Semua Bab 異世界は親子の顔をしていない: Bab 51 - Bab 60

61 Bab

第51話 嵐の前の静けさ

 世界が大きく揺れ動く大戦の戦端となる『火の七日』がその年の三月に起こることなど知る由も無いカイトが、聖暦一八九〇年を迎えた元日の王都プログレは穏やかな冬晴れの下にあった。 大晦日にビタリ王国で起きた首席魔道士ウアイラが率いる筆頭魔道士団によるクーデターは、年をまたぐ周辺の国々には既に衝撃を与えていた。 長い歴史を誇り列強の一つにも数えられるビタリ王国での首席魔道士による王位の簒奪。それは二十一年前に起きた当時には大国ではなかったセナート帝国でのシーマによる帝位の簒奪よりも、大きな衝撃をもって報じられた。 電撃の報が未だ届くことなく元日を迎えた極東のミズガルズ王国では、王室主催の新年祝賀会が予定通りに催されていた。 ブレビス離宮を会場として正午から開催された祝賀会には、王族や有力な貴族と主要な政治家などが参席し、その中には当然に首席魔道士であるカイトの姿もあった。 王配であるケンゾーの孫として、サイオン公爵でもあるカイトの席は王族側に用意されていた。「なんの進展もないまま新年を迎えてしまうなんて、思いもしなかったです」 カイトの隣の席に座るヴェルデは頬をプクッと膨らませてみせた。 王太子の長女である王女殿下に対して、どう対応するのが正解なのかカイトは迷ったが一先ず詫びることにした。「すみません。何分まだ不慣れな仕事に追われていまして……」「忙しさを言い訳に使うのは出来ない男のすることですよ?」「そうですね……正直に言ってしまうと、俺は女性に対して奥手なんです」 性分を打ち明けるカイトにグッと顔を寄せたヴェルデは、真偽を確かめるようにカイトの目を覗き込んだ。「わたくし以外の女性とも進展はないんですね?」 ヴェルデの問い掛けに対して、ストーリアの顔が浮かんでしまったことを気付かれるわけにはいかないと焦ったカイトは真顔で返答した。「……ええ。ありません」 微妙な間を置いて答えたカイトの様子から女性の影を悟ったヴェルデだったが、敢えて問いただすことはしなかった。 「そうですか。なら許してあげます」「ありがとうございます」「ただ、男性が奥手なのは美徳ではありませんからね?」「肝に銘じておきます」 カイトの素直な返答に溜飲を下げたヴェルデは微笑みを浮かべてみせた。 翌一月二日の夕刻。 ミズガルズ王国の王宮内に用意されたカイトの執
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-19
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第52話 刑の執行人

「それは具体的に、ゲルマニア帝国かガリア共和国、あるいはブリタンニア連合王国が、魔道士団と自国の軍隊を動かす可能性がある……と考えておくべき情勢ってことでいいんでしょうか?」 見解に食い違いがあってはならないと思ったカイトが質問すると、セルシオは首を横に振った。「全否定はできませんが、各国が軍を動かす可能性は低いでしょう。聖皇陛下がウアイラ卿とトリアイナ魔道士団への断罪を裁定され、刑の執行人を指名するという形をとると思われます」「その場合、刑の執行人に指名されるのは……?」「魔道士が犯した罪に際して、聖皇陛下の裁定を受けて刑の執行人に指名されるのは、罪を犯した魔道士よりも上位の位階を持つ魔道士、というのが慣例となっております。二十一年前に太魔範士であるシーマ卿がセナート帝国の帝位を簒奪した際にも、当時の聖皇陛下がすでに太聖であった唯一の上位位階を持つエルヴァ卿を、刑の執行人として指名したと聞き及んでおります。エルヴァ卿が指名を拒否したために、表向きには聖皇陛下の裁定は下されなかったとされましたが」 聖皇の指名を拒否するなんて不敬も、飄々としたエルヴァならやってのけるんだろうと納得してしまったカイトは、自分がいま立っている立場をあらためて思い知ることになった。「ウアイラ卿は魔範士……それよりも上位の位階、となると……」 すでに予測できてしまったが、自分で明言することは避けたカイトの意を酌んだセルシオが代弁するように答えた。「世界に二十名しか存在しない魔範士の上位となれば、自ずとその対象は六名のみとなります。太聖であるエルヴァ卿、太魔範士であるカイト卿とシーマ卿、英魔範士であるヴァルキュリャ卿、インテンサ卿、トゥアタラ卿。指名を拒否する可能性が高いエルヴァ卿と、ウアイラ卿の後ろ盾となっているシーマ卿を除けば、残るは四名。執行の対象が単独ではなくトリアイナ魔道士団となれば、複数人の指名となるのが濃厚。以上を踏まえ、カイト卿が指名される可能性は極めて高いと思われます」 カイトは椅子の背もたれに寄りかかり、一度だけふうと短く息を吐いた。「俺が指名されたら、受けるべきですよね……」「……危険を伴う難しい判断ではありますが、そうしていただければ対外的なメリットが大きいのは確かです」「ミズガルズ王国の首席魔道士は、お飾りの太魔範士ではなかった対外的に証明で
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-20
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第53話 聖皇の指名

