礼二が土地を持って行ったと聞いて、涼は勢いよく立ち上がった。「何?」「黒川社長、私はただの女の子よ。投資なんて何も知らないわ。それに、あの土地は私が買ったんじゃないの。望月先生が欲しがってたのよ。あなたも知ってるでしょ、当時は私は滝川グループの実権を握ってなかったんだから、100億円なんて出せるわけないじゃない。だから黒川社長、もしあの土地が欲しいなら、望月先生に頼んで。先生が売ってくれるならね」奈津美は無邪気な様子だったが、涼には彼女の言葉に悪意が込められているように聞こえた。「奈津美、ふざけるな!お前があの土地を買ったんだろう、どうしてそんなに簡単に人に譲るんだ?」「黒川社長、そう言うことじゃないわ。お金を出してくれたのは望月先生よ。今、望月先生が返せって言うんだから、私にどうしろっていうの?返すしかないじゃない」奈津美はため息をついて言った。「正直、後悔してるわ。あんなに値上がりするって分かっていたら、無理してでも自分で買っておけばよかったのに。もう、無駄に喜んだだけだわ」「お前......」涼は奈津美に呆れて、何も言えなかった。こんな棚からぼたもちを、奈津美はあっさり礼二に譲ってしまったのだ。望月グループと黒川グループが犬猿の仲であることは、誰もが知っている。もし土地が礼二の手に渡ったら、下半期の黒川グループの温泉プロジェクトは間違いなく頓挫する。涼が怒って出て行こうとするのを見て、奈津美は引き留めるふりをした。「黒川社長?もう帰るの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」奈津美への返事は、「バタン!」というドアの閉まる音だけだった。涼が出て行ったのを見て、奈津美は演技をやめ、ベッドに横になって目を閉じた。幸い涼は、南区郊外の土地を彼女が父親からもらった結婚資金で買ったことを知らない。もし知っていたら、何としてでも滝川グループを圧迫して、あの土地を奪おうとしたに違いない。礼二、本当にごめんなさい。またあなたを盾にしちゃった。一方、神崎経済大学では――「ハクション!」礼二が初めて、大学構内で人目を気にせずくしゃみをした。生徒たちが自分を見ているのに気づき、礼二は眼鏡を押し上げ、静かに言った。「授業を続けよう」しばらくして、授業終了のチャイムが鳴った。礼二は腕時計を見て時間を確認し
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