絵美のこの言葉は、健一には以前ここに来る資格がなかったと言っているようなものだ。美香はこの言葉を聞いて、顔がこわばった。しかし絵美は美香親子を非難するつもりはなく、ゆっくりと微笑んで言った。「滝川様は慣れていないかもしれませんが、今日一日あれば十分でしょう。帝国ホテルの宴会場を予約できる人は神崎市ではほとんどいないと聞いています。滝川様はこれからきっと大物になりますわ」一言で、その場を丸く収めた。しかし健一は、絵美の目の中の軽蔑を見逃さなかった。少し離れた場所で、奈津美は様子を見ていた。周りの人から見ると、健一は絵美と楽しそうに話しているように見える。しかし奈津美は、絵美のような女性が健一のような男を好きになるはずがないことを知っていた。涼がいなければ、上田家がわざわざ来るはずがない。「奈津美、何を見ているの?」月子は不思議そうに奈津美を見ていた。彼女はここで見ているだけでイライラしていた。美香親子は何を考えているんだ?奈津美が来たのに、挨拶にも来ない。それに涼は、綾乃と一緒にいることしか考えていない。会場には顔色を伺う上流階級の人々ばかりで、彼らは涼も美香親子も奈津美を相手にしようとしないことを見抜いていたので、誰も奈津美に話しかけなかった。ほとんどの人が奈津美を空気のように扱っていた。「涼様、私たちも乾杯しに行きましょう?」綾乃はシャンパンを手に取った。本来涼のような大物は、健一にわざわざ乾杯する必要はない。健一が主催者だとしても、彼から涼に乾杯するべきだ。しかし涼は奈津美を見ていた。奈津美は健一の様子を見ているだけで、彼と綾乃が親密にしていることなど全く気にしていないようだった。涼は眉をひそめて、綾乃の手からシャンパンを受け取り、綾乃の手首を掴んで「お前が行きたいなら、行くぞ」と言った。涼に手を引かれて、綾乃は顔を赤らめた。「見た?黒川社長と綾乃が手をつないでる!」「わざとじゃないの?婚約者がここにいるのに!」「婚約者も何も、黒川社長が奈津美を好きじゃないのは誰でも知ってるわ。奈津美はすぐに捨てられるわよ。あの二人は絶対に結婚できない!」......月子は周りの視線に気づいて、奈津美の腕を叩いて、「ちょっと!あなたの陰口を叩いてるわよ!聞こえない
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