All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 41 - Chapter 50

178 Chapters

第41話

週末、実は店は暇だった。一日を通して特に商売になるような状況ではないので、別に店を開ける必要はなかったのだ。内海唯花が店に来たのは、静かにネットショップで売る商品を作ることができるからだ。そこへ牧野明凛もやってきた。内海唯花が店にいるのを見て、牧野明凛はとても驚いて言った。「唯花、今日は日曜日だよ。どうして来たの?いつもなら甥っ子を連れて公園に遊びに行ってるじゃない」「ネットショップに新しい商品を出さないといけないから」内海唯花は売る小物をハンドメイドしながら、頭を上げて親友に笑って言った。「あなたこそどうしたの?」「聞かないで。お母さんにぶつくさ言われて耐えられなかったから店まで来たんだから」「おばさん、どうしてまた?」「あの日の夜のパーティで私が高値の錦鯉のオスを釣れなかったこと責めてるんでしょ、どうせ。お母さんったら上流階級の御曹司が簡単に糸に引っかかるもんだと思ってるのよ。自分の娘がそれに見合うのかも考えないでさ。私を絶世の美女だとでも思っているのかしらね」内海唯花はぷっと吹き出しだ。世の中の親というものはだいたいこういうものだろう。娘が結婚適齢期になったら、娘の結婚という人生の一大イベントにやきもきし始めるのだ。二十五歳と聞くと親の世代は、女は二十五過ぎたらもう歳で、売れ残りというクリスマスケーキ理論を展開する。しかし今の時代、この年齢はまだまだ若いうちに分類されるのだ。「お母さんったら、おばさんが彼氏紹介してあげるっていうんで、今晩カフェにお見合いに行ってこいですって。夜にカフェでお見合いなんてさ、ほんとコーヒー一杯で朝までお見合いできそうよねぇ」「唯花、今晩ついて来てくれない?」内海唯花は首をでんでん太鼓のように横に振った。 「唯花ちゃーん、首を横じゃなくて縦に振ってよ。私たち親友でしょ、お・と・も・だ・ち!唯花が一番義理堅いんだから、友達のためなら命も惜しまないでしょ?」「私義理人情に厚い人間じゃないから。あなたのために命を差し出す人なら、他をあたってちょうだいな」牧野明凛はご機嫌取りにこう言った。「男の人とちょっと話したら、美味しいもの食べに連れてくからさぁ」「私お金には困ってないので。食べたかったら自分で行きますから、奢ってもらう必要なんてございません」内海唯花は親友と一
Read more

第42話

おばあさんは内海唯花のハンドメイドの作品をいくつも受け取っていた。 中には細部まで丁寧に作られており、本物の花に見間違うようなビーズ作品もあった。おばあさんはそれを家の目に付く場所に飾っていた。それがどれほど価値のあるものではなくても、孫息子の嫁からの心がこもった贈り物だ。お客さんが訪問した時に、それを見て内海唯花の器用さに感嘆していた。おばあさんはここぞとばかりに内海唯花の作品の販路拡大をしていたのだ。実はその人たちがみんな内海唯花のネットショップで購入していて、こっそり陰で内海唯花の売上に貢献していたのだ。「結城おばあさん、お水をどうぞ」牧野明凛はおばあさんに水を持ってきた。「ありがとう、お嬢さん。あなたも今日ここにいるのね」「ええ、母からしつこく結婚の催促をされてなければ、店に隠れに来たりしなかったんですけどね。いっつも私のお見合いを勝手に決めて、売れない商品扱いされてる気分ですよ。今晩もカフェに行ってお見合いして来いなんて言われちゃって。それで今唯花に一緒に来てもらえないか頼んでいたところなんです」おばあさんの瞳がきらりと光り、笑みを浮かべて言った。「私はお母様のお気持ちがわかりますよ。今理仁以外の孫たちの結婚に頭を悩まされているんですから。いくら言っても聞いてくれないし。あの子たちにお見合いに行かせようとしたけど、一人も行かないのよ」「唯花ちゃん、今晩このお嬢さんに付き添って行ってきたらどうかしら?」内海唯花「......」おばあさんはなんと彼女に明凛のお見合いに付き合うように助言してきた。「あなたとこのお嬢さんは親友なんでしょ。彼女が行くなら一緒にあなたも行って、彼女と一緒にお相手の方をしっかりと見て評価するのも良いことだわ。なんといってもあなたはもう経験者なんだから」牧野明凛は激しく頷き、おばあさんは天の助けだと思った。「唯花、一緒に来てよ。あなたが来ないなら私も行かない。代わりにお母さんをどうにか言いくるめてちょうだい。いっつもお見合いを勝手に計画しないでって」牧野明凛は内海唯花に甘えてきた。おばあさんはまた隣で悪事の手助けをし、内海唯花は静かになりたかったので、仕方がなく言った。「今回だけですからね、二度目は絶対にないわよ!」「やった、唯花ってやっぱり最高の友達だわ」牧野明凛は親友
Read more

