Semua Bab 策士な御曹司は真摯に愛を乞う: Bab 21 - Bab 30

46 Bab

記憶の断片を繋いで 4

夏芽さんを相手にあんな淫らな夢を見てしまった後ろめたさで、私は朝から彼の顔をまともに見ることができなかった。朝食中の何気ない会話にもしどろもどろになって、明らかに挙動不審の私を、彼ももちろん見逃すわけがない。「随分と落ち着かないね。今日はどうしたの?」眉根を寄せて、真っ向から質問され、誤魔化すのにも必死。出勤するために車に乗ってしまったら、狭い車内で逃げ場もない。質問のみならず会話さえも警戒して、ずっと車窓を流れる景色に目を向ける私を、夏芽さんは視界の端で不審げに探っていた。オフィスビルの地下駐車場に着いて車を降りると、とにかく逃げ場ができたことにホッとする。大きく肩を動かして安堵の息を吐く私を見て、夏芽さんはますます訝しそうな顔をして首を捻っていた。地下駐車場から、オフィスフロアへの直通エレベーターはない。オフィスに上がるには、一度グランドエントランスを経由する必要がある。長いエスカレーターに差しかかると、「黒沢さん、先に」夏芽さんは私を促し、自分は一段下に立つ。スマートなエスコートはさすがだけど、彼はきっと、ほんの一週間ほど前、ここで起きた『事故』を思い出しているんだろう。そっと肩越しに見下ろすと、どこか厳しく、なにか憂いを帯びた表情で、すぐ隣をすれ違う下りのエスカレーターに横目を向けている。私もつられて、同じ方向を見遣った。私はグランドエントランスから地下に降りようとして、下りのエスカレーターで足を滑らせたそうだ。この長いエスカレーターのちょうど中ほどから、一番下まで真っ逆さま。昨日もこうしてエスカレーターを使ったけど、私の記憶にはなにも掠らない。ただ、その時、他に人が乗っていなくて、本当によかったと思うだけだ。でも、夏芽さんは落ちる私を一番近くで見ていたそうだから、ここに来る度にいろんな想いが錯綜してしまう。『巻き込んだ』ことを申し訳なく思いながら、私は進行方向に向き直って、目を伏せた。――本当は、それ自体が不可解なのだ。私はどうして、昼間のオフィスで夏芽さんと一緒にいたんだろう。昨日から、彼の言動や断片的に呼び起こされる記憶と照らし合わせると、思考が先走って落ち着かない。私……失った記憶の中で、夏芽さんから好意を伝えてもらっていたんじゃないだろうか。そう考えるのが一番すっきりするけど、そうなるとまた別の疑問が浮上する。それで、私は?私は彼になんて応えたん
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-04
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記憶の断片を繋いで 5

始業時間を過ぎても、夏芽さんはオフィスに来ない。私は昨日残した仕事の続きをしながら、ソワソワと落ち着かず、何度も腕時計で時間を確認していた。こんなに長い時間、多香子さんとなにを話しているんだろう。いや、婚約解消したと言っても、昔からの知り合いなら話すことくらいあるだろう。そう考え直したものの、それがまた私の胸に引っかかる。そう言えば、多香子さんの言葉にも、湊さんの名前が出てきたっけ。彼も昨日、彼女の名前を口走った。確か、夏芽さんは親族の反対を押し切って……とかなんとか。夏芽さんに鋭く一喝されて、最後まで聞けなかったけれど……。「もしかして……婚約解消のこと?」反対を押し切るということは、夏芽さんが一方的に申し出たということだろうか。そうだとしたら、やっぱり多香子さんは納得していないのかもしれない。何度も私を訪ねてくる理由は、そこにある?でも、いったいどうして――?さっき彼女が、夏芽さんに、私のことを『あなたの大事な』と言ったことも気になり、仕事の手が完全に止まった。やっぱり、私……。何度も巡らした思考を再び働かせた時、コツコツと外からドアがノックされた。「おはようございます。鏑木です」そんな声と同時に、静かにドアが開く。ハッとして、反射的に腰を浮かせた私の視界に、昨日と同じく上質なスーツに身を包み、眼鏡をかけた湊さんの姿が映り込んだ。彼は室内に一歩踏み出したものの、「……あれ」執務机に夏芽さんがいないのを見て、眉根を寄せる。指先で眼鏡をクッと持ち上げながら、私の方に目を遣った。「夏芽は?」短く問われ、慌ててしっかり立ち上がる。「あの、それが……」目を逸らし、躊躇いながら切り出した。湊さんが「ん?」と首を傾げる。「オフィスに、多香子さんがいらして」「そうですか。……え?」涼やかに反応したものの、途中でピクリと眉尻を上げた。「君、多香子と面識あるのか?」意外といった調子で問われ、私は頷いて返した。「実は一度……訪ねて来られたことがあって」言葉を考えながら答えると、彼は「へえ」と相槌を打つ。「なるほど。多香子が、ね……」独り言のように呟き、口元に手を遣る。目を横に流して思案顔をする彼に、「湊さん」私は机に両手をついて、身を乗り出した。「聞いてもいいですか」「なんです?」「昨日仰ってたこと」「昨日?」訝しげに聞き返され、私はそっと目を伏せた。「夏芽さんに止められたことです
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記憶の断片を繋いで 6

