「そうですよね……。お嬢さまって大変なんだなぁ。――じゃあ先生、失礼します」 愛美は上村先生に挨拶をして、スクールバッグを提げて寮までの道を急いだ。――要するに、お腹がグーグー鳴っていたのだ。「あ~、お腹すいたぁ。今日のお昼って何だっけ」 〈双葉寮〉の食堂のメニューは、朝昼夕とそれぞれ日替わりなのだ。好きなメニューが当たった日はハッピーだけれど、キライなものや苦手なメニューが出た日は一日ブルーでたまらなくなる。 ……と、昼食メニューのことに意識を飛ばしながら早足で歩いていた愛美のスカートのポケットで、マナーモードにしていたスマホが振動した。「……電話? 知らない番号だなぁ。誰からだろ?」 ディスプレイに表示されているのは、まったく見覚えのない携帯の番号。愛美は首を傾げながら、通話ボタンを押した。「もしもし? 相川ですけど、どちらさまですか?」『恐れ入りますが、相川愛美さまの携帯でお間違いないでしょうか』 聞こえてきたのは、穏やかな初老と思しき男性の声。「はい、そうですけど。……あの」『失礼。申し遅れました。私(わたくし)、田中太郎氏の秘書を務めております、久留島栄吉と申します』「久留島さん? ……ああ、あなたが! いつも何かとお気遣い頂いてありがとうございます」 まさか、〝あしながおじさん〟の秘書から電話がかかってくるなんて……! 普段から何かとお世話になっているので、愛美はまず彼にお礼を言った。『いえいえ。私はただ、ボスの言いつけに従って自分の務めを果たしているだけですので』「……そうですか」(なんか腰の低い人だなぁ。「ボス」なんて、おじさまの方がこの人より絶対若いのに。よっぽど慕ってるんだ) 〝ボス〟という言い方にも、彼の雇い主への愛情というか、信愛が感じられる。『――ところで愛美お嬢さん、奨学金の申請書についてですが。私のボスがキチンと記入・捺印して学校の事務局に送り返したことは、もうお聞きになっていますか?』「はい、今さっき伺いました」『さようでございますか。では、お嬢さんの大学進学にも賛成だということは?』 そのことは、上村先生からは何も聞いていない。「いえ、それは伺ってませんけど。なんか意外だったんで、ちょっと驚きました」『意外、とおっしゃいますのは?』「わたし、田中さんに反対されると思ってたんです。奨学
Last Updated : 2025-02-15 Read more