交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 61 - チャプター 70

178 チャプター

第61話

「おばあさんが病気なんだ。肝臓癌で。でも早期の癌だからよかったんだけどな」内海智明は電話で言った。「医者が都内の病院で治療を受けたほうがいいって言うんだ。君たち姉妹は都内に住んでいるし、詳しいだろう。病院の予約を先にして準備しておいてくれないか。私たちはもうすぐ出発する。おばあさんを都内の病院に連れて行くよ」「予約しておいてくれたら、着いてすぐ看てもらって、入院もできるだろう。入院時に保証金を前払いしないといけないところもあるって聞いたんだ。そちらで前払いしといてくれ。君の両親はもう亡くなっているけど、祖父母の世話も責任はあるだろ。君たちは生活費もあげたことないしさ。今おばあさんが病気になったんだから、君たち姉妹で病院にかかる必要を出してくれ。今までの生活費の補填だと思ってさ」従兄の話を聞いて、内海唯花の顔は青ざめた。彼女は十歳で両親を亡くした。二人が命と引き換えにした賠償金は全部で一億二千万だった。祖父母もお金を要求してきたが、それは理解できる、彼らは父親の両親なのだからだ。姉妹は当時幼く、祖父母が奪っていった賠償金は彼らの分の割り当て額をはるかに超えた金額だった。彼女は祖父母が一億二千万の賠償金を受け取った後、そのお金を彼女のおじさんたちに分けていたと知った。彼女には伯父が二人、叔父が一人、おばが二人いる。おじさんたちの家それぞれに一千五百万、二人のおばにはそれぞれ二百五十万、残ったお金は祖父母の老後の費用に当てられた。当時の彼女はまだ小さかったが、十歳でもしっかりと覚えていた。彼女は今でも、祖父母ができるだけ多くの賠償金をもらうために、村の役場や彼女の母親方の親戚の前で今後は姉妹に老後の面倒を見てもらわなくていいと言っていたのを覚えている。しかも合意書にサインまでしたのだ。祖父母、おじたち、そして姉妹二人の拇印までした。合意書は三枚あり、姉妹二人に一枚、祖父母に一枚、村の役場にも一枚保管してあった。証人はこんなにたくさんいるというのに、今従兄は姉妹に対して祖父母に生活費をあげていないと責めるのか!両親が亡くなった後、親戚には誰も姉妹二人を引き取ってくれる人は誰もいなかったことを考えた。一億二千万の賠償金の半分の六千万は祖父母に取られ、母方の祖父母も不公平だと思い四千万取られ、姉妹に残ったのは二千万だけだった。まだ十五
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第62話

夫婦二人は黙々と朝食を食べ終わると、結城理仁は本当に内海唯花を店まで送っていった。夫婦が一緒に下まで降りると、下で待っていたボディーガードたちは状況判断し、全員通りすがりの人を演じ、散り散りに去っていった。内海唯花は高級車が何台も駐めてあるのを見た。そのうちの一台はロールスロイスで結城理仁に話しかけた。「ここって高級マンション群なのって嘘じゃないのね。ロールスロイスまで見かけるなんて思わなかった」こんなに高い高級車が買えるとは、タワーマンションの最上階に部屋を買ったのだろう。ここまで来て住むなんて、仕事や子供の通学に便利だからなのだろうか?金持ちの世界は彼女はよく理解できなかった。結城理仁はうんと一声言った。「多くの人は富豪や金持ちだろう。でも、謙虚なんだ」内海唯花は心の中で思った。ロールスロイスのどこが控えめなの?結城理仁は平然と彼のあのホンダ車を見て、妻を店に送った。彼が去った後、ボディーガードたちは集まり、お互い無言で見つめ合った。最終的に、全員一致した。車を運転してこっそり若旦那について行き、若旦那が若奥様を送り終えたところで、若旦那を会社まで送るのだと。内海唯花は自分の傍にいるこの男性がステルス富豪だということは知らなかった。ロールスロイスのような超高級車を持っていながら。頑なに二百万ちょっとの車で彼女を送るのだから。彼女は姉に電話をして、おばあさんが病気になり、内海家の人がおばあさんを都内の病院に連れて行くということを教えた。姉に絶対に言われるままに医療費を出さないように注意した。姉妹二人は長年実家の方には帰っていないが、おじさんたちが毎日贅沢して暮らしているのは知っていた。彼女の従兄弟たちが、会社勤めだろうが、自分で商売をしていようが、収入はなかなか悪くないと聞いていた。祖父母にはたくさんの孝行息子と従順な孫たちがいるのに、彼女たち姉妹に治療費を払わせる必要もないだろう。佐々木唯月は妹よりも五歳年上だ。知っていることはもっと多く、その恨みはもっと深かった。父方の親戚だろうが、母方の親戚だろうが、関係なく憎んでいた。妹の話を聞き、彼女は冷笑した。「私に今お金がないのは関係なく、たとえお金があったとしても、あのふざけたおばあさんなんかに治療費は出さないわ。唯花、彼らの電話に二度と出ないで、すぐ
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第63話

