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会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 981 - チャプター 990

1067 チャプター

第981話

入江紀美子は「おやすみ」と返信して、携帯を置いてから計画に着手した。このまま沼木珠代の所に行くのは無理だ。エリーは用心深いので、絶対に盗聴されるだろう。行くなら、エリーに悟られずにやらなければならない。紀美子は、いろいろ考えた末ようやく方法を思いついた。彼女は再び携帯を手に取り、渡辺瑠美にメッセージを送った。「瑠美、睡眠薬を少し買ってきてくれない?」「また自殺を考えてるの?」瑠美はメッセージを見て驚き、すぐに返信した。「違う、ちょっと別のことに使いたいだけ」紀美子は慌てて説明した。「自殺じゃなければいいわ。夜に例の場所に置いておくから、取りにきて」紀美子は暫く考えてから、もう一通のメッセージを送った。「瑠美、この間墓参りに行ったとき、お兄ちゃんを見かけた気がするの」瑠美はそれを見て画面に釘付けになり、随分経ってから返事した。「あの時に?見間違えじゃない??彼の顔を見たの?」「見えたのは後ろ姿だけだったけど、他に誰がうちの母の墓参りに来るっていうの?彼以外に考えられないわ。あの時私は確かにはっきりと見たわ。追いかけたら、すぐに消えちゃったの」「……まさか、妄想症にでもかかったんじゃないよね?とても受け止めがたいかもしれないけど、兄はまだ行方不明よ」「あんたも、彼が死んだと思っていないじゃない。行方不明だって!」「まあいいわ。どう思うかは自由だけど、とりあえず12時を過ぎたらものを取りにきて」紀美子も、それ以上何を言っても意味がないと分かっていた。そのため、彼女はただ「分かった」とだけ言った。翌日。土曜日。紀美子は早起きして朝食を食べに階下に降りた。ダイニングルームで、エリーが使用人と話していた。紀美子を見て、彼女は一瞬で警戒し、トレーを持ってキッチンに入った。紀美子がテーブルに着くと、使用人が朝食を持ってきてくれた。食べようとした時、エリーが牛乳を持ってキッチンから出てきた。牛乳を見て、紀美子はとあることを思い出した。エリーは毎日欠かさず牛乳を飲んでいる。朝食、昼食、そして夕食の時に必ず1杯飲んでいた。紀美子は突破口を見つけた気がした。朝食を食べ終えると、エリーはリビングにいて、沼木珠代は2階の部屋の掃除を始めた。紀美子はキッチンに入
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第982話

沼木珠代の瞳孔が揺れたが、無表情で言った。「入江さん、一体何の話ですか?私はただの使用人です。やるべき仕事以外、何も知りませんよ」紀美子は隣のイスを引っ張って座った。「いい?違法行為はバレなきゃいいってもんじゃないわよ」紀美子は珠代を見つめ、平静に言った。「あんたの息子の嫁は元からあんたのことが気に入っていないんでしょ?もしあんたが捕まっても、今後彼女が孫に会わせてくれることはないと思うわ」珠代は驚いて紀美子を見た。「そんなこと、あなたはどうして知っているのですか?」「そんなことはどうでもいいわ」紀美子は答えた。「私が知りたいのは、エリーがあんたに何を指示したかだ」珠代は緊張しているように見えたが、口はしっかりと閉じていて、依然として喋るつもりは無いようだった。「そんなに言いづらいのなら、取引をしよう」珠代は戸惑った様子で紀美子を見た。紀美子はポケットから一枚の小切手を出してテーブルの上に置いた。「この中に1000万円が入ってる。教えてくれれば、これを情報代としてあげるわ。これからも、情報を教えてくれれば、その情報の価値を見て代価を払ってあげる」珠代はテーブルの上の小切手を見て、決意が揺らいだ。そんな彼女の様子を見て、紀美子は少し笑みを浮かべた。そして紀美子は続けて言った。「珠代さん、このお金はあまり多くないかもしれないけど、経済的に余裕を持てばあんたの息子の嫁も見直してくれるんじゃないの?少なくとも、もうあんたを家から追い出したりしないんじゃない?あんたの今の歳を考えれば、これくらいの金額を稼ぐのは簡単ではないはずよ」紀美子の話を聞き、珠代は動揺した。珠代は歯を食いしばり、決心をした。「入江さん、本当のことを言います。確かにエリーから指示がありました。でも、言われた通りにするべきかどうか迷っていました。エリーさんが言うには、1回すれば20万円をくれるって」紀美子は眉を顰めた。「はっきり教えて」「明後日から一錠の薬を渡すと言っていました。これから毎日あなたの水或いはご飯に入れてって。私が、それはどんな薬なのかと聞くと、知る必要はないと言われ、それでことの重大さに気づきました。確かにお金は大事です。紀美子さんの額を見ると、あなた側につくしかありませんね」「口約束では
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第983話

