交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

178 チャプター

第21話  

結城理仁はずっと彼女がじっくり選び、花屋の店長と値引き交渉しているのを見ていた。ひと鉢千円の花が彼女の手によって半額になる様を。彼女に売らなければこの花が売れ残ってしまうような錯覚を、彼女は店長に植え付けていた。結城理仁にとってはこの上もなく新鮮な光景だった。 このお坊ちゃまは、買い物する時に一度も価格を見たこともなければ、値段交渉などもってのほかだった。 まさか彼の妻が値引き交渉の達人だったとは。花屋の店長と同じように深手を負った戦士のような気分になり結城理仁も笑いたくなってしまった。 お金を払い、内海唯花は買った鉢植えの花を一つずつ結城理仁の車に運んでいった。 結城理仁は最初横で見ていたのだが、女性一人に鉢植えを運ばせて彼は車の横で立っているだけだなんて非常に目ざわりだろう。そして彼は内海唯花の花を運ぶのを手伝い、全ての花を車に積むと、彼の車は花たちでいっぱいになってしまった。 幸い花屋の店長が彼らに車の座席に敷くための紙をくれたので、車の座席を汚さずに済んだ。 「他に何か必要なものはあるか?」 結城理仁は車に乗りながら妻に尋ねた。 「車はもういっぱいだから、他のものは載せられないでしょう。今日はやめておきます。家のことは一日や二日でなんとかできるものじゃないし、時間があるときにまたゆっくり買い揃えていきますよ」 内海唯花はシートベルトを締めると、携帯を取り出して時間を見て彼に言った。「私は先に帰りますね。あとで姉の家にいかないといけませんから」 結城理仁は黙ったまま車を運転し始めた。 「結城さん」 「なんだ」 「週末はおばあちゃんとあなたのご両親が来るんですよね。私も姉に声をかけて姉夫婦も一緒に食事をしてもいいでしょうか。私にとって家長は姉と義兄なんです。私たち結婚したんですから。私たちの仲がどうとかそういうのは関係ないんです。ご家族に会うなら、お互いの家の家長が会ったほうがいいでしょう?」 道端で偶然会った時にお互い知らないなんて、そんな馬鹿な話はなかった。 内海唯花には田舎に祖父母やおじさんたちがいるのだが、彼らは彼女たち姉妹のことを嫌悪していた。両親が交通事故で他界した後、彼らの中にこの二人を喜んで養ってくれる人など一人もいなかった。それだけでなく両親が命と引き換えに残してくれた賠償金の一部も持
続きを読む

第22話  

内海唯花は理解した。彼のような地位の高いホワイトカラーは、やはり特権を持っているのだ。 彼女はあの銀行カードを結城理仁に手渡し彼に言い聞かせた。「店長に値段交渉してくださいよ。定価の半額が相応な価格なんですから」 結城理仁はそのカードをまた突き返した。「ここにまだ金はある」 内海唯花は彼の瞳を見つめ、意地を張るのはやめた。 彼女は姉の家にいかなければならなかった。再び結城理仁に花を買うときには必ず値段交渉するように繰り返し言い、それから電動バイクの鍵を持って急いで出て行った。 彼女が出かけた後、彼女のこの夫は携帯でベランダの様子を撮影し、結城家の琴ヶ丘邸にいるガーデナーの星野にその動画を送った。 星野はすぐに電話をかけてきた。 「若旦那様」 「星野さん、動画を見ましたか。このベランダを花の庭園のようにしたいんだ。どのくらいの数の花が必要か見てくれ。それから温室から安めのもので、もうすぐ咲く花を選んでくれないか。花が咲いたときに派手で大きいものがいいな。それをトキワ・フラワーガーデンのB棟8階808号室に送ってくれ」 内海唯花に付き添って花を買いに行った時に、結城理仁は彼女が大きな花で、花びらがたくさんある八重のものが好きなことに気づいた。花びらが一枚だけの単調なものは好きではないようだった。 「それから、レシートを一枚用意してくれ」 星野「......わかりました」 「今日の夕方までに届けてくれ」 「かしこまりました」 お坊ちゃまが言いつけたことは彼はその通りにこなすのだ。 「上まで運んでベランダに置いてくれればいい、他のことはする必要はないぞ」 花をどう配置するかは内海唯花に自分でやらせるつもりだ。彼がやったら、彼女が気に入るとは限らないからだ。 星野はまた礼儀正しくそれに応えた。 結城理仁はさっさと電話を切った。 何も知らない内海唯花は昨日と同じように、姉と甥っ子に朝ごはんを買った。気分が良かったので、甥っ子に子供用の電動バイクを買ってあげた。 「おばたん」 内海唯花がドアを開けて中に入ると、甥っ子の佐々木陽が自分を呼ぶ軽快な声が聞こえた。 「陽ちゃん、今日はこんなに早起きなの。こっちきて、おばちゃんがプレゼント買ってきたのよ」 「くるまぁ」 佐々木陽はまだ二歳だから
続きを読む

