっと除くと波飛沫が岸壁に襲いかかっている様に見えた。これなら《《死ねる》》きっと大丈夫。目を閉じ《《そこへ》》飛び込んだ。迷いは一切なかった。だってこれが《《あの人》》の願いだもの。|一時《いっとき》でもティアナを愛してくれたあの人の願い。叶えてあげなければ⋯⋯。頭の天辺に冷たさを感じた気がした時、ザブンという音と共にティアナは意識を失いそして真っ暗になった。「ティアナ⋯⋯時が来るまで眠っていなさい」
last updateLast Updated : 2025-04-03
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大事件

~その人は灯台の入り口に倒れていた~魔力石は満タンにした筈だったのに急に灯りが点滅し始めた。おかしな現象に半永久的に使えるはずの魔導具の故障を疑った。「おかしいな?」灯台職員の管理責任者であるダルクは、中の魔法石を取り出してみた。だがやはり容量はいっぱいだ。無駄なことだと思いつつもその魔法石を振ってみる。特に何かを期待したわけでも無かったのに、振った途端に石からは光が放たれた。灯台の管理室には明り取り用に窓が何ヶ所か設置されている。その光は一つの窓に伸びていた。「えっ?」訝しみながらも誘われるがまま光に向かって歩を進める、指示されたわけでもないのに自然と窓を開けた。何気なく下を見ると白い服を纏った女神が其処へ横たえられていた。女神と思ったのは何故なのか、それは未だ解明していないが、その時は確かに《《そう思ったのだ》》。他の職員にも声をかけて外へ飛び出す。真っ先にしたのは呼吸の確認、手の甲を鼻先に近づけると、|呼吸《息》が擽ったかった。首筋に人差し指と中指を当て脈を測る。トクン⋯トクン⋯トクン⋯規則正しくはあったが妙にゆっくりと脈は刻まれていた。担架を持ってきた同僚達が彼女を乗せ灯台の中へ運び込む。(彼女は一体何処から現れたのだろう)灯台に一人だけいる医師は暇すぎてうたた寝している所を起こされた。「何だ何だ」と言いながら彼女を診る。「こりゃまた何でこんなにずぶ濡れなんだ?」老医師は濡れた髪を手で耳にかけ、閉じられた瞼を指で開いて明かりを当てる、手首を返したり膝を確認したり。灯台で働く者の中に女性が居ないからこれ以上は確認できないと医師が言う。「診た所、ただ寝てるだけのようなのだが⋯」要領を得ない言い方に灯台の職員達が医師をギロリと睨む。「若い女性の体を素っ裸にして確認できないだろう、こんなに男しかいない所で!」医師の叫びに尤もだと皆頷くとその中の一人が手を上げた。職員のソードだ。「うちの妹を連れてきますよ」半時ほどしてメルと名乗るソードの妹がやって来た。医師は彼女に体に怪我がないかの確認をして欲しいと頼んだ。衣服の所々に血の飛沫のようなシミが出来ていたからだ。頷いた彼女に任せて医務室から男共は皆外に出る。暫くしてメルが廊下に出てきた。医師に怪我は無いが体が酷く冷たいから湯に浸けるべきだと進言した。
last updateLast Updated : 2025-04-03
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捜索 1

最初の一報は王立学園の女子寮からマキシムへ齎された。《《療養を終えた》》ティアナが護衛たちと共に寮へ戻ると先触れを出していたにも関わらず夕刻になっても到着していないと連絡が来た。マキシムは直ちに公爵家の騎士達を捜索に向かわせると共に、ティアナの護衛の中には先日の件で騎士団の者もいたから、騎士団長へも連絡を飛ばした。それから三日経ってもティアナの手がかりは掴めず、馬車と護衛と共に忽然と姿を消したままであった。連絡を受けたロットバリーも騎士団の詰所で待機していたが、埒が明かないと自らも探し回った。闇雲に探しても見つかる筈もなく、心と体が疲弊していく一方であった。マキシムも王都のあちこちに魔力を駆使て手がかりを求めているがなしの礫だった。ティアナが行方不明になって10日目にマキシムに魔法省から連絡が入る。メリーナの後任の次席からだった。「魔力残滓が?」「あぁ同じだった。だがどういう事なんだ?