All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 31 - Chapter 40

178 Chapters

第31話  

妹の夫が聞いてくれたということは、おそらく東さんに取りなしてくれたおかげで彼女から全額もらうのではなく、少ない金額になったのだろう。 もちろん、十八万でも今の彼女にとってはかなりの出費だった。この出費を教訓にして今後外では気をつけることにしよう。高級車には、傷をつけてはいけない! 「旦那さんはもうすぐ帰ってくるんでしょ?」 「うん、明日帰ってくるよ」 「それならよかった。明後日私と旦那は早めに行くわね。あなたが自分でご飯を作るんでしょ?手伝うわよ」 妹と長年ずっと助け合って生きてきた佐々木唯月は、仕事もできるし、社交上手、料理や育児、家事全般も難なくこなせる人だった。ただ今は子供がいて時間がとれないし、給料もないので家で大人しく旦那の言うことを聞いて、専業主婦をやるしかなかった。 姉妹は電話でしばらく日常のことについておしゃべりしてから電話を切った。 「結城さん、毎日夜は残業ですか?」 「何か用があるのか?」 「もうすぐ週末になるので、おばあちゃんやあなたの両親も食事しに来ますよね。うちは物が少なくて寂しすぎます。この二日時間を作って家具を見に行きたくて、必要なものは買ってきたいんです」 結城理仁は黙った。 彼の仕事は本当に忙しく、毎日のスケジュールもパンパンだった。彼女に付き合って家具を買いに行く時間は本当に時間的に難しいかったのだ。 彼が何も言わないのを見て、彼の立場に立って考えてからこう言った。「時間がなければ、私自分で買いに行ってきますね」結城理仁は頷いて「この家の女主人は君だ。家の事は君が主体になって決めてくれていい。大きな問題は俺に言ってくれればいいから」と言った。実際に彼には家の細かいことに気を配るような時間はないのだ。 「わかりました。明凛に今日は店に行かないで買い物に行くと伝えます」 彼らの家は、ここからスタートだ。 結城理仁は何も言わなかった。 彼を身を翻し部屋へと戻っていった。 そしてすぐに部屋から出てきて内海唯花にひとこと言った。「仕事へ行ってくる」 「車の運転気をつけてくださいね」 内海唯花は心のままに念を押して言った。 結城理仁はあのまだ食べていない肉まんと豆乳を持って出ていった。 彼は内海唯花にお金持ちではないことを装うために買った車を運転してトキワ
Read more

第32話  

昨日の夜、内海唯花はわざわざ結城理仁が帰ってくるのを夜遅くまで待って、土曜日の朝一緒に市場へ野菜を買いに行くことを約束した。昨晩おばあさんに電話をかけて確認し、今日来るお客さんは二つか三つテーブル分必要になることを知った。結城理仁の弟たちも来るからだ。 彼女と結城理仁はもう結婚したのだから、結城家の嫁になった。両親だけでなく結城家の同世代の者たちにも兄嫁に会わせて、お互いを知っておかないといけないとおばあさんは言いたいのだ。 今日買わなければならない食材はとても多く、彼女一人では持って帰ってこられないだろう。それで結城理仁に車を出してもらえば、余分に食材を買っても持って帰る心配はしなくて良いのだ。 あの日と同じように、朝六時に結城理仁は内海唯花のLINE電話に起こされた。 寝起きが特に悪い結城理仁は、もはや修行僧にでもなれるほど本気で耐えては耐え、内海唯花に怒鳴りつけたい気持ちを抑えていた。 「結城さん」 内海唯花の澄んだその声は聞くと非常に心地よかった。 結城理仁は眉間を押さえ、低い声で言った。「あと十分時間をくれ」 「わかりました。今朝食を作っていますから、後で食べてくださいね。食べ終わったら買い物に出かけましょう」 結城理仁「......一体何時に起きたんだ?」 今は朝六時なのに、彼女はもう朝食を準備し終えていた。 「五時過ぎですね」 一人で二、三テーブル分の料理を作るのだから、かなりの時間がかかるため彼女は早起きするしかなかった。そうでないと間に合わないからだ。 結城理仁はそれ以上は何も言わず、黙って電話を切った。 家長に会うことを彼女はとても重要視していた。今日来るのは彼の家族たちだ。彼女のこのような態度に彼はとても満足した。 十分後。 結城理仁は普段着で食卓に現れた。 彼女はまだ食べている途中で彼を見て微笑んで言った。「私が作った味噌汁飲んでみてください。姉はとても美味しいって言ってくれるんですよ」 結城理仁は自分の朝食を見ると、とても美味しそうで食欲をそそられた。彼はせっかく作ったのだからとその朝食を食べてしまった。確かに美味しかった。彼女の料理の腕前は確かなものだ。 彼は本当に美味しいものが食べられて幸せだ。 彼女の手作りの朝食は外で買ってきたものより安心だ。 内海唯
Read more

