All Chapters of 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~: Chapter 181 - Chapter 190

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華麗なる一族? page17

****『拝啓、あしながおじさん。 お元気ですか? わたしは今日も元気です。 二学期の期末テストも無事終わって、わたしは今回も学年で三位になりました! 奨学生としてちゃんと勉強を頑張ってます。そして、作家としての活動も次のステップへ進もうとしてます。そのことはまた後で書きますね。 まず、おじさまにお礼を言わないと。小谷涼介君のこと、どうもありがとうございました。今日、秘書の久留島さんからお手紙が来てました。 リョウちゃんは静岡に住む優しいご夫婦に養子として迎えられて、しかも静岡のサッカー強豪校に推薦で進めるんですよね。おじさまが直接お願いしてくれたって、久留島さんからの手紙に書いてありました。 お子さんに恵まれなかったご夫婦ならきっとリョウちゃんのことを大事にして下さるだろうし、リョウちゃんも大好きなサッカーに打ち込めるし、わたしが望んだいちばん最高の形になって、わたしも嬉しいです。本当にありがとう、おじさま! さて、ここからが本題です。わたし、この度長編小説を書くことになりました! この小説は書き下ろし作品として刊行される予定です。もしかしたら短編集が先に刊行されるかもしれませんけど。 今日の午後、わたしの担当編集者さんが横浜まで来てくれて、このお話を打診してくれたんです。もちろんこれまでどおりに短編のお仕事もあって、その原稿料ももらえて、書籍が刊行されれば印税も入ります。題材もわたしに任せてもらえるそうです。 で、わたしが選んだ題材は「令和版・『華麗なる一族』」。セレブの一族で育ったけど家族や親せきと折り合いのつかない青年が、自分自身の手で自分の人生を切り開いていく、というストーリーにしようと思ってます。 このヒーロー像、誰かさんに似てると思いませんか? そう、純也さんがモデルなんです! 彼の生き方とかって、小説の題材に持って来いじゃないですか? ちょうど冬休みに珠莉ちゃんのお家でお世話になるし、純也さんも今年の冬は実家に帰るって言ってくれてるので、めくるめくセレブの世界について色々取材しようかな、って。 珠莉ちゃんも純也さんも、自分が生まれ育ったお家のこと好きじゃないみたい。ご両親の愛情を感じたことがほとんどないって言うんです。さやかちゃんはそのことを「親ガチャでハズレを引いた」って表現してます。おじさま、「親ガチャ」って言葉は知って
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page1

 ――そして、二学期終業式の日の午後。「さやかちゃん、治樹さんたちによろしくね。よいお年を!」「うん、ちゃんと伝えとくよ。愛美もよいお年を」「さやかさん、治樹さんに連絡を下さるようお伝え下さいな」「分かった。それも伝えとくから。っていうか珠莉、自分で伝えなよー」 双葉寮のエントランスで、愛美と珠莉はさやかと別れた。さやかは電車で埼玉の実家に帰るけれど、二人には珠莉の実家から迎えの車が来ることになっているのだ。「――あ、辺唐院さん。お迎えが来たみたいよ」 寮母の晴美さんが、玄関前に停まった一台の高級リムジンに気がついて珠莉に声をかけた。「あら、ホント。じゃあ愛美さん、行きましょうね」「うん」 運転席から降りてきたのは五十代~六十代くらいの穏やかそうな男の人で、珠莉の姿を認めると深々と彼女に頭を下げた。「――珠莉お嬢様、旦那様と奥様のお言いつけどおりお迎えに上がりました。……そちらのお嬢さんは?」「ありがとう、平(ひら)泉(いずみ)。彼女は相川愛美さん。私のお友達よ」「お嬢様のお友達でございましたか。これは失礼を致しました。わたくしは辺唐院家の執事兼運転手の平泉でございます。ささ、どうぞ後部座席にお乗り下さいませ」「あ……、ありがとうございます。失礼します」 愛美はちょっと緊張しながら、珠莉は悠然と車に乗り込んだ。(わぁ……、すごく豪華な車。施設で空想してたリムジンの中ってこんな風になってたんだ) 広々とした車内、ゆったりとした対面式のフカフカのシートは座り心地もバツグン。 あの頃空想して楽しんでいた「リムジンに乗るお嬢様」が、今目の前にいる珠莉と重なって見える。「……どうしましたの? 愛美さん」 まじまじと物珍しく眺めていたら、珠莉と目が合ってしまった。首を傾げられて、愛美はちょっと気まずくなった。「あ、ううん。施設にいた頃にね、ちょうど今みたいな状況を空想して遊んでたなぁって。珠莉ちゃん見てて思い出したの」
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page2

