All Chapters of 拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~: Chapter 101 - Chapter 110

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恋する表参道 page10

 ――四人で仲良くオレンジジュースを飲みほした後、お目当ての演目が上演されるシアターに入り、座席に座った。「この作品は、過去に何回も再演されてる人気作でね。なかなかチケットが買えないことでも有名なんだ」「まさか純也さん、お金にもの言わせてチケット手に入れたんじゃ……?」「さやかちゃん! 純也さんはそんなことする人じゃないよ。そういうこと、一番嫌う人なんだから。ね、純也さん?」 お金持ち特権を濫用(らんよう)したんじゃないかと言うさやかを、愛美が小さな声でたしなめた。「もちろん、そんなことするワケないさ。ちゃんと正規のルートで買ったともさ」「ええ。叔父さまはウソがつけない人だもの、信じていいと思いますわ」「……分かった。姪のアンタがそう言うんなら」 ブーツ ……。「――あ、始まるよ」 愛美は初めて観るミュージカルにワクワクした。舞台上で繰り広げられるお芝居、歌、音楽。そして、キラキラした舞台装置……。 カーテンコールの時にはもう感動して、笑顔で大きな拍手を送っていた――。    * * * *「――さっきの舞台、スゴかったねー」 終演後、劇場の外に出た愛美は、一緒に歩いていたさやかとミュージカル鑑賞の感想を話していた。 珠莉はと言うと、愛美たちに聞こえないくらいのヒソヒソ声で、何やら叔父の純也さんと打ち合わせ中の様子。「うん。あたし、あの作品の原作読んだことあるけど、ああいう解釈もあるんだなぁって思った。やっぱり、ナマの演技は迫力違うよね」「原作あるんだ? わたし、読んだことないなぁ。この後買って帰ろうかな」 今日の舞台の原作は、偶然にも愛美が好きな作家の書いた長編小説らしい。――もしかしたら、純也さんはそれが理由でこの舞台に誘ったのかもしれない。(……なんてね。そう考えるのはちょっと都合よすぎかな)「――さて、お買いものタイムと参りましょうか」 いつの間にか、純也さんたちも二人に追いついていて、珠莉がやたら張り切って声を上げた。 お買いものといえば、毎回テンションが変わるのが彼女なのだ。お金に不自由していないせいか、根っからのショッピング狂のようである。「ハイハ~イ☆ とりあえず、古着屋さん回ってみる?」 とはいえ、さやかもショッピングはキライじゃないので、愛美が気(き)後(おく)れしない提案をしてくれた。「うん!
last updateLast Updated : 2025-02-14
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恋する表参道 page11

「じゃあみなさん、参りますわよ!」「おいおい。まさか珠莉、俺を荷物持ちでこき使うつもりじゃないだろうな?」 姪のあまりの張り切りように、この中で唯一の男性である純也さんがげんなりして訊ねる。「あら、私がそんなこと、叔父さまにさせると思って? ――ちょっとお耳を拝借します」 珠莉が叔父に歩み寄り、何やらゴショゴショと耳打ちし始めた。純也さんも「うん、うん」としきりに頷いている。(……? あの二人、何の相談してるんだろ?) 愛美は首を傾げる。思えばここ数週間、珠莉の様子がヘンだ。今日だってそう。何だかずっと、純也さんと二人でコソコソしている。「愛美、どしたの? ほら行くよ」「あ……、うん」 ――かくして、四人は竹下通りから表参道までを巡り、ショッピングを楽しんだ。……いや、楽しんでいたのは女子三人だけで、純也さんはほとんど何も買っていなかったけれど。「ふぅ……。いっぱい買っちゃったねー」 愛美も数軒の古着店を回り、夏物のワンピースやカットソー・スカートにデニムパンツ・スニーカーやサンダルなどを買いまくっていた。でもすべて中古品なので、新品を買うよりも格安で済んだ。  さやかも同じくらいの買いものをして、二人はすでに満足していたのだけれど……。「まだまだよ! 次はあそこのセレクトショップへ参りますわよ」 それ以上にドッサリ買いまくって、もう両手にいっぱいの荷物を持ち、それでも間に合わないので純也さんにまで紙袋を持たせている珠莉が、まだ買う気でいる。「「え~~~~~~~~っ!?」」 これには愛美とさやか、二人揃ってブーイングした。純也さんもウンザリ顔をしている。
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恋する表参道 page12

