乃亜が会社のロビーに入ったとたん、足を止められた。「こんにちは、お客様。どなたをお探しでしょうか?」「凌央さんにお会いしたいんです」乃亜はできるだけ優しい口調で答えた。「ご予約はございますか?」フロントの女性は乃亜の外見を見て、まるでいつも来るようなタイプだと思ったのか、少し冷たい口調で尋ねた。その言葉を聞いて、乃亜は今日は凌央に直接電話しないと会えないことを理解した。彼女はその女性には何も言わず、すぐに携帯を取り出して凌央に電話をかけた。一度目、電話は切られた。二度目も、また切られた。乃亜は怒りを押し殺して冷笑を浮かべ、山本に電話をかけた。山本はすぐに電話を受けた。「奥様、こんにちは」「私は今、会社の1階ロビーにいる。迎えに来て」乃亜は山本が何か言う前に、すぐに電話を切った。上の階で、山本は急いで社長室に報告に向かった。「凌央さん、奥様が下の階にいらっしゃいますが、迎えに行きますか?」凌央は眉を揉みながら低い声で言った。「上がらせろ」あの電話は、わざわざ自分に知らせるためにかけてきたのか?この女、よくもこんなことをしておきながら、今さら現れるなんて大胆だ。山本はすぐにフロントに電話をかけた。少しして、乃亜は社長室の扉を開けて入ってきた。山本は彼女が怒りを露わにした顔を見て、思わず心が「ドキッ」とした。何か良くないことが起きそうな予感がした。「山本さん、出てください。凌央さんに話がある」乃亜は、これは自分と凌央の家庭の問題だと思い、他の人に聞かれるのを避けた。山本は凌央を見て、指示を求めた。「水を一杯持ってきて、さっさと戻ってこい」凌央は冷たい口調で言った。山本は急いで水を持ってきて、テーブルに置き、すぐに部屋を出て行った。彼が初めて見た、凌央の前で怒りを見せる奥様の姿だった。明らかにとても怒っている様子だった。山本が部屋を出ると、乃亜はソファに座り、水を一口飲み、ようやく少し落ち着いた。凌央はデスクを越えて歩み寄り、彼女の向かいに座った。その深い瞳が彼女の顔をじっと見つめ、鋭い口調で言った。「なぜ美咲に手を貸した?知っているか?彼女、命を落としかけたんだぞ!」乃亜は凌央が先に攻撃してきたことに驚き、手に持っていたカップがわずかに震えた。深呼吸をして彼と目を合わせると
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