第23話  

「朝ごはんを買うのにそんなにお金は使わないわ。お姉ちゃん、私わかってるから」 内海唯花の稼ぎは悪くないので、姉を金銭的に支えることができた。しかし、自分の稼ぎ全てを注ぎ込むことはできなかった。彼女は家を買いたいと思っているからだ。 「陽ちゃんも朝ごはん食べたの?」 内海唯花はそう尋ねながら佐々木陽の額を触ってみた。体温は問題なさそうだ。 「ミルクを飲んだの。たまご粥も作ってるのよ。お粥ができたらこの子に食べさせるわ。お腹を空かせたりしないから」 佐々木唯月は子供の世話には細心の注意を払っていた。 「お姉ちゃん、理仁さんが二日後帰ってくるの。今週の土曜日に彼の両親が来るんだけど、お姉ちゃんと義兄さんもその日トキワ・フラワーガーデンに来てよ。家長同士会って欲しいから。義兄さんにも伝えてもらえるかな」 それを聞いて佐々木唯月は喜んで言った。「旦那さんが出張から帰ってくるの?」 「金曜日の夜に帰ってくるって」 「わかったわ、彼に伝えておくわね」 妹が突然結婚し、佐々木唯月は心の中でどういうことなのかはっきりとわかっていた。妹がまだ嘘を付いているが彼女はその嘘に付き合っていた。実際は妹が好きでもない人と結婚したと心配していたのだ。 妹の旦那さんは実際はどんな人なのか、彼女は見たことがなかった。 妹が相手の家長に会うことを彼女はとても重要視していた。 姉の家で少し休んでから、内海唯花は仕事へと向かった。 佐々木唯月は妹が出て行った後、子供にお粥を食べさせて彼を連れて出かけた。まずは散歩、そしてショッピングするのが目的だ。新しい服を買って妹夫婦とあちらの親戚に会う時に着ていくためだ。 普段彼女は家にいて、子供の世話をしているから、適当な格好をしていた。全部そこらへんの店で買ったものだ。 まだ結婚する前は、いろんなことにこだわりを持っていた。着ていた服は決して有名ブランドのものではなかったが、そこらへんで適当に買ったものよりは数倍も高級なものだった。今は結婚して、子供を産み、仕事ができず収入もないため好き勝手に買い物できないのだ。以前の貯金は家の内装で使ってしまった。 今彼女がお金を使う時は、しっかり計画を立てて使っていた。ほとんどは家のために使い、ほんのひと握りのお金を自分自身に使っていた。 妹の旦那の家族に
続きを読む