第33話  

二時間かけて市場を回りようやく帰ってきた。 出かける時は高級車に乗りあまり歩き回らない結城理仁だが、普段体を鍛えているし、武術を嗜んだこともある。しかし、内海唯花と二時間も市場で歩き回り、荷物まで持たされてさすがに疲れ果ててしまった。 まだ処理し終えていない書類や、延々と続く会議をやることになっても、女に付き合ってショッピングや市場を回るのはもうご免だ。 車を止めて、内海唯花が車から降りる前に結城おばあさんから電話がかかってきた。 「唯花ちゃん、あなたたち家にいる?私たちは下にいるわよ」 内海唯花は笑みを浮かべて言った。「おばあちゃん、私たち市場から帰ってきたばかりなの。そこでちょっと待ってて。すぐ行くから」 「あなた理仁くんと一緒に市場へ?」 おばあさんはそれを聞いて楽しそうだった。心の中であのツンツンして偉そうなお孫様が城下町におりて内海唯花と一緒に市場を回るなんて。 彼に一般庶民を演じさせるのもまた良いことだ。彼に普通の人の生活というものを経験させよう。 「うん、買い物に行ってきたの」 「理仁くんは普段仕事で忙しいから、この歳になっても市場を回ったことなんてないのよ。彼を連れてもっと出かけてちょうだい。唯花ちゃん、理仁に荷物を持たせなさい。彼は力があるわ、あなたは疲れないようにね」 結城理仁「ばあちゃん、一体どっちが本当の孫なんだ?」 内海唯花は車を降りて、片手で携帯を持ち電話をしながら、もう片方の手で後部座席のドアを開け、中から折りたたみ式のカートを引っ張り出した。表情で結城理仁にカートを開くように合図した。 「おばあちゃん、安心して、私は全く疲れてないから」 このカートでは買ってきた物を全て入れることはできなかった。彼女が買った野菜や果物はたくさんあって、載せられなかった。残りは結城理仁が手に持つことになり、彼女は最初から最後までとても楽ができ、ちっとも疲れてなんかいなかった。 「おばあちゃん、私たち今からそっちに行くわ」 「わかったわ、後でね」 おばあさんは自分から電話を切った。 内海唯花は携帯をズボンのポケットに押し込み、カートを押しながら両手が塞がっている結城理仁に言った。「結城さん、行きましょう。おばあちゃんたちが下で待っています」 結城理仁と彼女は肩をならべて歩いていった
Read more

