Lahat ng Kabanata ng 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦: Kabanata 41 - Kabanata 50

79 Kabanata

◇信也と玲子+◇信也と蘭子 41

41◇信也と玲子  蘭子とは学生同士とはいえ真剣に交際していたつもりの信也だった。 だから蘭子の自宅に招かれ母親と妹に蘭子の恋人として紹介された時も、 きちんと臆することなく挨拶をした。 そんな信也だったから父親も加わっての次の挨拶は就職後になるだろうと 考えていた。  最初の訪問時に驚いたのは妹の玲子の美しさにだった。 毒気を纏った美しさでドキマギしてしまった。 花で例えるなら姉の蘭子は知的で物静かなスズランやカンパニュラと いったところだろうか。 反して妹の玲子は色鮮やかな赤いバラかシャクヤクか毒々しさを重ねて みると真っ赤な曼殊沙華。 玲子とのメイキングラブは期待を裏切らず随分楽しめた。 かなりの人数と行為をこなしてるみたいで体位もそうだが なかなかのテクニシャンだった。 あんなの経験したら楽しむのはいいだろうけど、まず妻にはできないな。 はっきり言って何人が出入りして使ったか分からない肉便器じゃん。 今日はどんな男をひっかけてヤッてんだろうなんて、一日中心配で 仕事なんて落ち着いてできねーよ。  玲子とは5回ほどホテルへ行った。  蘭子にバレずに済むだろうか。  運よくバレずに蘭子と結婚できたら、できるだけ早めの転勤異動願いを 出して玲子のいるところからう~んと遠くに離れないと……だ。  信也が6回めに玲子と会うことはなかった。 玲子とのアバンチュールは2か月間の5回の逢瀬で打ち切りにした。 いくらなんでもずるずる続けていたら蘭子にバレてしまうだろう。 所詮割り切った遊びなのだから。*◇信也と蘭子  島本家で玲子妊娠報告のあった翌日は金曜日でその日は蘭子も信也も 何コマか授業を取っており、いつものように食堂でふたりして 落ち合うことになっていた。  昨日まで将来を誓い合っていた信也がたった一日を隔てて 赤の他人よりも質《たち》の悪い人間と化してしまった。 玲子の話が真実ならば。
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◇破れ鍋に綴じ蓋 42

42   食堂へは蘭子のほうが先に着き、席を確保して待っていた。「よっ、今日は何にするかなぁ~」「私はカレーライスにしようかな」「あっ、じゃあ俺もそれにしよっ」 信也が2人分のカレーをテーブルまで持ってきてくれた。「午後から授業あったっけ?」「1コマあったけど今日は休講になったわ」「じゃあ、食事が終わったらちょっとその辺ブラブラしない?」「何かあった?」「うんっ、ちょっと話があるんだ」「ここで今話せないこと?」「うん、ここでは止めたほうがいいかな」「ヒントだけでも」「妹のことだよ」「ブッ……」 信也が口に運んでたカレーを吹いた。「どうしたの?」「ちょっと吃驚して吹いた。予想してなかったから」「そっか」 分かりやすい人。 1%信也を信じてみてもいいかなと考えていた残りのゲージ1%が吹き飛んだ。 信也の口の中にあったご飯粒のように。 話す前に浮気? 乗り替え? が100%だと分かり、冷静に話を持ちだせそうに思えた。 大学の校内にある樹木の周りはぐるりと一周お尻を乗せられるくらいの石積みで囲ってあって、学生のいない場所を見つけて私たちふたりはそこに座った。「ね、玲子のこと、もう知ってるんだよね?」「えー、何かな? その振りっておかしくない?」「うん、じゃあ直截的に訊くね。 玲子とヤッたってほんと?」 私の質問に信也の目が泳ぎ出した。「ヤッたって……何を?」「フーン、そうきたか。玲子のヤツ私をおちょくったのかぁー」 私の呟きを聞いて信也は更にキョドリ出した。「玲子ちゃんに遊ばれたんだ。 姉妹でも蘭子たちって性格ぜんぜん似てないよな」「容姿もね。 やっぱり派手できれいな玲子みたいなのが男心くすぐられるのかしら? だから信也も私から玲子に乗り替えたいって思ったりする?」「そんなこと考えたこともないしぃ~、玲子ちゃんは個性的だからさぁ~俺じゃぁ無理だな。 俺にはさ、やっぱり控えめでやさしい蘭子が似合ってるよ。 あぁこれって別に玲子ちゃんがどうこうっていう悪口じゃないぜ。 ほら、人には破れ鍋に綴じ蓋《われなべにとじぶた》っていうように相性ってあると思うからさ」「金城くん、玲子ね、妊娠したらしいよ。 何か話聞いてなぁ~い?」「えー、俺が? 普通そんなの聞かないでしょ……」「うん、そだ
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◇本当なのか嘘なのか 43

