All Chapters of 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない: Chapter 91 - Chapter 100

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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい4

「何作ってくれたの?」「あ、豚汁……。でね、ご飯を炊こうかと思ったんだけど」「いいよ。俺、夜は炭水化物抜いてんだ。太っちゃうからさ。美羽食べるなら炊いてあげるよ」「私はいいの。味見で、お腹けっこう膨れちゃったから」「美羽らしいな」クスクス笑って鍋の蓋を開けてかき混ぜた大くんは「ウマそうじゃん」と言ってくれる。味の保証はできないけど、一生懸命作ったのは間違いない。食卓テーブルに向かい合って座り、お椀に豚汁を注いだだけの夕食がはじまった。サラダとか、いろいろ作っりたかったんだけどな……。大くんは、ニコニコしていて「美味しいよ」と言ってくれる。「ちゃんと出汁も効いているし、野菜の甘みも溶け出して美味しい。美羽、料理の腕上げたね」「ありがとう」大好きな大くんに褒められると素直に嬉しい。幸せな時間が流れているけど……。ふと、寧々さんのことを思い出す。聞いてもいいのかな。でも、怖くて聞けない。「美羽、もう遅いから……泊まるよね?」「うん。そのつもりだったけど、迷惑じゃない? 突然押しかけちゃってるし」「迷惑なわけないだろ。今日からでも一緒に住みたい」真剣な眼差しにくらりと、めまいを起こしてしまいそうになる。私も、一緒に住みたい……でも、お父さんとお母さんになんと言えばいいのだろうか。「実はさ……メンバーに美羽とのこと、伝えたんだ」急に声のトーンが下がった。あまりいい話ではないのかもしれない。でも、覚悟を決めて話を聞く。「二人とも過去のことを謝ってくれたよ。でもさ、交際は反対だってさ。もしも、俺と美羽がゴールインしたら、過去のスキャンダルがバレてしまうかもしれないから……」「……そうなんだ」心に冷たい塊ができていく気がした。やっぱり難しい恋愛なのかもしれない。「だから、解散して結婚したらどうだって言われたんだ。なんか、寂しいよな。力を合わせて頑張ってきたのにさ」私のせいで大くんは悩んで苦しんでいる。やっぱり、結ばれてはいけない運命なのだろうか。「心配するな。ちょっと時間はかかるかもしれないけど、祝福されるように頑張ろう。ご馳走様でした。さ、美羽。風呂入ろうか?」「どうぞお先に」「一緒に入るんだよ。片時も離れたくないから」顔が熱くなる。たしかに、付き合っているんだしそういう関係になるのは予想がついた上で家に来たのだけど……。
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい5

朝、目を覚ますと大好きな大くんがいる。お互いに傷ついて色んな過去があって、乗り越えて、今やっとこうして穏やかな時を過ごせている。ベッドから抜け出して窓から空を見上げるとチラチラと雪が降っているが、天気はいい。――はな。ママは、大好きなあなたのパパと過ごせて幸せだよ。会えない間に大くんは偉大な人になってしまって、私は不釣り合いなんじゃないかと今でも思ってしまうけど、もう離れないって決めたのだ。強くならなきゃ。着替えを済ませ、メイクをした。大くんはまだすやすや眠っているみたい。このままずっと顔を見ていたいけど、遅刻してしまうから行かなきゃ。起こすのは可哀想だから、そのまま部屋を出て行った。エレベーターに乗ると下の階で止まりドアが開くと、寧々さんが立っていた。彼女は私を見つめてしばらくその場で固まっていたから『開』ボタンを押して微笑みかけた。「降りますか?」「ええ……。ありがとう」中に入ってきてドアが閉まると、寧々さんは振り向かずに小さな声で話しかけてくる。「大樹の部屋に泊まったの?」「え……」「ハッキリ言いなさいよ!」大きな声で怒鳴られて、振り向いた寧々さんは私を思い切り睨んだ。手には握りこぶしがあり、プルプル震えている。あっという間に一階に着いてドアが開くと「疫病神ね、あなた」と言われ颯爽と出て行った。疫病神…………。気にしちゃいけない。大くんを信じなきゃ。大くんは、私を愛してくれているんだから……。
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい6

