六月十九日、親房甲虎は天方許夫と斉藤鹿之佑に三千の兵を率いさせ、薩摩城外の山々へと向かわせた。影森玄武と七瀬四郎を迎え入れるためである。救出作戦がどうなるかは知る由もないが、迎えの兵は必ず送らねばならない。元帥としての座を守るため、万全を期すしかなかった。しかし、もし北冥親王が救出に失敗し、羅刹国の手に落ちたとしても、それは彼の運命だろう。羅刹国の辺境の城まで兵を送り込むわけにはいかないのだ。斉藤鹿之佑と天方許夫は軍勢を率いて、薩摩城外の最も高い山に到着すると、千の兵をその場で待機させ。その後、二人は残りの二千の兵を率いて更に進軍を続け、一刻も早く親王様の一行との合流を果たそうとした。だが、次の山を越えたところで足を止めた。その先は草原の部族の領域だ。少人数なら潜入も可能だが、二千の兵を率いて進むことは、即ち宣戦布告に等しい。実のところ、親王様が草原に到達さえすれば、羅刹国も軽々しく追って来れまい。せいぜい腕の立つ追っ手を少数送り込むのが関の山だ。しかも親王様が無傷であれば、そのくらいの追っ手なら何とかなるはずだった。二日が過ぎ、六月二十一日を迎えた。天方許夫は待ち切れない様子で、斉藤鹿之佑に向かって言った。「このまま手をこまねいているわけにもいくまい。俺が十数名を率いて草原に下り、向こうの山を越えて親王様を探してみよう。七瀬四郎の救出の際に、お怪我をされているかもしれんからな」「焦るな」斉藤鹿之佑は諭すように答えた。「十数名では何の役にも立たん。この広大な山々には密林が広がり、まともな道さえない。あの方々と出会えるかどうかは、運任せというものだ」「だが、ここで待機しているだけでは何の助けにもならん」天方許夫は苛立たしげに続けた。「元帥があれほどの兵を派遣したところで、何の意味もありはしない。一行が草原を渡れれば、それは既に安全圏だということだ。我々は三千であろうと千であろうと、草原を越えて山に入ることなどできはしない」斉藤鹿之佑は声を潜めて答えた。「これは陛下への見せ場よ。救出に全力を尽くしているという形を作りたいだけさ。我らの三千が役に立とうが立つまいが、元帥殿の眼中にはないのだ」二人は深いため息をつく。かつて最高の元帥に仕えた身として、親房の采配には首を傾げざるを得なかった。だが、今や天皇の信任を得ているのは
Last Updated : 2024-11-30 Read more