奈津美は月子の言葉で、目の前の問題用紙をよく見始めた。本当だ。こんなにくっきりと書かれているのに、今まで気づかなかったなんて!一番困ったのは、この問題を7日間も解き続けていたことだ。「博士課程の試験問題...... 道理で難しいと思った」「難しい? 今年は授業にも出てないのに、こんなに解けるなんて。奈津美、どうやったの?」奈津美は適当に書いていたわけではなかった。前世の3年間、彼女は黒川グループで涼の代わりに会社の仕事をしていたからだ。金融業界のことは大体、奈津美はもう知り尽くしている。実務経験を3年間積んだことで、試験問題を解くのは朝飯前だったのだ。ほとんどの問題が解けているのを見て、奈津美は小さく笑みを浮かべて言った。「今回は大丈夫そうだね」一方、黒川財閥では。雪はオフホワイトのシャネル風スーツを着て、黒川財閥に足を踏み入れた瞬間、社内中の視線を集めた。「これが清水さん? 黒川社長の新しい婚約者だって噂よ」「確かに綺麗だけど、性格はどうかしら」「きっと黒川社長にお弁当を届けに来たのね。前の滝川さんもそうだったけど......」社員たちは自分の席でひそひそと話していた。滝川さんは黒川社長に気に入られようと、毎日趣向を凝らしたお弁当を届けていた。しかし、黒川社長は一瞥もくれなかった。清水さんも同じだろう。雪は周りの社員が自分のことを噂していることなど、つゆ知らず。雪が社長室のあるフロアに足を踏み入れると、田中秘書が会議室から出てきて、彼女に近づき言った。「清水さん、黒川社長は今会議中で、お会いできません。お荷物は私にお預かりします」「いいえ、ここで待っているから、会議が終わったら一緒に食べましょう」雪はこれまで何不自由なく育ってきたお嬢様だった。両親から涼に取り入って、早く婚約者の座を掴むように言われていなければ、わざわざお弁当を作って届けに来ることなどしなかっただろう。昨日から雪は、涼が自分に興味を持っていないことに気づいていた。だからこそ、涼の目に留まるように努力しなければいけないのだ。「それでは、清水さん、こちらでお待ちください」田中秘書は給湯室の椅子を指して言った。「もうすぐ昼休憩ですので、人が少し多くなりますが、ご了承ください」「どういうこと? 私は
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