第43話

おばあさんは笑って言った。「なんでそんなに及び腰になっているの?あなたたちはもう結婚して立派な夫婦なんだから。理仁から来ないっていうのなら、あなたから行かなくちゃ。おばあちゃんはひ孫の顔が見たいのよ」内海唯花は顔を赤く染めて言った。「おばあちゃん、これ言うと怒るかもしれないけど、おばあちゃんのお孫さんにあんなに厳しくて冷たい顔を向けられたら、キスすらできないわ」おばあさん「......」結城理仁のおじいさんは生まれつき厳しく冷たい人間だった。おばあさんが若い頃、おじいさんのことを気に入り、何年も彼のことを追いかけていた。あらゆる手を尽くし終えてようやく手に入れたのだ。「彼にキスするとしたら、まるで冷凍室で一年間凍らせた冷たくてカチカチの骨にキスするような感じよ。そのせいで歯が全部抜けたらどうしましょう」おばあさん「......」「おばあちゃん、私と理仁さんのこと、心配しないで。自然にまかせましょ」どうせ彼女もただルームメイトとして過ごすだけだ。おばあさんは心の中で拒否した。彼女が心配せずにいられるだろうか。この子はおばあさんのお気に入りの孫息子の嫁だ。二人の結婚話が出た時、彼女は孫娘の不満も考えていなかった。そして、全力で催促してこの結婚を成立させた張本人だ。もし内海唯花がこの結婚で不幸にでもなったら、彼女は死ぬまで自責の念に苛まれるだろう。「わかったわ。自然に任せましょう。ここはおばあちゃんが片付けとくから、自分のやることを優先してちょうだい」おばあさんは家でもじっとしていられない人だった。いつも庭師の手伝いをし草花を手入れしたりしていた。以前は琴ヶ丘邸の周辺にある田畑の手伝いまでしていた。息子や孫たちから言われてようやくそれをするのをやめたのだ。さらにまた自分の家の会社の掃除もしに行くつもりだったが、彼女がそう言うと結城理仁の顔は一瞬で雷様になってしまった。恐ろしくて彼女は行くに行けなくなってしまった。おばあさんが店に来て内海唯花とおしゃべりするのは今回が初めてのことではなかった。内海唯花もおばあさんが人生の大部分を苦労してきたことはわかっていた。だからじっとしてはいられないのだ。片付けなんて朝飯前だろう。それでおばあさんに本の片付けや整理をするのを任せて彼女は自分の仕事に集中した。ハタキを持って本棚にある本を
Read more

