All Chapters of 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~: Chapter 121 - Chapter 130

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ホタルに願いを込めて…… page6

「そうですよね……。お嬢さまって大変なんだなぁ。――じゃあ先生、失礼します」 愛美は上村先生に挨拶をして、スクールバッグを提げて寮までの道を急いだ。――要するに、お腹がグーグー鳴っていたのだ。「あ~、お腹すいたぁ。今日のお昼って何だっけ」 〈双葉寮〉の食堂のメニューは、朝昼夕とそれぞれ日替わりなのだ。好きなメニューが当たった日はハッピーだけれど、キライなものや苦手なメニューが出た日は一日ブルーでたまらなくなる。 ……と、昼食メニューのことに意識を飛ばしながら早足で歩いていた愛美のスカートのポケットで、マナーモードにしていたスマホが振動した。「……電話? 知らない番号だなぁ。誰からだろ?」 ディスプレイに表示されているのは、まったく見覚えのない携帯の番号。愛美は首を傾げながら、通話ボタンを押した。「もしもし? 相川ですけど、どちらさまですか?」『恐れ入りますが、相川愛美さまの携帯でお間違いないでしょうか』 聞こえてきたのは、穏やかな初老と思しき男性の声。「はい、そうですけど。……あの」『失礼。申し遅れました。私(わたくし)、田中太郎氏の秘書を務めております、久留島栄吉と申します』「久留島さん? ……ああ、あなたが! いつも何かとお気遣い頂いてありがとうございます」 まさか、〝あしながおじさん〟の秘書から電話がかかってくるなんて……! 普段から何かとお世話になっているので、愛美はまず彼にお礼を言った。『いえいえ。私はただ、ボスの言いつけに従って自分の務めを果たしているだけですので』「……そうですか」(なんか腰の低い人だなぁ。「ボス」なんて、おじさまの方がこの人より絶対若いのに。よっぽど慕ってるんだ) 〝ボス〟という言い方にも、彼の雇い主への愛情というか、信愛が感じられる。『――ところで愛美お嬢さん、奨学金の申請書についてですが。私のボスがキチンと記入・捺印して学校の事務局に送り返したことは、もうお聞きになっていますか?』「はい、今さっき伺いました」『さようでございますか。では、お嬢さんの大学進学にも賛成だということは?』 そのことは、上村先生からは何も聞いていない。「いえ、それは伺ってませんけど。なんか意外だったんで、ちょっと驚きました」『意外、とおっしゃいますのは?』「わたし、田中さんに反対されると思ってたんです。奨学
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page7

『いえいえ、そんなことはございませんよ。ボスの一番の望みは、お嬢さんが有意義で充実した学校生活を送られることなんです。奨学金がその役に立つなら、ボスに反対する理由はございません』「はい……」『大学へお進みになることもそうでございますよ。お嬢さんが本気で小説家を目指しておいでなのでしたら、ぜひ大学へも進まれるべきだとボスは申しておりました。学費を出す必要がなくなっても、できることは何でもするから、と』「そうですか。――あの、わたし、奨学金で学費が要らなくなっても、毎月のお小遣いは頂くつもりでいるので」 奨学金で学費や寮費は賄われても、個人的に必要な細々した生活費などまでは面倒を見てくれない。 愛美だって今時の女子高生なのだ。欲しいものもそれなりにあるし、趣味に使うお金も必要になる。そうなるとやっぱり、お小遣いは必要不可欠だ。『さようでございますか! では、ボスにそのように伝えますね。――ところでですね、もうすぐ夏休みでございますが、今年はいかがなさいますか?』「ああ、それならもう決まってますよ。今年も、長野の千藤農園さんにお世話になろうと思ってます」『かしこまりました。では、そのようにこちらで手配しておきます。どうぞ、楽しい夏休みをお過ごし下さい』「ありがとうございます。……あの、一つお訊きしたいことがあるんですけど」『はい、何でございましょうか?』 愛美にはずっと気になっていることがあった。自分に好きな人ができたことについて、〝あしながおじさん〟はどう思っているんだろう? と。「わたし今、好きな人がいるんですけど。そのことで、田中さんはあなたに何かおっしゃってましたか? グチでも何でもいいんですけど」 世の中の父親は、娘に彼氏ができることが面白くないらしいと聞いたことがあった。 〝あしながおじさん〟はいわば、愛美の父親代わりである。やっぱり、娘のような愛美に好きな男がいることは面白くないのだろうか?『いいえ、特には何も申しておりませんでしたが。なぜでしょう?』「わたしからの手紙、このごろその人のことばっかり書いてるので……。田中さんが呆れてらっしゃるかな……と思って」 ここ一年近く、特にこの数ヶ月の手紙は、もうほとんどが純也さんについての内容で埋め尽くされていた。愛美自身、ノロケっぱなしで胃もたれしそうなくらいなのだ。 すると、
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ホタルに願いを込めて…… page8