その日、夏芽さんはうちの社長とランチミーティングの予定を入れていて、私は何十時間ぶり?と思うほど久々に、彼と別々の時間を過ごすことになった。自分でも『軟禁』と口走ったし、夏芽さん自身もそれを認めた。囚われのお姫様とか、囲い込みとか……私の現状を知る人たちからも、そんな風に言われる始末――。大袈裟だけど、解放感で満ち溢れる。とは言え。『いいか? オフィスから出るな。昼は社食で済ませてくれ』今朝、多香子さんが来ていたせいか、それとも湊さんとの会話のせいか……。より一層警戒心を強めた夏芽さんに、念を押すように言われてしまい、このビルから出られない。私は、秘書室に異動する前に在籍していた営業企画部の同期、峰倉(みねくら)杏奈(あんな)に声をかけた。彼女は美味しいレストラン巡りが趣味で、もっぱら外食派だけど、今日は珍しくお弁当持参とのことで、十二時半に社食前で落ち合うことができた。私がハンバーグ定食のトレーを持って、先に席を取ってくれていた彼女の前に座ると、「美雨がお弁当じゃないって、珍しいね」そう言ってクスクス笑いながら、お弁当の包みを開き出した。私もつられて笑いながら、「そっちこそ」と応じる。「杏奈、外食派なのに」「え?」きょとんとする彼女に、私もパチパチと瞬きを返した。「いつのこと言ってんのよ。私、夏に結婚決まったから、料理の勉強も兼ねて、今年に入ってからずっとお弁当!」「……え」「え、って。美雨には結婚式参列してほしいって伝えた時に、お弁当頑張るって話したじゃない」忘れたわけじゃないでしょうね、とやや憤慨して言われて、私は慌てて取り繕った。「ご、ごめん。そうだったよね……」別の部署にいる杏奈には、私の記憶喪失はもちろん、一週間入院していたことも伝わっていない。事情を知らない人と話すのはこれが初めてだから、私は今さら、自分にこの一年の記憶がない事実を痛感した。なんとも浦島な気分……今まで、ほとんど夏芽さんと二人だったから、人との間で初めて感じた。「もうっ」ランチボックスの蓋を開け、箸を取る彼女に、『相手は誰?』なんてとても聞けない。私の記憶の中の杏奈に、付き合ってる人はいなかった。となると、この一年ほどの間で知り合った人で、わりとスピード婚なのだろう。失ったのは、たった一年の記憶。大人になってからの一年なら、普通の生活にそれほど支障があるわけじゃないと思ってた。心配を
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彼を覚えている身体 1