第44話  

牧野明凛はもっと嬉しげに笑った。この話し方にユーモアがあるおばあさんが大好きだった。彼女はまだ結城理仁本人に会ったことがないが、親友からとても厳しくて冷たい人だと聞いていた。どうしてこんなにユーモア溢れるおばあさんからそのような孫が誕生したのだろうか。結城おばあさんとちっとも似ていないじゃないか。 すぐ結城辰巳がやって来た。 彼はお忍びで城下町まで遊びに来ていたお局様を迎えに来たのだ。このお局様はわざわざ彼に安い車で迎えに来るように伝えていた。 車庫にある一番安い車は使用人が買い物に行く用のBMWなのだが、それでも2000万はする車だった。新しいのを買いに行くのも間に合わないので、結城辰巳は庭師のピックアップトラックを借りるしかなく、その車でおばあさんを迎えに来た。 「義姉さん、ばあちゃんを迎えにきました」 結城辰巳は店に入ると内海唯花に挨拶した。 「ええ、気をつけてね。おばあちゃん、家に着いたらメッセージを送って」内海唯花はおばあさんと孫の二人によく言い聞かせた後、この日作った作品を二人に手渡した。彼女が結城辰巳に手渡したのは器用に作られた招き猫だった。 結城辰巳はそれを素直に受け取った。家でたくさん義姉の作品を見ていて、彼もとても楽しんでいたからだ。義姉の作るハンドメイドはそんなに高いものではないが、とてもきれいだと思っていた。 そしてすぐ結城辰巳はおばあさんを連れて帰っていった。 車が店から離れた後、おばあさんは二番目の孫に尋ねた。「この車どこで探してきたのよ?」 「田中さんがいつも肥料とか、鉢植えとか運ぶ時に使ってる車だよ。俺が借りてきたんだ。これなら義姉さんも何も疑わないだろ?」 一番上の兄が貧乏人を装っているので、彼らもそれに合わせて義姉の前では貧しいふりをしなければならなかったのだ。 しかし、これはこれで楽しかった。 結城辰巳はいつか兄が本気で義姉のことを好きになり、自分の正体を明かした時、義姉が騙されていたことを知ったら、どんな反応をするのか楽しみだった。 そうだ、実を言うと、彼は兄が彼女に振られ、彼女との関係を取り戻すのに必死になる姿を期待しているのだ。 「この車はやけに見覚えがあると思ったら、なるほど田中くんのだったのね」 おばあさんは携帯を取り出すと結城理仁に電話をかけた。 結
Read more

第45話

「あなたに何がわかるんだい?」このばあさんには計略があるのだ。結城辰巳はなにか悟って笑って言った。「ばあちゃん、また兄さんにドッキリを仕掛けるつもりなの?」おばあさんは横目で彼をチラリと見て言った。「これ以上無駄口を叩くなら、あんたに仕掛けるわよ」結城辰巳はすぐに黙りこくった。彼は兄に同情していたが、自分に災いが降りかからないように、やはり余計なことには口を挟まないほうがいいのだ。自分が死ぬより兄が死んだほうがよっぽど良いだろう。おばあさんは年を取ったいたずらっ子だ。子供心が非常に強い人で、自分の孫たちをつかまえて練習台にするのを楽しんでいた。一方、内海唯花は本屋を閉めて、親友からヘルメットを受け取って被り、車の鍵を取って言った。「私が運転する!」牧野明凛は大人しく後ろに座り、とても自然に内海唯花の腰に手を回して言った。「唯花、あなたが男なら良かったのに。それなら私あなたのところにお嫁に行くわ。それならお母さんから毎日毎日結婚の催促なんてされなくて済むのに」「大人しくしてて、勝手に触っちゃダメよ。あなたをバイクから振り落としちゃうかもしれないわよ!」内海唯花は親友にそう注意してから、バイクのエンジンをかけ、運転した。カフェ・ルナカルドなら内海唯花はよくその前を通っていたが、一度も店に入ったことはなかった。ただ彼女はコーヒーが嫌いだからだ。好きなのは薔薇茶か菊花茶だ。カフェ・ルナカルドに到着すると、お見合い相手はすでに店に来ていた。おそらく女性に好印象を与えるためだろう。男性はスーツに革靴スタイルで紅白ストライプのネクタイをつけていた。手には薔薇の花束を持って入口で待っていた。牧野明凛は親友の手を引っ張り彼のほうに向かって歩いていった。「すみません、河西さんですか?」 河西は牧野明凛と内海唯花を上から下までじろじろ眺め、はじめ彼の今晩のお見合い相手がどちらなのかよくわからなかった。紹介してくれた人はお見合い相手の写真を彼に見せてくれていた。彼はその写真を適当にチラッと見て、女性がとてもきれいだということだけ確認すると、あとは牧野嬢がどのような顔をしているのかまではよく覚えていなかった。紹介した人が彼に薔薇の花束を持って入口で待つように伝えていたので、牧野はお見合い相手が彼だとすぐにわかったのだ。「あな
Read more