第24話  

「アパレルショップだって、おまえ服でも買ったのか?しかもこんな高い服を!一気に二万使うって節約できないのかよ?俺が金稼ぐのは楽だとでも思ってるのか」 「俺は家と車のローンの返済があるんだぞ。両親に生活費もやらないといけないし、陽もまだミルクを飲むだろ。紙おむつだって買わないといけないし、全部金がかかるんだよ。おまえには稼ぎはないし、俺一人で家族を支えないといけないんだぞ。おまえは節約することも知らないのかよ。ちょっとは俺を気遣ってくれよ」 佐々木唯月は立ち止まり、夫からの非難が終わるのを待ち、彼女は釈明した。「唯花の旦那さんが金曜日に帰ってくるから、土曜日にお互いの家長同士会おうって言ってきたの。会って一緒に食事しようって。私は唯花の保護者よ、相手の家族に良い印象を残したいじゃない。以前買った服は今はもう着られないし、新しい服を二セット買うしかなかったのよ」 「あなたにも新しくスーツとネクタイを買ったわ。俊介、今週末はあなたのお母さんのところには帰らないでおきましょう」 佐々木俊介は彼女からの釈明を聞き、小声でブツブツと何かを言っていた。佐々木唯月ははっきり聞こえずに彼に尋ねた。「なんて言ったの?」 「別になにも。相手の家長に会うってんならちゃんとした格好でいかないと確かにだめだ。だけど、二セットも買う必要ないだろ。一セットで十分じゃないか。それに、おまえさっさとダイエットしろよ。痩せれば昔買った服だって着られるだろ。昔買ってた服の質は良いんだから、着ないともったいないじゃないか」 「おまえ自分を見てみろ、一日中食べて飲んで無駄遣いするだけで、今や豚じゃないか。本物の豚なら年末に殺して売れば金になるけどよ。おまえは金にならない豚だよ」 佐々木俊介は妻のぶくぶくと太った体を想像し、言葉の中に嫌悪が満ちていた。 普段の夫婦間の夜の営みについては、彼が特に耐えられない場合を除いて妻に触れることもしたくなかった。 以前のあの頭が切れて仕事をてきぱきとこなし、スタイル抜群で美しい佐々木唯月はいなくなったのだ! 彼は本当にたった三年の結婚生活で妻がこんなに太ったおばさんになるなんて思ってもいなかった。彼の母親と姉が言うことは正しいのだ。佐々木唯月はこんなに醜い姿へと変わり、お金も稼がず一日中家の財産を貪っているだけだ。 「佐々木部長」
続きを読む

第25話  

彼女は上司から追いかけられ、愛されるのを楽しんでいた。上司から贈られる花やプレゼントは全て受け取っていた。でも彼女から上司へはキス止まりで、その先のことは彼女は一線を越えなかった。 貞操が堅いわけではなかった。彼女は佐々木俊介に気を持たせているだけなのだ。 彼女は彼を求めていた。しかし不倫相手になりたいわけではなく、佐々木俊介の奥さんになりたいのだ。 しかし、佐々木俊介と今現在の妻は長年恋仲で大学の同級生同士だ。あの佐々木唯月とかいう女は以前この会社の財務部長だった。成瀬莉奈が会社で働き始めた頃には佐々木唯月はもう辞職した後で専業主婦になっていた。 成瀬莉奈は佐々木唯月とは会ったことはなく、会社の古株の同僚から聞いて知っていた。佐々木唯月は結婚後一年で息子の佐々木陽を産み、それからはずっと家で子供の世話をしていると。しかも出産の後体型は変わりまるでボールのように太ってしまったらしい。 彼女は佐々木俊介が自分の妻のことを豚みたいだと不満を漏らしているのを何度も聞いたことがあるのだ。 成瀬莉奈は心の中で佐々木唯月は本当に馬鹿な女だ、結婚したのだからスタイルを保つよう努力しなさいよ。ぶくぶく太って誰があんたなんかを好きでいられると思っているのと悪態をついた。 佐々木唯月に彼女が佐々木社長と不倫しているのを責める資格はない。佐々木唯月自身がスタイルを保つ努力をしていないばかりに佐々木部長が飽きてしまったのだ。しかも一日中家にいて無駄遣いばかりしているとは。 佐々木唯月が節約してお金を使ってくれれば、佐々木部長は彼女にたくさんのお金を費やすことができるわけだ。 佐々木唯月のことに触れると、佐々木俊介はすぐさま嫌悪感を顕にし言った。「あの女は本当に豚だ。あいつを見ただけで一気に冷めるね。息子のためじゃなけりゃあ、さっさとあんな女とは離婚してるわ」 それにしても義妹のほうはスタイルをキープしていて佐々木唯月より若くてきれいだ。あの姉妹は田舎出身のくせに、内海唯花の気品は唯月よりも満ち溢れていた。 もちろん、以前の佐々木唯月も高嶺の花といった雰囲気があったが、今ではあのように太ってしまい、気品、美しさ全てが台無しになっていた。 佐々木唯月は自分の夫が秘書と不倫関係にあるなんて思ってもみなかった。彼女は夫に秘書がいるとは知っていたが、電
続きを読む