「あら、そうでしたの。愛美さんの空想好きは昔からでしたのね。ホント、作家になるために生まれてきたような人ね、あなたは」「珠莉ちゃん……、それって褒めてる? 貶(けな)してる?」 珠莉のコメントはどちらとも取れる言い方だったため、愛美は念のため確かめた。「もちろん褒めてるのよ。私は感心してるの。周りの意見に振り回されることなく自分のやりたいことに真っ直ぐなあなたが羨ましいのよ、私は」「珠莉ちゃん……。ねえ、お父さんとお母さんにモデルになる夢の話してなかったんだよね?」「ええ。話したところでどうせ反対されるのが目に見えてますもの」「そっか。じゃあこの際、純也さんがいる前で話してみるのは? わたしからも彼にお願いしてみるから。珠莉ちゃんの味方してくれるように」 愛美はここぞとばかりに珠莉を勇気づけた。〝あしながおじさん〟として愛美の夢を応援し、色々と尽力してくれている彼だ。多少なりとも自分の血を分けた姪の夢のためにも色々と根回しやバックアップをしてくれると思う。「純也叔父さまねぇ……。そりゃあ、叔父さまが味方について下されば私も心強いですけれど」「きっと大丈夫! 純也さんは夢のために努力してる人を絶対に見捨てないもん。わたしとかリョウちゃんの時みたいに」 心配そうに眉をひそめた珠莉の背中を、愛美は優しくポンポン叩いた。いつもはキリッとしていて自信満々に見える彼女も、こういう時は小さく弱々しく見える。「…………まぁ、お父さまはそれで折れて下さるかもしれないけれど。問題はお母さまの方なのよ。あとお祖母さまも。あの人たちは世間体と見栄だけで生きているようなところがあるから。『モデルになりたいなんて体(てい)裁(さい)が悪い』とか言われそうだわ」「体裁とか、そんなこと関係ないよね。珠莉ちゃんのお母さんって、そもそも我が子に関心なさそう。純也さんも言ってたけど」 千藤農園で一緒に過ごした夏休み、彼も自分の母親――珠莉の祖母だ――のことを同じように言っていて、愛美はすごく心を痛めたのだった。「純也叔父さまも……? そうね、お母さまとお祖母さまは似た者同士だったから、お祖母さまに気に入られたのかもしれないわ。お祖母さまが望まれるままにお父さまと結婚して、私を産んだ。でも私が女の子だったから、関心を無くされたのね。……結局、私も祖母や両親の望み通り、婿を迎え
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page3