(おじさま、わたしに好きな人がいることが嬉しいなんて……。どうしてだろう?) 純也さんが自分の知り合いで、信頼できる人だから? それとも――。「まさか、本人だから……?」 そういえば、『あしながおじさん』ではジュディの好きな人と〝あしながおじさん〟が同一人物だった。――でも、いくら何でもそこまで同じだと考えるのはベタすぎる。「……なワケないか。行こ」 一人で納得して呟き、愛美はスマホをポケットにしまって、食堂に向けてまた歩き出した。   * * * *「――愛美ー、こっちこっち!」 食堂に着くと、奥の方のテーブルからさやかが手を振ってくれた。もちろん、珠莉も一緒である。 ちなみに、今日の昼食メニューはチキンカツレツとサラダ、そして冷製ポタージュスープだ。チキンカツレツにはトマトベースのソースがかかっている。「ゴメンね、遅くなっちゃって」「いや、別にいいんだけどさ。どしたの? っていうかなんで制服?」 愛美が謝りながらテーブルに着くと、さやかは怒っている様子もなく、彼女が遅れて来た理由を聞きたがった。 愛美は食事をしながら、それを話し始める。「ん、このチキンカツレツ美味しい! ――教室を出ようとしたら、上村先生に呼び止められて。奨学金申請の手続きが無事終わった、って。――あとね、スマホにおじさまの秘書さんから電話がかかってきたの」「秘書さんから? どんな用件で?」「書類がちゃんと着いたかどうかの確認と、今年の夏休みはどうしますか、って。わたしは今年も去年とおんなじように、長野の農園でお世話になるつもりだって答えたよ。今年は純也さんも来てくれるみたいだし」 さやかも昼食に手を付け始めた。ゴハンよりも先に、愛美が絶賛したチキンカツレツに箸が伸びる。「あ、ホントだ。コレ美味しい! ――そっか。もしかしたら、告白するチャンスかもしんないもんね。頑張れ、愛美」「うん。ありがとね、さやかちゃん。……ところで、珠莉ちゃんはなんであんなに不機嫌なの?」 愛美とさやかがおしゃべりに盛り上がる中、珠莉は不気味なくらい静かだ。「さあ? っていうか珠莉、チキンあんまり食べてないじゃん。サラダも」 見れば、珠莉はゴハンとスープばかりを口にしている。サラダも、トマトはのけてレタスとキュウリしか減っていない。「珠莉ちゃん、食欲ないの?」「そんなんじ
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page9