 聖皇の使者としてミズガルズ王国の王都プログレを訪れたヴェネーノは道すがらの露店で王宮の場所を尋ねたりなどしながら、軽快ではあるが先を急がない足取りで王宮までの道を歩いた。 前もって待機していたウァティカヌス聖皇国の公使と王宮で合流したヴェネーノは、王宮内にあるカイトの執務室まで案内されると公使を執務室の前に待たせて単身でカイトと面会した。「はじめまして。ロザリオ魔道士団の第五席次を預かるヴェネーノ・バラメーダと申します。本日は聖皇陛下の使者として参りました」 ヴェネーノは口上を済ませると、気さくな仕草でカイトへ右手を差し出した。「カイト・アナンです。どうぞ、お掛けください」 カイトが握手に応じてから応接用のソファをすすめる。 ソファに腰掛けたヴェネーノは懐から薄い封書を取り出すと、微笑を添えてカイトに手渡した。 封書を受け取ったカイトはペーパーナイフで封を切り、書状の内容を確認してからヴェネーノと向かい合うソファに腰掛けた。「御用向きは確かに承りました。返答はいつまでにすればよろしいでしょうか」 カイトの問い掛けにヴェネーノは微笑を浮かべたまま答えた。「私はプログレに三泊し、十八日の正午にはプログレを発つ予定でおります。それまでにいただけましたら」「分かりました。今回の執行にあたっての指名は、何人になりますか?」「はい。今回の指名は対象が個人ではなく筆頭魔道士団を対象にする稀有なケースとなっていますので、メーソンリー魔道士団の首席魔道士ヴァルキュリャ卿と、アイギス魔道士団の首席魔道士インテンサ卿も指名を受けております」 予測はできていたカイトだったが、実際にヴァルキュリャとインテンサの名を聞いて事態の大きさをあらためて実感した。「そうですか……なにぶん俺は初めてなので勝手が掴めていないのですが、単身で赴くものではないんでしょうね」「はい。個人への執行であっても指名された魔道士が単独で執行に当たることは、まずありません。特に今回は対象が複数、しかも筆頭魔道士団となっていますので……出来ましたらカイト卿を含め、四名でのご対応を、お願いしたいところではあります。ヴァルキュリャ卿とインテンサ卿にも同様の要請をお願いしております」 三人の首席魔道士に各々三人の同行を要請するという詳細を聞いたカイトは、敢えて驚きを素直に表した。「四名ですか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-21
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第54話 相談