「『自分の人生』……ね。そうかもしれないわ。たとえ親でも、個人の夢を理不尽に奪っていいはずがないもの。家のために自分のやりたいことを犠牲にするなんて、今の時代ナンセンスよね。――その園長先生、とてもいいことおっしゃったわ」「でしょ? その言葉にわたしもすごく勇気づけられたの。だから、純也さんに相談してみよう? わたしも一緒にお願いしてあげるから」「ええ、そうするわ。ありがとう、愛美さん。私、あなたを見直しましたわ」「うん、一緒に頑張ろ! ……でも珠莉ちゃん、『見直した』はないんじゃない? わたし今までどんな人だと思われてたの?」「あら失礼! 今のは失言でしたわね、ホホホホ」 憎まれ口が飛び出すあたり、珠莉はすっかり普段の彼女に戻ったようで、愛美はちょっとだけムッとしたけれど安心した。(よかった、この調子なら大丈夫そう)「――あのですね、珠莉お嬢様。先ほどのお話ですが」「なぁに、平泉?」 これまで運転に専念していた執事が、二人の会話に割り込んできた。「わたくしも純也坊っちゃまと同じく、珠莉お嬢様の味方でございますから。……旦那様と奥さまの手前、表立っては申し上げられませんが、そのことはぜひ憶えておいて頂きたく、僭越ながら口を挟ませて頂きました」「平泉、あなた……」 珠莉は目を丸くした。この執事もきっと両親に従順だから、彼らと同じく夢を反対しているのだと思っていたので、今の発言が意外だったからだろう。「平泉さん、いつも珠莉ちゃんのご両親の前では〝すん〟としてるんだよ。ホントは珠莉ちゃんの背中を押してあげたいのに、健気だよねー」 施設で育ち、自分の家がない愛美には使用人の苦労というものが想像できないけれど。小説家になった今、想像力を働かせることはできる。「〝すん〟っていうのはよく分らないけど……。つまり、本心を隠していたということね。あなたも苦労しているのねぇ……。知らなかったわ」「お気遣い、恐縮でございます。お嬢様はよいご友人に出会われましたね。高校にご入学される前よりお優しくなられました。――相川様、でございましたか」「あ、愛美でいいですよ、平泉さん」「では愛美様。先ほどの園長先生……でしたかのお言葉、わたくしも大変感服致しました。お嬢様のお話によれば、愛美様は施設のご出身であったことに少々コンプレックスを感じておられたとか。です
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page4

「ええ、すごくいいところです。園長先生も他の先生たちも、わたしたちのことを大事にして下さって。ただ優しいだけじゃなくて、社会に出てから困らないようにって、色んなこと教えて下さいました。ゴハンも美味しかったし、イベントごとも多かったし」「さようでございますか。きっとその施設の方たちは、園に暮らす子供たちを心から愛しておられるのでしょうね。旦那様と奥様にも見習って頂きとうございます」 彼の最後の言葉には、愛美にも分かるほどの怒りの感情が込められている。使用人にまでこんな言い方をされる辺唐院家ってどうなんだろう?「……ねえ珠莉ちゃん、もしかして珠莉ちゃんのお父さんとお母さんって夫婦仲悪かったりする?」「ええ。元々二人は政略結婚で、愛情なんてなかったの。だから夫婦なのに、お互いのことに興味がないのよ。私のあとに子供をつくらなかったのがその証拠ね。お母さまは私を産んだことで、ご自分の務めは終わったと思われたのよ」「へぇ…………」 それなのに、生まれたのは娘だった。元々義務だけで結婚した夫婦だから、跡継ぎにならない子(少なくとも辺唐院家では)には愛情を注げないのだ。「なんか……、やっぱり珠莉ちゃんのお家って変だよね。時代錯誤っていうか」「愛美さんもそう思うわよね。戦前じゃあるまいし、って」 愛美は珠莉の話を聞いていたら、これってホントに令和の話? と首を傾げたくなる。彼女の家だけ昭和――それも第二次大戦前で時間が止まっているような感じだ。「うん。だからこそ、余計に純也さんがリアルな今の時代の人だって思えるんだよね」「純也坊っちゃまは独自の価値観や考えをお持ちの方でございますから。当家では『それがおかしい』と思われておりますが、わたくしは坊っちゃまの考え方こそ今の時代にふさわしいと存じております。お嬢様方が先ほどおっしゃいましたように、純也坊っちゃまを『おかしい』と思われる旦那様や奥様、大奥様の方がおかしいのでございます。……や、これは失礼を! このことは他言無用に願います」「分かりました。わたしたちの胸の中だけに収めておきます。ね、珠莉ちゃん」 「ええ。あなたの名誉と、純也叔父さまのお立場のためにも、このことは私たち三人だけの秘密ということにしておきましょう」 愛美・珠莉・平泉さんの三人は、この場で紳士協定を結んだ。 ――リムジンは首都高速に乗り
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page5