第26話  

この時、何台かの高級車がゆっくりと近づいてきた。その中の一台はロールスロイスで結城理仁が乗っている車だ。その高級車を道の横に止めると結城理仁が車の窓を開けて傷のある男に大きな声で話しかけた。「隼翔、ここで何をしている?」 「車をとめて買い物してただけだよ。車に傷つけられちゃったけどな」 「車に傷つけた奴を捕まえなかったのか?」 結城理仁は本能的に言った。「車に傷つけた奴を探し出してやろうか?」 「いや、いいよ。その人の電話番号は教えてもらったから。車の修理が終わったら彼女に電話して弁償してもらうさ。ここ東京で東隼翔から逃げられるわけないだろ」 東隼翔は車に戻るとすぐに車のエンジンをかけ結城理仁に言った。「行こう」 結城理仁はそれを聞いてそれ以上何も言わずに車の窓を閉めた。そしてすぐに数台の高級車が連れ立って走っていった。 一日が過ぎるのは本当に早かった。 あっという間に夕方だ。 高校生が夜の塾帰りに本屋に立ち寄る時間を過ぎてから、内海唯花はキッチンで明凛と一緒に夜ご飯を食べるつもりだったが、姉から電話がかかってきた。 「唯花ちゃん、お姉ちゃんね、一日悩んだんだけど、正直言ってもうどうしようもなくて、あなたにお願いするしかないみたい」 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「今日午前中にショッピングに行ったんだけどね。陽を連れてベビーカーを押してる時にうっかりマイバッハにぶつかっちゃって。あんな高級車ちょっと修理しただけでもかなりの金額になるでしょ。見積もってみたけど、私のへそくりじゃお金が払えるかどうか。夫には相談したけど、怒られて何も言ってくれないの。私が招いたことだから、自分で解決しろって言われたわ」 それを聞いて内海唯花は心が締め付けられた。「お姉ちゃん、大丈夫よ。その車の修理代はいくらかかるの?」 「まだ分からないの。車の持ち主に私の電話番号を伝えてあるから、修理が終わってから彼から電話がかかってくるわ。それから弁償する」 「お姉ちゃん、陽ちゃんも二人とも無事ならそれでいいよ。修理代がいくらかかっても私達で払いましょ。私がお金を貸しておくから、心配しないでね」 佐々木唯月はむせび泣きしながら言った。「唯花ちゃん、お姉ちゃん本当にダメな人間よね。厄介事ばかり引き起こして」 「お姉ちゃん、わざとじゃない
続きを読む

第27話  

結城理仁は何も言わなかった。 午前中、東隼翔の車に傷をつけたのは、まさか本当に彼のまだ会ったことのない義姉だとは。 「結城さん、もう遅いですし、私先に休みますね」 姉を慰めにいったとはいえ、自分も自信がなく内海唯花も心理的にダメージを受けていた。 彼女は結城理仁にそう言うと、自分の部屋へ帰っていった。 結城理仁は唇を開き何か言いたそうにしていたが、彼女はもう部屋に入ってしまった。 ベランダの花は......彼女が明日の朝、起きて気づけば自分できれいにするだろう。 しかし、結城理仁は少し心がスッキリしなかったのだ。まるで自分は良い事をしたから彼女から褒められるのを期待しているかのようだった。 「結城さん」 部屋がまた開き、内海唯花は部屋から出てきて彼に尋ねた。「洗濯機を買ってきましたか?いくらでした?」 「洗濯機二台で十四万だ」 内海唯花は姉の家にある手動洗濯機と比べて、結城理仁が買ってきた洗濯機はそれに見合った値段だと思い、何も言わなかった。 「内海唯花」 結城理仁は彼女がドアを閉めようとした時に彼女を呼び止めた。 「君のお姉さんのことだが、心配しなくていい。君たちの負担が大きいなら俺に言ってくれ、君のお姉さんに少しお金を貸しておくから」 内海唯花は感激して言った。「結城さん、どうもありがとうございます。修理代がいくらかわかってから姉とお金が出せるか相談してみます。もし、足りなかったら姉の代わりにあなたからお金を貸してもらいますね」 結城理仁とは結婚してまだ数日しか経っておらず、お互いのことはまだよくわかっていなかったが、姉が困っている時に彼がこのような態度をとってくれたことに内海唯花はとても感激した。 「ああ。もう遅い、早く休んだほうがいい。あまり悩むことはない、必ずどうにかなるさ」 「結城さんも早めに休んでくださいね。おやすみなさい」 内海唯花は彼におやすみの挨拶をした後、部屋へと戻った。 結城理仁は少しリビングのソファで休んだ後、起き上がって自分の部屋へと戻った。 ドアを閉めると、携帯を取り出して東隼翔に電話をかけた。 「隼翔、もう寝たか?」 東隼翔は笑って言った。「まさか、俺は基本、夜中の二時か三時くらいにしか寝ないよ。どうしたんだ?酒のお誘いか?俺の家に来いよ、コレ
続きを読む