 出そうと思えばすぐに出せる答えだと分かっているのに、どうにも答えを出すという踏ん切りがつかない。 葛藤と呼ぶにはいささか情けない堂々巡りを独りで繰り返しているうちに、窓の外では陽が傾き初めていることに気付いたカイトが「きょうはもう屋敷に帰ろう」と立ち上がったタイミングで執務室のドアがノックされた。「はい。どうぞ」 カイトがノックに応じるとドアを開けて顔を覗かせたのはアルテッツァだった。 いつものアルカイックスマイルで右手を軽く上げたアルテッツァは、カイトに向けてくいっとグラスを傾ける動作を見せた。「カイト卿。ちょっと一杯、付き合いませんか?」「いいですね」 少し気分を変えたくもあったカイトは、渡りに船とアルテッツァの誘いに二つ返事で応じた。 カイトとアルテッツァは連れ立って、王宮からは少し離れた歓楽街の中にある二人が行きつけとしているバーへ移動した。 アルテッツァが時折、気心の知れたマスターが営むバーへカイトを誘うようになった三ヶ月ほど前から定席となっている、奥のテーブル席に座った二人はウイスキーで乾杯した。 のどを灼くウイスキーが今のカイトには心地好く感じられた。「聖皇陛下の使者殿は、何か難しい条件を提示してきましたか?」 探りを入れるような会話は省いて初めから核心に触れてきたアルテッツァに対して、カイトは素直に答えを返した。「ええ、俺を含めて四人と、人数を指定されました」「そうですか。前提を確認しますが、聖皇陛下の指名には応じるんですね?」「はい。俺は行かなきゃならない。首席魔道士としてお飾りじゃないってことを証明する必要がありますから。問題は同行してもらうメンバーを誰にするか……それを考えてたところです」「でしたら、私とセリカで二名は決まりです」 前もって用意していた答えであることを隠す様子もなくアルテッツァは即答した。「……いいんですか?」「もちろんです。王都の防衛も今はノンノがいますし、何より、カイト卿が初陣に出るとなったときには、必ず同行すると決めていました」「ありがとうございます」「礼には及びません。私が勝手に決めていたことですから。私はダイキ卿を護れなかった……あの屈辱を忘れたことはありません。今度こそ必ず役に立つことを約束します」「心強いです。助かります」「どうか、お任せを。しかし……ダイキ卿は今、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-22
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第55話 立候補

 翌日の昼過ぎに、聖皇の指名を受けたカイトが執行人としての渡航に同行するメンバーを探していると聞き及んだピリカが、王宮内にあるカイトの執務室を訪れた。 書類仕事を中断して応対したカイトに促されてソファに腰掛けたピリカは、向かいに座ったカイトをまっすぐに見つめて用件を口にした。「カイト卿。今回の指名を受けて、執行人として赴く卿と同行する魔道士に、あたしを加えてください。この機会をあたしは待っていたんです」 前置きを省いて本題から入ったピリカに対し、カイトはまずその動機を確認するための質問を返した。「危険を伴う任務に立候補していただき、ありがとうございます。ピリカ卿、ひとつだけ訊いてもいいでしょうか? 危険な任務の機会を「待っていた」という理由は何ですか?」「あたしは魔道士としてトワゾンドール魔道士団に席をいただき、ミズガルズ王国の男爵位もいただきました。ですが、侯爵領となったヌプリの先住民族をルーツとする出自は、決して変わるものではありません。あたしの親や親族に向けられる視線を変えるために、あたしは活躍して功をあげなくてはならない。それが理由です」 ピリカの碧い瞳に強い決意が宿っているのを感じ取ったカイトは、首肯を返してから答えた。「分かりました。今回の渡航への同行をピリカ卿にお願いします」「ありがとうございます」「いえ、礼を言うのは俺のほうです。おかげで初めての任務を受ける俺にとって最大の不安材料がなくなりました」 そう言って頭を下げるカイトを見たピリカが微笑む。「カイト卿。あたしも、ひとつ訊いてもいいですか?」「ええ、どうぞ」「親しい関係になった女性は、もういますか?」「えっ!?」 ピリカの唐突な問いに動揺したカイトの声が裏返る。同時にカイトの脳裏にはストーリアの顔が浮かんだ。「あたしでよろしければ、そちらにも立候補してよろしいですか?」「えー……と、とても魅力的な提案なんですが……」「答えは急ぎませんので、いまは立候補だけ受け取ってください。気長に待ってます」 ピリカの微笑みには裏に含んだ後ろめたさがなく、魅力的な女性だとカイトは率直に思った。 その日のうちに、カイトは聖皇の使者であるヴェネーノが滞在するホテルに赴いた。 ヴェネーノが宿泊する客室に直接通されたカイトは、すすめられるままソファに腰掛けると用件から口にした
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-23
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第56話 ファーストキス

