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第69話

Author: リンフェイ
その日の昼、結城理仁は突然、内海唯花の本屋へ行った。

内海唯花は牧野明凛と仕事を終えて、デリバリーで頼んだご飯を食べようとしているところに、結城理仁が本屋に入ってきた。

驚いた内海唯花は、ぼうっと入ってくる男を見つめていた。

結城理仁は彼女の前までやってきて「なんで知らない人を見るような目で見てるんだ?」と、少し下目線で尋ねた。

我に返った内海唯花は微笑んだ。「意外だったよ。どうして来たの?ご飯もう食べた?まだだったら、あなたの分も買うわよ」

牧野明凛はお邪魔虫にならないように、一言挨拶をしてから、さっさと自分の昼ご飯を持って、大きな本棚の後ろに消えた。

「もう食べた。君はまだ?」

そう言いながら、結城理仁は腕時計を確認した。もうすぐ午後一時になるところだった。「ちゃんと時間通りに食べないと、胃が悪くなるだろう。養生は大変だから」と思わず眉をひそめた。

彼は今日食事会があって、午前11時からホテルに行って取引先と一緒に食事をした。それからここに来たのだ。

内海唯花がこの時間になっても食事をしていないことを知れば、彼女を連れて一緒に食事会に行けばよかったと思っていた。

うん?

いや、だめだ!

彼は結城家の当主として参加したのだ。彼女を連れていったら、いろいろばれるじゃないか。

自分の思ったことにびっくりしていた結城理仁は顔には出さなかった。いつも通りに淡々と内海唯花に言った。「ご飯を持って車で食べて、一緒に行きたいところがあるんだよ」

「どこ?こんなに急いで」

結城理仁は何も言わず、そのまま外へ出た。

内海唯花は呆れた。暫く沈黙した後、自分のご飯を入れた袋を持ち、牧野明凛に声をかけてから、彼を追いかけた。車に乗ってから聞いた。「一体どこへ行くの?今から行かないとダメ?」

結城理仁はやはり何の説明もしてくれなかったので、仕方なく内海唯花は先にご飯を食べることにした。

彼女が食べ終わると、ちょうど車も目的地に到着した。

車を降りると、自動車ディーラーまで連れてきてくれたことが分かった。

「車を買うの?私の電動バイクはもう直ったよ。琉生君が手配してバイクを送ってくれたの。何なのかわからないけど、一本の線が切れたから、動かなくなったんだって」

内海唯花は残ったゴミをゴミ箱に捨ててから、結城理仁が何も言わずに自動車ディーラーに入っていく
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