第34話  

この光景はなんとも形容し難かった。 「おまえ達よく覚えといてね。私たちの正体を明かさないようにしなさい。唯花ちゃんは何も知らないの。あなた達夫婦二人はあとで退職金はなく家で野菜や花を育ててたまに生活費を稼いでるって言いなさい」 「来る前に言ったことを忘れないでよ。もしぼろでも出したら理仁くんから痛い目に遭わされるわよ。その時は私に助けを求めないでよね」 おばあさんは孫のこの様子が面白いと思い、極力孫が一般人を演じる手助けをしようとしていた。 彼女は内海唯花がとても良い女性で絶対にお金に欲深い人ではないと固く信じていた。彼女の歳なら人を見る目は十分養われているからだ。 「わかった」 皆は低い声で応えた。彼らは内海唯花を全く知らないわけではなかった。内海唯花がおばあさんを助けた後、内海唯花にお礼を言ったのはおばあさんの息子夫婦だった。 結城理仁の母親は特に何も話さなかった。彼女はおばあさんが息子と内海唯花を結婚させることに反対していた。しかし、おばあさんがこの傲慢な息子を説得したものだから、彼女も止めようがなかったのだ。 内海唯花がおばあさんを助けてくれて、結城理仁の母親も彼女に感謝していた。彼ら一家は唯花に感謝を述べ、お礼をしようとしたが、彼女はそれをやんわりと断った。しかし、思いもよらずおばあさんは内海唯花のことを気に入ってしまった。彼女の人柄は非常に優れていると思ったのだ。 それからというもの必死に結城理仁と内海唯花の仲立ちをし、最終的にはおばあさんの望み通りになったわけだ。 結城理仁は内海唯花と結婚手続きをするだけで、あとはじっくりと内海唯花を観察すると言っていた。彼女が本当におばあさんが言うとおりの人物なら、彼は縁組を受け入れこの家庭に腰を据えるつもりだと。 結城理仁の母親は息子が内海唯花と円満に別れることを望んでいた。二人がお互いに性格や習慣など様々な面でうまくいかないと思っていたからだ。 もちろん、おばあさんが賛成しているからこそ、彼女が内海唯花に何かしようとは思っていなかった。自然の成り行きに任せればいいのだ。 「おばあちゃん」 新婚の二人がやってきた。 内海唯花は微笑んでおばあさんに挨拶をした。 そして、結城家の三人の息子とその奥さんたちにも挨拶をした。彼女は彼ら数人には会ったことがあるの
Read more

第35話  

結城蓮は人懐っこい性格で、すぐに内海唯花と楽しそうにおしゃべりし、打ち解けた。 この子は義姉が兄に荷物を運ばせている光景を目の当たりにした後、義姉という虎の大きな威を借りることをはっきりと決めた。彼は今後この虎が彼の後ろ盾になるのだと確信したのだ! 佐々木唯月と佐々木俊介は息子の陽を連れて結城家一行よりも少し遅れて到着した。 妻が他人の高級車に傷をつけ弁償しなければならなかったが、最終的に義妹の夫が車の持ち主と知り合いで、妻は十八万円支払うだけでよくなった。佐々木俊介はまだ会ったことのない相婿を過小評価できなかった。 本来今日の両家の集まりをそこまで重要視していなかった佐々木俊介は心変わりし、結城理仁に会った後、心の中で相婿の風格に驚かされた。彼の会社の社長よりも威厳があり、周りをビクビクさせるような人物だった。 「結城さん」 佐々木俊介は満面の笑みで結城理仁に右手を伸ばした。「はじめまして。私は唯花の義兄の佐々木俊介です」 結城理仁は佐々木俊介と握手を交わして淡々と挨拶した。「はじめまして、結城理仁です」 彼はまた佐々木唯月にも義姉さんと声をかけ挨拶した。 佐々木唯月は妹の夫が素敵な人だとわかった。結婚書類の中にあった写真よりも威厳があり、冷たそうで口数の少ない人のようだったが、彼女はとても満足した。 「陽ちゃん、挨拶しようか」 佐々木唯月は息子に結城理仁に挨拶するように教えた。 佐々木陽は丈夫で素直な子に育っていた。目元は母親ゆずりのようで黒々としてキラキラしていた。瞳をいつもくるくるとさせて周りを見回し無邪気で可愛らしかった。誰でも虜にさせてしまうような魅力のある子だ。 結城理仁は思わず尋ねた。「義姉さん、この子を抱っこしてもいいですか?」 佐々木唯月は微笑んで言った。「もちろんよ」 彼女はまず妹に息子を渡し、内海唯花が甥っ子を抱き上げて結城理仁に抱っこさせた。 佐々木唯月のこの動作に結城理仁は義理の姉を高く買った。とても気遣いができる人だ。それに礼節を知り疑われないようによく気をつけていた。彼が直接子供を抱っこした時に二人が触れ合わないように先に子供を内海唯花へ渡したのだ。 彼と内海唯花は法律上の夫婦だから、触れ合うことは普通のことだった。 佐々木陽は結城理仁に抱えられたまま上へとあがっ
Read more