 ビタリ王国の首席魔道士ウアイラによる王位の簒奪を受け、これを断罪する裁定を下した聖皇フィデスの署名が入った正式な刑の執行人への指名を受理。刑の執行に当たっての渡航に同行する三名の人選と、渡航の方法と日程の決定。 重大な決断と実務の処理を矢継ぎ早に行ったカイトは、深夜の帰宅から短い眠りを経て翌日も朝から王宮に赴き、ミズガルズ王国の宰相であるセルシオとの事前の確認に併せて事後の方針に関する協議も済ませた。 「さすがにちょっとオーバーワークかな……」 思わずぼそっとつぶやいたカイトが屋敷へ帰る頃には、大陸からの厳しい寒気をなだめていた冬の陽もすでに傾き始めていた。 カイトが自室に戻ると、ストーリアが旅の支度を調えていた。 どの程度の滞在になるか期間のはっきりしない渡航の準備とあって、その荷物はなかなかの量にはなっている。「ただいま」 カイトが声をかけると、ストーリアは荷造りの手を止めて微笑みを返した。「おかえりなさいませ。お疲れでしょう。出立までは少しお考えにならない時間をお持ちください」 ストーリアが自然に言い添えた「考えない時間」という言葉にカイトは感心してしまった。 この異世界に来てから約四ヶ月。首席魔道士という国防を担う元帥、あるいは象徴的存在としての大元帥とも謂えてしまう立場に就いてからの約三ヶ月。未だに慣れない政治的な判断や決断を強いられてきたカイトが、いま最も欲しているのは思考から解放される時間だった。 いまの自分を一番よく分かってくれているのは、異世界にいきなり召喚された最初の長い一日からずっとそばにいてくれるストーリアなんだろうとカイトはあらためて思った。「カイト様……? どうかなさいましたか?」 少し感慨にひたる間を置いたカイトに、ストーリアが小首を傾げてみせる。「あ、いや。ストーリアはいつでも、俺が欲しい言葉をくれるなって思っただけだよ」 カイトの返答を聞いたストーリアは、荷造りのためにかがんでいた姿勢から立ち上がるとカイトをまっすぐに見つめた。「カイト様……ひとつだけ、約束していただけませんか?」「俺にできる約束なら……」  ストーリアがゆっくりとカイトのそばに寄り、その胸に自身の頭を寄せる。 カイトの心音を確認するように短い間を置いたストーリアは、頬を寄せるカイトにだけ届く声でお願いを伝えた。「必ず
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-24
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第57話 初陣へと続く旅立ち

 翌日の昼前。肌を冷やす淋しさをいっとき忘れさせてくれるような心地好い日差しがそそぐプログレの港には、聖皇からの指名を受けて刑の執行人として出立しようとするカイトたちの姿があった。 聖皇の使者としてミズガルズ王国を訪れたヴェネーノは、カイトたちより先に汽船への乗船を済ませていた。 ビタリ王国の王位を簒奪したウアイラと、クーデターの主体となったトリアイナ魔道士団への断罪を裁定した聖皇の意思を代行する執行人という特異な任務に当たる渡航とあって、カイトら四人の出立を見送るのはレビンとステラ、そしてノンノの三人のみだった。 少数とはいえ筆頭魔道士団の威を示す純白の軍服を身に纏う魔道士たちの存在は充分に目立っており、七人を遠巻きにする港で働く人々の注目を集めていた。「さくっと終わらせて還ってくるんだよ」 ノンノがいつもの調子で声をかけると、カイトは調子を合わせるように軽い調子で応じた。「うん。そうするよ」「ピリカをお願いね」 ノンノが浮かべる快活な笑みに、わずかな心配の色が差すのを見たカイトは大きくうなずいてみせた。「分かった。必ず無事に、一緒に還ってくるから」「うん。任せた」 カイトに向けて明るい笑顔をみせるノンノの横で、真剣な表情を崩さないレビンにアルテッツァが声をかけた。「王都を頼むよ」「お任せください。旅の無事とご武運を祈っております」「ああ、武勲を立てて王都に戻るとしよう」「はい。凱旋の日を楽しみにしております」 微笑を浮かべて壮行を口にするレビンへ向けて、アルテッツァは力強い首肯を返した。 カイトに随行するアルテッツァ、セリカ、ピリカの三人と、ヴェネーノを乗せた汽船は予定通りに正午の鐘を合図に出航した。 汽船は最短の航路でウァティカヌス聖皇国を目指し、十一日後の一月二十九日には聖皇国のスペツィア港へと到着する予定となっていた。 カイトにとっては初陣の地となるであろうビタリ王国へと続く旅立ちだったが、その不安や緊張を顔には出さないように努めた。 天候にも恵まれ穏やかな船旅となった十一日の間、四人はヴェネーノも交えてポーカーに興ずるなどして時間を潰す余裕を持った空気を共有した。 一月二十九日の昼過ぎには、予定の航程を全うした汽船がウァティカヌス聖皇国のスペツィア港に入港した。 ふたたび聖皇国の地を踏むこととなったカイトに、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-25
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第58話 三人の首席魔道士

