契約終了、霜村様に手放して欲しい のすべてのチャプター: チャプター 261 - チャプター 270

白石沙耶香は、自分が昼間に霜村凉平に会いに行くと迷惑がられるかもしれないと思っていましたが、彼に会った第一声が「タバコをやめろ」という言葉で、少し驚きました。彼女本当はカッコよく「霜村凉平、別れましょう」と言い放ち、そのまま背を向けて去ろうと考えていましたが、彼の言葉に心が揺れ、今はその言葉が喉につかえて出てきませんでした。霜村凉平は彼女の手を取ると、そのまま別荘の中へと導きます。「そんなに急いで僕に会いたくなったってことは、僕が欲しいってことか？」沙耶香は先ほどまで少し感動していたのに、彼のそんな言葉に表情が曇りました。「違うわ、ただ……」彼女が話し始めると、霜村凉平は突然彼女の顎を指でつかみ、深いキスをしました。そのキスは強く、彼女が呼吸できないほどで、沙耶香は思わず彼の腰をつねってやっと止めさせました。彼女がようやく息を整えたところで、霜村凉平は彼女を抱き上げ、そのまま寝室へと連れて行きました。そして彼は彼女をベッドに投げ出し、ネクタイを外し、シャツのボタンを外しながら彼女の上に覆いかぶさりました。すべてが終わると、沙耶香はいつものようにベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、タバコを探しましたが、霜村凉平がその手を押さえ、彼女をそのまま自分の腕の中に引き寄せました。「なんでお前はこんなに言うことを聞かないんだ……」彼は呆れたように言いましたが、その口調にはわずかな愛情も感じられました。沙耶香は彼の胸に抱かれながら、彼のくっきりとした首筋を見上げました。「もう吸わない……」彼女の大切な人、和泉夕子が戻ってきたため、煙草や酒に頼る必要がなくなったのです。ただ、これまでに染みついた習慣をやめるには少し時間がかかるかもしれません。霜村凉平は彼女の額にそっとキスをし、「それでこそ、良い子だよ」と、柔らかな声で言いました。その優しさに沙耶香は一瞬戸惑いましたが、霜村凉平がどの女性にも同じように優しく接することを思い出し、彼に対する感情を心の奥にしまい込みました。彼女はそっと霜村凉平を押しのけ、服を整えて立ち上がり、ベッドサイドで彼を見つめました。「霜村凉平、私たち、別れましょう……」霜村凉平は少し驚き、彼女を見つめ返しましたが、すぐには何も言わず、ただ静かに彼女の表情を見つめていました。彼女が名前で呼ぶのは滅多にないこ

白石沙耶香は手を振り、気にしていない素振りを見せた。彼女が気にしているのは、霜村冷司が夕子を訪ねてきたという事実だった。沙耶香は少し不思議そうに尋ねた。「霜村冷司が何しに来たの？」和泉夕子は、冷司が感情を抑えられない様子を思い出し、少し言葉に詰まった。「彼、私を8年間も愛していたって言って、もう一度チャンスをくれって……」そう言って、夕子は口元に苦笑を浮かべた。「沙耶香、なんだか滑稽じゃない？あんなことをされておきながら、愛してるだなんて」彼に対する深い傷が残る中で、今さらの告白が本物だとは到底信じられなかった。沙耶香はその言葉に驚き、少し複雑な表情を浮かべた。「夕子、一つ伝えておきたいことがあるんだけど、実はあなたが亡くなった後、霜村冷司があなたを訪ねてきたの」「彼は、あなたの死を知ったとき、生き地獄のような表情をしてたわ」「でも、そのときは彼があなたを死に追いやったと信じ込んでいて、彼のことを憎んでいたから、深く考えもしなかったの」「でも、今になって彼が8年もあなたを愛していたと言っていると聞くと、もしかしたら……本気だったのかもしれないね」冷司が本当に夕子を愛していたのなら、なぜあんな風に彼女を手放し、さらに別れた後、あの二人のために彼女を傷つけるようなことをしたのか理解できない。沙耶香は、復讐のために霜村涼平に近づいて以来、冷司について何度か尋ねたことがあった。だが、涼平も彼女の目的を見抜いているようで、兄のことは口を閉ざしていた。そのため、冷司がなぜ夕子にあんな仕打ちをしたのか、沙耶香も分からないままだった。夕子は一瞬驚き、冷司が彼女の死に絶望していたという事実が信じられなかった。心の奥が少しだけ痛んだが、沙耶香が勘違いしたのだと思うようにした。「彼は、きっと罪悪感を抱いただけよ」あの一撃が命を奪ったのだ、たとえどんな冷酷な人間でも、一つの命を奪ったことには動揺するはずだ。沙耶香はその言葉に納得し、冷司がどんな気持ちでいたか深く考えるのをやめ、夕子に問いかけた。「それで、夕子、今でも霜村冷司のことを愛しているの？」夕子は柔和な表情を徐々に引き締め、冷静に言い放った。「もう彼には心が死んでしまったわ」沙耶香は何か言おうとしたが、夕子がそれを制して言った。「沙耶香、私たち早めに空港に向