43「妹のお腹の子は金城くんが父親で玲子はあなたのこと、自分が貰ったって吹いてるわ。 これって昨日の話。 玲子とあなた、もう何度かそういう行為をしてるんだってね。 片方だけの話を聞いただけじゃあ100%本当かどうか判断できないしそれであなたに確認したの。 これって私を困らせるための玲子の妄想? それとも玲子に乗り替えたいと思ってる? 昨日妹から妊娠とあなたとの関係を聞いて、ずっと一睡もできなくて……ほんとしんどい。 でもこんなことメールや電話で訊けるようなことでもないから金城くんと顔見ながら話をしなきゃと思って。 ほんとのことをちゃんと話してね。 嘘は止めてほしい。 玲子の言ってることが本当なのか嘘なのか」 私が話している間の金城くんを見てると悲しくなった。 金城くんの行動は早かった。 腰かけてた石積みから足元の地べたに素早く移動し「蘭子、ごめん。とぼけてごめん。裏切ってごめん。 玲子ちゃんの誘惑に負けて何度か付き合ってしまったけど、俺の好きなのは蘭子だけなんだ。 妊娠のことは今知った。 今月に入ってから玲子ちゃんからの連絡は全部スルーしてたからそんなことになってるなんて知らなかった」「玲子は産む気らしいよ。 両親も玲子とあなたを応援したいんだって。 私に身、引けって言ってるわ」「えっ……そんな。ご両親がそんなことを。 俺、玲子ちゃんとは結婚できないよ」「私にはどうにもできないわ。 ただ玲子がそれで引き下がるような子ならいいけど。 内定のこともあるし、玲子とよく話し合ったほうがいいと思う。じゃ、これで。 明日から大学でも一緒にいるのはもう止めたほうがいいと思う。 あなたはもう私の恋人じゃなくて玲子のお腹の中の子の父親だからね。 じゃあ、先に帰るね」 信也の口からちゃんと玲子とのことを聞けてかなりスッキリした。 スッキリったって暗く悲しい状況ありきの範疇でのスッキリに過ぎないけど。
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◇信也の怒り 44

44 あのペテン師め!  俺はZoomで事の次第を話し合おうと玲子に連絡を入れた。「お前、どういうつもり? これは私たちだけの秘密、お姉ちゃんには内緒ねって言ってただろ? しかも俺に一言も話さないで妊娠したとか言って俺たちのことバラすなんてサイテーだな、おまえ」「なぁに真剣になっちゃってんの、テンパリ過ぎよ。 ね、お姉ちゃん、泣いてた? 縋られた? 私を捨てないでぇ~って」 なんなんだ、コイツほんと。 ふざけた野郎だ。「泣いてもないし、縋られてもない」「え~なんだつまんないの」「妊娠って嘘だろ?」「……」「姉の恋人寝取ったことがそんなに楽しいのか? 蘭子を苦しめて楽しんでるのか?」「私の誘惑にホイホイ乗ってきたあんたにそんなこと言う資格ないっしょ」「お前のエロイ身体に負けてしまったのは一生の不覚だったわ。 言っとくが今後一切お前とは会わないし勿論付き合ったりもしない」「お姉ちゃんと結婚するつもり? そんなことさせないから」「ンとにお前、クソだな。 こんなことしておいて知られていないならともかくも、白日の下に晒されて蘭子に今まで通り付き合ってほしいなんて、そんな最低なこと言えないわ。 俺はそこまで腐ってない」「フーン、じゃあ私が結婚してあげる。自棄にならなくていいよ」「ごめんだね。 それと妊娠を盾に俺との結婚強要するならこちらにも考えがあるから。 お前の妊娠したっていう話が嘘なのは証明できるから。 俺は子供の頃の病気が原因で不妊だ。 妊娠が本当なら父親は別にいるってことになる」実は信也は幼少期におたふく風邪を引き、母親の思い込みから、以後ずっと『あんたはもう子供できないかも』と言われ続けてきたのだった。それは病院で検査しての決定事項でもなかったのだが……。「信也くん、不妊だなんてそれこそ詐欺じゃん。 私、信也くんの他にも付き合ってるヤツいるからそっちなのかもね」 玲子は吹いてるだけで本当のところ妊娠などしていないと思われた。 蘭子から俺という恋人を奪うのが目的だったのだろう。 ほんとに悪い女《ヤツ》だ。 蘭子もこんな破廉恥で節操なしの妹と良識のない両親を持って大変だな。 人の家庭の事情だから介入できないけど、今度のことは心から蘭子に申し訳ないことをしたと思う。 蘭子、本当にすまない。
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◇玲子の謝罪 45 