 カイトが筆頭魔道士団に属する魔道士三名とともにウァティカヌス聖皇国に到着したことで、聖皇フィデスが指名した三名の執行人が揃ったことを受け、翌日の昼過ぎには最初の協議が持たれた。 聖皇の宮殿内で行われた協議には各国の首席魔道士であるヴァルキュリャとインテンサ、そしてカイトが参加し、ウァティカヌス聖皇国の筆頭魔道士団・ロザリオ魔道士団で次席を務めるクーリアが、司会を兼ねたオブザーバーとして協議を進行した。 現状の確認から入るクーリアの穏やかだが通る声で、三カ国を代表する首席魔道士が顔を合わせる協議は始まった。「まずビタリ王国の現況からですが……首席魔道士であったウアイラが率いるトリアイナ魔道士団は、十二月三十一日に王都ロームルスでクーデターを起こし、国王とともにソフィア王女殿下を除く王族を殺害。その翌々日にはウアイラが国王に即位したことを国内外に宣言。王位の簒奪に際し、ウアイラに抵抗する姿勢をみせたビタリ国内の貴族は少なく、現在までに南部の一部を除くビタリ王国の領土はほぼトリアイナ魔道士団が掌握する形となっています」 クーリアの現状の説明を受けて、ヴァルキュリャとインテンサは現在の状況をすでに把握していると判断したカイトは最初の質問を口にした。「トリアイナ魔道士団に属する魔道士たちの配置はどうなっていますか?」 カイトに向けて首肯を返したクーリアが答える。「ゲルマニア帝国との国境に近いフエルシナには第三席次のイオタと第十一席次のボーラ。ガリア共和国との国境に近いマイラントには次席のゾンダと第九席次のカリフ。そして、聖皇国に近いメディオラヌムに第五席次のジュリエッタと第七席次のデルタ。ウアイラを始めとする他の魔道士は王都ロームルスに留まっているようです」 地中海に突き出た半島が領土の大半を占める、地球のイタリアに酷似したビタリ王国の地図をカイトは思い浮かべた。 大陸側の国境をゲルマニア帝国、ガリア共和国、ロムニア王国の三国と接しており、ウァティカヌス聖皇国を内包する領土を持つビタリ王国にあって、周辺の各国への警戒を顕示するなら妥当な配置なんだろうとカイトは思った。 ロムニア王国には魔教士以上の魔道士が不在な上に、停戦協定が結ばれたとはいえセナート帝国への警戒を解けない現状では、ビタリ王国に対して何かしらの行動を起こす余裕はないものとして協議には上が
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-26
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第59話 インテンサ(Ⅰ)

