私の人工流産手術が終わったのは、その日の夜だった。大雨は静かに降り続く小雨に変わっていた。テレビでは今日の豪雨に関する最新ニュースが流れていた。『本日の海浜市豪雨災害:3号線地下鉄で乗客18名死亡、600名が順次避難』麻酔の影響で体の不快感を我慢しながら、私は手を伸ばして携帯電話を取り、夫の葉山想に電話をかけた。隣では、母がまだ目覚めていなかった。私は思った。離婚すべき時が来たのだと。冷たく単調な呼び出し音が耳元で鳴り響き、自動的に切れそうになった瞬間、やっと葉山想が電話に出た。怒りと苛立ちの混ざった声で彼は言った。「何だよ、もう雨は止んだだろ!まだ俺に電話してくるのか?今日一日中忙しくて、熱いお茶一杯飲む暇もなかったんだ。花村さんは足を怪我して、犬も危篤状態だ。今、父さんが点滴を始めたところで、俺たちは付き添ってるんだ」「恵介さん、想くん、本当にありがとうね。今日、あなたたちがいなかったら、私とモモはどうなっていたか分からないわ。きっとあの地下鉄の18人の乗客みたいに死んでいたでしょうね」向こうから花村喜美の弱々しい声が聞こえてきた。そして義父の優しい慰めの言葉も。へえ、あの厳しい義父にもこんな優しい一面があったなんて。やっぱり、愛情の有無って大きな違いがあるんだな。私は苦笑いを浮かべながら言った。「あのね、想。私たち、離婚しましょう。私......もう耐えられないの」葉山想は2秒ほど固まった後、突然激怒した。「もういい加減にしろよ!分かってる、今日の豪雨で閉じ込められたんだろ。でも俺だって人命救助してたじゃないか?花村さんも閉じ込められてて、ついでに彼女と犬を救助したことが何か問題なのか?まさかこれで離婚したいって言うんじゃないだろうな!お前には同情心ってものがないのか。花村さんは一人で大変なんだぞ」大変?私と母は楽だとでも?一人は大手術を終えて退院したばかりで、もう一人は臨月の妊婦。他人どころか、犬にも及ばないっていうの!妊婦は感情的になりやすい。泣きたかったけど、無理に顔を上げて、必死に涙をこらえた。葉山想の怒鳴り声が続いた。「離婚だって?もう妊娠9ヶ月だぞ、本気で離婚する気か?お前はそんなにお腹の子を愛してるんだろ?父親なしで育てられるとでも思ってんのか?存在感出そうと
最終更新日 : 2024-10-10 続きを読む