藤堂沢は皮肉っぽく笑いながら言った。「ずいぶん欲張りだな。調子に乗りすぎじゃないか?」九条薫も冷笑して言った。「できるかどうかは、私の腕次第よ。4000万円、一銭もまけないわ。私が、あなたのためにこのプロジェクトを成功させてあげる」藤堂沢は目を細めて、「もし、プロジェクトが失敗したら?」と尋ねた。九条薫の笑みは消え、「それは、社長の力不足でしょう」と言った。......今まで、こんな風に彼を挑発した人間は、一人もいなかった。藤堂沢は、少し面白くなってきた。彼は九条薫の耳元で囁いた。「どうやら、このプロジェクトは絶対に成功させないといけないようだな。でないと、薫にまで無能だと思われる」彼が近づくと、男の香りが彼女の耳元をくすぐり、鳥肌が立った。九条薫は彼を突き放して、「仕事の話をするんじゃなかったの?ふざけないで」と言った。あの夜の出来事を、彼女はまだ引きずっていた。浮気をする夫をみると、他の女と体を重ねている姿を想像してしまう。考えるだけで、嫌悪感がこみ上げてくる。車から降りようとした時、藤堂沢が彼女の腕を掴んだ。九条薫は怒りを抑えて、「明日の朝、伊藤夫人に連絡する。ただし、4000万円が振り込まれていればの話だけど」と言った。藤堂沢は彼女をじっと見つめ、しばらくしてから「今すぐ小切手を切ってもいいぞ」と言った。九条薫も彼を見つめた。藤堂沢は鼻で笑って、「まさか......俺を信用できないのか?」と尋ねた。九条薫は顔をそむけ、暗い夜空を見ながら静かに言った。「あなたみたいな人と長く一緒にいれば、誰でも用心深くなるわ」もうすぐ二人は別れるというのに、九条薫には心残りがあった。最初に好きになった人が、こんな男だったなんて......藤堂沢は小切手を彼女の手に渡しながら、不意に「篠の件だが......」と言った。彼が白川篠の話をしたのは、これが初めてだった。特に九条薫に!これは、弁解になるのだろうか......突然、白川篠の名前を聞かされて、九条薫は一瞬驚いたが、すぐに落ち着いた口調で言った。「彼女がB市に来ているのは知ってるわ。お父さんと同じ病院に入院している。これからあなたは、彼女の足の治療の手配をし、佐伯先生に紹介して、彼女の夢を叶えてあげるんでしょう......」藤
Read more