   +大くんと会った次の日の夕方のことだった。「え、契約がなくなったんですか?」千奈津の声が響き渡った。一月に撮影予定を組んでいたCOLORを起用したコマーシャルの話がまとまりつつあったのに、白紙になってしまったのだ。私と千奈津は杉野マネージャーに呼び出しをされていた。会議室はもうすでに暗くて電気が煌々と光っている。大くんとまた仕事ができるかもしれないと思っていたのに。……いや、それどころじゃない。我社にとって大きすぎる駄目ージだ。「どうしてですか!」千奈津は遅くまで会社に残って企画を練っていたから、大き過ぎるショックだろう。身を乗り出して聞いている千奈津。私だって同じ気持ちだ。「……わからない。突然だったから。参ったな」困った顔をして頭をかいている杉野マネージャー。次の案を練ってタレントを探してなんて、間に合わない。「タレントは諦めて、アニメーションか何かで対応するしかないか……。気持ちを切り替えないといけないってわかっているんだけど、あんなにいい雰囲気だったのに。一体、何があったんだろうか」――疫病神。寧々さんの声が頭を過ぎった。私がこの企画に携わったからなのだろうか……。その日は遅くなってしまい、大くんに連絡をしないまま眠ってしまった。
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい7

次の日は、朝から急遽新企画を作り上げることになって、忙しい一日だった。仕事を終えて会社のビルから出たのは二十一時。「なんだろ」高級車があったから偉い人の用事でもあるのだと思った。すると、中からスーツを着た男性が出てきて、私の方に向かってくる。固まっていると目の前に来た男性は「初瀬美羽さんですね」と声をかけてきた。「は……い」「宇多寧々のマネージャーです。車に宇多がいます。少しお話したいことがありますので、お時間をいただけますか?」逃げ出したかったけれど、わざわざここまで来るということは大切な話があるに違いない。宇多寧々さんは、大くんのことが好きなのだ。きっと私が邪魔なのだろう。「有名人が私になんの用事でしょうか?」大声で助けを呼ぼうかと考えつつ、警戒しながら男性を睨む。「紫藤大樹についてお話があるそうです」その名前を出されると、私は行かなきゃいけない気がした。危険な行動かもしれない。でも、逃げてはイケない気がした。後ろの席のドアが開かれて中に乗ると寧々さんが不機嫌そう表情をしていた。そして、綺麗な顔を向けてくる。「急にごめんなさいね。あなたにお話があって」「……いえ」車はその場から動かない。外からは中が見えないようにスモークガラスになっている。まさか、大スターがここにいるなんて誰も思っていないだろう。シーンとする車の中で寧々さんは、ゆっくりと口を開く。「単刀直入に言うわ。大樹はあたしのものなの」「ものって……そんな乱暴な言い方はどうかと思います」負けちゃいけない。気を強く持たなければとの思いが、強気な口調となってしまった。ふっと鼻で笑われる。「あなた、あたしが誰だか、わかってるの?」「宇多寧々さんです」「そうよ。世間を動かすことができる女なの。大樹に近づかないで」「……嫌です。大くんは、私を」「契約が、駄目になったでしょ?」私の言葉を遮るように質問してきた。「え?」「あれは、ほんの忠告みたいなものよ」「…………」こんな意地悪な人を大くんが好きになるはずがない。「これ以上、大樹に近づいたらどうなるか教えてあげる」ニヤリと笑って寧々さんは説明をはじめた。「まずは、大樹の事務所の社長にあなたと会っていることを伝えるわ」社長って、私が妊娠した時に一番反対していたあの人のことだ。「きっと社長はあ
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい8