「アンタ、まだ買うつもり!? いい加減にしなよぉ」「そうだよ。もうやめとけって」「わたしはいいよ。こんな高そうなお店、入る勇気ないし」「いいえ! さやかさん、参りましょう!」「え~~~~? あたし、ブランドものなんか興味ない――」 珠莉は迷惑がっているさやかをムリヤリ引っぱっていく。そしてなぜか、そのまま彼女にも耳打ちした。「ふんふん。な~る☆ オッケー、そういうことなら協力しましょ」(……? なに?) 事態がうまく呑み込めない愛美に、さやかがウィンクした。「じゃあ、あたしたち二人だけで行ってくるから。愛美は純也さんと好きなとこ回っといでよ」「純也叔父さま、愛美さんのことお願いしますね」「……え!? え!? 二人とも、ちょっと待ってよ!」「ああ、分かった」(…………えっ? 純也さんまで!? どうなってるの!?) ますますワケが分からなくなり、愛美は一人混乱している間に、純也さんと二人きりになった。「…………あっ、あの……?」 珠莉ちゃんと何か打ち合わせした? 純也さんはどうして当たり前のように残った? ――彼に訊きたいことはいくつもあるけれど、二人きりになってしまうと緊張してうまく言葉が出てこない。「さてと。愛美ちゃん、どこか行きたいところある?」「え……? えっと」 そんな愛美の心を知ってか知らずか、純也さんがしれっと質問してきた。……何だか、うまくはぐらかされた気がしなくもないけれど。 それでもとりあえず一生懸命考えを巡らせて、つい数十分前に思いついたことを言ってみる。「あ……、じゃあ……本屋さんに付き合ってもらえますか? 今日観てきたミュージカルの原作の小説があるらしいんで」「オッケー。じゃ、行こうか」「はいっ!」 二人はそのまま表参道を下り、東京メトロ表参道駅近くのビルの地下にある大型書店へ。(なんか、こうしてると恋人同士みたいだな……) 愛美はこっそりそう思う。ただ、まだ本当の恋人同士ではないので、手を繋いでいるだけで心臓の鼓動が早くなっているけれど。 何はともあれ、愛美はお目当ての小説の単行本をゲットし、二人は近くのベンチで休憩することにした。
last updateLast Updated : 2025-02-14
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恋する表参道 page13

「――はい、愛美ちゃん。カフェオレでよかったかな?」 純也さんは、途中の自動販売機で買ってきた冷たい缶コーヒーを愛美に差し出す。自販機ではクレジットカードなんて使えないので、もちろん小銭で買ったのだ。 愛美は紅茶も好きだけれど、カフェオレも好きなので、ありがたく受け取った。「ありがとうございます。いただきます」 プルタブを起こし、缶に口をつける。純也さんも同じものを買ったようだ。「――愛美ちゃん、お目当ての本、見つかってよかったね」「はい。純也さんは何も買われなかったんですか? 読書好きだっておっしゃってたのに」 書店で商品を購入したのは愛美だけで、純也さんは本を手に取るものの、結局何も買っていないのだ。「うん……。最近は仕事が忙しくてね、なかなか読む時間が取れないんだ。それに、このごろはどんな本を読んでも面白いって感じられなくなってる。昔は大好きだった本でもね」 悲しそうに、純也さんが答えて肩をすくめる。――大人になると、価値観が変わるというけれど。好きだったものまで好きじゃなくなるのは、とても悲しいことだ。「じゃあ、わたしが書きます。純也さんが読んで、『面白い』って思ってもらえるような小説を」「愛美ちゃん……」「あ、もちろん今すぐはムリですけど。小説家デビューして、本を出せるようになったら。その時は……、読んでくれますか?」 この時、愛美の中で大きな目標ができた。大好きな人に、自分が書いた本を読んでもらうこと。そして、読んだ後に「面白かったよ」って言ってもらうこと。目標ができた方が、夢を追ううえでも張り合いができる。「もちろん読むよ。楽しみに待ってる。約束だよ」「はい! お約束します」 この約束は、いつか必ず果たそうと愛美は決意した。「――それにしても、純也さんってよく分かんない人ですよね」「え……? 何が?」 唐突に話が飛び、純也さんは面食らった。「だって、ブラックカードでホイホイお買いものするような人が、ちゃんと小銭も持ち歩いてるんですもん。確か、交通系のICカードもスマホケースに入ってましたよね」「見てたのか。――うん、今日も電車で来た。僕はできるだけ、〝人並みの生活〟をするようにしてるんだ」「〝人並みの生活〟……?」 愛美は目を丸くした。〝人並み以上の生活〟ができている人が、何を言っているんだろう?「うー
last updateLast Updated : 2025-02-14
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恋する表参道 page14