45   具体的に『別れよう』ってお互いに言葉には出さなかったけれど、 大学校内で妹とのことを確認したあの日を境に私と信也は別れた。 それからしばらくして玲子の妊娠は想像妊娠で 実は妊娠してなかったというオチがついた。  玲子は自分と信也が身体の関係になっているということを 大々的に私に遠慮なく堂々と声を大にして言いたいがために 意図的に放った言葉だったのだろう。 こんな愚かな妹と両親が……どうして自分の家族なんだろう。 いつか時が来たら全員捨ててやる。  妹の悪意が100%分かった日に私はそう決意した。    * 玲子の謝罪編に時は進む * ◇玲子の謝罪      万事休すでどうしようもないところまで追い込まれた玲子は 姉、蘭子の苦言を聞き、やっと向阪 匠吾への謝罪を本気で 考えるようになった。  そう決めると今の今まで謝罪などということは考えたこともなかったのに 善は急げとばかりに翌日すぐに向阪匠吾に会ってほしいと連絡を取った。  電話は気が引けてメールで問い合せをした。 返事がきたのは一時間後だったので、その間返事がもらえなかったら どうしようなどとハラハラしながら玲子は待った。  待ち合わせ場所は中山手にある『にしむら珈琲店』でということになった。 初めての場所だったため、少し早めに家を出たので匠吾よりも早く着いた。 手持無沙汰だったせいか 『向阪くんは今どこに住んでるんだろう。  自宅に招かれたら住んでるところが分かったのになぁ~』 などと、分かったところでどうにもならないのに玲子はそんなふうなことを 思ったりしつつ待ち人を待った。  ほどなくして向阪匠吾は時間きっちりに玲子の前に現れた。 「忙しいところ、今日はありがとうございます」「で? 何で今頃謝罪したいなんて思ったわけ?」 「離婚して家を追い出されたのは自分のせいだって分かってるの。 だけど……離婚したあと、就職が決まっても何故かあとからなかったことに してほしいと言われ、就職が決まらなくて。 それで……、それからある男性と縁があってね、婚約したんだけどこれもあとになってから破談になったの」「俺が手を回してるとでも言いたいの?」  向阪くんが厳しい眼差しで言葉を口にした。
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◇謝罪 46

46 そして続けて問われた。「それより就職だとか、婚約しただとか言ってるけど子供はどうしたの? 堕ろしたの?」 私の中では妊娠なんて遥か昔のことで、訊かれた時、はぁ~いつの話だよなんて思ってしまった。 でも実際まだ妊婦だったら臨月間際なんだよね。 玲子はふたつまとめて問いかけられ、あたふたしてしまった。「離婚したあとすぐにお腹の子は流産しちゃったの。 え~っと、それからあなたが何かしたとかは思ってない。姉がね、言うには、掛居花さんのおじいさまが力のある方でそっちのほうから何か圧力がかけられてるんじゃないかって」 いいところまで突いてきてはいるが、花の祖父が俺の祖父でもあるということを知らずにいそうな玲子を見ていて、男と女のことになると、小賢しく立ち回れるのに、色事を離れるとまるっきし駄目ダメ人間なのだということが露見し、滑稽でならなかった。  しかし、玲子と違い姉の欄子という人は少しは頭が切れるようだ。 さて、その女性は、掛居花の祖父が俺の祖父でもあると知っていて玲子に教えてないのか、知らないのか……どうなんだろうなぁ。 玲子と姉の関係性によると思うが、玲子のような性悪女のことだから姉にも何か仕出かしてたりしてな。 それにしても玲子の話によると祖父茂にとことんやられているようで匠吾は内心驚いた。 フィクサーというのはどこまでも非道になれるのだと聞いてはいたが。 自分は曲がりなりにも一応玲子に引導を渡したことで落とし前をつけた形になっていることと、義父が盾になっていてくれるので首の皮一枚で繋がっているのかもしれないなと思うのだった。
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◇驚きの連続 47