内海唯花は姉に夜、結城理仁と一緒にごはんを食べに行くと返事した。姉妹二人が電話を終えた後、結城理仁がひと言尋ねた。「君と親戚は仲が悪いのか?」「そうよ」内海唯花は隠さずに、また嘘もつかずに話し始めた。「私が十歳の時、両親は交通事故に遭って死んじゃったの。父方の親戚と母方の親戚は誰も私たち姉妹を引き取ろうとしなかった」「でも、両親の事故の賠償金は持っていったわ。次から次にお金を分けて持っていったの。兄弟、おじ、甥姪にはお金をもらう資格なんてなかったから、おじいさんたちにお金を奪わせようと裏で手を引いていたの。私のお父さんは四番目よ、祖父母は父をそんなに大事にしてなかったの。他の兄弟、つまり私のおじさんたちのほうを愛してた」「賠償金の額を知って、なるべく多くのお金を分配してもらうために、彼らは当時言ったの、今後は老後の世話もお墓のことも私たち姉妹にはお金も労力も出してもらわなくていいって。それで六千万を持っていった。合意書にもサインしたわ。両親が亡くなるちょうど前に建てたばかりの二階建て一軒家は祖父母が住んでる。両親がいなくなったんだから、その家は彼らのものなんだって」「私たち姉妹は女の子で大きくなったら嫁いでいくから、家も土地も分けてくれないんだって。あの頃はまだ子供だったし、誰も私たちの味方なんかいなかったから、家は祖父母に取られちゃったの。私と姉さんは学校の長期休みの時だけ帰ってそこに住んでた。でも白い目で見られて、顔色を伺いながら生活してた。まるで私たちがあの家を奪いに帰ってきたみたいにね」「お姉ちゃんが言ってた、あの家の不動産権利書に書かれてる名前は両親の名前なんだって。あの老人二人が死んだら、裁判を起こして家を取り返すわ。おじさんたちに得させたりしないんだから」結城理仁は口を開いた。「その時、裁判で俺が必要だったら、何か手伝うことがあるなら言ってくれ。弁護士ならたくさん知り合いがいるから」結城グループには法務部があるからだ。内海唯花は感激した。「その時必要だったら、あなたにお願いするわね」彼女の祖父母は、まだある程度の年月はこの世でのたうち回るだろう。本当に裁判になった時、彼女と結城理仁がまだ夫婦であるかどうかは分からない。「君の母方の親戚は、君たちのために何もしなかったのか?」一般的に、母親方の祖父母
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第64話  