「そんなワケありの社員がいるなんて知ったら、速攻であなたはクビになるでしょうね。ご両親も悲しむわね」クスクス笑って勝ち誇ったような表情を見せてくる。「あなたが大樹に近づいた罰。大樹はあたしと結ばれる運命なの。世間の人だってそう思っているし、応援してくれていると思う」自信満々に言われると、何も言い返せない。たしかに大くんにお似合いなのは寧々さんだ。情けない気持ちを押し殺しつつ、冷静に考える。でも、本当に寧々さんにそんなに力があるのだろうか。「寧々さんはすごい人かもしれませんが……」「それがね。できちゃうんだなぁ。あたしのパパの力を使っちゃえばなんでもできるの」余裕たっぷりに笑っているけど、この人、悪魔だ。「どうして過去のことも知ってるんですか?」「大樹をビックにしたのは、あたしだから。パパにお願いしたの。もちろん、大樹にもCOLORにも売れる要素があったから、パパは動いてくれたんだけど」大くんを売り出すために、動いてくれた人……なんだ。きっと、寧々さんは早くから大くんを知っていて、近くで見ていて……芸能人としての彼だけじゃなく男性としても好いていたんだ。私と同じだ。でも、立つ土俵が違う。「あなたと大樹が結ばれても何もいいことはない。大樹がとあなたと結ばれたら、マスコミは一斉にあなたを徹底的に調べるのよ。そうしたら、過去のスキャンダルでバッシングの嵐になるでしょうね。COLORも衰退してCOLORの所属する事務所のタレントにも傷がつく。わかる?」その通りだ。それを理解したつもりで大くんと歩んでいく道を選んだのだ。でも、今すごく不安で怖い。押しつぶされてしまいそう。「それにね。大樹はあなたを好きじゃない。償いで一緒にいるんだと思う。大樹は、私のことが好きなのよ」「そんなはずないです」だって。大くんからは、愛を感じた。あれは、嘘偽りじゃないと思う。「大樹をこれ以上苦しませないであげて。もう会わないで」「……今すぐにはお約束できません。大くんのことが、大好きなんで……」私はもう逃げたくないと思って言い返した。過去は子供だったから大人の意見を聞かなければ駄目だと思っていたけど、今は違う。自分の気持ちで自分の生き方を決めていかなければいけないのだ。「…………降りて」「え……」「早く、降りて」怒鳴られて私は慌てて車から降りた
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい9

   +毎日のように連絡をくれていたのに、ここ一週間大くんは連絡をくれない。忙しいのかもしれないと思って私からも連絡を入れずにいた。残業をしながら、ふーっと息を吐く。どうしちゃったんだろう。会いに行きたいけど寧々さんに会ってしまうかもしれない。ちゃんと大くんに、話したいと思っているのに勇気が出なくて連絡できずにいる。残業を終えて電車に乗ると、ホテルの広告が出ていた。もうすぐクリスマスだからホテルでディナーをと書かれている。いいな……大くんと一緒に過ごせたら幸せだろうな。こんなに好きなのにどうして我慢しなきゃいけないのかな。自分の家の前に着くと高級外車が停まっていた。「今度は一体、今度は誰?」小さな声でつぶやいた私が近づくと車の窓が開いた。「美羽さん」中から声をかけてきたのは、大澤さん――大くんの事務所社長だった。家まで調べられたのか。「お久しぶりね」「こんにちは」「夜遅くにごめんなさい。少しお話できないかしら?」「…………大樹さんのことですか?」「ええ。寒いから乗って」助手席に乗り込むと、大澤さんは相変わらず美しい。少し年齢を重ねた感じはあるけれど、あまり変わっていなくて昔のままだった。「十年かぁー。またあなたと大樹が再会するなんてね。驚いちゃったわ」座り心地のいいシートは、さすが高級外車という感じだ。どこのメーカーかはわからないけれど……。車の中にはクラシックが流れている。仕事が終わったばかりの私は疲れきっていた。「あの時は別れを決断してくれてありがとう。そのおかげで大樹は不動の地位を手に入れることができて、事務所も安泰なのよ」「いえ」「悲しい思いをさせてしまったことは謝るわ。私もあれから恋愛をして結婚をして子供も授かったの。自分が幸せになっていくたびにあなたへの罪悪感が出てきてね。気にはしていたのよ。どこかで幸せになっていてほしいなと願っていたわ」雨まじりの雪が降ってきて、フロントガラスを濡らしていく。「宇多寧々さんからいろいろ聞かされるまで、美羽さんと大樹が会っていることは知らなかった。大樹も年齢を重ねたし結婚をすることは賛成なの。ただね、芸能人ってイメージが大切でしょう? だから、有名モデルの寧々さんと結婚となるといい話題づくりになるし賛成しようと思ってたのに。大樹はあなたに会って償いの心が芽生え
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい10

