車の中で、華恋と哲郎はどちらも口を開こうとしなかった。だが、華恋はこの静寂をむしろ楽しんでいた。しかし、哲郎が突然口を開いた。「おじいさんの話は気にしなくていい」華恋は訝しげに哲郎を見た。「何のこと?」哲郎は眉をひそめた。「その......お前と旦那が仲良くやっていけっていう話だ」華恋は背筋を伸ばし、先に口を開いた。「それで、次は離婚しろって言うつもり?賀茂哲郎、あんたにどんな立場があってそんなことを言うの?私が誰と過ごすかは私の自由よ!」哲郎は口を開いたが、しばらくしてやっと言葉を絞り出した。「彼はお前にふさわしくない」「ふざけないで!」他のことなら、華恋は笑って流せるが、時也のこととなれば話は別だ。彼女は真剣な目で哲郎を見つめ、はっきりと言った。「この世に彼より私にふさわしい人はいないわ。魂の伴侶って聞いたことある?彼こそが私の魂の伴侶よ。私が何をしたいか、彼は一目見ただけで分かてくれるの」哲郎はゆっくりと息を吐いた。しかし、胸の奥にあった重苦しさは、吐息とともに軽くなるどころか、さらに重くのしかかった。彼はまた、あの日、時也に言われた言葉を思い出した。手に入らないから余計に欲しくなるだけだと、おじさんに言われた。だが今、華恋が夫をこんなにも高く評価しているのを聞くと、とても不快だった。これ以上聞いていたくなかった。彼女の口にする「彼」が、自分だったらいいのに。そんな考えが頭をよぎった瞬間、哲郎はハンドルを危うく切り損ねるところだった。自分が......華恋の......夫になりたい?いや、そんなわけがない。彼は必死に否定しようとしたが、冷静になればなるほど、その考えはますます脳内を支配していく。哲郎は深く息を吸い、荒唐無稽な思考を押し込めた。華恋は怪訝そうに哲郎を見た。彼が長い間何も言わないので、ようやく納得したのだろうと思い、安堵の息をついた。「だから、もう私の前で彼の悪口を言わないで。あなたは彼のことを何も知らないし、評価する資格もないわ。でもまあ、私たちはもう会うこともないでしょう」哲郎は二度も心をえぐられるような言葉を浴びせられ、苛立ちを隠せなかった。「どういうことだ?まさか地球から消えるつもりか?」華恋は
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