「知らなかったなぁ、珠莉がトマト苦手だったなんて。……で、何の話だっけ?」 さやかが珠莉の背中を目で追いながら、しみじみと呟いた。 三人の付き合いはもう一年以上になるけれど、まだまだ知らないことがたくさんあるもので。愛美も頷いた。「夏休み、わたしは純也さんに告白するチャンスかもって話。――ちなみに制服なのは、午後から部活に出るから」「あ、ナルホドね。だからカバン持ってきてるんだ。部屋に寄らずに直で来たワケね」「うん。……あ、珠莉ちゃん戻ってきた」 珠莉はタルタルソースがかかったチキンカツレツのお皿を手にして、嬉しそうなホクホク顔でテーブルに戻ってきた。「お待たせしましたわ~~♪ こちらの方がカロリーは高そうですけど、まあいいでしよ」 そう言いながら、コッテリしたタルタルソースがけのお肉を美味しそうに食べ始める。「……よっぽど苦手なんだね、トマト」「トマトのソースの方が、絶対サッパリして食べやすいだろうにね」 愛美とさやかは、珠莉に聞こえないように囁きあった。「――ところで、二人は今日、部活は?」 愛美が訊ねる。さやかも珠莉も、すでに制服から着替えている。「あたしも午後から部活だよ。でもまあ、部屋でスポーツウェアに着替えて直行できるから」「茶道部は今日、お休みですの」「そうなんだ」 どうりで、珠莉がのんびりしているわけだ。愛美は納得した。「でもさぁ、あたしはやっぱ夏休み返上で寮に居残り決定だよ。インハイの予選、順調に勝ち残ってるから。嬉しいんだけど、今年は家族でキャンプ行けない……」 さやかは「はぁ~~」と大きなため息をついて、その場でうなだれた。「しょうがないよ。部活の方が大事だもん。わたし、長野から応援するよ!」「愛美さん、今年の夏も長野にいらっしゃるんですの? ……ああ。そういえば、純也叔父さまも行かれるんでしたわね」「うん、そうなの。だから楽しみで仕方ないんだ♪ ――珠莉ちゃんはどうするの? 夏休み」「どうせ、また海外でしょ? 今度はどこよ」 少々やさぐれ気味に、さやかが言う。「今年はグアムに。……でも私は、できれば日本に残りたいんだけど」「どうして?」 愛美が首を傾げると、珠莉はたちまち耳まで真っ赤になった。「べっ……、別にいいでしょう!? 私だって、たまには日本でのんびりしたい――」「あ~~~~~
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page10

「ああ、やっぱりそうなんだ」「愛美、何か知ってんの?」 どうやら気づいていなかったのはさやかだけのようで、彼女は愛美に詰め寄った。「うん、……多分。珠莉ちゃん、間違ってたらゴメンね。その好きな人って、もしかして治樹さん?」「えっ、ウチのお兄ちゃん? まっさかぁ! そんなワケ……」「……そうよ、愛美さん」 その一言に、さやかが雄(お)叫(たけ)びを上げた。「ええええええええ~~~~っ!?」 愛美と珠莉は、思わずのけ反る。「……もしかしてさやかちゃん、気づいてなかったの? わたしですら気づいてたのに」「うん、全然。だって、まさかお兄ちゃんなんて……。ねえ珠莉、いつから?」「五月に、原宿でお会いした時からよ。あの時からずっと気になっていて……」「その時は〝恋〟って気づかなかったんだ? わたしもおんなじだったから分かるよ。初恋なんでしょ?」 愛美も初恋だから、一年前は自分では恋に気づかなかったのだ。さやかに言われて初めて、「これが恋なんだ」と分かった。 きっと、今の珠莉も同じなんだと思う。「私もまさか、高校生になってから初めて恋をするなんて思ってもみませんでしたわ。今までにも男性と知り合う機会はありましたけど、治樹さんはその誰とも違ってましたの」(……あ。わたしが純也さんに言われたこととおんなじだ) 愛美は思った。セレブの人たちって、一体どんな異性と知り合うんだろう? と。 みんながみんなお金目当てとか、打算で近づいてくるような人ばかりだったら、恋なんてできるわけがない。 したところで、本気で自分を好きになってくれない人を好きになったって虚しいだけだし……。「お兄ちゃん……ねぇ。言っちゃ悪いけど、あんまりオススメできないよ? 可愛い女の子には目がないし、愛美だってターゲットにされたもん。秒でフラれたけど」 兄の性格を知り尽くしている妹としては、さやかも珠莉と兄がくっつくことをあまりよくは思っていないらしい。 それは兄のためではなく、珠莉があの兄のせいで泣くところを見たくないという、友情に基づいての忠告だったのだけれど。「あら! でも、少なくともあの人には打算っていうものはないでしょう? それに、好きになった女性のことは絶対に大事にする方なんでしょう? でしたら何の問題もありませんわ」「う……、まぁ。お兄ちゃんはそういう人だけ
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page11