47「まぁ、掛居家のことは俺にも詳しく分からないけれど、参考までに取り敢えずどうすればいいか、ということを話しておくよ。 掛居家に対して祖父母、ご両親、そして本人の花さんたちに向け弁護士を通して正式に俺と君との間には身体の関係もなければ交際すらしておらず、同僚として一緒に酒を飲んだだけであったことを証拠として書類に記載。 またふたりの間にさも肉体関係があったかのように花さんが受け取るであろう言葉を彼女に言い放ったのは自分の悪意からであったことなどを併せて記載すること」「弁護士を通すんですね。 分かりました。いろいろとお世話になります」殊勝に玲子は匠吾に礼を述べた。「これで旧財閥の総帥でもある花さんの祖父が君を許すかどうかは俺にも分からない。 だが君にはもうその道しかないだろう。 命が惜しければできることは全部したほうがいいだろうね。 君は自分の放った言葉で何人の人間を不幸にしたのか考えたこともないだろ?  俺は愛していた花とは結婚できず両親は俺のせいで財閥の跡取りになれなくなったよ。 その辺の地方貴族の跡取りとは訳が違う。 本来なら受け取れたはずの遺産も社会的地位に絶対的権力も父さんは血の繋がらない息子のせいで全て失くしたよ。 申し訳なくて申し訳なくて……。 母さんには肩身の狭い思いをさせてしまった。 玲子、俺はね、夜何度お前の首を絞めて殺そうと思ったかしれない。 お前を一生苦しめてやりたいよ」          ◇ ◇ ◇ ◇『愛していた花とは結婚できず』って、引き摺ってたのに私と結婚したんだ? 『両親は俺のせいで財閥の跡取りにはなれなくなった』 えっ、どういうこと? 向阪くんって元々財閥だったの? 花さんの家系も財閥でしょ?   元が同じ旧財閥だと知らない玲子にはこの謎解きは難し過ぎた。『父さんは血の繋がっていない息子のせいで……』えーっ、血が繋がってなかったのぉ~? 次々と知らない情報が匠吾の口からポンポン出て来てただただ驚くばかりの玲子だった。
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◇やるだけのことはやった 48

48 一番驚いたのが匠吾が自分を殺そうと思うほど憎んでいたことだった。 『じゃぁ、私との結婚は何だったの?』 と訊いてみたいのを必死でこらえた。 「ごめんなさい。皆を苦しめてほんとにごめんなさい」 目に涙をためながらそう何度も謝り玲子は足早に店を出た。           ◇ ◇ ◇ ◇  歩きながらセミロングのヘアーを手で斜め後ろに何度か流しながら 心に溜まっている文句を吐き出した。 「何言ってんのよ。知らないわよ。  そんな大仰なお家事情なんて。 私を親子して追い出しておいてまだ足りないっていうの?  私はね、花さんに一言もあなたと浮気したなんて言ってないってんの。 花さんだってあなたとちゃんと話し合っていれば誤解だって 分かったんじゃない?  そもそもあなたの言うことを信じなかった花さんってどうなのよ。 10年余りも付き合ってたのにあなたたちの信頼関係は そんなものだったってことなんでしょ。 もう花さんがメンタル弱すぎなのよ。 周りが甘やかしてくれるからってこれ見よがしにメソメソしちゃって いい迷惑だよ」  なんという玲子のメンタルの強さ。 しかし結局は向阪のアドバイスを実行しなければ命の危険も有り得るかもしれないとも思う玲子は弁護士を雇い作成した書類を持ち、まずは花の両親の元、掛居家を訪れ謝罪をした。 彼らから『許します』とは言われなかったものの『祖父のところへは自分たちからちゃんと報告するので出向かなくてよい』と言われほっと胸を撫でおろす玲子だった。  誰も彼も……元夫の匠吾にも掛居家からも自分の発言を聞いてもらえただけで『許す』の言葉はもらえなかった。 勿論、大物らしい祖父という人も許してはくれないのだろう。 しかし、やるだけのことはやったのだ。
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◇出会い 49