和泉夕子は冷司の言葉を聞いて、皮肉な笑みを浮かべた。「私の推測が正しければ、霜村さんは自分の身体にぴったりな相手が見つからなかったから、こうして私に執着しているんでしょうね？」冷司はその言葉を聞くなり、蒼白な顔がたちまち陰り、冷たく険しい表情を浮かべた。瞳は血のように赤く燃え、内に秘めた想いが影に隠れていく。彼は怒りの限界に達したかのように、無意識に彼女の頬を掴み、小柄な彼女を目の前に引き寄せた。彼は彼女の小さな顔をじっと見つめ、歯を食いしばって言った。「その通りだ。君以上に合う相手が見つからなかったから、こうして君を離さないでいるんだ」夕子の胸が微かに引き裂かれるような感覚に襲われ、息苦しい痛みが顔に浮かんだが、彼女はそれを抑え込んだ。彼女は何事もないかのように笑みを浮かべ、「私はもう既婚者です。以前のような商売はやめましたから、霜村さん、どうかご勘弁ください」と言った。冷司の胸が締め付けられるように痛み、彼を逃げ場のない網で覆いつくすかのようだった。夕子は腫れた唇を開き、「霜村さん、主人が待っていますので、放していただけませんか」と言った。冷司の目が赤く染まり、「彼が君の主人なら、俺は一体何だったんだ……」と問いかけた。夕子は冷淡に答えた。「かつてのパトロン」かつてのパトロン……。冷司は薄く笑みを浮かべ、その胸を焼き尽くすような痛みを押し殺して、冷たく彼女を見つめた。「和泉夕子、君は本当に冷たいな」彼女が冷たい？彼女の冷たさなど、彼の千分の一にも及ばない。夕子はこれ以上彼と関わりたくないと思い、彼女を掴んでいる彼の手に冷たい視線を向けた。「放して！」冷司の顔が暗くなると、彼はますます彼女を強く抱き寄せた。「君を彼と一緒に行かせはしない」池内蓮司は彼が夕子を見つけられないように、屋敷の使用人や空港のスタッフと結託して、彼を欺いていた。彼が航空会社の役員に連絡を取って蓮司の行程を確認しなければ、夕子はもう彼と共に去っていただろう。彼は彼女の冷たい言葉も、彼女の愛のない態度も耐えることができる。しかし、彼女が他の男と共に去ることだけは、絶対に許せなかった！夕子は呆れたように微笑み、「私の身体がそんなに恋しいのですか？」と冷たく言った。冷司は心を引き裂くような痛みに耐えながら、彼女の問いに答えた。「そう