第36話  

結城理仁は佐々木俊介と交流するのが好きではなかった。佐々木俊介が彼の一番嫌いなタイプであるだけでなく、佐々木俊介の唯月に対する態度が問題だった。 佐々木陽が喉が渇いた時、哺乳瓶の中には水が入っていたし、それは佐々木俊介が座っているテーブルの目の前に置いてあった。彼は動く必要もなく簡単に哺乳瓶に手が届く場所にいたのに、佐々木唯月をわざわざ呼んで息子に水を飲まさせたのだ。 今日はお互い初めて会った日だ。結城理仁の鋭い眼光から見てみれば、この相婿は家で佐々木唯月という妻の存在を全く眼中に置いておらず、しかも佐々木唯月が家で子供の面倒を見ているだけで楽なことだと思っているようだった。 結城家の家風、結城家の家訓が身に染みている結城理仁にとってみれば、このような妻を尊重しないクズ男は大嫌いだったのだ。 彼と内海唯花はいわゆるスピート結婚で、結婚手続きをする時に初めて顔を合わせた。全くの感情がないと言ってもいいが、彼は内海唯花を妻としてやはり尊重していたのだ。 内海唯花は彼がこう言うのを聞いて笑った。「気が合わないようなら必要ないですね」 「三男はおしゃべりなんだ。あいつがいれば義姉さんの旦那と交流してくれる。彼が俺たちを冷たい一家だと思うこともないだろう」 結城家の三番目の坊ちゃんは優しそうな顔をしているが内心は陰険な人間だ。誰とでもコミュニケーションをとることができ、会話中にも腹黒いことを考えていた。 「じゃあ、ちょっとお手伝いしてもらおうかな」 結城理仁は何も言わず、彼女の手伝いを開始した。 新婚夫婦がキッチンで一緒に準備しているのに両家の家長は非常に満足していた。 佐々木唯月は妹の夫がとても妹を大事にしてくれていると感じた。 食事の時、皆は内海唯花の料理の腕を絶賛した。 おそらく山海の珍味を普段食べ慣れているせいだろう。内海唯花が作った家庭料理が特別に美味しく感じられたのだ。 とても賑やかな一日だった。夕方、両家は夕食を食べ終わってから次々と帰っていった。この小さな家庭がまたいつものように静かになった。 内海唯花は部屋に戻ると、ソファに倒れこみ横になった。そして後ろに続けて入ってきた男性に言った。「もう立ち上がれないです」 結城理仁は何も言わなかった。 内海唯花はこのように言ってみたものの、別に彼からね
Read more

第37話  

「結城さん、私がやりますよ」 内海唯花は彼にそこをどくように目配せした。 結城理仁は少し黙り、その場を譲った。そしてエプロンを外すと内海唯花に渡した。 しかし彼はキッチンから出て行かず、彼女の側に立って内海唯花が食器を洗うのを見ながら言った。「次食事会があったら、ホテルに食べに行こう。手間がかからないだろ」 「はい」 内海唯花は特に意見はなかった。今日は両家の家長が会う日だったので彼女もおばあさんたち家族にお披露目する意味でも家でご飯を作ったのだ。 「ばあちゃん、君に何か言っていたか?」 結城理仁は突然尋ねた。 内海唯花は一旦手を止め、彼のほうを見た。 結城理仁も彼女を見つめ、夫婦二人はお互いに目を合わせた。結城理仁は彼女のまなざしから少し自分をからかっているのが見て取れ、彼女の言葉を聞いた。「おばちゃんが私たちが別々の部屋で寝てるんじゃないか?って。私たちは結婚したのだから私にもっと大胆になって、自分からあなたを押し倒して服を脱がせて、その、やっちゃいなさいと」 結城理仁「......」 こんなセリフを彼のおばあさんは吐けるのだ。 「それから、来年女の子のひ孫を抱かせてほしいと言ってました。特に強調して女の子のひ孫をって。もし女の子が生まれなかったら、女の子が生まれるまで産めだそうです。女の子が生まれれば報酬を出すって。おばあさんが一生かけて蓄えたものを全て私にくれるとか」 結城理仁「......」 彼のおばあさんの一生分の蓄えは数百億に達していた。 このおばあさんは本当に内海唯花というこの孫息子の嫁を重視しているようだ。 「あなたのおじいさまは女の子がいなかったのですか?」 結城理仁は首を左右に振り否定して言った。「俺の曾祖父さんにはたった一人だけ女の子がいたんだ。曾祖父さんの妹だ。だけど五歳になる前に他界してしまった。それから何代にもわたって女の子は生まれていない」 彼の代は男従兄弟九人だ。 内海唯花は引き続き皿洗いをしながら笑って言った。「なるほどおばあちゃんがあんなに気前が良い訳ですね。おばあちゃんの一生の蓄えを私にくれるだなんて。本来そんなことは出世するよりも難しいことですよ」 彼女のこの言葉を結城理仁は深読みしすぎた。彼女の化けの皮がようやく剥がれたと思ったのだ。なるほど、
Read more

