カイトはミズガルズ王国を出立する前に、祝賀晩餐会のゲストとして招かれた首席魔道士たちの情報は頭に入れていた。 セルシオが自ら用意してカイトに渡した資料には、首席魔道士たちの顔が確認できる写真も添えられていたが、実際に対面したトゥアタラの印象は前もって写真で確認した時に感じた印象とは大きく違うとカイトは思った。 現時点で世界に二十名しか確認されていない魔範士。その二十人目として昨年の冬にワキンヤン魔道士団の第四席次に就任したヴェノム・ヘネシーの就任式典での集合写真に写っていたトゥアタラを見た際には、如何にもエリート軍人らしい威圧的な顔付きの二十四歳だとカイトは感じていた。「これは、トゥアタラ卿……!」 カイトは迷ったが「ここは素直に驚いたほうが自然だ」と判断してトゥアタラに声をかけた。 トゥアタラはカイトの前に立つと右手を差し出した。スムーズで壁を感じさせないフランクな動作だった。 百九十五センチという規格外な高身長でありながら虚勢を張る必要のない強者としてのエルヴァが、高圧的な態度を見せることがないのに似ているとカイトは感じた。「トワゾンドール魔道士団のカイト・アナンです。まさか三英傑のトゥアタラ卿とこんな場所でお目にかかれるとは思いませんでした」 カイトが握手に応じると、トゥアタラは大きく骨張った右手を軽くシェイクさせながら応じた。「いやあ、お会いできて良かった。この大陸に来てからというもの、まあ、退屈してたところでしてね」 屈託のない笑みを浮かべてみせるトゥアタラは、髪型を気にする様子の無い無造作な金髪に、青みがかった灰色の瞳とうっすらと伸びた無精髭とが相まって、所作と外見とで相手に緊張を与えない術を身に着けていた。「退屈、ですか……今はなぜヴァトカに?」「ちょっと早めに来てしまったんですがね、帝都に行ってしまえば高官なり貴族なりの歓待を断れないでしょう。迎賓館だの超が付く高級ホテルだのは、どうも性に合わないんですよ」 内心を打ち明けたようにも、この場で思い付いた口実にも聞こえる理由を答えてトゥアタラは笑った。片眉が下がった独特な笑い方だった。 好感を与える演技が上手い男ということだけは理解したカイトは質問を続けてみた。「俺たちが、いま到着すると知っていたんですか?」「ええ、うちの諜報は無駄に優秀でしてね」 隠さずに自分の背
Last Updated : 2025-03-03 Read more