「そうなんだ。純也さん、何だかんだで面倒見いいもんね。わたしも『連れてって』ってお願いしたら連れて行ってくれるかな」「あなたのお願いなら、純也叔父さまは何でも聞いてくれそうね。だってあなたは、叔父さまにとって特別な人だもの」「……そうかな?」「お嬢様、今のお言葉はどのような意味でございますか?」 平泉さんが首を突っ込んできたので、愛美と珠莉は顔を見合わせた。果たして、愛美と純也さんが恋人同士だという事実を彼に打ち明けていいものか――。「……あのね、平泉。愛美さんと純也叔父さまは……その」「わたし、夏から純也さんとお付き合いしてるんです。でも、他の人には言わないで下さいね?」「もちろんでございます、愛美様。わたくし、口は堅(か)とうございますので」「よかった……」 愛美はホッと胸を撫で下ろした。 まだ自分が辺唐院家の、純也さんと珠莉を除いた人々からどう見られるかも分からないのに、そのうえ純也さんの恋人だと知られたら……。 施設出身というだけで偏見に満ちた目で見られそうなのに、純也さんに財産目当てで近づいた他の女性たちと同じように思われたくない。自分は決してそうではないというプライドがあるから。「わたし、純也さんから聞いてます。彼が今までお付き合いしてた女性たちはみなさん、打算で彼に近づいた人ばっかりだったって。でも、わたしは違います。わたしは純也さんというひとりの男性を、心から好きになったんです」「さようでこざいますか。愛美様は純也坊っちゃまと……。坊っちゃまは女性を見る目がおありのようで、わたくしも安心致しました」「愛美さん、よかったわねぇ。純也叔父さまに見初められた女性で、この平泉のおメガネに叶ったのはあなたが初めてなのよ」「えっ、そうなの?」「ええ。平泉は我が家の使用人の中でもっとも古株でね、おじいさまの代から辺唐院家に仕えてくれているのよ。いざとなったらおばあさまや両親にガツンと言えるのは、この平泉くらいだわ。だから、味方についてくれたことは大きいわよ」「へぇ……、そうなんだ」 ここへ来て、愛美と純也さんの恋愛に心強い味方ができた。「――お嬢様、愛美様。間もなくお屋敷に到着致します」 リムジンはいつの間にか、高級住宅地である白金台(しろかねだい)を走っていた。周りには豪邸がズラリと建ち並んでいる。「うわー……、大きな
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page6

「ささ、到着致しました。どうぞ、足元にお気をつけてお降り下さいませ」「ありがとうございます」 ――平泉さんに後部座席のドアを外から開けてもらい、愛美と珠莉はリムジンを降りた。 外は寒かったので、二人ともすぐにコートを羽織る。「お荷物は、わたくしがお部屋までお運び致しますね」「はい、すみません。ありがとうございます。――あ、純也さんのクルマだ」 愛美はカーポートに、見憶えのあるSRV車が停まっていることに気がついた。あれは、夏に純也さんが長野の千藤農園まで運転してきていた車に間違いない。 高級外車がズラリと並んで停まっているカーポートの中で、この一台だけがかなり目立っている。「浮いている」と言った方が正しいだろうか。「あら、ホントね。あんなお車に乗られるのは純也叔父さまくらいだわ。……ああ、ごめんなさいね、愛美さん。悪気はなかったのよ」「ううん、気にしないで。ってことは、純也さんはもう帰ってきてるってことなのかな」「そのようね。じゃあ、私たちもお家に入りましょう。――あ、靴は履いたままでよろしくてよ。我が家は欧米スタイルだから」「へぇ……。うん、分かった」 日本にもそういう生活スタイルを取り入れたお家があるなんて、愛美は驚いた。茗倫女子大付属の寮もそのスタイルだけれど、一般家庭でそうなっているところは初めて知った。「――珠莉お嬢さま! お帰りなさいませ。お友達もご一緒でございますね。お嬢さまからご連絡を受けておりました」 玄関ホールに一歩足を踏み入れると、そこは愛美のまったく知らなかった世界だった。 床は大理石、天井には煌(きら)びやかなシャンデリア。おまけに、このスペースだけで愛美たちが今暮らしている〈双葉寮〉の三人部屋ほどの広さがある。 出迎えてくれたのは、五十代の初めくらいの家政婦さんだった。「ええ、ただいま。彼女が電話で伝えていた、相川愛美さん。同じ高校のお友だちよ」「は……っ、初めまして。相川愛美です。この冬休みの間、お世話になります」「愛美さま、よろしくお願い致します。私(わたくし)、この家の家事一切を取り仕切っております、家政婦の高月(たかつき)由(よし)乃(の)と申します。何かご要望がございましたら、何なりとお申し付け下さいませ。お部屋はお嬢さまのお部屋の隣にございます、ゲストルームをご用意させて頂いておりますの
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page7