彼は一円も出さないのが内海唯花にとって一番良いことだと思った。 お金を出しても、出さなくても、どのみち不孝者だと罵られるのは目に見えている。それなら一円も出さないほうがいい。 当時、姉妹はどちらも未成年だったのに、彼女の親戚たちは全員性根が悪く、彼女たちのことなど全くお構いなしだった。多額の賠償金を持って行ってしまっただけでなく、家も占拠した。もし彼のあの義姉が分別がわかる人でなかったら、姉妹はどうなっていたことか検討もつかない。 内海唯花は結城理仁が言ったことは理にかなっていると思い、少し考えてから言った。「結城さん、あなたの言う通りだわ。私そうする、一円も出さない。あの人たちが何を言ってもね」 彼らは彼女に当時やったことを誰かに非難されるのを恐れないのだろうか。 やられたほうの彼女は誰かに非難されるのを恐れることはないだろう。 おじいさんとおばあさんは歳なんだからとか、彼女の血が繋がった祖父母だろうとか言ってきても、真面目に取り合わなくていい。彼女は絶対に強く言い返す。彼女の立場に立って、同じような経験を喜んでする人間がいるのか。あんな経験をしても言い争ったり、徳を持って恨みに代えられるような人がいるのであれば、彼女のことを非難すればいい。 自分自身が苦しみを経験してはじめて、他人を理解し助言することができるのだ。 彼女が一番嫌っているのは、倫理観を利用して人につけこむような人間だ。 すぐに結城理仁は内海唯花を星城高校の入口まで送っていった。 この時間帯は高校生たちはもう授業中だ。周辺のお店は暇そうだった。 牧野明凛はレジに座り携帯をいじっていた。結城理仁が内海唯花を車で送ってきたのを見て、急いで立ち上がり外へ出て行った。 「結城さん」 牧野明凛は結城理仁に一声挨拶をした。 結城理仁は車からは降りずに、車の窓を開けて店の様子をざっと確認した。牧野明凛が挨拶をしてきたので頭を下げて無理やりに微笑んでみた。これが牧野明凛への挨拶返しというところだろう。 「いってらっしゃい。会社に着いたら、メッセージ送ってね」 「わかったよ」 結城理仁は二人の女性に頭を下げて、車の窓を閉めるとバックして車の向きを変え走り去っていった。 「あなたのバイクは?」 牧野明凛は曖昧に尋ねた。「それとも、これからは旦那
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第65話

結城理仁のほうは会社に着いた後、オフィスに入る前に秘書に指示を出した。「特別補佐官に来るよう伝えてくれ」秘書は特別補佐官の九条悟に内線をかけた。「九条さん、結城社長が会いたいそうです。すぐ社長オフィスまでお越しください」九条悟は何も聞かずに一言うんと返事し、内線を切った。数分後、九条悟は社長オフィスのドアをノックし、中へ入ってきた。結城理仁は書類の処理を始めていた。彼が中に入ってくるとペンを置き、どうぞというジェスチャーをした。「何か急用が?」九条悟と結城理仁は同級生だ。彼の能力を理仁はよく理解していた。まだ卒業する前に理仁から誘われこの会社と契約し、結城グループの精鋭部隊として活躍していた。成績を伸ばし続け今では結城理仁の特別補佐官として、理仁から厚い信頼を得ていた。「急用ってこともないんだが、プライベートなことなんだ。おまえと二人で話したかった」九条悟は腰かけると、笑って言った。「電話で言ってもよかったのに」特別補佐官ではあるが、結城理仁は、たまに彼にプライベートなことも頼んでいたので九条悟はもう慣れっこだった。「ちょっとある件について調べてくれないか?」「なに言ってんだよ、今までどれだけ調査してきたことか。これ以上増えても減っても同じことだろ。今回は何について調べればいい?遠慮なく言ってくれよな」九条家はかなり謎に満ちた家門だ。富豪であるが結城家よりもさらに謙虚で、謙虚すぎるくらいだ。九条家が富豪だということを知っている者は少なかった。九条悟は今の当主ではなく、家紋を継ぐ必要はなかった。しかし、兄弟の中で何でも話ができ当主の信頼を得ていた。それから、九条家が一番得意としていたのは情報を探ることだ。彼らの情報網は多くの都市にまで及んでいるのだ。特にここ東京で、彼らが知りたいことで何もわからないことなどなかった。もちろん、誰もが九条家の力を借りられるわけではない。結城理仁と九条悟は親友で上司と部下の関係だ。九条家の当主も結城理仁のことを高く評価しており、毎度理仁が何か頼みごとがあれば、九条家は全身全霊で彼を助けてくれるのだ。「俺のばあちゃんがずっと命の恩人のことでうるさいんだよ。おまえに言ったことあったよな」「うん、その人と結婚したんだろ?どうした、ばあちゃんが次は妾をとれってうるさいのか?」
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第66話  

