北條老夫人は目を覚ますと、天蓋を見つめたまま動かなかった。美奈子が門の前で首を吊った光景が脳裏に浮かび、背筋が凍り、胸が締め付けられる思いだった。「この賤しい女め!」しばらくして、老夫人は憤りを込めて吐き捨てるように言った。「恵まれた境遇も分からぬ下賤な女よ」孫橋ばあやは散々泣いた後、自分が外に出て様子を見に行かなかったことを後悔していた。もう少し早く気付いていれば、あるいは救えたかもしれないと。心が張り裂けそうな思いで、老夫人の言葉を聞いた孫橋ばあやは、思わず小声で美奈子の弁護をした。「老夫人様、美奈子様はこれまで誠心誠意お仕えしてまいりました。もうこの世からいなくなられたのです。どうかこれ以上のお言葉を......」「黙りなさい!」北條老夫人は激怒した。「死ぬならよそで死ねばよいものを。わざわざ私の門前で死んで、誰の顔を汚そうというのか」そう罵った後、老夫人も涙を堪えきれなくなった。「まさかあの娘がこんな腹黒い真似をするとは......私の門前で首を吊るなんて。これでは私が意地悪だという噂が本当になってしまう。これからは長男も三男も嫁探しに苦労するでしょうよ。何という因果な......どうしてうちには、こんな質の悪い嫁ばかり......」「台無しよ......将軍家の名誉が台無しになってしまった。守の出世にまで影響が及ぶかもしれない」北條老夫人は声を上げて泣いたが、その涙の一滴たりとも美奈子のために流されたものではなかった。翌日、その知らせは親王家に届いた。この日は休暇だったため、玄武とさくらは書院へ潤を迎えに行き、一緒に食事でもしようと考えていた。ところが、紫乃が部屋に入ってきて美奈子の一件を伝えた。これは紅羽が探り出してきた情報だった。さくらはその話を聞き終えると、一瞬頭が真っ白になり、信じられないという様子で尋ねた。「首を......吊ったの?助からなかったの?」「死んじゃった......」椅子に座った紫乃も茫然としていた。なぜだか急に鼻の奥が痛くなる。あれは自分とさくらが命がけで救った人だった。その時さくらは危険な真似をしたと親王様に叱られもしたのに。「どうしてこんなことに......」玄武が尋ねた。事の経緯は詳しくは知らなかったが、美奈子が川に飛び込んだところをさくらが救ったことは聞いていた。救い出し
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