   * * * *「――お父さま、お母さま、おばあさま。ただいま帰りました」 ここもまたバカみたいに広すぎるリビングで、珠莉が両親と祖母に帰省の挨拶をするのを、愛美はすぐ後ろで居心地悪く見ていた。(う~ん……、わたしがこの場にいるの、ものすごく場違いな気がするな……)「珠莉、おかえり」「おかえりなさい、珠莉」「珠莉ちゃん、おかえりなさい。今年はお友だちも一緒なのねぇ。あなたがお友だちをこの家に連れてきたのは初めてね」 最初に挨拶を返したのが辺唐院グループの現会長である珠莉の父、二番目に挨拶を返したツンケンした女性が珠莉の母――この人も子育ては使用人に任せっきりだったと珠莉から聞いていた――、そして最後に挨拶を返し、この三人の中では唯一愛美に関心を示してくれた高齢女性が珠莉の父方の祖母だろう。(珠莉ちゃん、おばあさまにはちゃんと可愛がってもらってるみたいだ)「ええ、紹介しますわ。私の高校での同級生でルームメイトの相川愛美さんです。愛美さんはこの秋に作家としてプロデビューなさったばかりですのよ」「あの、初めまして。相川愛美です。珠莉ちゃんとは一年生の頃から親しくさせて頂いてます。一応、作家としてデビューはしましたけど、まだまだ駆け出しで――」「愛美さん、とおっしゃったわね。あなたのご両親は何をなさってる方?」「はい……?」 一生懸命自己紹介をしているのに、それを途中で遮った珠莉の母から飛んできた質問はよりにもよって、愛美の両親の職業についてだった。(初対面の人に対して、それも娘の友だちに対してよ? 最初の質問がそれって、一体どういう神経してるの?) 愛美はムッとしたけれど、両親の生前の職業を知らなかったわけではない。それに、施設で育ったことを恥とも思ったことはないので、正直に話すことにした。「両親とも、山梨で小学校の教師をしていたそうです。でもわたしが物心つく前に亡くなって、わたしは中学卒業までは児童養護施設で育ちました」「施設でお育ちになったの。あら、それは可哀そうね」「こら、やめないか! 愛美さん、すまないね。ウチの珠莉と仲良くしてくれてありがとう」 愛美のことを哀(あわ)れんでいるのか、蔑(さげす)んでいるのか分からない口調で言う妻を、珠莉の父がたしなめた。「……いえ、どういたしまして」(お父さまの方が、お母さまより常
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page8