「それでは、各々任務を完遂した後に合流するということで。私はこれで失礼を」 英魔範士である自分よりも上位の称号を持つ世界で三人しか存在しない内の一人だとしても、圧倒的な最強として君臨する太聖エルヴァや覇権国家を築くに至った皇帝シーマとは違い、現時点では何らの功績を挙げた訳でもない未知数のカイトと、最も警戒すべき存在として認識している自分以外の英魔範士であるヴァルキュリャ。 この二人と馴れ合う必要はなく、下手に関係を築くことは避けるべきだと判断しているインテンサは、静かに退席の意思を口にしてから立ち上がると真っ先に円卓を離れて退室した。「では、俺も……」 インテンサにつられて立ち上がったカイトに、ヴァルキュリャが声をかけた。「カイト卿。卿は今回が初めての実戦ですよね」「あ、はい。そうです」「卿は無属性魔法を行使する太魔範士にして聖魔道士、圧倒的な強者です。ですが、初陣には魔物が潜んでいます。命を奪うという行為に躊躇すれば魔物は容赦なく襲いかかってきます。覚悟は今のうちに固めておいてください」 命を奪う。ヴァルキュリャが明言した強い言葉に、表情を引き締めたカイトは首肯を返した。「分かりました。そうします」 カイトの素直な返答を聞いたヴァルキュリャは表情を緩め、穏やかな笑みを浮かべてみせた。 セナート帝国が勢力を拡大する中で徹底的な実力主義をもって猛者を集結させたラブリュス魔道士団が存在する今も、最強の魔道士団と称され続けるメーソンリー魔道士団の首席魔道士が浮かべる可憐な笑みに接したカイトは赤面した。 「それにしても、思ったより早い再会でしたね。この任務が終わったら、また二人でお酒でも」「はい、ぜひ」 ヴァルキュリャの誘いに対し、カイトは嬉しさを隠さずに二つ返事で応じた。 翌日の朝にはインテンサが率いるアイギス魔道士団の四名と、ヴァルキュリャが率いるメーソンリー魔道士団の四名が聖皇国の用意した幌馬車に乗り込み、それぞれの目的地へ向けて出立した。 さらに日付を跨ぎ月の変わった二月一日の朝には、最も目的地に近いカイトらトワゾンドール魔道士団の四名も、聖皇国が用意した二台の幌馬車に分乗してメディオラヌムへ向けて出立した。 同日の昼前。 数千年の歴史を刻む古都であり観光地として知られる、ビタリ王国で第三の都市であるフエルシナの空は今にも雨を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-27
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第60話 インテンサ(Ⅱ)

 番所から深紅の軍服を着た女性が出てくるのを目視で確認したインテンサは、感情を乗せない静かな口調でクワトロに声をかけた。「聖皇国の情報は確かなようだ。ボーラで間違いないだろう。イオタが到着する前に済ませるとしよう。この戦闘は聖下の下された断罪を代行する刑の執行であり、戦場の儀礼は無視して構わん。卿の得意とする速攻で片付けてしまって何ら問題は無い」 インテンサの指示に「御意」とだけ短く応えたクワトロは、続く呼吸で魔法の詠唱を済ませた。「クッレレ・ウェンティー!」 速さで優位に立つのが定石である気の属性魔法を行使するクワトロが、風の力を利用して加速する初手の定番であるクッレレ・ウェンティーを用いて高速で駆け出す。 前傾で駆けた姿勢のままクワトロは召喚魔法を行使した。「ウムダブルチュ!」 クワトロが召喚獣の名を詠唱する。二つの魔法を同時に行使するという高等技術を難無く行ってみせるクワトロに呼応するように、ライオンの体に鷲の頭と翼を持った召喚獣が、金色に輝く魔法陣から現出する。 体長が四メートルに達するウムダブルチュは、堂々たる巨躯を誇示するように咆哮を上げた。「いいねえ、強引な男は嫌いじゃないよ」 不敵な笑みを浮かべたボーラは、その場で召喚魔法を行使した。「ラクタパクシャ!」 ボーラが詠唱した召喚獣の名に呼応して現れた紅く光る魔法陣から、人間の胴体に鷲の頭と翼を持つ召喚獣が現れる。その体長は二メートルほどだが、羽ばたく翼の翼長は四メートルにも届かんとする大きさを誇った。 全身から炎を発するラクタパクシャが、紅蓮の翼を強く羽ばたかせる。 ラクタパクシャの羽ばたきは数十本の炎の矢を空中に作り出した。 流れるような動作で、ラクタパクシャが紅蓮の翼を力強く前へと突き出す。 数十本の炎の矢が、一斉にウムダブルチュへと襲いかかる。 ウムダブルチュは素速く上空に舞い、炎の矢を全て躱してみせた。 上空から高速で急降下したウムダブルチュが、ラクタパクシャに体当たりを喰らわす。 その圧倒的な質量差によってラクタパクシャは吹き飛ばされた。「くそっ」 ボーラがウムダブルチュに向けて両手を突き出し、援護射撃となる魔法を詠唱しようとした、その刹那。眼前には既にクワトロの姿があった。「グラディウス・ウェンティー!」 クワトロの素速い詠唱と同時に長剣の如き
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-28
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