君が手続きしているだろう」「あぁこの国にいるはず無いんだ⋯」「もう一つ懸念材料がある」「何だ?」「この被害者なんだが⋯ノルマン元伯爵なんだ」「えっ?まさか⋯⋯えっでは。遺体は騎士団か?」「おそらく荼毘にはまだ⋯間に合うとは思うが」「情報ありがとう、また後で」彼から齎された情報。3日前に王都の貧民街で発見された男の遺体に魔力残滓があり、それがディアナ・ルーストの物と一致したというものだった。そしてその遺体の身元が、クロードの元妻ミリアの父であるノルマン元伯爵。これは偶然なのか?ティアナの行方不明と何か関係しているのではないのか?マキシムは焦りながら騎士団に走っていた。「昔よりだいぶ様変わりしていますが間違いありません」ヒューイがきっぱりと言い切った。遺体はノルマン元伯爵で間違いない。魔力残滓の状態から彼の殺害にディアナが関わっている事は明白。マキシムは彼女を拘束してる筈の国ソルジャー王国の魔術師団長ロバット・ヘンデルに急ぎ連絡を取るべく行動に移した。◆男爵家の自室でロットバリーは旅支度をしていた。アルトの話でマリアンヌがここ最近姿を見せなくなった事が引っかかるらしい。同じくロットバリーも気になった。男爵襲名の祝を友人達がしてくれた時からロットバリーはマリアンヌと距離を取った。ティアナがじっと見つめていたロットバリーとマ
last updateLast Updated : 2025-04-03
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捜索 2

いきなり現れた魔法陣から真っ先に目に入ったのは両手だった。執務室にいたマキシムは目を丸くして凝視しているとその人物が転がり込んできた。そしてその後ろからもう一人、初めて見る顔は端正な顔立ちの青年だった。「あいたたたた」「大げさな」「サンディルお前少しは年上を敬う事を覚えろ」「フン覚えた、だが忘れた」「なっ!」二人のやり取りを黙ってみていたマキシムへロバットが笑顔を向けた。「おぉマキシム殿久しぶりです」「久しぶりですロバット殿」ロバットが握手を求めたのでそれに答えたがマキシムは正直言ってそれどころではないし存外彼らの国には怒りを覚えている。「初めましてマキシム殿ソルジャー王国魔術師団副団長のサンディル・メイナードと申します」「初めまして⋯⋯」いきなりマキシムの執務室に現れた二人へそのままソファを示した。一礼して座った二人は座ったまま再び深々と頭を下げた。「此度はこちらの落ち度で申し訳ない」謝罪するロバットに憤ったマキシムはつい冷たく言い放つ。「攫われたのは私の娘なのです、絶対に拘束して下さるんじゃなかったのですか?」「自国で手に負えないからと縋っておいてその言いぐさか」「⋯⋯っ」マキシムは青年に図星を指されて二の句が告げなかった。「まぁでも逃したのは紛れもなく此方の落ち度だ、残滓が残っているそうだが取り敢えず場所を特定しよう」副団長のサンディルなる若造がそう言って立ち上がった。魔法省にあると説明すると案内するように言われた。団長よりも偉そうなこの副団長は一体何者だ?訝しみながらマキシムは二人を魔法省に案内した。◆ロットバリーは王立学園の女子寮にやってきていた。女子寮に入って直ぐに寮長が滞在しているのは男子寮と同じであった。ルルーニア・サリバン公爵令嬢への面会を求めると暫くして彼女が現れた。ロットバリーの訪問を予測していたように覚悟を持った顔つきをしているように見えた。「ここでは話せませんので付いてきてもらえますか?」ルルーニアの案内で女子寮の裏にある小さな庭園内のベンチに連れて行かれた。其処へ座ると「どうぞ」と横を示されたので人一人分開けて座った。「姉の事ですね」「何処にいるかご存知か?」ロットバリーの問に首を左右に振ったルルーニアだったが、最近のマリアンヌの様子を話してくれた。「ティアナが
last updateLast Updated : 2025-04-03
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捜索 3