第38話  

申し訳ないことに、夫婦の仲はまだそれほど良くはなっていないのだ。 彼らはどのみちルームメイト的な関係で一緒に生活するのだ。彼が彼女に対して天地が荒れ狂うほど怒りを爆発させたとしても、彼が彼女をここから追い出さない限り、彼女にとってはどうでもいいことだった。 内海唯花は食器を洗い終わり、キッチンをきれいに片付けてから他の部屋ももう一度整理整頓した。最後にあのベランダにある彼女が買ってきたハンモックチェアに腰掛けた。ゆっくりと夜風の涼しい風に吹かれ、チェアを揺らした。それに内海唯花はとても満足した。 彼女のベランダは小さな花の庭園のようで、花たちがすくすくと育っているのを眺め、内海唯花が改めて結城理仁の仕事に感心してため息をついたのは言うまでもないだろう。 ゆっくりと落ち着いた足音が聞こえ、ベランダのほうにやってきた。 すぐに結城理仁がベランダに現れ、内海唯花がハンモックチェアに揺られて満足げに気持ち良さそうにしているのを見た。結城理仁の顔はさらにこわばった。 彼は近づいてくると、二枚の紙を彼女に渡した。 「なんですか?」 内海唯花は興味津津に尋ねた。 結城理仁は何も言わなかった。つまり見ればわかる、他に何か聞くことがあるのかという意味だった。 二枚の紙を受け取り、内海唯花は書かれている内容を確認した。それはなんと合意書だった。彼が二枚印刷していたのは彼に一枚、彼女に一枚ずつということだ。 彼の名前はもうサインしてあり、押印も済ませてあった。 あら、とても本格的じゃないの。 内海唯花はつま先で地面をトントンと叩き、ハンモックチェアをもう一度揺らし始めた。彼女は椅子にもたれかかり、結城理仁が作った合意書を真剣にまじまじと読んだ。 合意書は紙いっぱいに書かれてあった。 内海唯花は重要な箇所だけを覚えた。彼らは今なんの感情もなく名義上の夫婦だ。彼の体によからぬ妄想を抱くな。はっきりと言えば、別々の部屋で寝て、夫婦らしいことはしないということだ。 それから半年以内に、二人がやはりなんの感情も抱けなかったら離婚すること。彼は今住んでいるこの家を喜んで彼女に譲渡し、あのホンダの車も一緒に彼女に贈るということだ。 他のことは特になかった。特に強調してあったのは彼女がおばあさんの私産に手を出すなということだった。こ
Read more

