見舞いに来たのは早苗だけではなく、他にも学生たちがいた。私がこう言うと、彼らは顔を見合わせて、誰一人として何も言えなくなった。すると、広樹はすぐに顔を曇らせ、「志帆!何を言っているんだ!」と怒鳴った。私は広樹と40年間夫婦をやってきた。彼は大学教授、私は専業主婦だ。この40年間、天気が変わるたびに、早苗は彼を呼び出して雨を聞き、雪を見て、花を葬り、草原を歩き、ロマンチックな瞬間を共有していた。だが、広樹は花粉アレルギー持ちだ。庭を一周するだけで体中がかゆくなる。彼の世話をするのはいつも私だった。病み上がりなのに、早苗の「雨の日に散歩するのは最高にロマンチックだね」という一言のために、雨に打たれても出かけて行った。私は彼に「体はまだ治っていないよ」と止めた。しかし広樹は「お前は心がないのか」と言って、早苗と一緒に並木道へ出かけてしまった。その結果、帰ってくるとすぐに熱を出して倒れた。その時、私は心の底から冷めた気持ちだった。早苗は彼の初恋で、婚約まで進んだが、どういうわけか別れてしまった。その後、広樹は私と出会い、結婚したが、早苗は再び彼の前に現れた。そして、そこからは止められない関係が続いている。早苗は私の不機嫌そうな顔を見て、慌てて弁解し始めた。「教授とは仕事のために……」「白川さんの仕事には興味ないわ。次回からカリキュラム表も公開しなくていい。雨の日に散歩が授業内容に含まれるとは思わないし」「私は40年間ずっと広樹の世話をしてきたけど、もう疲れた。次は他の誰かにしてもらって」私は水を置いて、彼に何の顔も立てず、バッグを持って病室を出た。背後では広樹の激しい咳き込みと早苗の驚いた声が聞こえたが、私は全く気にしなかった。病院の門を出たところで、息子の満から電話がかかってきた。「母さん、あんまりだよ。どうして父さんを病院に一人残していくんだ」「白川さんはただ冗談を言っただけだろう?母さん、器が小さいよ」「程々にして、早く戻ってきて!」その若い声を聞いた時、私は少し呆然とした。これが私の腹から生まれてきた子供だ。結局男っていうのは、私と共感することがない。冷たく言い放つ。「一応知識人でしょ?なら親孝行っていう言葉は知ってるよね」「満の父さんが3日も病気になっているのに、ベ
最終更新日 : 2024-10-25 続きを読む