「悟!」結城理仁はあまりの恥ずかしさで怒って言った。彼は本当に自分の面子を心配しているだけで、それ以上でも以下でもないのだ。内海唯花が彼の妻である限り、誰かにいじめられたら、彼の面目も立たないのは当たり前だ。そんなこと絶対許さないのだから。「わかったわかった、笑わないよ。ただ尊厳を得るため、体面を保つため、そういうことにしておくよ。いいぞ、調べておく。あんたのお嫁さんの名前は内海唯花だったっけ?とはいえ、東隼翔にやってもらえば?俺は君の特別補佐官なんだぞ。会社のことだけでもう精一杯で、水を飲んで一休みする時間も惜しいほど忙しいんだから、こんな些細なことをやらせるなよ」結城理仁は立ち上がって、自ら彼に水を持ってきた。「ならちょうどいい、今から水を飲め、水を飲む時間もないほど忙しかったんだろう?」「これだけ居たのに、やっと水を出してくれた」「要らないと思った。もし本当に喉が乾いたら自分で勝手に飲むだろう。お前のことだから、今まで俺に遠慮したことがあったか?」九条悟は笑いだした。「それに、隼翔はお前ほど口が堅いわけじゃないんだ」「まあね、彼は時々口が軽いから」九条悟は得意げに言った。「内海家全員の資料をきっちり調べてくれよ」内海唯花から家族の全員がろくでもないやつだと知った後、結城理仁は何となくあの姉妹が面倒事に巻き込まれるかもしれないと予感した。強いて言えば義姉のことを気にしなくても、自分の妻のことに責任を持たなければならないのだ。そう決めたら、一刻早くも相手の状況を把握したかった。彼を知り己を知れば百戦殆うからずと言われたものだ。勝てない戦なんてやることもない。あのろくでもないやつらが何を仕掛けてきても、彼がいれば、内海唯花は無敵なのだ。「奥さんには姉が一人しかいないのか」「田舎にクソみたい親戚が、ぞろぞろいるだろうな」九条悟は納得した。「どうりで身分を隠す真似までしてこっそり結婚したわけだ。こういう救いのない親戚がいたら確かに面倒くさいな」結城理仁は黙っていた。彼が身分を隠す理由は、ろくでもない親戚相手じゃなく、内海唯花本人の人柄を知りたいからだ。祖母に内海唯花と結婚するように言われた時、彼は彼女のことをお金目当ての猫かぶり女にしか見えていなかった。今にしてみれば、どうも彼は先入
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第67話

しかし、結城理仁のことだから、その口では聞こえのいい言葉は言えないだろう。実際の行動で謝罪できればまだましだ。「なに?お嫁さんの何を誤解したんだ?プレゼントを贈ろうとも思うほどに」九条悟は興味が湧いた。「お前と関係ない。早く戻れ。今晩藤崎社長との打ち合わせは悟、お前が行ってくれ。俺は忙しい」妻と一緒に義姉の家へご飯を食べに行く予定だから。「また?何をしに行くんだよ」「私はもう既婚者だと知ってるだろう。ずっと仕事ばかりしていて、嫁が他の男に取られたら、後悔しても遅い」 九条悟「......」さすが彼でも返す言葉もなくなった。同時に、上司が仕事を自分に押し付けるのは、お嫁さんと一緒にいたいということも分かった。結婚したからって偉そうな顔するのは許されるのか?もし本当にそうだったら、九条悟も結婚したくなった。結婚して取引先の接待も残業もしなくていいし、家に帰ってずっと嫁と一緒に居られる。そうだろう?しかし、残念ながら、彼には彼女がいなかった。結婚しようにも暫くはできないのだ。すっかり上司に搾取されたような気持になった九条悟は、やるせない気持ちで帰って行った。同じ青空の下で、人々は違うところでぞれぞれのことに専念していた。佐々木唯月はもう妹に今晩ご飯を食べに来るように伝えた。佐々木陽にご飯を食べさせた後、ベビーカーで息子を連れ、一緒に晩ご飯の材料を買いに行くことにした。すると、夫からの電話がかかってきた。「あなた、どうしたの?」「もう晩ご飯の材料を買いに行ったか」佐々木俊介が聞いた。「まだ、家を出たところなの。今日は何を食べたい?」「多めに買ってこいよ。父さんと母さん、姉さんも来るから。姉さんは海鮮料理が好きで、母さんは牛肉が好きなんだ、どれも買っておいて」佐々木唯月は思わず言った。「魚介類は高いのよ。お義姉さんが来るたびに伊勢海老とかヨーロッパイチョウガニとか食べたいって言いだして、それに一人で何匹も食べるのよ。牛肉も高くなったの。百グラムで四百円もするのよ。普段陽が食べたいと言っても、なかなか買ってあげないのに」佐々木唯月は本当にあの人達が来るのは嫌いだった。来られると、絶対ご馳走で招待してあげなければならない上に、いつも夫の前で自分のことを非難するのだ。だから、彼らが帰った後、
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第68話