和泉夕子はその場で凍りつき、信じられないように冷司を見つめた。「彼…生きているの？」霜村冷司は心の底に湧き上がる痛みを抑えながら、ゆっくりと頷いた。「そうだ、生きている」その言葉を聞いた瞬間、彼女の目には、久しく失われていた光が再び灯っていくのが見えた。やはり、桐生志越だけが彼女の心を動かすことができる存在なのだ。彼は何をしても、彼女にとってはただの背景に過ぎない。冷司は苦笑いを浮かべた。彼からの確認を得て、夕子の目には涙が浮かんでいた。「彼は……もう……」ニュースでは彼が殉情自殺したと報じられていたし、沙耶香もそう言っていた。どうして……冷司は淡々と応えた。「俺が彼を助けたんだ」夕子は驚愕し、涙に濡れた瞳で冷司を見た。桐生志越を救ったのが彼だなんて…彼女は混乱し、複雑な感情が心の中に渦巻いたが、最後にはただ一言、「ありがとう」とつぶやいた。その「ありがとう」は、二人の間に冷たい距離を作り出した。冷司はその言葉が耳に痛かった。冷笑しながら彼女に問いかけた。「お前は何の立場で彼の代わりに礼を言っているんだ？池内蓮司の妻としてか？それとも、彼の妻としてか？」彼の言葉に、夕子は罪悪感が増幅するのを感じた。彼女は視線を落とし、唇を噛みしめ、無言で答えるしかなかったが、手のひらは爪が食い込むほどに強く握られていた。冷司は彼女の指をそっと開かせ、自分を傷つけさせないようにすると、静かに言った。「彼に会わせてやる」彼の広い手が彼女の小さな手を包み込み、指を絡ませ、しっかりと握りしめた。そのまま彼は彼女の手を引き、外へと向かった。外では相川涼介が池内蓮司を抑えており、蓮司は怒りに満ちた表情で彼を睨みつけていた。「すぐに俺の仲間が来るぞ」涼介は、池家の四男が目の前で人を呼ぶ様子に少し驚きつつも、冷静に対応していた。蓮司がさらに何か言おうとしたその時、夕子が姿を現した。彼はすぐに冷静さを取り戻し、夕子に歩み寄った。「春奈」冷司は彼を一瞥しただけで、夕子の手を引き、彼の横を無言で通り過ぎようとした。池内蓮司は顔色を変え、夕子の腕をつかみ、冷たい声で命じた。「飛行機が待っている。さあ行くぞ」夕子は蓮司を見上げ、静かに言った。「ごめんなさい、今は行けないの。私は……」彼女が言葉を終える前に、冷司が彼女

霜村冷司は彼女の顎を片手で掴み、無理やり自分を見つめさせた。目の前の男は、かつてと変わらず高貴で端正な顔立ちをしている。だが、深い瞳の下には薄く黒いクマが浮かんでいて、それでも彼の容姿には一切の陰りがない。彼の髪はきっちりと整えられ、その厳格で禁欲的な雰囲気をさらに引き立てている。白いシャツのボタンが二つ外れ、襟元が少し開いて、そこから覗く鎖骨と、その下に続く引き締まった胸筋、そして長い脚が見える。和泉夕子は、帰国してから初めて彼をじっくりと見つめ、彼が変わったようで変わっていないことに気づいた。霜村は、彼女の瞳に自分の姿が映るのを見て、ほんの少し口元を緩めた。この瞬間だけ、彼女の瞳には自分がいるのだ。彼はその細い指で彼女の短い髪を撫で、「昔は長い髪が好きだったよな」と言った。夕子のまつげが微かに震えた。かつて彼が長い髪を好んでいたため、彼女はそれを切ることなく保ち続けていた。しかし今、池内蓮司に強いられて短く切った髪は、彼女が過去と決別し、もう彼のために長髪を保つことはないことを象徴している。霜村は彼女の髪からそのまま手を下ろし、彼女の心臓のあたりに触れた。その瞬間、何かを思い出したかのように、彼の表情には罪悪感が浮かんだ。そして、震える声で彼女に問いかけた。「ここ……まだ痛むか？」夕子は軽く首を横に振った。「心臓を交換してからは、痛まない」彼女は心臓に触れられている手が微かに震えているのを感じた。思わずその手に目を向けると、彼の手首には深い傷跡が四本も刻まれていた。まるで刃物で切られたように、その傷跡は手のひらにも続いており、癒えた今でも、骨に届くほど深かったことが伺える。夕子は、霜村冷司のような立場の人物がそんな傷を負うとは思えず、誰が彼を傷つけたのかも分からないまま、彼をじっと見つめた。罪悪感で心を満たした霜村は、再び彼女の心臓に触れることができず、彼女をしっかりと抱きしめた。長い沈黙の後、彼は再び口を開いた。「この三年間……どうだった？」夕子は彼の肩に寄りかかり、感情を表さずに答えた。「まあまあよ」そのたった二言で、彼女が自分のことを話したくないのだと悟った霜村は、それ以上追及せず、彼女の背中を撫でながら静かに言った。「水でも飲むか？」夕子は首を横に振り、窓の外を見つめて、早く到着することを待