杏奈とランチタイムを過ごし、私に『彼』がいたことを知ってからずっと、夏芽さんに聞きたいことがあった。終業時刻を待つ間に、やっぱり私の思い過ごしじゃないかとか、今朝の破廉恥な夢に続き、夏芽さんが私の彼だなんて、白昼夢でも見てるんじゃないかとか……とにかく、あまりにおこがましい気がしてきて、帰りの車でも食事中も、切り出せなかった。そうして、温めてしまった疑問。どんなに再考しても、一度自分で出した『推論』は理にかなっていて、覆らない。午後十一時。私は入浴を終え、後は寝るだけになって、上に続く螺旋階段を一段ずつ踏みしめるように昇った。視界に広がる暗い廊下には、ドアが二つ。手前のドアの細い隙間から、明かりが漏れている。きっと、書斎だろう。もちろん、今、夏芽さんはそこにいる――。私は意を決してドアの前に立った。「夏芽さん」グッと握った拳で、コツコツと二回ドアを叩く。返事はない。その代わり、微かな物音が聞こえて、内側からドアが開いた。「黒沢さん……? こんな時間に、どうした?」ラフな部屋着に、無造作な髪。眼鏡をかけた夏芽さんが、やや戸惑った顔で立っていた。もう何度目かのリラックススタイルに、私の胸はほとんど条件反射で跳ね上がる。「すみません。お仕事の邪魔なのはわかってますが……少し、お話したくて」鼓動の反応を誤魔化すように、言葉を繋いだ。頭上から、「え?」と困惑した声が降ってくる。「邪魔ではないけど……今から?」夏芽さんの反応も、もちろんよくわかる。同居しているとは言っても、こんな時間に部屋を訪ねること自体、非常識で軽はずみだ。でも、一晩置いてしまったら、きっとまたいろいろ考えて聞けなくなる。「お願いします」きっぱりと告げると、夏芽さんはわずかに目を泳がせた。逡巡する様子を見せたけど、小さな溜め息をつく。「どうぞ。入って」大きくドアを開けて、私を室内に誘ってくれる。「ありがとうございます」緊張感を強めながら彼の前を通り過ぎ、書斎に足を踏み入れた。わりと広いデスクと、壁一面の大きな書棚が目立つ。『書斎』と呼ぶに相応しい、八畳ほどの部屋だ。書棚には経済書に法律書、経営情報誌がぎっしりと並んでいる。日本語だけじゃなく、英語、フランス語、ドイツ語……タイトルだけだと、私にはなんの言語かわからない本も揃っている。さすが、世界的大企業グループ、鏑木コンツェルン一族の御曹司。やっぱりすごい人
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-04
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彼を覚えている身体 2

螺旋階段の上、廊下の奥のドアは、やはり夏芽さんの寝室だった。部屋の真ん中に悠然と置かれた大きなダブルベッドが、一番に視界に入る。眠るためだけの部屋だ。その他には、小さなサイドテーブルと作りつけのクローゼットがあるだけ。夏芽さんに腕を強く引っ張られて、半分よろけながら室内に足を踏み入れた私は、ドキッと鼓動を弾ませた。初めてこの家に来てリビングを眺めた時と同じ既視感が、今ここでも胸を掠める。リビングだけじゃなく、どうして寝室にまで見覚えが……。戸惑いながらも、つい先ほどの夏芽さんの言葉で説明がつく。私は彼と恋人関係になって、きっと、幾度となくこの家を訪れていた。その中で寝室に誘われ、このベッドで、彼と何度も――。「っ……」一瞬、今朝の淫らな夢が脳裏を過ぎって、私は思わず息をのんだ。と、同時に、「美雨」後ろから強く抱き竦められて、ビクッと身を震わせる。ほどよく筋肉質の太い腕が、私の肩口に回されている。「あ」私が既視感に戸惑う間に、夏芽さんはTシャツを脱いでいた。彼の体温が背中から伝わってきて、私の心臓はドッドッと力強いリズムを刻み始める。「あ、あの。夏芽さ……」強すぎる心拍が怖い。抱擁を解こうと身を捩ると、彼が私の正面に回ってきた。抵抗する隙もなく、あっさりと唇を奪われる。「っ……ふ、うん……」すぐに舌を搦め取られ、私は鼻にかかった甘い声を漏らした。『俺の身体には……君を抱いた時の反応も声も……嫌ってほど刻みついてる』今の、こんな私も?夏芽さんにすべて刻み込まれているのかと思うと、堪らなく恥ずかしい。思わず、彼の両腕にギュッとしがみついていた。ほんの少し離れた唇の先で、夏芽さんがふっと吐息を漏らす。「可愛い、美雨」とびきり優しく微笑みながら、そんなことを言われたら、心臓が壊れそう。胸がきゅんと疼いて締めつけられ、苦しい。「君はいつもそうだ。こんなに可愛いのに酷く淫らになって、無自覚に俺を誘惑する。……ベッドの君は、悪い女」どこか楽しげに目を細め、夏芽さんは私をゆっくりベッドに押し倒した。「そんな、酷っ……んっ、あっ……」寝間着の裾から、大きな筋張った手が滑り込んでくる。焦らすように肌をなぞった後、胸の膨らみを持ち上げるようにして、すっぽりと包む。「や、んっ」「美雨。乱れろ。もっと魅せて」ほんの一瞬、彼の澄んだ黒い瞳に、獰猛な肉食獣みたいな光が射すのを見て、私はゾクッと身
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彼を覚えている身体 3

