俺たちは家の近くのスーパーに寄って、とんかつの材料になる豚肉を買った。 スーパーを出ると秋の空がかすかに夕暮れを集め始めていた。茉莉が買い物袋を手に提げていたので「俺が持つよ」と手を差し出す。 茉莉はその手を下げ、買い物袋を反対の手に持ち替えた。 開いた手で、俺の差し出した手をすっと握る。 それからお互いに言葉は何一つ発することはなかった。 家までの帰り道はすぐそこだった。 その角を右に曲がると俺たちの家だ。 俺はその手を引くようにまっすぐと道を進む。家から少しでも遠回りするためにでたらめな方向へ進み、夕日の差し込む見晴らしのいい公園にやって来た。 周りには誰もいない。つないだ手と手の間に汗がにじむ。 ――思いを決する。負けたってかまわない。このまま想いを押し殺すことのほうが無理だった。 最悪、冗談で言ってみただけだと言えば、お互い笑って忘れことも出来るだろう……多分。 枯れ枝の樹が茜色の夕日を浴びてその影を長く伸ばし、冷たい風が赤茶色に染まった木の葉を引きずりながらカサカサと音を立てる。 まるで寒さから身を護ろうとするみたいに小さく縮こまりながらつないだ手をぎゅっとさらに深く握る。 その手に互いに力が入る。 本当は言葉なんて必要なかった。 もう俺の気持ちは十分すぎるほどに茉莉に伝わっているという自覚はあった。 だけど、それだけではだめなのだ。 その想いを言葉にするにはあまりにも犠牲を強いられるわけだが、その犠牲なくして前には進めないことも知っている。 茉莉に、自分のことを受け入れてもらえる自信がないわけではない。だけど、その手から伝わる茉莉の手のひらの温度が、なぜか俺を一層不安に駆り立てる。 そして、勇気を振り絞る。 「なあ、俺は正直恋人のふりをするのがしんどくなってきたんだよな」 周りくどい言い方だ。だけど、今すぐ直球をぶつける勇気もまた、無い。 「うん、それはなんとなくわかってた。実はわたしだって少しはそう思うことだってある」 大丈夫、茉莉のその言い片なら脈はある。 「――だ、」 緊張しすぎたせいで上ずった声を出してしまう。一度深呼吸をしてから、もう一度言いなおす。 「だったらさ、本当の恋人になろうぜ」 「それ、本気で言ってる?」 ――冗談だよ。だなんて
Last Updated : 2025-03-14 Read more