「だって、事実だからさ。……あっ、ココだけの話だからね? 珠莉には言わないでほしいんだけど」「分かってます。わたし、口は堅いから大丈夫です」「よかった」 彼も一応は、言ってしまったことを少なからず悔(く)やんでいるらしい。愛美が「口が堅い」と聞いて、ホッとしたようだ。(口が堅いっていえば、珠莉ちゃんもだ) 彼女は絶対に、愛美に対して何か隠していることがある。でも、いつまで経っても打ち明けてはくれないのだ。――ことの発端(ほったん)は、約一ヶ月前に純也さんが寮を訪れたあの日。「――ところで純也さん。先月寮に遊びに来られた時、帰り際に珠莉ちゃんと二人で何話してたんですか?」「ん?」 とぼけようとしている純也さんに、愛美は畳みかける。「純也さん、わたしに何か隠してますよね?」「……ブッ!」 ズバリ問いただすと、純也さんは動揺したのか飲んでいたカフェオレを噴き出しそうになった。「あ、図星だ」「ゴホッ、ゴホッ……。いや、違うんだ。……確かに、大人になったら色々と秘密は増える。愛美ちゃんに隠してることも、あるといえばある……かな」 むせてしまった純也さんは必死に咳を止めると、それでも動揺を隠そうと弁解する。「何ですか? 隠してることって」「愛美ちゃんのこと、可愛いって思ってること……とか」「え…………。わたしが? 冗談でしょ?」 さっきまでの動揺はどこへやら、今度はサラッとキザなことを言ってのける純也さん。愛美は顔から火を噴きそうになるよりも、困惑した。(やっぱりこの人、よく分かんないや)「いや、冗談なんかじゃないよ。僕は冗談でこんなこと言わない」「あー…………、ハイ」 どうやら本心から出た言葉らしいと分かって、愛美は嬉しいやらむず痒いやらで、俯いてしまう。(コレって喜んでいいんだよね……?) 生まれてこのかた、男性からこんなことを言われたことがあまりないので(治樹さんにも言われたけれど、彼はチャラいので別として)、愛美はこれをどう捉えていいのか分からない。「……純也さんって、女性不信なんですよね? 珠莉ちゃんから聞いたことあるんですけど」「珠莉が? ……うん、まあ。〝不信〟とまではいかないけど、あんまり信用してはいないかな」「どうして? ――あ、答えたくなかったらいいです。ゴメンなさい」 あまり楽しい話題ではないし、純
last updateLast Updated : 2025-02-14
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恋する表参道 page15