「女は過去に愛されていた人に会うと、また愛されたいって思ってしまう生き物なのよね」優しそうに笑って私を見つめる。「スキャンダルが出て過去を知られることになったら、大樹もあなたも、美羽さんの家族も辛い思いをすることになるわ。過去よりも明らかにマスコミの情報収集力は上がっている。気をつけたほうがいい。あなたと大樹は交わらないほうが幸せになれるはずよ」「申し訳ありませんが……今回ばかりは離れたくないです」「……そう」「失礼します」まだ話をした方だったが私は車から降りた。大澤さんと別れて部屋に入りスマホを見つめる。――大くん、どうして連絡くれないの?不安で涙がつい溢れる。ご飯も食べたくなくてカーペットに崩れるように座ると、涙がボロボロと溢れてきた。もう、嫌……。耐え切れないよ……。スマホを握って電話をかける。「もしもし」『どうしたの? 泣いてるの?』「もう……駄目かもしれない」私が電話をした相手は全てを知っている真里奈だった。『……どうして、美羽ばかり辛い目に合うのかな。芸能人と一般人の恋愛は難しいかもしれないね。それに加えて美羽と彼には過去があるから……。償いで美羽に近づいたのかな。そうは思えないけど』「どうして連絡がないのかわからなくて……」『事務所か宇多寧々に邪魔されてるのかな。美羽、無理することないよ。美羽のタイミングで会いに行って、ちゃんと話しておいで』「うん」真里奈に話を聞いてもらえて少しだけ……心が軽くなった。でも、会いたくて会いたくてたまらなかった。大くん、どうして連絡くれないの?電話を切ってそっとカーペットに置く。「あ、思い出した」寧々さんと過去にも会っていたことを思い出したのだ。小桃さんにカラオケに連れて行ってもらった時、大くんと寧々さんは一緒にいたんだよね。私と同じ頃に出会っていたのか。なのに、なかなか手に入らなくて執着しているのかもしれない。寧々さんは手強い相手だ……。勝てる自信がないよ。はなのしおりをぎゅっと抱きしめる。「はな……。ママはどうしたらいいのかな」
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい11

   +土曜日の朝、ぼんやりする頭のままベッドに入っていると、チャイムが鳴った。朝から誰だろうか。ヨロヨロと立ち上がり歩いて玄関を開けると、母だった。「お母さん……」「美羽」厳しい表情をしている母は中へ入ってきた。何かあったのだろうか。座布団に座った母にお茶を出す、「来るなら来るって言ってよ。何も用意してないよ。残業続きで疲れちゃっていて眠ってたの。なかなか帰らなくてごめんね」ペラペラ話す私をじっと見つめていた母が眉間にシワを寄せながら苦い顔をしている。「うちに手紙が届いたの。美羽と紫藤さんがふたたび会っているようだ。過去のことをマスコミに流すって……。本当なの?誰がこんなこと。せっかく美羽は就職して立派にやっているのに」苦しそうな声で言う母を見ると、罪悪感が襲ってきたけど堂々としようと心の中で決意して口を開いた。「大くんとは……仕事で再会したの。私の会社の商品のイメージキャラクターになって、撮影に同行したの」「会っているって、本当だったのね」悲しそうな表情をされると胸が痛い。「はじめは関わらないようにしていたんだけど、私が一方的に大くんに会いたくなってしまって……」大くんは、私を愛してないかもしれないのに、どうしてか大くんをかばってしまう。気持ちを落ち着かせるためにお茶をひと口飲んで、母を見ると考え込んだ表情だ。気まずくなって外を見ると曇り空でますます気持ちが落ち込んでしまう。「大くんは悪くないの。私が近づいたから何度も会うことになってしまって。悪いことをしてると思ったけど、どうしても大くんのことが好きなの。あの人以外の男性とは一緒に過ごせないと思う。立派な大人なのにワガママばかりごめんね」母は、深く息を吸い込んだ。親不孝な娘でごめんなさいと心から反省する。もうアラサーなのに結婚もしないで、きっと心配しているだろう。早く落ち着いてほしいと願っているに違いない。「お父さんとお母さんにまで迷惑をかけて申し訳ないと思ってるよ。親孝行の一つもできなくて情けない娘だよね」「美羽は、お母さんの大事な娘よ。情けないなんてそんなこと絶対にない」深すぎる母親の愛情にポロッと涙が落ちてしまった。母は怒ったり注意したりするけれど、いつも最後は見守ってくれるのだ。私を信じてくれる。「……もう大人だから、美羽が自分の人生を決めなさい
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい12

