家の中はまたシンと静まり返る。隣の家からかすかにジングルベルの音が聞こえた。 テーブルに茉莉と二人きりで向かいあう。そして彼女はグラスに注がれたシャンパンに静かに口をつける。「あ、美味しい……」「はじめて、なのか?」「うん、ビールなら、口をつけたくらいならあるけど、あれは全然ダメだった。苦いだけで」「そうか」「ねえ、蒼はどうなの?」「俺も同じだよ。ビールなら飲んだことはある。もう、飲む気にはならないけど」「それで、シャンパンは飲まないの?」「まだ、未成年なんだけど?」「でも、もう子供じゃないでしょ?」 俺は、俺たちはもう、子供ではなかった。それが法的に悪いことだということくらい知っているし、そのことで何かあれば責任だって負う覚悟はある。それに、茉莉に子ども扱いされるのは嫌だ。 シャンパンのグラスを手に持ち、恐る恐るに口へと流し込む。「あ、美味い」 それは思っていたような炭酸ジュースのようなものではなかった。口に含んだ泡がはじけて消えるジュースなんかではなく、喉の奥で小さくはじける気泡から華やかな香りが立ち、ゆっくりと鼻から抜ける。 そして改めてグラスを手にした茉莉ともう一度乾杯をする。「さあ、食べようぜ」 そう言って俺たちは、茉莉の作ったクリスマスディナーを始めた。もとより美味い茉莉の料理を、シャンパンがさらにもう一ランク上のものに押し上げてくれた。 食事をしながら、茉莉は聞いてくる。「ねえ、蒼。直人さんは、ママのところに行った、ということでいいのよね」「そうだな。たぶん、今日は二人でクリスマスを祝うことになると思う」「ねえ、どんな方法を使ったの? ママと、話をしてくれたの?」 その詳細について、茉莉にすべてを話すことは到底できないことだし、話す必要もないことだと思う。知らないほうが、幸せでいられることもあるというのは俺の詭弁なのかもしれないが、俺は芹香さんと話をして、彼女がもう浮気をしないという話と、今日芹香さんがとある場所で父のことを待っているということを茉莉に伝えた。 多分、嘘は言っていないと思うし、それが真実でなければ困ることだってある。「約束、守ってくれたんだ」「多分、これで本来の理想の形になったんだと思う」「そっか……ありがとうね。蒼」「お礼を言われるようなことじゃない。これは全部、自分のためにやったことなんだ」「ふふ、そうね。でもそれは、みんなのため
Last Updated : 2025-04-09 Read more