翌、早朝。夏芽さんはいつもより少し遅めにベッドから起き出し、習慣にしているジョギングに出ていった。トレーニングウェアを身に着ける微かな音を、私はベッドの中でうとうとしながら聞いていた。彼の気配が消えてから、緩慢な動作でベッドを下りる。部屋着姿でキッチンに立ち、彼が戻ってくるのを待ちながら、朝食の準備を始めた。鍋の中で沸々と水面を揺らす味噌汁を、菜箸を持ったままぼんやりと見つめる。『俺と君は、恋人にはなれていなかった』昨夜の夏芽さんの言葉が、頭の中をグルグル回っている。待って。そんなの、意味がわからない。だって、夏芽さんが言った通り、記憶は失っても、私の身体は彼を覚えていた。それはもう疑いようもない。夏芽さんが時折切なげで寂しそうな目をするのは、『恋人』の私が彼を忘れてしまっているから――。他のすべてのことでも説明がつくし、私自身納得するしかない。そう思ったのに……。「恋人じゃないって。それじゃ、私……」――付き合ってもいない人と、身体の関係に?胸に湧いてくるのは、自分への嫌悪感。「っ……!」なのに同時に、昨夜の熱く激しい行為が、脳裏に蘇った。お腹の奥の方がきゅんと疼く感覚に煽られ、私はビクッと身を震わせる。と、その時。後ろから伸びてきた太い腕が、私の腰に巻きついた。「ひゃっ……!?」グッと引き寄せられ、心臓がドッキンと飛び上がるほど驚く。条件反射で振り返ると、首にタオルをかけた夏芽さんがすぐ背中に立っていた。「な、なつ……!」いつの間に、ジョギングから戻っていたんだろう。すぐ背後に立たれても、全然気配に気付かなかった。「おはよう、美雨」私の肩に顎をのせてくるから、鼻先が掠めてしまうほどの近距離。つい一瞬前まで、夏芽さんとは恋人じゃないことで頭の中をいっぱいにしていたから、私はこの距離感にも戸惑ってしまう。「お、おはよう、ございます」目を伏せ、顎を引いて間隔を保ち、朝の挨拶を返すのが精いっぱいだ。だけど、夏芽さんは気にする様子はなく、ひょいと肩越しに私の手元を覗き込む。「なあ、美雨。それ、随分沸騰してるけど、正しい?」「っ、え?」『それ』と言われて、なにを『正しい?』と問われているのか一瞬わからず、彼と同じ物に目を落とした。「俺、料理しないからわからないけど。うちの料理長が、味噌汁は沸騰させちゃいけないって言ってたの、聞いたことが……」「あ、あああっ!!」私は、夏芽
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甘い溺愛の中で迷走 1