「――ところでさ、愛美。ここでのんびり喋ってていいの? もうゴハンは食べ終わってるみたいだけど、午後から部活じゃなかったっけ?」「えっ? ……わ、もうすぐ一時!? ごちそうさまでした! わたし、もう行くねっ!」 愛美はイの一番に部室へ行って、文芸コンテストに応募する短編小説の構想を何作分か練っておくつもりだったのだ。「さやかちゃんは、まだ行かなくていいの? 部活出るんじゃ……」  自分の食器を片付け、スクールバッグを取り上げて食堂を出ていこうとした愛美は、ふと思い出した。「うん、あたしはまだいいの。部活は二時からだから」「そっか。今日も暑いから気をつけてね。じゃあお先に!」   * * * * ――愛美は来た道を引き返し、文芸部の部室へ。「あ、愛美先輩! こんにちは」 部室内には、すでに一年生の部員が一人来ていた。彼女は大きな机の前に座り、資料として置いてある小説を読んでいたけれど、愛美に気づくと立ち上がって頭をペコリと下げた。「こんにちは。あらら、一番乗りはわたしじゃなかったかぁ。残念」「でも、先輩だって二番目に早かったですよ。私はこの秋の部主催のコンテストに向けて、作品の構想を練ろうと思って」「へえ、そうなんだ? わたしもなの。でもね、わたしは雑誌の文芸コンテストに応募するつもりなんだよ」 部活動に熱心なのは、この後輩も同じらしい。もちろん張り合いたいわけではないので、愛美はあくまで控えめに彼女に言った。「スゴいなぁ。先輩、公募目指してるんですか? 志が高くて羨ましいです」「別に、そんなことないと思うけどな。小説家になるのが、わたしの小さい頃からの夢だったから」「いえいえ、ますますスゴいですよ! もしかしたら、この部から現役でプロの作家が誕生するかもしれないってことですよね?」「……こらこら。おだてても何も出ないよ、絵(え)梨(り)奈(な)ちゃん」 和田(わだ)原(はら)絵梨奈。――これが彼女の名前である。 絵梨奈は愛美と同じ日に入部した女の子で、新入部員の中では愛美のことを一番慕ってくれている。「じゃあ、絵梨奈ちゃんは自分のことに集中して。わたしも何か参考資料探そうかな……」「はーい☆」 絵梨奈がまた本に意識を戻したのを見届けて、愛美も本棚を物色し始めた。      * * * * ――その日部室で、四作ほ
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page12

「愛美さん、それを飲んだらお着替えなさいよ」「うん、そうする」 やっぱり、部屋に帰ってきてから制服のままでいるのは落ち着かない。 ――着替え終えた愛美は、再び共有スペースの椅子に座り直した。「部活はどうでしたの? 何かいいアイデアが浮かびまして?」「えっとねぇ、とりあえず四作くらいのプロットが浮かんだよ。一応、全部小説として書いてみて、その中から応募する作品を選ぶつもり。今回はパソコンで原稿書くよ」 雑誌の公募となると、どのジャンルが受賞しやすいかどうか、傾向を見極める必要があるのだ。「そっか。じゃあ、その前に誰かに一通り読んでもらって、その人の意見とか感想も参考にした方がいいよね」「でしたら、純也叔父さまに読んで頂いたらどうかしら? 叔父さまの批評は的確ですから。ただし、少々辛口ですけど」「えぇ~~? それはちょっとコワいなぁ……」 愛美はちょっと困った。自分が一生懸命書いた小説を、大好きな人からけちょんけちょんに言われるとヘコむ。「まあ、そんなにおびえないで。よほどヒドい作品じゃなければ、叔父さまだってそんなに厳しいことはおっしゃらないと思いますわ」「……そう? 分かった」 自分のメンタルの弱さは十分自覚しているので、愛美はあまり自信がないながらも頷く。(コレで全部「ボツ!」とか言われたら、わたし多分立ち直れない……。ううん、大丈夫!) それでも、どれか一作くらいは純也さんのお眼鏡にかなう作品があると思うので、全滅の可能性を愛美は打ち消した。「――あ、そういえばわたし、今月に入ってからおじさまに手紙出してないや」 前に手紙を出したのは、上村先生から奨学金の申請を勧められた時。あの時はまだ六月だった。「今日は秘書さんからの電話もあったことだし、夏休みの予定も多分まだ伝えてないから。そろそろ書かないと」 先月の手紙では、奨学金のことを伝えるのに精一杯だった。あの時はまだ、純也さんに電話する前だったし……。「そうだよね。ちゃんと知らせて、おじさまを安心させてあげないとね。――珠莉、あたしたちはちょっと外そう。コンビニ行くから付き合って。あたし、洗顔フォームが切れてたの思い出したんだ」 この寮の中には、お菓子などの食品・ドリンク類からちょっとした文房具や日用品、雑誌まで揃うコンビニもあるのだ。「ええ? ……まあいいわ。私は特
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page13