「でも愛美ちゃんは、僕が今まで出会ったどんな女性とも違った」「えっ?」 愛美が不思議そうに瞬くと、純也さんは嬉しそうに続けた。「君には打算なんてひと欠片もないし、逆に『生まれ育った環境なんてどうでもいい』って感じだよね。君は純粋でまっすぐで、僕のことを〝資産家一族の御曹司〟じゃなく、〝辺唐院純也〟っていう一人の人間としていつも見てくれてる。そういう女の子に、今まで出会ったことなかったから嬉しいんだ」「純也さん……」 愛美は人として当然のことをしているつもりなのに。今まで偏見やイジメに苦しめられてきたからこそ、自分は絶対にそういう人間にはなるまいと心がけてきただけだ。 でも――、純也さんは愛美のそんな心がけを〝嬉しい〟と言ってくれた。「愛美ちゃん、ありがとう。僕は君に出会えてよかったと思ってるよ」「いえいえ、そんな」 彼のこの言葉は、受け取り方によっては告白とも解釈できるのだけれど。恋愛初心者の愛美には、そんなこと分かるはずもなかった。「――あ、そうだ。連絡先、交換しようか」「え……、いいんですか?」 自分からは、とてもそんなことを言い出す勇気がでなかったので、愛美の声は思いがけず弾んでしまう。「うん、もちろん。実は、前々から愛美ちゃんに直接連絡取りたいなって思ってたんだ。それに毎度毎度、珠莉を通して色々ツッコまれるのも面倒だし」「面倒……って」 前半は愛美も嬉しかったけれど、後半のひどい言い草には絶句した。実の叔父から「面倒だ」と言われる姪ってどうなの? と思ってしまう。けれど。「……まあ確かに、直接連絡取り合えた方が便利は便利ですよね」 という結論に達し、二人はお互いのスマホに自分の連絡先を登録するという方法で、アドレスを交換した。「――愛美ちゃん、スマホ使い始めて二年目だっけ? ずいぶん慣れてるね」 純也さんのスマホに自分の連絡先をパパパッと打ち込んでいく愛美の手つきに、彼は感心している。「だって、もう二年目ですよ? 一年前のわたしとは違って、一年も経てば色々と使いこなせるようになってますから」 この一年で、愛美はスマホの色々なアプリや機能を使いこなせるようになったのだ。動画を観たり、音楽を聴いたり、写真を撮ったり、メッセージアプリでさやかや珠莉と連絡を取り合ったり。スマホでできることは、電話やメールだけじゃないんだと
last updateLast Updated : 2025-02-14
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恋する表参道 page16

「これで珠莉に気がねすることなく、いつでも連絡できるね」「はい!」  なんだかんだで、純也さんも嬉しそうだ。(もしかして珠莉ちゃんたち、わざわざわたしと純也さんが二人きりになれるように気を利かせてくれたのかな……?) 愛美はふとそう考えた。「ブランドものには興味がない」と言っていたさやかまでが、珠莉について行った理由もそう考えれば辻褄(つじつま)が合う。 さやかは元々友達想いな優しいコだし、場の空気を読むのもうまい。そして何より、彼女は愛美の純也への想いも知っているのだ。(そのおかげで、こうして純也さんとの距離をちょっとだけ縮めることもできたワケだし。二人にはホント感謝だなぁ) 愛美が親友二人の大事さを、一人噛みしめていると――。 ♪ ♪ ♪ …… 愛美のスマホが着信音を奏でた。「――あ、電話? さやかちゃんだ。出ていいですか?」 人前で電話に出るのは失礼にあたる。いくら一緒にいるのが純也さんでも。――愛美は彼にお伺いを立てた。「うん、どうぞ」「はい。――もしもし、さやかちゃん?」『愛美、今どこにいんの?』「今? えーっと……、メトロの表参道駅の近く。純也さんと本屋さんに行って、ちょっとベンチでお話してたの」 愛美は純也さんに申し訳なさそうにペコリと頭を下げると、少し離れた場所へ移動する。この後、彼に聞かれたら困る話も出てくるかもしれないと思ったからである。『そっか。あたしたちもやっと買いもの終わったとこでさぁ、ちょうど表参道沿いにいるんだ。――で、どうよ? 二人っきりになって。何か進展あった?』「えっ? 何か……って」 明らかに〝何か〟があって動揺を隠しきれない愛美は、「やっぱり純也さんと離れてよかった」と思った。「……えっと、純也さんに『可愛い』、『出会えてよかった』って冗談抜きで言われた。あと、連絡先も交換してもらえたよ」『えっ、それマジ!? それってほとんど告られたようなモンじゃん!』「え……、そうなの?」『そうだよー。アンタ気づかなかったの? もったいないなー。じゃあ、アンタから告白は?』「…………してない」 そう答えると、電話口でさやかにため息をつかれた。それでやっと気づく。さやかたちが愛美を純也さんと二人きりにしてくれたのは、愛美が告白しやすいようなシチュエーションをお膳立てしてくれたんだと。『なぁん
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恋する表参道 page17