夏芽さんの車で出勤するのも、今日で三日目。私を助手席にエスコートしてくれた彼が、フロントを回って運転席に着くのを待って、「あの」思い切って声をかけた。「ん?」シートベルトを引っ張って、カチッと音を鳴らして締める彼に、ほんの少し身を乗り出す。「夏芽さん……今日のお昼は、特にご予定なかったですよね?」「? ああ」夏芽さんは特段考える素振りも見せず、軽い調子で答えてくれた。エンジンの駆動音が響く中、私は膝の上に置いた手提げの紙袋の取っ手を、無意識にぎゅっと握った。「実はお弁当作ってあるんです。夏芽さんの分も」「……え?」車をゆっくり発進させてから、彼がこちらをチラッと見遣る。「私……夏芽さんに、まだ返事できてなかったかもしれないけど……私が作ったお弁当を一緒に食べながら、休憩時間を過ごしたりは、してましたよね……?」彼の横顔に、遠慮がちに探ってみる。駐車場内を徐行運転する夏芽さんは、フロントガラスの方を向いたまま。ほんの少し逡巡してから、左手をハンドルから離し、顎を撫でた。「思い出した……わけじゃないのか」「すみません。私昨日、会社の同期とランチして。その時、誰にも内緒で、一緒にお弁当食べるような『彼』がいたことを聞いて」「その相手が、俺だと?」「他に、考えられません」即答で畳みかけると、夏芽さんはふっと苦笑した。「忘れてるくせに。どうして自信もって答えられるんだか」どこか皮肉気な返しには、私も一瞬グッと詰まる。だけど、彼の方に身体を向けて、グッと胸を張ってみせた。「タイミング的にも、他の状況からも。私にそんな相手がいたなら、夏芽さん以外に心当たりはありません」「………」「私、昨夜からずっと考えてました。その……ちゃんと恋人になってないのに、夏芽さんとあんな関係になった理由」さすがに、『身体の関係』とは言いづらくて、思わず目を泳がせる。黙って聞いていた彼が、わずかに口角を上げた。「セフレ関係……ってこと?」歯に衣着せずにズバッと言われて、私はカッと頬を染めた。夏芽さんは、そんな私を視界の端で確認して、軽く肩を竦める。「デリカシーなかったな。ごめん」素っ気ない謝罪には、勢いよく首を横に振って応えた。今度は少しムキになって、グッと顔を上げる。「正直、自分が信じられない……って気持ちが強いです。でも、自分のことだからわかる。私が夏芽さんの気持ちに返事ができなかったのは、鏑木の
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甘い溺愛の中で迷走 2

『恋人』になってからも、夏芽さんによる『軟禁』は変わらない。自分のマンションに戻るのは許してもらえると思ったのに、『恋人同士なのに、わざわざ別々に暮らす必要がどこにある?』と真顔で返され、思わず私まで返事に窮してしまった。『ずっとここにいろ、美雨。毎晩ベッドで愛でるにも、一緒に住んでいる方がいろいろと都合がいい』ただでさえ色っぽい人が、意図的に色気を出してそんなことを言うと、その破壊力は半端じゃない。結局いいように丸め込まれ、強引で不遜な命令で始まった同居生活も、すでに丸二週間経過。もはや、何故同居することになったのか、その理由さえ曖昧になっていた。確か、私に余計な情報を与える、よからぬ人間が接触するのを阻止するため、だった気がする。夏芽さんが言う、『よからぬ人間』が多香子さんなのは明白だ。実際、彼女は私が仕事復帰したと知って、オフィスビルまでやって来た。あれ以来見かけてないけど、夏芽さんはまだ警戒を解かない。だからこそ、私の中から、不可解な思いは消えない。私が、彼と出会い関係を持つようになっていたことを『知った』今も、『余計な情報』がなにかあるんだろうか――。こういうことを考え込むのは、いつも決まってベッドに入ってから。そしてたいてい、後からベッドに来る夏芽さんによって、一人きりの瞑想タイムは阻まれる。今夜も例に違わず……。
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甘い溺愛の中で迷走 3