第28話  

「大した傷じゃないから保険使うのもめんどくさくてさ。理仁、急になんでこんなこと聞いてきたんだ?」 結城理仁は少し黙ってから口を開いた。「その車にぶつかった女性は、俺のばあちゃんの命の恩人のお姉さんなんだ。あの姉妹はお互い助け合って生きてきたらしい。その女性は今は専業主婦で収入がないんだと。おまえの車に傷をつけてしまってから、金が足りないんじゃないかと困っているんだ」 東隼翔「......あ、こんな偶然が?結城おばあさんの恩人の姉さんって、おまえどうやって知ったんだ?」 結城理仁は嘘をついた。「うちのばあちゃんは恩人の彼女のことがすごく気に入っているんだ。よく彼女に会いに行ってて、その恩人の様子がおかしかったから気になってどうしたのか聞いたらしい。それで恩人のお姉さんだとわかったんだ」 「まじか、その恩人とやらのお姉さんの名前は?なんていうんだ?」 「佐々木唯月、旧姓は内海だ。恩人の名前は内海唯花」 「唯花と唯月か、確かに姉妹って感じだよな。おまえんとこのおばあさんの恩人の姉さんなら、修理代は必要ないさ。たったの数十万なんかどうだっていいんだ。ただ俺は被害者だからさ、寛大な態度で相手に一円も出させないようじゃ、彼女に今回の件が教訓にならないだろうと思ってな。もしかしたら、次また他の誰かの車にぶつけてしまうかもしれないだろ」 東隼翔は有名な東家の四男で今年三十五歳になった。この家の継承者ではないが、自分の力で東グループを創立し、傘下の会社も少なくなかった。間違いなしの億万長者だ。 彼は豪快でさっぱりした性格の持ち主で義理堅い人物だった。若く血気盛んな頃は各地を放浪していた。顔にあるナイフでついたような傷はその時についたものだった。美容外科に行くのも面倒くさく、顔に刀傷があればもっと威厳があるだろうと言っていた。 「彼女に教訓を与えたいって言うなら、修理代によっては彼女に弁償してもらえよ。もしかなりの金額になるなら俺のばあちゃんの恩人に免じて、少し安くしてやってくれ」 二十万程度、結城理仁や東隼翔のような金持ちの男にとっては、お金と呼べるものではなかったのだ。 佐々木唯月が仕事がなく収入がないからといっても、二十万くらいであれば人から借りて返済できない額ではなかった。 「大した金額じゃない、ただ二十万くらいさ。じゃあ、彼女に
続きを読む