****『拝啓、あしながおじさん。 今日のお昼、おじさまの秘書の久留島さんからお電話を頂きました。 久留島さんは、おじさまがわたしの奨学金のことも、大学に進むことも反対されてないとおっしゃってました。わたし、何だか信じられなくて……。 だってわたし、おじさまは反対するものだと思ってたんです。おじさまからの学費はいらない、でも大学には行きたいなんて、わたしのワガママかもって。そんなのスジが通らないから。 でも、おじさまはそのワガママを聞き入れて下さったってことですよね?  あのね、おじさま。久留島さんにもお伝えしましたけど、わたしは奨学金を受けられることになってからも、毎月のお小遣いだけは変わらずに頂くつもりでいます。これなら一応、おじさまのメンツは保てるでしょう? そしてできれば、大学に入ってからはお小遣いも増額して頂けないかと……。 あ、そうだ。おじさま、わたし、今年の夏休みも千藤さんの農園で過ごすことに決めました。 というのも、今年の夏には純也さんも休暇を取られて、農園に来られるそうなんです。彼と一緒に過ごせるのが楽しみで! いつごろ来られるのかはまだ分かってないんですけど、また連絡を下さるそうです。 そして、わたしはこの夏、ある文芸誌のコンテストに挑むべく、四作の短編小説を書くことに決めました。それぞれジャンルも、文体も、世界観も違う四作です。もうプロットはできてます。 そして四作全部書きあがったら、純也さんに読んで頂いて、どの作品を応募するべきかアドバイスを頂こうと思ってます。珠莉ちゃんが「純也叔父さまの批評は辛口だ」って言ってたので、わたしはちょっとおびえてます。でも、きっとどれか一作くらいは彼のお眼鏡にかなう作品が書けると思うので、まずは自分の文才を信じようと思います。 珠莉ちゃんは今年の夏はグアムに行くそうですけど、本人は日本に残りたいみたい。どうも、好きな人ができたらしくて。それが誰かなんて、わたしからはお話しできませんけど。 さやかちゃんは所属する陸上部がインターハイ予選を順調に勝ち進んでるので、今年は夏休み返上で練習。ということで寮に残ることになりました。  さやかちゃんはすごくガッカリしてましたけど、わたしは部活を一生懸命頑張ってるさやかちゃんが大好きです。だから、遠く離れた長野から応援しようって決めました。 最後
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page14