49  このあと自分はどんなふうに生きていけばいいのだろう。 これからの身の振り方を考えて数日過ごしたあとのこと、気晴らしに電車に揺られ海浜公園にある堤防に来ていた玲子はじっとその場に佇み、今までのことこれからのことを考えていた。  ふと気が付くと考え事をしていたせいか堤防を離れ海浜公園の中程に戻っていた。 こんな暑い中を意味もなく歩き回ったりして、いつもの自分らしくないことに気付き嫌になった。 自分らしくいられないものの正体をぼんやりとではあるが気付き始めていた。 向阪のアドバイス通り弁護士を介してお詫び行脚もしたけれど、何とも言えない不安が胸の奥からせり上がってくるのを止められず、いてもたってもいられない気持が消えないのだ。「こんなところに一人で、難しい顔をしてどうした?」 玲子は見ず知らずの男にいきなり声を掛けられてビクっとしつつ、その男の方へ視線を向けた。するとそれと同時に視界に入ってきた周りの風景は、日没時になったのか太陽がオレンジ色の輝きを放ち地平線の下に沈み始めているのが見えた。 そして再度男に視線を戻すと……「私でよければ話を聞いてやろう」と声を掛けられた。 ここはそもそもお弁当を持って来るような場所で周辺には飲食店もなく、自販機くらいはだだっ広い敷地のどこかにはあるのだろうけれど見渡す限り、自分たちの視界には見当たらなかった。 そんなことを考えたのは喉の渇きを覚えたからで、これからしゃべるのなら、何か飲み物が欲しいと思ったからだ。 私と、見た目40代くらいの男性とは、すぐ側にある石でできた長イスに少しだけ距離を置いて座り、私は取り繕ったりせずに自分がしてきた残念なこと、そのせいで何倍にもしてやり返されたこと、相手がとんでもなく力のある権力者で今頃になって怖くなり正式に謝罪したことなどを話し、けれど『許す』と言われてないことからこの先まだまだ嫌がらせが続くようなら……『死んだら楽になれるのかな』などと思いながら海を見ていたのだと告白した。
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◇遁走 50

50 「それだと今も誰かに素行調査の一環として誰か調査員につけられて 見張られているかもだね」 「そうですね。  私が就職で良いチャンスを掴んだと思うと内定が取り消しになったり、結婚しよ うと思っていた矢先に相手の親族から『素行が悪いので結婚を認めるわけにはいかない』 と言われたり、絶対私を幸せになどするものかという強い意志を感じます。 当初はたまたまかなとか、今までの心映えの悪さが自分に返ってきてるのかなぁ~とか思ったりしてたけど、私の素行の悪さを指摘された時にこれは偶然なんかじゃないって確信しました」 「君の話を聞いていて思ったんだけど、一度世間から身を隠して大きな幸せ、 つまり優良企業に勤めるとか玉の輿に乗って結婚するとかを諦めて、どこか 田舎でつつましく生きていくのが最善じゃないかって思うね。幸せを感じられなくても、苦しかったり辛かったりのない生活で満足でき ない?」「幸せはなくて、でも苦しみも不安もない暮らしですか?」「死のうと思っていたその苦しみがなくなれば、それでよしとしないかい?  私は今から瀬戸内海のある離島に帰るのだが、家族のいない気楽な独り暮らしで君ひとりくらいなら泊めてあげられる部屋もある。 着の身着のまま一緒に行かないか?  車に私のジャケットがあるからトイレでそれに着替えて少し変装して、 そのまま私の車に乗り込めばなんとか追跡してる人間を撒けるかも しれないな。 余計だというなら最寄り駅まで送って行ってあげるよ。 そしてそこでさよならしよう。どうする?」 「私は島本玲子と言います。  お言葉に甘えて逃亡することにします」 「私は井出耕造。  じゃあここで待っていて下さい。 ジャケットを取りに行ってきますから。  紙袋に入れて持ってきます。 そしてそれをあなたに渡しますね。  私の車のナンバーと色を今から言いますからメモしておいて下さい。 駐車場はあそこですからね」 と井出は指さした。 「今から私が歩いて行くのを見ていたらだいたいの位置が分かると思います」 玲子は井出の言う通りに動いた。          ◇ ◇ ◇ ◇  私は井出さんの手引きで離島に無事渡ることができた。  渡ったは渡ったけれど、上手く追跡から逃れら
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