「あの子ね、あたしと同室になったんだけど。それが気に入らないらしいんだよね。ったく、あたしだってゴメンだっつうの。あんな高ビーなお嬢がルームメイトなんて」「あの……?」 多少口は悪いけれど、突っ張っている風でもない彼女に愛美は完全に|気圧《けお》されている。「――あ、ゴメン! あたし、|牧村《まきむら》さやか。よろしくね。アンタは?」「あ、わたしは相川愛美。よろしく。『さやかちゃん』って呼んでもいい?」「うん、いいよ☆ じゃああたしは『愛美』って呼ぶね。あたしたち、部屋となり同士みたいだよ」「えっ、ホント? ――あ、ホントだ。よろしく」 部屋割り表を見れば、確かにそうなっている。 早くも友達になれそうな子ができて、愛美はますますこの高校での生活が楽しみになってきた。 その一方で、辺唐院珠莉と男性職員との口論はまだグダグダと続いていた。「あの……。よかったら、わたしと部屋代わる?」 見かねた愛美が、おずおずと珠莉に部屋の交換を申し出たけれど。「いいよ、愛美。そんな子のワガママに付き合うことないって。――ちょっとアンタ! あたしと同室なのがそんなに気に入らないの!?」 どうやらさやかは、言いたいことをズバズバ言うタイプの子らしい。(さやかちゃん……、そんなにはっきり言わなくても) 愛美は絶句した。これ以上話をこじれさせてどうするのか、と。 〈わかば園〉にいた頃はケンカらしいケンカもなかったので、愛美は基本的に平和主義者だ。人のケンカやもめ事に首を突っ込むのは苦手である。 けれど、この場では愛美も当事者なのだ。珠莉の|怒《いか》りの矛先が愛美に向くこともあるかもしれない。そうなった時の対処法を彼女は知らない。(わ……、なんかすごい人集まってる!) 愛美が驚いた。気づけば、「周りには大勢の新入生や在校生と思われる女の子たちが|騒《さわ》ぎを聞きつけて、「なんだなんだ」と集まってきていたのだ。「……同室? じゃあ、あなたが牧村さやかさん?」「そうだけど。なんか文句ある?」 仁王立ちで言い返すさやかに、珠莉は毒気を抜かれたらしい。というか、人前で悪目立ちしてしまったことが|格好《カッコ》悪かったらしい。
Last Updated : 2025-02-14 Read more