「ゴメンなさい。電話、長くなっちゃって」「さやかちゃん、何だって? なんか、僕に聞かせたくない話してたみたいだけど」 ちょっとスネたような言い方だけれど、純也さんはむしろ面白がっているようだ。女子トークに男が入ってはいけないと、ちゃんと分かっているようである。「ああー……。えっと、さやかちゃんと珠莉ちゃんも今、表参道沿いにいるらしくて。もうすぐ合流できるって言ってました」「それだけ?」「いえ……。でも、あとは女子同士の話なんで。あんまりツッコまれたくないです。そこは察して下さい」 純也さんだって、一応は大人の男性なのだ。そこはうまく空気を読んで、訊かないようにしてほしい。「…………うん、分かった」 ちょっと納得はいかないようだけれど、純也さんは渋々頷いてくれた。「――お~い、愛美! お待たせ~☆」 数分後、さやかが大きな紙袋を抱えた珠莉を引き連れて、愛美たちのいるところにやって来た。「さやかちゃん、珠莉ちゃん! ――あれ? 珠莉ちゃん、また荷物増えてない?」「珠莉……。お前、また買ったのか」 純也さんも、姪の荷物を見てすっかり呆れている。「ええ。大好きなブランドの新作バッグとか靴とか、欲しいものがたくさんあったんですもの。でも、さやかさんを荷物持ちにするようなことはしませんでしたわよ?」「いや、そこは自慢するところじゃないだろ。せめて配送頼むとかって知恵はなかったのかよ?」 わざわざ自分で荷物を持たなくても、寮までの配送を手配すればいいのでは、と純也さんが指摘する。 個人の小さなショップならともかく、セレクトショップなら配送サービスもあるはずだと。 ――ところが。「配送なんて冗談じゃありませんわ。手数料がもったいないじゃないですか」「珠莉ちゃん……」 彼女らしからぬ発言に、愛美も二の句が継げない。(珠莉ちゃんお金持ちなんだから、それくらいケチらなくてもいいのに) と愛美は思ったけれど、お金持ちはケチと紙一重でもあるのだ。……もちろん、ほんの一部の人だけれど。「…………あっそ」 これ以上ツッコんでもムダだと悟ったらしい純也さんは、とうとう白旗を揚げた。「――ねえ、珠莉ちゃん、さやかちゃん。ちょっと」 愛美は少し離れた場所に、親友二人を手招きした。この話は、純也さんに聞かれると困る。「何ですの?」「うん?」「
last updateLast Updated : 2025-02-14
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恋する表参道 page18