第46話

「牧野さん、もっとゆっくりしていってくださいよ」河西は優越感に浸り、それを見せつけるのに力を入れているところなのだ。今牧野明凛を帰すなんてそんなもったいないことはしたくなかった。「河西さん、すみません、私たち合わないと思います。今後会うこともないでしょう」牧野明凛は直球ストレートで彼に投げつけると、内海唯花の手を引いて去っていった。歩いていると、親友が突然立ち止まって動かなかった。「唯花、どうしたの?」「私の夫だ」「はあ?」牧野明凛がまだそれに反応する前に結城理仁が二人の前に現れた。彼は深く沈んだ漆黒の瞳を内海唯花に落とした。口角を少し上げて何も言わなかった。しかし、内海唯花には彼から漂ってくる皮肉を感じ取っていた。なにを皮肉っているのだろうか?内海唯花は後ろを振り向き追ってきている河西を見てすぐに理解した。彼女はどういうことなのか説明した。「私の友達の明凛がお見合いに来たんです。私は彼女に付き添って来ただけですよ」彼女は別に焦って次を探しに来たわけではなかった。しかし結城理仁は依然として沈黙を保っていた。牧野明凛はここにきてやっと親友のスピード結婚の相手に会うことができた。超クールでカッコイイ!彼女は結城理仁が唯花のことを誤解しないように、事のいきさつを説明した。結城理仁はようやく口を開き冷たく言った。「さっさと家に帰れ」内海唯花は一言「うん」と言って彼に尋ねた。「あなたはどうしてここに?」「ばあちゃんがこの店の菓子を買ってこいと言ってきたんだ。ここのが好きだからな」結城理仁はおばあさんがわざとしたことだとわかった。内海唯花が親友のお見合いに付き添って来ることを知って、わざわざ彼にお菓子を買いに行かせたのだ。内海唯花が他の男と一緒にコーヒーを飲んでいるのを目撃し、孫息子がヤキモチをやくと思ったのだろう。「ああ」内海唯花は簡単にそれに答えると、夫婦はお互い黙ってしまった。結局内海唯花がこの膠着状態を打開して言った。「じゃあ私先に帰ります。おばあちゃんにお菓子を買って持っていてあげてください。ドアはロックしないでおきますから」結城理仁は低く冷たい声で答えて言った。「わかった」夫婦二人はこのようにして分かれた。内海唯花は親友のバイクに乗ってこの店を離れた。結城理仁はお菓子
Read more

第47話

内海唯花は結城理仁とおばあさんが一体何を話したのかわからなかった。カフェ・ルナカルドで結城理仁に偶然出くわしたことは、最初彼女にとって意外なことだった。しかし、おばあさんが牧野明凛のお見合いに付き添うように言ったことをこれと連想されると、内海唯花は結城理仁がどうしてあの場に現れたのか納得した。でも、おばあさんはどうしてこのようなことをしたのだろうか。結城理仁に誤解させるため?お見合いに行ったのは彼女ではなく、明凛だ。結城理仁があれを目撃したからといって別に......さっきカフェで結城理仁を見た時、結城理仁の表情はいつもよりもさらに霜焼けするほど冷たかった。内海唯花がいくら鈍くても、結城理仁があの時勘違いしたことはわかった。あの時、明凛がお手洗いに行っていて、彼女だけが河西と一緒に座っていたからだ。結局は明凛が戻ってきたので事なきを得た。彼女がすぐさま経緯を説明したので、結城理仁の顔つきは少し和らいだ。内海唯花はただどうしておばあさんが、このようなことをしたのかが理解できなかった。彼女はおばあさんを助けたことはあっても、恩着せがましいことは何もしたことはなかった。おばあさんはずっと彼女を恩人だと言って、いつも彼女によくしてくれた。道理から言えば、彼女をはめるようなことはしないはずだ。どういうことなのか頭で考えを巡らしながら内海唯花は家に帰ると、すぐベランダに行きハンモックチェアに腰掛けた。電気もつけずに外の夜空を静かに眺めていた。結城理仁はというと深夜にやっと帰ってきた。彼が帰ってきた時、内海唯花は夢の中だった。彼女はハンモックチェアでそのまま寝てしまった。結城理仁はそれを全く知らずに内海唯花の部屋のドアが閉まり、明かりも消えていたことから、彼女はもう寝てしまったのだと思った。そしてソファに座りテレビをつけた。彼がテレビを見るのは珍しいことだったが、家の中が静かすぎると思いテレビをつけたのだ。音量は一番小さくしていた。部屋で寝ている内海唯花を起こすと悪いと思ったからだ。「リンリンリン......」携帯が鳴った。表示された相手を見ると、辰巳からだった。「辰巳」「兄さん、大丈夫か?」結城辰巳は電話の中で心配して尋ねた。結城理仁は黙った後、彼に聞いた。「おまえ、ばあちゃんが俺をはめるって知ってたのか」
Read more

