All Chapters of 前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意: Chapter 81 - Chapter 90

それを聞いて、美香は目を吊り上げて言った。「奈津美！どういう意味！？」皆が奈津美を見た。田中部長はそれを見て、前に出て言った。「お嬢様、あなたはまだ若い。奥様は滝川グループのためを思って......」田中部長の言葉が終わる前に、奈津美は遮って言った。「田中部長、この会議室で、一番お母さんの肩を持つべきではないのは、あなたよ」「お嬢様、それは......どういう意味ですか？」田中部長はまだ状況を理解できていなかった。奈津美は微笑んで言った。「本来、家の恥は外に出すべきではないし、私もお母さんの顔を立てて我慢しようと思ってた。でも、あなたたちはあまりにも厚かましい。私が許しているのに、図に乗って会社を要求してくるなんてね」「奈津美！言葉遣いが汚いわ！」美香が何か言おうとした時、奈津美は山本秘書に目配せした。山本秘書はパソコンで数回キーを叩くと、スクリーンに社長室の監視カメラの映像が映し出された。社長室の中で、田中部長と美香が机の上で情事に耽っている様子が映し出された。この光景を見て、皆の顔色が変わった。出席者の多くは奈津美の父の側近だったため、社長の未亡人が他の男と情事に耽っているのを見て、気分を害した。実は、美香と田中部長の関係は、社内では公然の秘密だった。多くの社員が知っていた。ただ、上層部の人間はまだ知らなかっただけだ。美香はこの映像を見て、青ざめた。彼女は怒りで奈津美を指さしたが、言葉が出てこなかった。「あ......あなた、まさか！」「お母さん、人は見ていなくても、神様は見ているわ。父はあなたを裏切ったことなど一度もない。滝川奥様という身分を辞めたいなら、そう言えばよかったのに。こんなみっともないことをする必要はなかったのよ」奈津美の声は冷たかった。美香の顔色は悪く、田中部長は恐怖のあまり、床に崩れ落ちそうになった。「お嬢様！お嬢様、私たちはただ魔が差したんです！魔が差したんです！」「魔が差した？二人のことはこの会社ではもう公然の秘密よ。今まで見て見ぬふりをしてきたのは、過去のよしみがあったから。でも......お母さん、あなたはもう会社経営に関わるべきではないわ」そう言って、奈津美は株主たちと役員を見て言った。「皆さんはどう思いますか？」奈津美の父と親しかった重役の一人が

奈津美が手に取ったティーカップを涼が押さえた。涼はティーカップを脇に投げ捨てた。カップは床に落ちて砕け散った。「奈津美、お前は本当に残酷な女だ。昨夜、危うく騙されるところだった」「黒川社長、何のこと？私にはさっぱり分からないわ」奈津美はとぼけた顔で涼を見つめた。涼は冷たく言った。「お前はおばあさまと組んで芝居を打ち、わざと俺と二人きりになり、綾乃に誤解させて、400億円を手に入れようとしたんだろう？」涼の言葉を聞いて。奈津美は涼が会社の危機を脱するために使った400億円は会長からもらったものだと疑っていることを理解した。「黒川社長、本当に考えすぎよ」奈津美は真剣な表情で涼を見て言った。「昨夜のことは私に全く関係ないし、400億円も私が自分で調達したもので、会長とは何の関係もないわ」「まだ嘘をつくつもりか？」涼は目を細めて言った。「以前はお前が金目当ての女だと思っていたが、今思うと、お前の欲は俺の想像以上だな」そう言って、涼は奈津美に近づき、「俺を陥れるために、そこまでして、一体、おばあさまからどれだけの見返りを貰ったんだ？」と言った。涼との距離が半歩まで縮まったのを見て、奈津美は反射的に一歩下がった。「涼さん、どうしてそんな風に考えるのか分からないけど、言うべきことは全て言ったわ。それでも信じないなら、仕方ない」奈津美の無関心な様子を見て、涼はさらに苛立ち、冷笑しながら言った。「お前は随分自信があるようだな。俺がお前に何もできないとでも思っているのか？」「黒川社長、本当にうぬぼれているわね。私はあなたのことなんて全く考えていない。あなたが婚約を破棄したくなければ、会長が余計なことをしなければ、私たちに関係なんてなかったのよ」奈津美の言葉を聞いて、涼の表情は冷たくなった。奈津美は言った。「私たちはもう関わらない方がいい。私たちの噂が落ち着いたら、何か理由をつけて婚約を破棄すればいいじゃない？」「そう言えば、お前は婚約を破棄したいのか？」「ええ」奈津美はためらうことなく答えた。「いいだろう、教えてやろう」涼は一字一句はっきりと言い放った。「お、前、は、夢、を、見、る、な」そう言うと、涼は手を上げて「入れ！」と叫んだ。田中秘書が数人を連れて入ってきた。奈津美は眉をひそめた。