第29話  

この夜、内海唯花は寝ていても落ち着かず、夢ばかり見ていた。次の日目が覚めると、元気がなかった。 以前と同じように、彼女は昨晩洗濯機で洗っておいた服を干しにベランダへ向かった。 その時初めてベランダにはすでに彼女が服を干すための洗濯竿が準備してあって、広々したベランダはいっぱいの花で埋め尽くされていることに気がついた。多くの花は咲いているか蕾をつけているものだった。花の大きさの大小にかかわらず、花びらがたくさんついた八重になっている豪華な花だった。 内海唯花の関心は直ちにこの花たちに注がれた。 彼女は服を干した後、昨日の朝買ってきた花用の棚を組み立てて、その上に並べた。 しばらくの間花たちをいじくり回し、ふと誰かの視線を感じ、パッと頭を上げると結城理仁の漆黒の瞳と目が合った。彼の目つきは鋭く冷たかった。 結婚して数日過ぎていたおかげで、内海唯花は彼のその冷たい様子にはもう慣れてしまった。 「結城さん、おはようございます」 内海唯花は挨拶をすると、すぐに彼を賞賛して言った。「結城さん、お花すごくきれいです。いい仕事するじゃないですか!」 彼にお願いした事を、彼はパーフェクトにこなしてくれたのだ。 結城理仁は低い声で言った。「今後は君が解決できない事があれば、俺に言ってくれ」 彼女がお願いすることは、彼にとっては朝飯前なのだ。 「わかりました」 内海唯花は嬉しそうにニコニコしながら、再び花をいじるのに専念しはじめた。 「あの、どの花屋で買ったんですか?花たちすごく丁寧に育てられていますよ」 結城理仁は「いろんな花屋に行ったからな。名前はよく覚えていない」と嘘をついた。 内海唯花はそうですかと言っただけで、それ以上は聞かなかった。彼がしてくれたことが満足でそれだけで十分だったのだ。 「今日は朝ごはんに何を買ったんだ?」 彼にそう聞かれて、内海唯花は朝ごはんのことを思い出し、慌てて携帯を取り出して時間を見ると、もう七時を過ぎていた。彼女は立ち上がり、申し訳なさそうに彼に言った。「結城さん、今朝は朝ごはんのことをすっかり忘れていました。今買いにいったら間に合いますよね。顔を洗って買いに行ってきます。何が食べたいですか?」 結城理仁は淡々と答えた。「好き嫌いはないから、君が選んでくれ」 彼に好き嫌いが
続きを読む

第30話  

「結城さん、どうしましたか?」 内海唯花はベランダから家の中にいる彼を見て言った。 結城理仁はあのドーナツを食べながらベランダに出てきて言った。「君のお姉さんの事なんだが、あまり心配しなくていい。ぶつけたあの車の持ち主はうちの会社のある重要な取引先の車だ。昨晩思い出して東社長に連絡をしたんだ。彼があの車の修理代は二十万くらいだろうと言っていた」 彼女は今土いじりをする元気はあるようだが、結城理仁は彼女の精神状態はいつもより悪いことに気づいていた。明らかに昨夜よく眠れなかったのだろう。その原因はもちろん彼女の姉の件だ。 内海唯花は顔を上げて彼を見つめた。彼が揚げドーナツを普通に食べているのを見て、心の中で彼は特に好き嫌いはなく手がかからない人だと考えていた。しかしその口は彼にこう尋ねた。「どうやって会社の顧客の車だと確信したんですか?」 彼女の姉もその車の持ち主の名前を知らなかった。ただ相手が背が高くて勇ましい人で、顔に刀傷があり、人を怖がらせるような容貌の人であるとしか分からないのに。その怖さに陽も怯えてしまった。 「昨日の午前、東社長がうちの会社に来て俺が担当したんだが、その時彼の車に傷があるのが見えてどうしたのか尋ねたんだ。東社長が子供を連れた女性がベビーカーを押しているときに車にぶつかったんだと説明してくれたんだ」 「昨晩君が俺にこの事を話した時に、まさかとは思ったんだ。それで東社長に電話をして確認してみた。君のお姉さんは佐々木唯月っていうんじゃないか?東社長は君のお姉さんの電話番号を教えてもらって、修理が終わったらまた電話をかけて修理代について話すと言っていたよ」 内海唯花は花をきれいに並べ終わると、立ち上がって背を伸ばして言った。「私の姉は確かに佐々木唯月と言います。ということは本当に偶然が重なったんですね。結城さん、東社長は本当に修理代は二十万くらいだと言っていたのですか?」 二十万なら姉にも出せる金額だった。 「俺が聞いた限り、彼はそう言っていたよ」 内海唯花はほっとした。「ならよかったです。結城さん、本当にありがとうございます」 姉妹二人は修理代がかなりかかるのではないかと心配していた。今修理代は二十万くらいだと知って、内海唯花は太陽がもっと明るく眩しく見えた。 それと同時に、彼女がスピード結婚をし
続きを読む
前へ
123456
...
18
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status