第48話

結城理仁は、おばあさんが彼に送ってきた動画のことを思い出した。内海唯花が熱心にハンドメイド作品を作っている姿はとても魅力的だった。彼は自分が何回も繰り返しその動画を見たことを認めたくなかった。しかし、心の中では認めざるを得なかった。一つのことに集中し自信満々の様子の女性。周りを魅了するその風格。まるで巨大磁石のように、人の目を引きつける人物だ。人は言う。自信のある女性が最も美しいと。内海唯花からは確かに自信が垣間見れた。彼女は粘り強く、自ら努力して向上する女性だ。「俺はこの歳になってもそのヤキモチをやいたことがない人間だぞ。これからもそれは変わらな......、まだ寝てなかったのか?」結城理仁は内海唯花がベランダからやってくるのを見て、少し驚いた。それに結城辰巳は答えて言った。「寝るとこだよ。寝る前に兄さんのこと思い出して電話したんだ。もうちょっとしたら寝るよ」結城理仁は電話を切った。結城辰巳「......」「ベランダに座ってたんです。そしたらいつの間にか寝ちゃってて。あなたが電話してる声で目が覚めたんです」結城理仁は額にしわを寄せて言った。「夜の風は冷たい。体を冷やさないようにしろよ」「心配してくれてありがとう」内海唯花はあくびをした。「結城さん、私先に寝ますね」結城理仁に今晩の出来事について、特になにも話さなかった。結城理仁は何も言わず、彼女の部屋を見ていた。彼女に彼と結城辰巳の話が聞こえていたかよくわからなかったし、聞こえていたとして、どこからどこまで聞いていたのだろうか。ああ、自分のテリトリーに妻という人間が増え、結城理仁は私生活のプライバシーがなくなってしまったと思った。次の日、朝食の時間、結城理仁は内海唯花がどれだけの話を聞いていたのかよくわかった。なぜなら彼の朝食の横には焼き餅が置いてあったからだ。内海唯花は朝食に豚汁を作っていた。夫婦それぞれ一杯ずつで、おにぎりと目玉焼きもあった。お椀の中には刻みネギや、ミツバ、豚肉も入っていた。内海唯花はキッチンから柚子胡椒の瓶を持ってきて、蓋を開け、箸で少しつまんで豚汁の中に入れた。そして、その柚子胡椒の瓶を結城理仁の前に差し出して言った。「少し入れますか?これを入れたらもっと美味しくなるんですよ」「遠慮しておく、ありがと
Read more