 ――そして、いよいよ七月二十日。今日から夏休みが始まる。「じゃあさやかちゃん、わたしたちもう行くから。部活頑張ってね☆」 愛美は横浜駅まで、珠莉と一緒に行くことになっている。「うん、頑張るよ。どこまで進めるか分かんないけどね。……あ、愛美の恋の進展具合も教えてよ」「……もう! さやかちゃんシュミ悪いよぉ。――分かった。ちゃんと教えるよ」 女の子同士の友情なんて、こんなものじゃないだろうか。からかわれても、やっぱり親友には恋バナを聞いてほしいものなのだ。「ところで愛美さん。荷物はそれだけですの?」 珠莉は愛美の荷物がスーツケースとスポーツバッグ、それぞれ一つずつしかないことに首を傾げた。 一年前にはこの他に、段ボール箱三つ分の荷物がドッサリあったというのに。「うん。大きな荷物は先に送っといたの。去年より一箱少ないけどね」 千藤農園にお世話になるのも、今年で二度目。先に荷物が届けば、向こうもあとは愛美本人の到着を待てばいいだけ、ということだ。「そうでしたの? じゃあ、そろそろ参りましょうか」「うん。――さやかちゃん、行ってきま~す!」「行ってら~~! 二人とも、気をつけて。楽しんどいで!」「「は~い☆」」 ――愛美と珠莉の二人は、まず地下鉄で新横浜駅まで出た。 その車内で、愛美は多分初めて珠莉と二人、ゆっくり話す機会に恵まれた。「そういえば、初めて会った時から思ってたけど。珠莉ちゃんって肌白いよねー」「まぁね。私、今まで話したことありませんでしたけど、実はモデルになりたいと思ってますの。そのためにスタイル維持だけじゃなく、美白にも気を遣ってますのよ」 愛美は彼女の夢を始めて聞いた。でも、スラリと背が高く、スタイルもいい珠莉らしい夢だと思う。「へえー、そうだったんだ。珠莉ちゃんならなれるよ、きっと。でも、グアムに行ったら焼けちゃうんじゃない?」「ええ、そうなのよ。私がグアムとか南国に行きたくないのは、それも理由の一つなの。あれだけ日差しが強いと、日焼け止めなんていくらあっても足りないもの」「そうだよね……。でも、今回行きたくない理由はそれだけじゃないもんね?」「ええ。治樹さんも東京にお住まいだってお聞きしてるし、東京にいれば街でバッタリ会うこともあるかもしれないでしょう? でも……、海外に行ってしまったら、帰国するまでは絶
last updateLast Updated : 2025-02-15
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ホタルに願いを込めて…… page15

「珠莉ちゃん、そんなに落ち込まないで。早めに日本に帰ってこられたら、治樹さんに会うチャンスもあるかもしれないから。ねっ?」「……そうですわね。落ち込んでいても、何も始まりませんわね」 愛美の一言で、暗かった珠莉の表情は見る見るうちに明るさを取り戻していく。「ところで、お肌が白いっていえば愛美さん、あなたもじゃなくて?」「うん、そうなの。わたし、小さい頃から全然焼けなくて。元々そういう体質なのかなぁ? 去年夏も、外でいっぱい農作業とか手伝ってたのに日焼けしなかったんだよ。わたしはこんがり小麦色に日焼けする子たちが羨ましくて仕方なかったなぁ」「まぁ、そうね。長野はあまり日差しが強い地域でもないし、あなたがお育ちになった山梨もそうでしょう? 育った環境にもよるんじゃないかしらね」「なるほど……、そうかも」 愛美は納得した。もし生まれ育ったのが沖縄(おきなわ)みたいな南国だったり、ビルの照り返しの強い都会だったら、もっと日焼けしやすい体質になっていたかもしれない。「でもね、愛美さん。私たちくらいの年齢になると、あまり日焼けはしない方がよくてよ。シミやそばかすの原因になりますもの」「そうだよね。実はわたしも、去年おんなじこと考えてたんだ」 年頃の女の子にとって――特に恋するオトメにとっては、日焼けはお肌の大敵なのだ。愛美だって珠莉だって、好きな人のためにもキレイなお肌を保ちたいのは同じ。 ――二人がそんな会話をしている間に、「次は新横浜」という車内アナウンスが聞こえてきた。「――あ、次だね。珠莉ちゃん、降りよう」   * * * * ――JR新横浜駅で成田空港に向かう珠莉と別れ、愛美は去年と同じように新幹線の車上の人になっていた。 去年はサンドイッチで昼食を済ませたけれど、今年はお財布の中身に余裕があるため、乗り換えのために降りた東京駅でちょっと高い駅弁を買って北陸新幹線の車内で食べた。 その車内で、愛美は純也さんに、スマホから一通のメッセージを送信した。『わたしは今、新幹線で長野の千藤農園に向かってます。 純也さんはいつごろ来られそうですか? 連絡お待ちしてます☆』    * * * * ――JR長野駅の前には、一年前と同じように千藤農園の主人(名前は善三(ぜんぞう)さんという)が車で迎えに来てくれていた。もちろん、助手席には多恵さ
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