母さんが若子を庇うのは、本来なら嬉しいはずなのに。 ―だけど、どうしてこんなにも虚しいんだ? 修はいつも、「選ばれる側」ではなかった。 「排除される側」だった。 「母さん、俺は誤解なんかしてない。若子が遠藤を選んだことが、間違いだなんて思わない。どんな状況であれ、彼女には彼女なりの理由があったんだろう。だけど―俺の立場からすれば、それは『正しい選択』なんかじゃない......俺にとっては、破滅だった」 そう言いながら、修はそっと胸の傷跡に手を当てる。 深く刻まれた傷痕は、今もなお、うずくように痛む。 ―あの日のことを思い出すたび、あの痛みが蘇る。 決して、癒えることのない傷。 「修......」 光莉の目に、深い悲しみが宿る。 その手が、修の手をぎゅっと握りしめた。 「......あんたがどれほど苦しんだか、私にはわかるわ。でも、もう若子とは関わらないと決めたのなら、それでいいじゃない。あんたには、まだ未来がある。たくさんの素敵な人に出会えるわ。だから、過去に囚われないで」 その言葉とともに、光莉の瞳から、涙がこぼれ落ちる。 ―どんなに強くあろうとしても、母親には息子の痛みが伝わる。 修がどれだけ傷つき、どれだけ絶望したのか― 彼が何も語らなくても、痛いほど伝わってくる。 若子が西也を選んだ。 本来なら、彼女を責めるつもりだった。 怒りをぶつけ、罵倒するつもりだった。 だけど...... ―西也もまた、自分の息子だった。 修も西也も、どちらも光莉にとってはかけがえのない子供。 若子の選択が、どれほど苦しいものだったか、今ならわかる。 彼女は、どちらを選んでも苦しんでいただろう。 もし自分が彼女の立場だったとして、正しい選択ができるのか? ―おそらく、できないだろう。 だから、彼女がその瞬間に何を思っていたのかなんて、誰にもわからない。 感情のままに、勢いで言葉を発したのかもしれない。 深く考える余裕すらなかったのかもしれない。 だって― 彼女にとって、二人とも「大切な存在」だったのだから。 ......ただ、そのうちの一人は、彼女を傷つけたことがある男だった。 彼女の選択は、きっと間違っていなかった。 修は静かにため息をついた。「.
Read more