「ふーん、これねぇ」ソルジャー王国の魔術師団副団長のサンディルはそう呟き思案顔だ。彼の手から放たれている光に目を瞬きながらマキシムは固唾を飲んで見守っていた。「何かわかりますか?」「居場所は解るけれど私はこの地に明るくない、飛ぶ事は出来るが突然目の前に現れても、私が100%で対峙できるかも解らない。さて貴方なら如何する?」マキシムは驚愕する。僅かばかりの魔力残滓で相手の居場所を特定出来るなど、そんな魔法など聞いたこともない。ソルジャー王国も魔力は廃れ気味なのでは無かったのか?自国との違いにマキシムは目を瞠る。「そんなに貴国は発展しているのですか⋯」その場に相応しくない呟きにサンディルは片眉を上げてマキシムを訝しむ。「貴殿の国は魔力の質量は図れるそうだが、それを活かせる者が殆ど居ないな」「どういうことでしょう?」「魔力は持っているだけでは宝の持ち腐れだ、解放しなければ魔法は使えない。貴殿の国は解放できている者が殆どいない、おそらく今回の騒動の者は解放者だ、解放すれば魔法や魔術は魔力量が少なくても発動は出来る、ただ持続時間が魔力量によって違うだけ。貴殿も魔力量は“S”だが解放してないからただ魔力を持っているだけということだ」「解放ですか?」「あぁただ今はそんな話しをしている場合ではないだろう?場所の特定は出来たが私が運べる人数は限られる、相手は魔法が使えるしおそらく転移も出来る、逃げられたらずっと後手に回るだけになるが⋯⋯さて如何する⋯か」サンディルの話しでディアナ・ルーストの居場所は特定できたが、そこに突撃しても逃げられれば鼬の追いかけっこということなのだろう。「私は残滓を追って感知は出来るが千里眼じゃないから周りを観察とかそんな途方もない事は出来ない、飛び込んでいいなら今直ぐ行けるぞ?」「貴方がですか?危険では?」「私には危険はない、行って何かあれば私だけなら直ぐ飛べる。一つ確認なのだがその殺された男と居なくなった貴殿の娘の関係は?それと攫われたというのは確かな事なのか?そしてその犯人が残滓の者というのも確かな事なのか?」「いえ、今確実に解っているのは男が一人殺されてその男に魔力残滓がありその残滓の持ち主が貴国に預けたディアナ・ルーストの物だという事だけです」「男の身元が貴殿の娘と関係が?」「直接はありません、だいぶ曲解し
last updateLast Updated : 2025-04-03
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マリアンヌの軌跡をロットバリーは辿っていた。彼女の目撃情報を集めるためギルドにも足を運んだ。貴族令嬢が旅行に行くと言って家を出た筈なのに、彼女は家の馬車も使わず移動手段が解らない。忽然と何処かへ消えているのだ。ロットバリーが考えられるのは転移魔法だが、マリアンヌには魔力は無い。(誰かと一緒なのか?)得体のしれない者の可能性を感じてロットバリーは背筋が寒くなった。(ティアが狙われる意味がわからない、マリアンヌならば嫉妬からと考えられるが、ティアの傷が消えている事で刺し傷の力加減が解らず犯人が男か女かも解らないと団長は言っていた。そして行方不明、何故こんなにも執拗にティアを狙うんだ?)考え事をしながら歩いていたからだろうか、ふと気付くと見覚えのない場所へ出た。煉瓦造りの歩道を歩いていたはずなのに足元を見ると草むらになっている。踏みしめながら歩けば流石に煉瓦と草の区別くらいつく筈なのに気付かなかったとは、自分はそんなにぼんやりしていたのだろうか?そう自分で自分に問うていたのだが、のんびり考える暇がなくなった。雨がポツポツ落ち始めたからだ。少しずつ強くなるその雨滴に雨宿りの場所を探すべく焦る。その時唐突にそれを思った。(此処は何処なんだ?)幾ら見覚えのない場所でも王都に長年住んでいればある程度の地形の感覚はある。先ず広すぎる草むらはどう頑張っても中心にある筈はない。歩きながら考え事をしていたとはいえ僅かな時間で何故見知らぬ場所へ⋯⋯まさか。何かを思いついてロットバリーは来た道を戻り始めた。先程よりも落ちてくる雨粒は激しくなっていきロットバリーの顔を容赦なく叩く。目にもかかる雨を防ぐように目を細めながら進む、だが右も左もただ伸びた草だらけで方向感覚が解らなくなった。頼れるのは自分がそうしたのだろう少しだけ倒れ気味の草。ロットバリーが歩いて薙ぎ倒した名残と思える痕を目を凝らしながら探した。何とかそれに道標を見出し歩くこと体感にして3分程だろうか、そこに佇み自分の考えが正解だったと確信した。そこは丁度人一人分くらいに円を描くように草が倒れていた。ロットバリーは知らずに此処へ転移していたのだ。(如何やって?)ロットバリーは魔力持ちだ、だが魔法を使ったことはない。このターニア王国で魔法というのは魔力持ちに根付いていない。何故