COLORのCM企画が白紙になったのは、自分の責任だと感じていた。そこでデザイナーである小桃さんにお願いすることを思いついて、社内に企画を出すと通った。今は日本にいるらしい。小桃さんがデザインをしている休息タイムにフルーツゼリーを食べているという企画案だった。「問題はアポ取りなんだけど」頭を悩ませている杉野マネージャー。「実は友人なんです」「初瀬は顔が広いなー」杉野マネージャーに言われた。その夜、小桃さんに会う約束ができて私と杉野マネージャーと千奈津で指定されたホテルに会いに行くと、スイートルームに滞在中だった。今日は真っ赤なブラウスと黄緑色のフレアースカートと奇抜なファッションを着こなしている。返事は「オッケーイ」だった。仕事のスケジュールも自分で決めているようなのでなんとでもなるらしい。「じゃあ契約は受けるから美羽ちゃんと二人きりにして。いろいろ話したいことがあるからー」杉野マネージャーと千奈津を追い出してしまった。シャンパンを注いでくれる小桃さん。「で、いろいろ話すことがあるでしょ?」「………まあ」「紫藤大樹との過去。教えなさいよ」小桃さんは軽い感じで変わった性格をしているけど、信用はできる人。だから、全てを打ち明けたの。「宇多寧々が絡んでるのね。あの子可愛いのに性格がおブスなのよ。なんかされたらやり返してあげる。でもね、あの子……自分に自信がないだけだと思うの」「あんなに綺麗なのに?」「ええ。でも、それと美羽ちゃんの恋愛を邪魔するのは別問題なんだけどね」憎くて怖くて悪魔のような人だと思っていたのに、そんなに心が弱くて傷つきやすい人だと知った。素直に彼女にも幸せになってもらいたいと思った。
last updateLast Updated : 2025-01-17
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第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい13

大樹side「元気、ないみたいだけど。何かあった?」楽屋で待っていると池村マネージャーが話しかけながら、コーヒーを用意してくれる。「そうかな。気にかけてくれてありがとう」コーヒーを受け取ってスマホを見るが美羽からの連絡はない。お風呂場で愛した次の日の朝、目を覚ますと美羽は消えていた。俺に言葉をかけずに、だ。一日くらい連絡がないのは仕方がないだろうと思いつつも、美羽からいつメールが来るかいつ電話が来るのかと待っていた。でも、いつまで経っても連絡がない。「疲れましたか?」「いや、気にしないで。さて、今日も収録頑張ってくるか」クリスマスやらお正月などの特番の収録が多い時期で仕事はいつも以上に忙しくなっていた。――美羽は、俺が男として機能しないから、連絡をしてくれないのだろうか。美羽はおそらく子供を産みたいと考えているだろう。だから、俺がこういう状態だと知って一気に熱が冷めてしまったのかもしれない。そんなことを考えつつスタジオに向かう。どんなに辛いことがあっても夢を与える仕事だ。俺は一回一回、心を込めて仕事をしていく。司会者である俺が、最後にスタジオに入ると、大きな拍手で迎えてくれた。今が旬のタレントがひな壇を飾っている。「よろしくお願いします」お客さんとタレントに挨拶をした。「では撮影入りまーす」アシスタントディレクターの号令で番組観覧に来ている人たちが拍手をする。そして、俺は元気よく司会進行していく。「さぁ、はじまりました! クリスマススペシャル!」仕事は楽しい。こうして今仕事をしていられるのも、事務所の力だったり、いいプロデューサーに出会えたからだ。その中には寧々の存在もある。寧々の父親は大物プロデューサーで今はテレビ局の役員まで務めている力ある人だ。テレビ業界は横の繋がりは本当に大事なのだが、それにビクビクしながら働くのはどうなのかと疑問を持っていた。もっと応援してくれる人達を信じるべきなんじゃないか?
last updateLast Updated : 2025-01-17
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