田中秘書は思わず言った。「黒川社長、どうも腑に落ちないのですが......」滝川さんは以前とはまるで別人です。さっきまであんなに嫌がっていたのに、今は大人しくキッチンで料理をしているなんて。どうしても疑ってしまいます。「何が腑に落ちないんだ？」涼は冷淡に言った。「奈津美は金と力を使えば、簡単に屈服する。あんな女、ふん......」8時になった。涼は二階から降りてきた。奈津美は最後の料理をテーブルに並べ、エプロンを外した。涼は言った。「着替えてから降りてこい」命令口調の涼に、奈津美は「服は？」と尋ねた。「滝川さん、これがあなたの服です」使用人が使用人服を奈津美に渡した。奈津美はこれが涼からのあからさまな侮辱だと理解した。涼は奈津美が怒ると思っていたが、彼女は使用人服を持って大人しく二階に上がっていった。「黒川社長......」田中秘書は言わずにはいられなかった。「会長はいないですが、滝川さんをこんな風に侮辱したら、会長が戻ってきたら......」「知られたところで構わない」涼は冷たく言った。「滝川家など黒川の人脈づくりの踏み台に過ぎない。倒産寸前の会社のお嬢様に、尊厳など必要ない」涼は席に着いた。その時、涼の客がやってきた。奈津美は二階から様子を窺っていた。今日の客は、黒川と提携予定の海外企業の社長、田村社長だと分かった。奈津美は、礼二と涼がこの田村社長との契約を争っていることを覚えていた。どちらが契約を取れるかで、海外進出の成否が決まるのだ。奈津美は片眉を上げた。前世も涼は今日、田村社長を自宅に招いて食事会を開き、この契約を取り、礼二に差をつけようとした。そして彼女は、田村社長を満足させるために、心を込めて様々な料理を考案した。その結果、田村社長は涼との提携を選んだ。しかし......今世は違う。奈津美は部屋に戻って着替えた。一階では、田村社長はテーブルに並べられた中華料理を見て、美しい盛り付けに満足げに言った。「黒川社長も食通でいらっしゃるんですね。どれも素晴らしい料理です」涼は言った。「これは、私の専属シェフが作った料理です。黒川との提携に対する我々の誠意の表れです」涼は奈津美の手柄を自分のものにした。奈津美の料理の腕前は確かに素晴らし