「――お義姉(ねえ)さん、またそうやって珠莉の友だちにマウントとって喜んでらっしゃるんですか。それ、性格の悪さが露見するんでやめた方がいいですよ」(……この声は、純也さん!) 愛美が振り向くと、そこにはダウンジャケットを着込んだ純也さんが立っていた。その中もハイネックのニットにブラックデニムというカジュアルスタイルらしい。 彼は手に何やら紙袋を提げている。中身はキレイにラッピングされた箱のようなものが二つ。「……純也さん。あなたはまたそんな、みっともない格好でこの家の敷居を跨いだというの?」「へぇー? 実家の敷居を跨ぐのに、いちいちドレスコードなんか必要なんですか」 兄嫁にイヤミを言われた純也さんは、イヤミで返した。彼の言うことは正論だ。 そして、愛美は知っている。彼の服装は一見カジュアルに見えて、身に着けているアイテム一つ一つはお金のかかったいいものばかりだということを。「それよりも俺は、お義姉さんの大人げない振る舞いこそみっともないと思いますけどね。ここにいる愛美ちゃんは施設の育ちですけど、だから何だって言うんですか? 彼女は自立心が強くて、頭もよくてしっかりした女の子ですよ。両親がいないから、施設で育ったからって、そうやって蔑むのは人としてどうなんですかね」 純也さんはここで、愛美の味方だという自分の立ち位置をハッキリと示してくれた。「……なっ!? 何ですって!?」「俺の言ったこと、何か間違ってますか? 申し訳ないですけど俺は、母さんやお義姉さんに味方するつもりはありませんから。兄さんも兄さんだよ。お義姉さんの暴走は兄さんにも責任あるんだからな」(……スゴい、純也さん。こんなに正面切って、自分の身内にケンカ売ってる……) 愛美はただただ、彼の堂々たる振る舞いに圧倒された。しかも彼は、「いざとなったら愛美の盾になる」という約束をちゃんと守ってくれた。「これ以上彼女のことを悪く言ったら、俺はこの家と縁を切りますから。じゃ、俺はこれで。――愛美ちゃん、珠莉、上に行こう」「はっ、ハイっ!」「え、ええ……」 愛美と珠莉は純也さんな後ろについて、二階へと続く立派な螺旋階段を上がっていく。
last updateLast Updated : 2025-02-17
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冬休みin東京 page9

「あ……純也さん、こんにちは。今帰ってきたの? 車が停まってたのに姿が見えなかったから」「うん、まあね。ホントは少し前に着いてたんだけど。ちょっと近くのパティスリーへ買い物に出てたんだ」 愛美がこわごわ話しかけると、彼は先ほどの剣幕はどこへやら、いつものにこやかな顔に戻って答えてくれた。 そして、持っていた紙袋からキレイな包装紙に包まれた箱を一つずつ、愛美と珠莉に手渡してくれた。「これ、愛美ちゃんと珠莉に、俺からのクリスマスプレゼント♪ 中身はその店特製の、焼き菓子のセットだよ」「わぁ……、ありがとう!」「叔父さま、ありがとうございます」 たとえ消えものでも、大好きな人からのプレゼントは愛美にとってものすごく嬉しかった。「あと、さっきはわたしの代わりに言いたいこと全部言ってくれて、それもありがと」 もし、あそこで純也さんが現れなかったら、愛美が自分で珠莉の母親に食ってかかっていただろうけど。そして多分、言わなくてもいいことまで言って自分の立場を余計に悪くしていただろう。「まあ、約束したからね。でも、あの連中にはあれでもまだ言い足りないくらいだよ。大切な人のことを値踏みするみたいに言われて、俺も相当頭に来てたから」「そっか……。嬉しい!」(わたしが感じた怒りを、純也さんも同じように感じてくれたんだ……。やっぱり、恋愛っていいな)「愛美ちゃん、この家にいる間、また誰かに何か言われたら何でも俺に言えよ? 俺はそのために、今回帰ってきたんだから」「うん」「珠莉もな。俺はこの家の中では唯一、お前の味方でいるつもりだから。愛美ちゃんのことだけじゃなくて、お前が何か悩んでるならちゃんと話聞いてやるから」「ええ。叔父さま、ありがとう」 純也さんは愛美の恋人としてだけでなく、珠莉の叔父としても優しい。そんなところに、愛美はまた喜びを感じたのだった。   * * * *  ――夕方六時から始まるクリスマスパーティーの支度があるため、愛美と珠莉は純也さんと一旦別れた。「愛美さん、後でお着替えを済ませたら私の部屋にいらっしゃいよ。簡単なヘアメイクくらいは私がして差し上げてよ」「えっ、いいの? ありがと。じゃあ、部屋で着替えたら行くね」 珠莉とも別れた愛美は、ゲストルームへ足を踏み入れる。「…………わぁ……、広~~い!」 何か気の利いた感想を
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