涼が四季ホテルに入ってきた。支配人が挨拶に近寄ってきたが、田中秘書に遮られた。雪も涼に会うのは初めてだ。清水家の神崎市における地位では、涼のような人物に会う機会はなかった。写真で見るよりも涼が冷徹な雰囲気を漂わせているのを見て、雪は思わず顔を赤らめた。彼の顔立ちは、芸能界のトップスターにも引けを取らないほどだ。「黒川社長......」雪は立ち上がって挨拶をしようとしたが、涼は彼女の向かい側に座った。涼の顔に笑みがないのを見て、雪は仕方なく座り直した。「時間は限られているので、形式的に進めよう」田中秘書がコーヒーを運んできた。涼は一口だけ飲んで、店員に料理を出すように合図した。涼が自分にあまり興味がない様子なので、雪は我慢して言った。「黒川社長、会長に言われてお見合いに来たんです。私は社長のことが......まだ何も知らないんです」「俺は好きなものは特にないが、嫌いなものはたくさんある」涼は冷淡に言った。「清水さんがビジネスのためだけの結婚でも構わないと言うなら、次の話に進もう」それを聞いて、雪は驚いた。「黒川社長、どういう意味ですか?」「第一に、俺は君を好きにならない」「第二に、俺には好きな人がいる」「第三に、清水さんには結婚後、花瓶として生きる覚悟をしてもらいたい」涼は単刀直入に言った。雪の顔色はみるみるうちに悪くなり、涼に侮辱されたと感じて顔が赤くなった。「好きな人がいらっしゃるんですか?それでしたら、なぜ私とお見合いをなさるんですか?」「ビジネスのためだけの結婚とはそういうものだ。清水さんは俺の噂を聞いたことがあるだろう?俺が結婚したい相手は君ではない」「あなた......」雪は唇を噛んだ。彼女は涼と綾乃の噂を聞いたことがあった。ただ、彼女はそれを気にしていなかった。綾乃は自分より美人ではないし、何年も付き合っていれば、男は飽きるものだ。男は皆、下半身で考える生き物だ。雪は涼の心を掴む自信があった。しかし、涼がここまでストレートに言うと、雪は面目を失った。涼は冷淡に言った。「二兎を追う者は一兎をも得ず。地位も愛も手に入れたい?この世の中にそんな都合のいい話はない。清水さん、よく考えてからまた話そう」そう言って、涼は立ち上がった。涼が出て行こうとするのを見
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