真奈が幸江の会社に駆けつけると、幸江は入金額を見て飛び上がるほど喜んでいた。「真奈!すごいじゃない。あの最低な男、今頃どんな顔してるかしら?」幸江としては、冬城がここまでの金額を補償できるとは思ってもみなかったが、お金のことで文句を言うつもりなどさらさらなかった。多少の騒ぎはあったものの、この一件で間違いなく得をしたのだから。「補償金、もう振り込まれたの?」たった一時間ほどのことで、幸江ですらこんなに早いとは予想しなかった。「きっと個人口座から会社に直接振り込んだのよ」と幸江は言った。「そうでもなきゃ、こんなに早く入金されるわけないもの。あの冬城ったら、きっと世間体を気にして、自分の金で支払ったんでしょうね」真奈は会社内に黒澤と伊藤の姿が見当たらないことに気づき、思わず口を開いた。「二人はどこ行ったの?こんな大事な時にいないなんて」「もう、遼介ったらあの性格でしょう?会社に問題が起きたって聞いた途端、姿を消しちゃって。それであなたには内緒にしてって念を押されたのよ。きっと早くから冬城の仕業だって気づいていて、今頃報復の準備をしているんじゃないかしら」真奈は何か考え込むように静かに頷いた。黒澤が報復しようとするのは当然のことだった。でも、どうして自分には内緒にするの?「私も今日は頭に来ちゃって、つい電話しちゃったけど、今考えると遼介に知られたら帰ってきた時に絶対怒られちゃうわ!」幸江は後悔の色を浮かべていたが、真奈が口を開いた。「もう問題は解決したんだから、早く遼介に電話して。変なことになったら大変よ」ここは海城だ。冬城の言葉は的を射ていた。結局この街は彼の庭なのだ。今の黒澤は、海城でコネがあるとはいえ、冬城には敵わない。かえって厄介なことになりかねない。冬城を追い詰めすぎたら、何が起きるかわからない。「大丈夫よ。遼介はわきまえてるから。せいぜい冬城の会社に数日面倒をかけるぐらいよ」幸江は言いながらも、自分の言葉に自信が持てないような様子で、結局携帯を取り出して黒澤に電話をかけた。電話は一度だけ鳴って切られた。幸江は呆然として真奈に向かって言った。「あいつ……私の電話、切っちゃった……」真奈も携帯を取り出して黒澤に電話をかけると、一度鳴っただけですぐに出た。真奈は首を傾げた。「あれ、出たわよ」
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