last updateLast Updated : 2025-04-03
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出会い

その出会いは偶然だった。雨の中、雨宿りの場所もなくそこに止まっているわけにも行かずロットバリーは動いてみた。取り敢えず草むらを抜けよう、そう思い必死に雨の中歩を進めた。「お兄さん!びしょ濡れじゃない!」不意に後ろから声をかけられた。少し赤味のかかった茶色い髪をお下げにした女性だった。ロットバリーに声をかけて彼女は走ってきた。少し褪せた色の蝙蝠傘をロットバリーに差し掛けてくれる。「あっす、すまない。貴方が濡れますよ」「そうは言っても⋯見かけない顔だけど旅行者?」ロットバリーは答えに窮した、突然此処に飛ばされたと言って信用されるのだろうか?「いえ旅行と言うわけでは⋯人を探していて、闇雲に旅しています」「ふうん、取り敢えずそんなに濡れてては風邪を引いてしまうし、見かけて放置もできないし⋯取り敢えず付いてきて」女性に連れて行かれたのは小さな診療所だった。「私今此処の手伝いをしているの、奥様に話してくるから少しここで待ってて」メルと名乗ったその人は診療所の中に入っていった。待っているとロットバリーは中に通されバスタブを使わせてもらえる事になった。長く雨に打たれたロットバリーの体は冷えて足の指は固まっていた。メルと出会わなければおそらく未だ雨の中彷徨っていたことだろう。ロットバリーは彼女に感謝した。診療所で用意してもらった服に着替えて出て行くとメルが待っていて奥様という人に紹介された。「アラアラ主人の服をお貸ししたのだけれどサイズが全く合わなかったみたい、ごめんなさいね」「いえお心遣いに感謝いたします」挨拶をすると気作に夫人は対応してくれた。どうやら主人と言ってる人が医師らしい、この地域の灯台の医師を担う為にこの土地へやって来たと言っていた。患者はほぼその灯台で働く者達だけだから、前の街で忙しくしていた時よりものんびり出来てここに来て満足だと夫人は言う。メルは一人だけいる入院患者の世話の為にここに通っているという。この辺には宿がない為、泊まらせてくれると親切な夫人が申し出てくれた。そのうちメルの兄という人がやって来てこの辺の事を教えてもらった。ロットバリーは黙って聞いていたが内心は驚愕していた。此処はソルジャー王国という所らしい。何故国まで飛び越えて此処にいるのかロットバリーは顔には出さなかったが困惑する。夕食を
last updateLast Updated : 2025-04-03
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再会

まさかの国を跨いだ転移に落ち着かなかったロットバリーだったが、《《あの》》草むらには毎日出かけていた。少しでも謎が解ければと思ったが円形に薙ぎ倒された草を見るだけでわかるはずも無く、藁をもすがる思いで灯台へ出かけてみることにした。この国でも魔法はあまり発展しているわけではなかった。医師だけは治癒が使えるようであったが、あまり魔力量が多くないのだと話してくれた。ただこの国には王宮魔術師団なる物があり、そこで働く者たちはこの国のエリート中のエリートらしかった。そこで話しを聞いてみたいとロットバリーは考えた。灯台へ出かけたのも医師に自分の事を話してみようと思ったからだ。灯台は思ったよりも大きく案内された医務室では暇なのか医師はこっくりこっくりと舟を漕いでいた。「先生!お客さんだぞ」案内してくれた青年に起こされてボッーとした顔を上げて医師はロットバリーを見る。