「叔父さまに頼まれていたの。『ほんのちょっとでいいから、愛美さんと二人きりで話せる時間がほしい』って」「え……。純也さんが? そうだったんだ」 ……知らなかった。純也さんがそのために、「苦手だ」と言っていた珠莉(めい)に頼みごとをしていたなんて。 そして、その頼みを聞き入れた珠莉にもビックリだ。(やっぱり純也さん、珠莉ちゃんに何か弱み握られてるんじゃ……) そうじゃないとしても、純也さんと珠莉の関係に何か変化があったらしいのは確かだ。同じ秘密を共有しているとか。(……うん。そっちの方がしっくりくるかも) 叔父と姪の関係がよくなったのなら、その考え方の方が合っている気がする。……それはさておき。 「そういえばさっき、電話で愛美から聞いたんだけど。二人、連絡先交換したらしいよ」「えっ、そうだったんですの? 愛美さん、よかったわねぇ」「うん。……あれ? さっきの電話の時、珠莉ちゃんも一緒だったんじゃないの?」 電話口のさやかの声は、興奮していたせいかけっこう大きかった。だから、側にいたなら珠莉にも聞こえていたはずなのだけれど。「私には聞こえなかったのよ。確かに、さやかさんの側にはいたんだけど、周りに人が多かったものだから」(ホントかなぁ、それ) 珠莉の言ったことはウソかもしれないと、愛美は疑った。でも、聞こえなかったことにしてくれたのなら、珠莉にしては気が利く対応だったのかもしれない。「……そうなんだ。じゃあ、そういうことにしとくね」 何はともあれ、愛美は純也さんといつでも連絡を取り合えるようになり、親友二人にもそのことを喜んでもらえた。それだけで愛美は万々(ばんばん)歳(ざい)である。「――さて。日が傾いてきたけど、みんなどうする? まだ行きたいところあるなら、付き合うけど」 純也さんが腕時計に目を遣りながら、愛美たちに訊ねた(ちなみに、彼の腕時計はブランドものではなくスポーツウォッチである)。 時刻はそろそろ夕方五時。今から電車に飛び乗って帰ったとしても、六時半からの夕食に間に合うかどうか……。「あっ、じゃあクレープ食べたいです! チョコバナナのヤツ」「わたしも!」「私も。ヘルシーなのがいいわ」 〝原宿といえばクレープ〟ということで、女子三人の希望が一致した。 甘いもの好きの純也さんが、この提案に乗らないわけはなく。と
last updateLast Updated : 2025-02-14
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恋する表参道 page19

「あたし、ばななチョコホイップ。プラス百円でドリンクつけよう」「わたしも」「僕も同じので」「私はツナチーズサラダ、っと」 ドリンクは愛美・純也さん・さやかはタピオカミルクティーをチョイスした。珠莉はドリンクなしだ。「愛美は初タピオカだねー」「うん!」 山梨のド田舎にいた頃は飲んだことはもちろん、見たことすらなかったタピオカドリンク。愛美はずっと楽しみにしていたのだ。「実は、僕も初めて」「「えっ!?」」 純也さんの衝撃発言に、愛美とさやかは心底驚いた。「いや、男ひとりで買うの勇気要るんだよ」「はぁ~、なるほど……」 分からなくはない。女子が「映(バ)える~!」とかいって、こぞってSNSに写真をアップしているのはよく見かけるけれど。男性がそれをやっていたら、ちょっと引く……かもしれない。 「ちょうどいいや。写真撮って、SNSにアップしよ♪」「あー、それいいね」 愛美とさやかはクレープとタピオカミルクティーを並べてスマホで撮影し、さっそくSNSに載せた。「……なんか以外だな。愛美ちゃんも、SNS映えとか気にするんだ?」「毎回ってワケじゃないですよ。今回は初タピオカ記念で」 純也さんの疑問に、愛美はちょっと照れ臭そうに答える。流行に疎いということと、流行に興味がないこととは別なのだ。「純也さん、……引きました?」 浮(うわ)ついた女の子に見えたかもしれないと、愛美は気にしたけれど。「いや、別に引かないよ。ただ、君もやっぱり今時の女子高生なんだなーと思っただけだ」「……そうですか」 その言葉を、愛美はどう受け取っていいのか迷った。「女子高生らしくて可愛い」という意味なのか、「すっかり世慣れしてる」という意味なのか。 ……愛美としては、前者の意味であってほしい。 愛美とさやかの二人が満足のいく写真をアップできたところで、四人はクレープにかぶりついた。「「「お~いし~~い☆」」」「うま~い!」「ばななチョコ、とろける~♪ ホイップもいい感じだねー」「ねー☆ やっぱチョコはテッパンだねー」 最後の感想は、もちろんチョコ好きのさやかである。他にも美味しそうなクレープが何種類かあった中で、何の迷いもなくチョコ系を選んだのがいかにも彼女らしい。「ツナチーズもいけますわよ」「えっ、マジ? 一口ちょうだい! あたしのも一口あ
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