母親は佐々木唯月がいい学歴が持っていると言ったが、お金にならない今は何の役にも立たない。家の面倒をちゃんと見て、お金も稼げる女のほうが役に立つんだと佐々木俊介は思っていた。それに、佐々木唯月は自分の身なりにあまりにも無頓着だった。以前はあんなにきれいで気品がある美人だったのに、今は結婚する前とは全くの別人のように、完全に身なりに構わない太い雌豚になってしまった。佐々木俊介が飲み会にも妻を連れて行かないのは、同僚や取引先に笑われるのを恐れていたからだ。 成瀬莉奈と比べたら、明らかに雲泥の差だった。夫の言い分を聞いた佐々木唯月は頭にきた。怒りのあまりに、電話を切ってしまった。今晩妹夫婦も一緒にご飯を食べに来るのも伝えていなかった。もし、夫の両親と義姉が来てから妹夫婦を呼んできたら、夫の家族が帰った後、佐々木俊介とまた大喧嘩になるだろう。夫の実家のやつらが食事に来られるのに、どうして自分の妹が来られないんだ?この家では、佐々木唯月にもそういう権利があるはずだ。確かに、家の頭金とローンは佐々木俊介が返済しているが、すべての内装や家具は佐々木唯月が出していたものだ。結婚する前の貯金は全部この家庭のために使ってしまった。そう考えると、佐々木唯月は心が強くなった。晩ご飯の材料はもちろん多めに買うつもりだ。妹夫婦も来るから。ちょうど、妹の唯花も海鮮料理が好きだった。出費を半々で負担するのだろう?夫の家族が来るなら、ここで使ったすべてのお金はちゃんと帳簿につけることにした。あとで佐々木俊介にきっちり勘定してもらおう。それに、家事も彼女が全部背負うべきなものではない。今日から、佐々木俊介の見の回りの世話をしないようにする。服装から食事まで、全部自分でやってもらうのだ。一国の王様に仕えるように世話をしてあげるなんてする必要ない。結婚したばかりの時、佐々木俊介は随分と甘い言葉を囁いてくれた。会社を辞めるように勧められた時も、彼がいるから、たとえ天が落ちても盾になって守ると。ちゃんと彼女を養うことができるから、安心して家で暮らして一番美しい妻でいてくれとも言われた。さらに早々に妊娠してしまい、退職も余儀なくされたのだ。その結果は?子供を産んだから、スタイルが悪くなってしまった。子供に質のいい母乳を飲ませるために、佐々
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第69話