「なんだ客人が客か」この医師はロットバリーの名前をなかなか覚えてくれない人だった、苦笑しながら挨拶をして話があると伝える。「家では出来ない話しかい?」「あまり沢山の人に聞かせる話でもないので⋯」そしてロットバリーはティアナの事、犯人だと覚しき者を探している途中で突然この国に転移させられた事等を掻い摘んで話した。黙って聞いていた医師だったが、ティアナの容貌を聞いて思案顔になる。顎に手を宛てながらロットバリーを見つめて10日ほど前に現れた、身元不明の入院患者の話しをし始めた。銀髪の女性服に血飛沫はあるのに傷のない女性ロットバリーはティアナだと思った。だが彼女は未だ目覚めないという。逸る気持ちで会わせてくれと懇願すると医師は頷いてくれた。 医師の勤務時間を待って一緒に診療所に戻ると真っ直ぐ奥の入院施設にロットバリーは案内された。果たしてそこで横たえて居たのは“ティアナ”だった。思わずロットバリーの双眸からは勝手に涙が溢れて止まらない。「ティア⋯⋯」彼女に近づきベッド脇に跪くと左手で手を握り右手は眠っているティアナの顔を優しく撫でた。(あぁ神様)ロットバリーは全く信心深くなかったが、この時ばかりは神に感謝した。(生きていてくれた)ティアナが何故こんな遠い国に居たのか、眠ったままの彼女からはまだ何も聞けないが、そんな事は今は如何でもいいとロットバリーは思う。ティア
last updateLast Updated : 2025-04-03
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違和感

それから長い間寝ていたティアナのリハビリが始まった。勿論ロットバリーは常に付き添いその献身を捧げる。ロットバリーは毎日愛を囁きティアナを喜ばせて居たが、ある日違和感を覚える。それは何気ない日常で感じた事だった。ティアナは少女の頃から周りの者たちからいない者の様に扱われたり、蔑まれて聞こえ余暇に罵倒されたりされていたので、周囲の反応を注意深く観察する癖があった。その思考に陥るとき必ずする仕草があった。それはメリーナやロットバリーと過ごすうちに改善はされたのだが、女学園時代にまた復活してしまった。それは言葉を発した時に無意識に人差し指を耳朶に当てる仕草だ。目を覚ましてリハビリまでの数日は気が付かなかったが、少しずつ手足も自由に動くようになりまだ歩く練習はしていないが、ベッドに起き上がって会話をしたりは難なく出来る様になっていた。その日も二人で何気ない話しをしている時だった。まだ居なくなったときの話しはしていない。医師の話しでは記憶が混濁しているようだと言っていたからだ。直ぐ様思い出す必要もない、これから幾らでも時間はあるのだから。だからロットバリーは敢えて日常の会話に徹していた。そのティアナの癖は以前からも常にするわけではなかった。だが、それに気付いてからこの三日間観察してみたが《《一度も》》していなかった。それが不自然に思えた。だが顔も髪色も目の色も間違いなくロットバリーの愛するティアナだ。それなのにこの違和感が拭えない。その違和感を覚えたままそれから三日程経ったその日。小さな診療所に待ち人が現れたと連絡が入った。ティアナの話しをした時に灯台医師にロットバリーはこの国の王宮魔術師団と連絡を取りたいと要望していた。今のままだとロットバリーは不法滞在者だ。自分の身元をこの国に入る時に提示などしていない。無断で訪れているロットバリーが直接願うことが出来ない為、医師にお願いした。すると医師は自分の知り合いを紹介してくれると言ってくれた。以前王宮魔術師団で副団長をしていた人物だそうだ。その人に手紙を書いてくれると請け負ってくれた。そして|彼の人《かのひと》は、王都よりも遥か遠い此処へ来てくれると手紙が来ていたのが昨日。そして彼女は手紙が到着するのを見計らって、先ほど転移で到着したと医師からの連絡で告げられた。ロットバ
last updateLast Updated : 2025-04-03
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