この程度の魚の見分けもつかないはずがない。田村社長が何も言わないのを見て。奈津美は中華風アヒルを切り分け、鴨肉と中の海鮮を取り出して田村社長の前に置き、「田村社長、これは中華風アヒルです」と言った。中華風アヒルの中にスッポンなどの珍しい食材が入っているのを見て、田村社長は箸をつけようとしていた手を止めた。田村社長は絶滅危惧種の保護大使を務めており、多額の寄付をして動物の保護活動を行っていた。そんな彼がこの料理を好むはずがない。田村社長が箸をつけようとしないのを見て、涼は「お口に合いませんか？」と尋ねた。「黒川社長もご存知でしょうが、私は若い頃、海産物の商売をしていました」田村社長は冷淡な表情で言った。「ですから、これらの食材については誰よりも詳しいつもりです」涼はまだ何が起こっているのか理解していなかった。田村社長は続けた。「私は、嘘や偽りが大嫌いです！今回の提携は、見送らせていただきます」涼は眉をひそめた。「田村社長、私の家でささやかながら食事を用意しております。もしよろしければ、そちらへ移りませんか？」礼二がそのタイミングで口を開いた。田村社長は頷いて、「では、失礼いたします」と言った。そう言うと、田村社長は立ち上がり、礼二と一緒に黒川家を出て行った。今回は、田村社長は涼に全く面子を立てなかった。「黒川社長！」田中秘書が入ってきて、追いかけるかどうか尋ねようとした時、涼の目は冷たくなった。この神崎市で、涼に恥をかかせるような真似をする人間はいなかった。「奈津美、一体どういうつもりだ？」突然、涼は奈津美を問い詰めた。奈津美は無邪気な顔で言った。「黒川社長、私に関係ある？田村社長は自分で帰ったのよ。私はずっと黒川社長の味方をしてたのに。黒川社長が何か田村社長に失礼なことをしたんじゃないの？」涼は眉をひそめた。確かに奈津美は彼の味方をしていた。何か仕組んだようには見えなかった。しかし、涼は彼女がズワイガニをタラバガニに、アオウオを桂魚にすり替えていたことを知らなかった。涼には分からなくても、田村社長には分かったのだ。前世、彼女は涼のためにこの契約を成立させるため、田村社長の好みを調べ上げた。田村社長のために特別にこれらの料理を作り、彼に涼を高く評価させ、黒川との

「早く行け」涼の声に苛立ちが感じられたため。田中秘書は仕方なく二階に上がった。田中秘書は奈津美の部屋の前でドアをノックし、「滝川さん、社長がお呼びです」と言った。部屋からは何の音もしなかった。田中秘書は眉をひそめ、もう一度「滝川さん？」と呼んだ。部屋は依然として静まり返っていた。田中秘書は「滝川さん、失礼します」と言った。そして、田中秘書はドアを開けた。部屋の中は綺麗に片付けられていたが、奈津美の姿はどこにも見当たらなかった。それを見て、田中秘書は慌てて一階に降りてきて、青ざめた顔で言った。「黒川社長、滝川......滝川さんがいません！」「何？」涼の顔色は険しくなり、彼はすぐに二階に向かった。奈津美の部屋はもぬけの殻だった。涼の顔色はますます険しくなり、田中秘書は「黒川社長......もしかして、滝川さんは逃げたのでは......」と言った。「そんなこと、言われなくても分かっている」涼の声には怒りが滲み出ていた。「すぐに奈津美に電話しろ！」「は......はい......」田中秘書は急いで携帯電話を取り出し、奈津美に電話をかけた。しかし、奈津美の電話は繋がらない。「黒川社長......滝川さんの電話が繋がりません」涼は怒りで顔を真っ赤にし、怒りながらも笑って言った。「この女！滝川家を全く気にしていないようだな！」その時、田中秘書は携帯電話に届いたニュースを見て、顔色を変えて言った。「黒川社長！見てください！」携帯電話のニュースには、滝川グループと望月グループが提携するという記事が掲載されていた。さらに、礼二が個人的に滝川グループに400億円出資したことも書かれていた。「黒川社長......」「出て行け！」涼の表情は暗かった。奈津美......まさか既に逃げ道を作っていた！望月グループと提携すれば、俺に何もできないと思っているのか？涼は冷たく言った。「奈津美を探し出せ！どこへ逃げたか、見つけて来い！」「かしこまりました、黒川社長」同時に、神崎経済大学。「うっそ！本当に黒川家から逃げ出したの！？」月子は奈津美の話を聞いて、顎が外れそうになった。「他にどうしろっていうのよ？涼の家の使用人になるわけ？」「すごい！すごすぎる！」