翌日、斎藤忠義は梨水寺に永愛を迎えに訪れた。さくらが居合わせていたため、忠義は彼女を脇に呼び、「上原殿、どうかご安心ください。母は必ずや大切に育てます。決して辛い思いはさせません。私にも庶兄弟姉妹がおりますが、母は皆を平等に慈しんでまいりました」さくらは率直に答えた。「お母様とはお付き合いは浅いものの、深いお話をさせていただきました。お子様を粗末になさるとは思っていません。ただ一つ、はっきりさせておきたいことがあります。昨日、お母様があの子の名前を尋ねられた時、私は『若菜』とお答えしました。斎藤永愛という名前を使うかどうかは、ご家族でお決めください」忠義は小さく溜息をついた。「上原殿、ご配慮ありがとうございます」「お連れ帰りになるなら、椎名青妙にも会わせるおつもりですか?」忠義は頷いた。「はい。実は母も昨日申しておりました。父が彼女を迎え入れたいのなら、反対はしないとのことで」くらは驚いて忠義を見つめた。「斎藤殿、そう単純な話ではありませんよ。あの方はあなたの母上です。もう少し心を配り、お気持ちを慮るべきではありませんか」忠義は慌てて説明した。「誤解なさらないでください。母は決して狭量な人間ではありません。ただ家の存続を考えて、弱みを作らないようにと」「誤解などしていません。お母様が大局を見据えていらっしゃるのは分かります。でも、そのことで、まるで母上に心がないかのように扱うのは間違っています。このような事態で最も辛い思いをしているのは、あなたの父上だとでも?違いますよ。最も辛く、心を痛めているのはお母様です。それでもなお、そのような苦しい心境の中で斎藤家の将来を考えていらっしゃる。この大局観は、あなたにはまだ及びもしません」さくらは珍しく斎藤家の者と丁寧に言葉を交わしていた。実のところ、昨日は斎藤夫人の対応があまりにも寛容すぎるのではないかと訝しく思ったものの、よくよく考えれば理由は明白だった。これは後々、斎藤家や皇后様が攻撃材料にされることを避けるため、先手を打って潔く対処したのだと。忠義の瞳には深い悲しみが滲んでいた。「母の胸中お察しいたしますが、最も辛い思いをしているのは父でございます。この一件で、家中の多くの者が父への畏敬の念を失ってしまいました。父は長年、斎藤家の名誉を守るために尽力してまいりました。その重圧に耐え
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