「……寝ちゃった?」「ひゃ、んっ……!」恋人になって以来、私が自室として使わせてもらっている、客間のベッドで眠ることはなくなった。もちろん、夏芽さんから、『これからは、毎晩俺のベッドにおいで』と、お誘い……いや、有無を言わせぬ命令があってのこと。彼はだいたい日付が変わる頃まで仕事をしていて、ベッドに入るのは十二時半くらい。私は先に休ませてもらってるけど、彼は私が寝てるかどうか確認しながら、後ろから抱きしめてくる。今みたいに反応を返してしまうと、早速胸元に手を挿し込んできて……。「あ、んっ……! 夏芽さんっ」「明日、休みだし。……シよ?」耳を唇で甘噛みしながら、しっとりとした艶めいた声で誘惑する。一応私の意思を確認するような言い方だけど、拒否権を行使できたことはない。と言うか、私が胸と耳が弱いことを知り尽くしていて、真っ先に攻め込む夏芽さんは、絶対策士だ。抵抗どころか、最初から甘い感覚に痺れて、身体が戦慄いてしまう。「や、夏芽……」「美雨、こっち向いて。キスしたい」「ん、んんっ……」肩越しに覗き込むようにキスされながら、弱く敏感なところを捏ねられたら堪らない。こうして私は、ほとんど無抵抗のまま彼の手に暴かれ、淫らでいやらしい女にされてしまうのだ。本当は、夏目さんが私に『教えたくないこと』がなんなのか聞き出したいのに、彼に愛される今の幸せ以外、他のことはどうでもよくなってしまう――。
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甘い溺愛の中で迷走 4

翌日の土曜日、私は退院してから初めての受診予約をしていて、ほぼ二週間ぶりに病院を訪れた。会社の行き帰りと同様、夏芽さんは私を一人にしたがらない。休日でも、自分は本社に出向く用があるのに、わざわざ私を病院まで送り届けてくれた。だけど、診察の間は周りにたくさんの患者さんがいるし、私を一人にしても問題ないと判断したのだろう。『終わる頃、迎えに来る』と、オフィスに出向いていった。ここは、都内でも有数の大病院だ。受付後、いろいろな検査を受けて、診察はその結果が出るのを待ってからだし、予約してあっても待ち時間は長くなる。結局、精算を終えるまでで、トータル二時間かかった。でも、夏芽さんは『三時間くらいだろ』と、もっと長くかかると読んでいたから、きっとまだ来ない。相変わらずうちの会社でリモートワークを続けているから、本来のオフィスでやるべきこともたくさんあるだろう。『早く済んだら連絡しろ』と言われたけど、仕事の邪魔をしたくない。連絡はせず、彼が来るのを待つことにした。二月も終わりが近い。早春のこの季節、今日は少し暖かくて、春めいている。外来棟に面した中庭には、うららかな柔らかい陽が射していて、とても気持ちがよさそうだ。時間を持て余した私は、外に出てみた。緑溢れる中庭は、入院患者さんにとって憩いの場所だ。時折強く吹きつける風は、ちょっと冷たい。それでも、病衣の上から厚手のコートを羽織り、面会客と散歩したり、ベンチに腰かけてのんびりする患者さんも多い。私の入院は一週間だったし、精密検査が多かったから、のんびり中庭に出たことはなかったけど、なかなか心地いい。特に今は、夏芽さんがいない。彼と過ごす時間は、今となってはとても幸せ。でも一緒にいると終始ドキドキしてしまうし、一人になって開放感を覚えてしまう自分を否めない。「んーっ……」思いきり両腕を空に向かって突き上げ、胸を広げて深呼吸をした。東京都心の病院だけど、中庭に溢れる緑のおかげか、空気も清々しく感じる。考えてみれば、通勤で歩いたり電車に乗ったりしない分、ここ二週間さすがにちょっと運動不足だ。意識して身体を動かさないと、なまってしまう。私は腕時計に目を落とし、時間を確認した。ここから鏑木ホールディングスの本社ビルまでは、電車でほんの一駅区間。歩いても二十分ほどの距離だ。――もしかしたら、怒られるかもしれないけど。入院中の病院や、オフィ
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