「黒川社長、この服を着てどこへ行くの、教えてくれないと困るわ」奈津美は、「これは普通の場所に着ていく服じゃないわ」と言った。「今夜のチャリティパーティーに、一緒に行こう」涼が自分をチャリティパーティーに連れていくと聞いて、奈津美は眉をひそめた。「どうして白石さんは連れて行かないの?」「俺が綾乃を連れて行くのを望んでいるのか?」涼の声には不満がにじんでいた。奈津美はそれを否定した。「そういう意味じゃないの。ただ、白石さんの方が黒川社長にはお似合いだと思うだけよ」「奈津美、俺を突き放そうとしているのか?」「何を言ってるの?私たちはただの政略結婚で、しかも期間限定よ。お互い、好きにすればいいじゃない。白石さんを気に入っているのは、この業界じゃ有名な話だし。なのに、どうして私を連れて行く必要があるの?」奈津美は、言葉の端々で涼の反応を窺っていた。涼は冷たく言った。「好きなように遊ぶか......お前と礼二は随分と楽しんでいるようだな」「黒川社長と白石さんには敵わないわ。子供までいるんだもの」奈津美の何気ない一言で、涼の顔色が曇った。周囲の空気が一気に凍りついた。奈津美は、子供の話が涼にとって禁句であることを知っていた。当時は噂話に過ぎなかったが、真実ではないとは言い切れなかった。涼の様子から見て、どうやらその噂は真実である可能性が高かった。「社長、皆様お揃いのようです」田中秘書が部屋に入ってきた。その後ろには、メイクアップアーティストとスタイリストたちが、化粧道具の入ったバッグを手に控えていた。「滝川さんを上の部屋へ案内しろ」「かしこまりました、社長」田中秘書は奈津美を二階へ案内した。メイクアップアーティストとスタイリストたちも後に続いた。1時間後。涼は腕時計を見て、苛立ったように言った。「準備ができたか見てこい」「かしこまりました、社長」田中秘書が二階へ上がろうとしたその時、奈津美が人々に囲まれて降りてきた。水色のマーメイドドレスを身に纏った奈津美。完璧なウエストとヒップラインが、彼女のスタイルを際立たせていた。黒く艶やかな長い髪はストレートに伸ばされ、腰まで届いていた。元から美しい顔立ちに、薄化粧が施され、息を呑むほどの美しさだった。目の前の奈津美を見て、
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