鏑木ホールディングスの本社ビルは、高層ビルが立ち並ぶ、日本有数のオフィス街にある。その中でも、群を抜いて立派なインテリジェントビルだ。真下から見上げると、天に突き抜けそうなほど高い。子会社のうちは、鏑木の他のグループ会社と同じビルに、テナント入居。この本社とは格が違う。こんな立派な本社ビルを構える、鏑木ホールディングスの副社長――。今さらながら、夏芽さんとの色々な格差を突きつけられた気分で、私はちょっと怯んでしまった。でも、こうやって怖気づくのも今さらだと、自分に言い聞かせる。家柄の違いも身分差も承知の上で、私は『鏑木夏芽』という一人の男性との恋に飛び込んだ。夏芽さんが好きだから、『心配ない』と言ってくれる彼を信じて、そばにいればいい。私は、一度深呼吸してから、エントランスに入った。土曜日で会社は休みだけど、わりと多くのスーツ姿のサラリーマンが、広いエントランスを行き交っている。自動のセキュリティゲートがあり、その両脇を制服姿の警備員が固めている。休日出勤の社員なのか、男性が一人IDを翳して、ゲートの奥に進んでいくのが見えた。もちろん、私は入れない。総合受付は、平日なら受付嬢が数人座っているんだろうけど、今は無人だ。でも、中に入れてもらう必要はない。きっと夏芽さんもここを通るだろうし、私はエントランスで待つことにした。往来の邪魔にならないように、隅に寄っていようとして、エントランスの片隅にミーティングスポットを見つけた。位置的にも、セキュリティゲートを眺めることができる。夏芽さんが出てきたらすぐにわかるし、ソファに座って待っていよう。そう決めて、そちらに向かって足を踏み出した。その時。「多香子!」背後から鋭い声が耳に届き、私はビクッと肩を震わせた。「……え?」私が呼ばれたわけじゃない。でも、それが夏芽さんの声だったし、彼が呼びかけた名前にもギクッとして、そっと振り返ってしまう。行き交う人たちの向こうに、私は彼を見つけた。彼が向かう方向を目で追うと、多香子さんがヒールを鳴らして歩いていくのも見える。夏芽さんは、大きな歩幅でツカツカと歩いて追いつき、彼女の肩を掴んだ。足を止められる格好になった多香子さんが、彼を振り向いている。その様を見て、私の心臓が何故かドクッと音を立てて沸き立った。病院のサンルームや、この間のうちのビルの時と同じ、やっぱり不穏な空気を感じるから、二
Last Updated : 2025-04-04 Read more