都会の喧騒が嫌いなのに、都会でしか生きられない。 お酒は好きだけど、大衆居酒屋は好きじゃない。 ……矛盾しているけれど、それが私だ。 誰に媚びる事もしたくない。 噂や評判なんか気にしない。 ゆっくりと、緩く、曖昧が好き。 ―――― “純愛”? そんな感情、どこに置き忘れてきたのだろう?◇◇◇「なぁ、白井(しらい)、今夜飲みに行かないか?」 同僚の重森(しげもり)が私のデスクのそばに来て、仕事の話のついでにサラリと誘ってくる。 重森は私と同期で、見た目も雰囲気もチャラチャラと軽さが漏れ出ているタイプの男性だ。「行かない」 「なんで?」 「今日は先約がある」 私の返事を聞いて、重森はあからさまに不貞腐れた表情をした。 そんな顔をされても、用事があるのはウソではないから困るのだけれど。「じゃあ、また別の日に」 「うん。……飲むのはいいけど、ホテルは行かないからね?」 「お前、いつもそれ言うよな。先に言われたら誘えないだろ!」 重森の声が少々大きくて、周りに誰もいないか心配になり、キョロキョロと確認してしまった。 ものすごく迷惑だ。早く自分の席に戻ってもらいたい。「誘われたくないから言ってるの」 重森とは付き合ってもいなければ、うっかりと男女の関係になったこともない。 それに、今の言葉は本心だ。 営業事務として働く私、白井 咲羅(さら)は、同じ営業部所属の重森のことは好きでも嫌いでもなく、恋愛感情は微塵もないと言い切れる。「今日会うヤツとはヤるのか? 今日は金曜だから明日休みだしな。なのになんで俺の誘いは断るんだよ。 俺、イケメンだろ?」 自身をイケメンだと豪語する重森にあきれて、視線をパソコンに戻した。 だいたい、話の内容が下品だ。 それを特別仲が良いわけでもない同僚の女性に堂々と話せば、セクハラになるとは考えないのだろうか。 コンプライアンス研修を受け直せばいいのに。「その人とは会うだけよ」 パソコン画面を見つめたままポツリとつぶやく。 真面目に答える必要はないのに、変に誤解されたくなくて否定の言葉を口にする。「話があるって、呼び出されてるの」 「男はそう言いつつ、結局誘うんだよ」 「でもホテルは断る」 実は正直なところ、今日会う人とはなにもないわけではなく、以前にはあ
Last Updated : 2025-03-28 Read more