第49話

内海唯花は朝食を食べ終わると、例によってキッチンを片付け始めた。それが終わって出てくると、結城理仁に言った。「いってきます。出かける時、鍵をかけるのを忘れないでくださいね」結城理仁は彼女を見てからまた彼の焼き餅入り豚汁を食べ始めた。「そうだ、家にある果物を姉に持って行ってもいいですか?」彼女は顔合わせの時にたくさん果物を買ってきていた。おばあさんたちが帰った後、たくさん余っていて冷蔵庫に入れていたが、彼女たち夫婦では食べきれない量だった。結城理仁は今度は口を開いて言った。「義姉さんは家族だろ。君が持って行きたければ自由に持って行けばいい。俺にわざわざ聞かなくたっていいさ。この家のことは大きな事を除いて君が主体になってやってくれていい」「私たちはまだお互いをよくわかっていませんし、私はあなたの家に住まわせてもらっています。やっぱり一言夫であるあなたに断っておいたほうがいいと思って」「私も何でもかんでも姉にあげて、姉を助けているわけじゃなくて、買った量が多すぎたので持って行こうかと。私たち夫婦二人じゃ食べきれないし、しばらくしたら食べられなくなってしまうので、姉におすそ分けしようと思って。捨てちゃうのはもったいないですしね」結城理仁は一言「ああ」と言った。内海唯花は彼が異論がないのを見て、果物をふた袋分姉のところに持っていった。佐々木唯月は妹に言った。「唯花、なんでもかんでもお姉ちゃんのところに持ってきてくれなくていいのよ。お姉ちゃんは食べたかったら自分で買いにいくから」「うちは私と理仁さん二人だけだもの。私はたまに食べる程度だし、理仁さんは果物があまり好きじゃないし、置きっぱなしにして腐らせたらもったいないでしょ。彼がお姉ちゃんに持っていくように言ったのよ。お姉ちゃんは家族だからって」彼女は結城理仁が果物を食べているのを見たことがなかった。彼は毎朝早くに出かけて、帰ってくるのも遅かった。帰ってくると自分の部屋にこもってしまい、次の日に部屋から出てくるのだ。ほとんど家の中で何かを取って食べるようなことはなかった。内海唯花がもし彼に朝食を作らなかったら、彼は以前のように外で食べて、家にお茶すらもないだろう。妹がこう言うと、佐々木唯月はふた袋の果物を受け取った。 内海唯花は甥っ子と一緒にしばらく遊び、店に行って仕事
Read more

第50話  

結城理仁は冷たく言い放った。 神崎姫華は神崎グループ会長の掌中の珠で、また社長である神崎玲凰の実の妹だ。神崎家の中で深い愛情で甘やかされて育った東京で最も高貴なご令嬢だ。 「結城理仁、ちょっと待ってて」 神崎姫華は何かを思い出したかのように、後ろを振り向いて彼女の車まで戻り、車から鮮やかな薔薇の花束を両手で抱えておろした。 彼女はその大きな薔薇の花束を抱えて車までやってくると、それを車の中に押し込んで言った。「理仁、あなたにあげるわ。あなたとお兄様は仲が悪いけど、私はあなたを愛しているの。私思ったの。あなたに告白して本当に愛してるって伝えなきゃって」 神崎グループと結城グループは決して犬猿の仲とは言えないが、業種によってはお互い関わりがあった。昔から同業者は仇敵だと言われているが、両家の事業は商売において確かに競争しており、関係はそこまで良いとは言えないのだ。 神崎玲凰の実の妹である神崎姫華は何年も前に行われたパーティで結城理仁に一目惚れしたのだ。両家は商売上ぶつかり合いがあることから、彼女の兄だけでなく、彼女をずっと可愛がってきた両親も彼女が結城理仁を追いかけることに反対していた。 神崎姫華は甘やかされて育てられたが、決してバカな人間ではなかった。結城理仁を諦めようとしたこともあるが、長年彼を追いかけていたので忘れることができず、好きな気持ちは増すばかりだったのだ。 彼女は特に結城理仁のあの冷たい雰囲気がたまらなく好きだった。とても格好良く見えるのだ。結城理仁は若い女性が彼に近づくのを嫌っており、神崎姫華の支配欲を掻き立ててしまった。家族がなんと言おうとも結城理仁のことが忘れられず、大胆にも告白することにしたのだった。 今日から神崎姫華は堂々と結城理仁を追いかけることにした! 結城理仁の顔は一瞬にして闇よりも暗くなった。 彼は片手でその花束を受け取ると再び外へ放り投げた。とても遠くに。 そして車の窓を閉めると、運転手に冷たい声で指示を出した「出せ!」 「理仁、理仁、あなたを愛しているの。私あきらめないからね!」 神崎姫華は車の窓を叩きながら、大きな声で叫んでいた。 結城理仁の運転手は車のエンジンをかけながら尋ねた。「若旦那様、神崎お嬢様の車は?」 「突っ込め!」 運転手はアクセルを踏んで車にぶつかる
Read more
PREV
1
...
34567
...
18
Scan code to read on App
DMCA.com Protection Status