第39話  

内海唯花はペンを受け取ると、立ち上がってベランダの手すりまで行き、レンガの台を使って合意書にサインをした。 結城理仁は朱肉を持ってきて彼女に拇印させた。 二枚ある合意書は夫婦それぞれに一枚ずつだ。 内海唯花は適当にその合意書を折りたたむと、ズボンのポケットにしまいこんだ。 結城理仁は彼女のこのどうでもいいような態度を見て、瞬間心が少し塞いだ気がしたが、何も言えなかった。彼が自分で作成した合意書だ。合意書に書いてある要求はほとんどが彼女に向けて書かれたもので、彼女を用心するためのものだった。しかし彼女はその同意書に一切何も書き加えなかった。 「今日一日疲れましたよね。早く休んでくださいね」 「君もな」 内海唯花は笑って言った。「私はもうちょっとここで花を見ています。私にはずっと夢があったんです。小さなフラワーガーデンのようなベランダ。今はもう実現しちゃいました。とても気に入っているんです。 少しも合意書のことなど気にしていなかった。 彼と結婚して、まさか本当に何も企んでいないのか?全ては彼の思い過ごしだったのか? そうでなければ、どうして彼女がこんなに悟ったように、怒りも騒ぎもせずに笑っていられるのだ。 結城理仁は静かにしばらく彼女を見つめ、後ろを向いて去っていった。 すぐに彼は車の鍵を取り家を出て行こうとした。 内海唯花はベランダから一言尋ねた。「結城さん、出かけるんですか?」 「ああ、俺の事は待たなくていい。ドアロックはしないでいてくれ」 内海唯花は笑って「今まで結城さんを待っていたことはないですよ」 結城理仁は言葉に詰まった。 彼女のその言葉に一発殴られたような気分だった。 一発くらって、結城理仁は出かけていった。 彼は東家に行き東隼翔と酒を飲んだ。内海唯花のせいで本当に鬱々としていたのだ。 彼女のほうこそ耐えられず悲しむべきだろう。それなのに彼女は一寸も気にしていなかった。それと真逆に彼の心は塞いでいた。おそらく初めて他人から自分の存在をこのように軽く見られたからだろう。 その通り。内海唯花はちっとも彼が書いた容赦のない合意書など気にも留めていなかった。つまり彼のことなどどうでもいいのだ。 彼がこんなに格好良くても、彼女は全く彼を好きになるつもりはなかった。 彼がこんな
Read more

第40話  

彼らはただ法律上、夫婦関係なだけだ。彼が酔っ払ったとしても彼女に世話をさせるわけにはいかない。彼が酔っ払っている隙によからぬことをしでかすとも限らないだろう。 このお兄さんは三十歳だが、初キスもまだ誰にも差し出していなかった。 穢れなき御身であることはまた言うまでもないだろう。 彼は愛情というものを求めたことはなかった。 おばあさんはいつも彼が感情を知らない冷徹男だと怒っていた。しかし彼が愛というものに何も期待していないおかげで、おばあさんの遊説を聞き、彼女を満足させるために大人しく内海唯花を妻として迎え入れることになったのだ。 体中探してみても結城理仁は家の鍵が見つからなかった。「......七瀬、やはり彼女を起こしてくれ」 彼は家を出る時に、家の鍵を持って出るのを忘れたのだ。 ボディーガードはすぐさまドアをノックした。 内海唯花は寝ていたが、浅い眠りだったのでドアをノックする音が聞こえた。彼女が起きてよく耳をすませてみると、やはり誰かがノックをしているようだった。急いで起き上がりドアを開けにいこうとしたが、自分はパジャマを着ていることを思い出して、クローゼットから冬用のコートを取り出し、それを羽織っていった。 ドアが開くと、結城理仁と七瀬は内海唯花が分厚い冬用のコートを着て出てきたので驚いてしまった。 今は紛れもなく十月だ。朝と夜は少し涼しさを感じられたが、昼間はまだ死ぬほど暑かった。 冬用のコートを着るにはまだ早すぎるだろう。 「こんばんは。運転代行です。旦那さんがお酒に酔っているようなので連れてあがってきました」 七瀬の反応はとても早く、とりあえず嘘をついて結城理仁と車の鍵を内海唯花に引き渡した。 内海唯花は一瞬で自分が一頭の馬を抱えているように感じられた。お、重すぎる! 「どうもありがとうございました」 内海唯花は七瀬にお礼を言うと、七瀬は当然ですと言って若旦那様をちらりと見て、さっさと帰っていった。 ドアを閉めてドアロックをかけた。内海唯花は足元がおぼつかない結城理仁を支えながら、愛想を尽かして言った。「なんでこんなにお酒を飲んだんです?全身からお酒の匂いがプンプンしますよ」 結城理仁は何も言わず、心の中で愚痴をこぼした。おまえのせいだ! 車の鍵をテーブルの上に放り投げ、内海唯花
Read more
PREV
123456
...
18
Scan code to read on App
DMCA.com Protection Status