その日の昼、結城理仁は突然、内海唯花の本屋へ行った。内海唯花は牧野明凛と仕事を終えて、デリバリーで頼んだご飯を食べようとしているところに、結城理仁が本屋に入ってきた。驚いた内海唯花は、ぼうっと入ってくる男を見つめていた。結城理仁は彼女の前までやってきて「なんで知らない人を見るような目で見てるんだ?」と、少し下目線で尋ねた。我に返った内海唯花は微笑んだ。「意外だったよ。どうして来たの?ご飯もう食べた?まだだったら、あなたの分も買うわよ」牧野明凛はお邪魔虫にならないように、一言挨拶をしてから、さっさと自分の昼ご飯を持って、大きな本棚の後ろに消えた。「もう食べた。君はまだ?」そう言いながら、結城理仁は腕時計を確認した。もうすぐ午後一時になるところだった。「ちゃんと時間通りに食べないと、胃が悪くなるだろう。養生は大変だから」と思わず眉をひそめた。彼は今日食事会があって、午前11時からホテルに行って取引先と一緒に食事をした。それからここに来たのだ。内海唯花がこの時間になっても食事をしていないことを知れば、彼女を連れて一緒に食事会に行けばよかったと思っていた。うん?いや、だめだ!彼は結城家の当主として参加したのだ。彼女を連れていったら、いろいろばれるじゃないか。自分の思ったことにびっくりしていた結城理仁は顔には出さなかった。いつも通りに淡々と内海唯花に言った。「ご飯を持って車で食べて、一緒に行きたいところがあるんだよ」「どこ?こんなに急いで」結城理仁は何も言わず、そのまま外へ出た。内海唯花は呆れた。暫く沈黙した後、自分のご飯を入れた袋を持ち、牧野明凛に声をかけてから、彼を追いかけた。車に乗ってから聞いた。「一体どこへ行くの?今から行かないとダメ?」結城理仁はやはり何の説明もしてくれなかったので、仕方なく内海唯花は先にご飯を食べることにした。彼女が食べ終わると、ちょうど車も目的地に到着した。車を降りると、自動車ディーラーまで連れてきてくれたことが分かった。「車を買うの?私の電動バイクはもう直ったよ。琉生君が手配してバイクを送ってくれたの。何なのかわからないけど、一本の線が切れたから、動かなくなったんだって」内海唯花は残ったゴミをゴミ箱に捨ててから、結城理仁が何も言わずに自動車ディーラーに入っていく
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第70話

「頭金だけじゃないの?」内海唯花は小声で尋ねた。「そんなに高くないんだ。全額が払えるならその方がいいだろう」内海唯花は頷いて言った。「じゃ、あとで半分払うね」結城理仁はチラッと彼女を見た。「いいんだ」内海唯花は瞬きした。意外だったのだ。要らない?タダで車一台をくれるということなのか。選んだ車は高くなかったが、それでも二百万円以上するものなのだ。夫婦になったといっても、結婚して間もないし、お互いのこともよくわからないし。それに、無事に半年を過ごしたら別れると合意書にはちゃんと書いてある。何の理由もなく、突然何百万円の車をプレゼントされた内海唯花は、ちょっと不安になった。我慢できず結城理仁を外へ引っ張り出して問いかけた。「結城さん、車を買ってくれる理由を教えてくれない?はっきり言ってくれないと安心できないわ。結城さんに借りを作りたくないのよ」返すのは大変だから。結城理仁は彼女を見つめた。やがて、視線が外された時、内海唯花は彼の顔がちょっと赤く染まったのに気づいた。 内海唯花「......」「あの、昨日のこと、誤解を......」内海唯花はハッとした。「私を誤解して、悪いと思って車を買ってくれたわけ?お詫びとして?」 結城理仁は彼女と視線が合っていた。彼女が賢くて、すぐにわかってくれてよかったと思った。 「昨日全部あからさまに話したし、結城さんも謝ってくれたでしょ。あの時、確かに本当に腹が立っていたんだけど、もう気にしてないから。わざわざ車をプレゼントしなくても大丈夫だよ」「あった方が便利だ」確かに正論だけど。 「本当に買うなら、私がお金を払う。帰ったらちゃんと全額返すよ。じゃないと絶対買わないからね。それに、半年後離婚するんじゃない?その時、今結城さんが使ってる車を私にくれるって約束したでしょ。もう車を持ってるのと同じだよ」結城理仁は何も言えなかった。合意書は彼が書いたもので、内海唯花にサインを求めたのも彼が張本人だった。しかし、彼女の口から半年後の離婚の話を聞かされて、結城理仁は少し胸が詰まるような感じを覚えた。すると、彼は冷たい顔をして、声からも温度をなくした。「今支払う金は持ってるか。なかったら俺が先に払うから、後で返してくれ」 「さすがに今は持ってないよ。今晩家に帰っ
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