そうだとしても、決して油断してはいけない。沼木珠代が今回のことを塚原悟に教える可能性がないとは限らない。何しろ珠代は悟が雇ってきた人なのだから。全てが……賭けだ。入江紀美子が賭けているのは、人間の貪欲だ。翌朝。一日眠らされたエリーはまだうとうととしながらベッドから降りた。彼女が腫れぼったい目を擦りながら階下に降りてきた頃、紀美子は既にダイニングテーブルについて朝ごはんを食べていた。エリーは紀美子を見つめた。ふと、何処かが違う気がした。自分の体はいつも健全で、丸1日目を覚ますことなくぐっすりと寝込むはずがなかった。こいつが絶対自分に何かをしたに違いない!!エリーは怒りながら紀美子に近づいた。彼女が口を開こうとした時、珠代がキッチンから出てきた。「エリーさん?」珠代は心配そうに尋ねた。「何で起きてきたの?今お食事を持っていってあげようとしたのに」エリーは疑わしい目つきで珠代を見た。珠代は持っている食べ物を置いて、手をエリーの額に当てて体温を確かめた。「良かった、熱が退いたみたい」珠代は手を戻しながら笑って言った。「どういう意味?」エリーは深く眉を顰めて尋ねた。「昨日ね、あなた40度まで熱が出てたのよ、覚えてない?」「私が?」エリーは戸惑った。「熱が出てた?」珠代はしっかりと頷いた。「やっぱりちゃんと休まなきゃダメだよ。最近帝都の気温が上がったり下がったりと不安定だからね。病気にかかりやすいのよ」その時。掌にずっと汗をかきながら紀美子は珠代をみた。自分はまだ何も言っていないのに、珠代が気を利かせてくれたのが少し意外だった。しかも自発的に話を丸めてくれている。この賭け、自分は勝ったのか?暫く見つめてから彼女は視線を戻し、続けてご飯を食べた。エリーは暫く考えてから、珠代をダイニングルームの外に呼びつけた。「あの女、昨日外に出かけたりしなかった?」エリーは尋ねた。珠代はダイニングルームの方を一瞥してから口を開いた。「どこにも行かなかったよ。それどころか、彼女が医者を呼んでくれてあなたを診るように指示していたわ」「彼女が?」エリーはあざ笑いをして、全く信じようとしなかった。「医者を呼んでくれたって?」「そうなの
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第984話

ドアを閉めてから、入江紀美子は沼木珠代をソファに座らせ、尋ねた。「で、何が聞きたいの?」珠代はため息をついた。「入江さん、私にはどうしても理解できないのよ。何で息子の嫁があんなに私のことを嫌っているのか」紀美子はどう答えたらいいか迷った。「私はね、これまで帝都の名門に何回も仕えてきたの。毎月の給料は何十万円もあって少なくないし、おまけに英語も少しできるのよ」「あんたの息子の嫁さんって、名門大学の卒業生だよね?今は何処で仕事してるの?」「MK社よ」珠代は答えた。「運営部の副部長を勤めてるらしい」「MK、なるほど」紀美子は笑みを浮かべた。「それなら、彼女の考え方は分かったかも」「えっ?」「彼女のポジションにいる人間が気になるのは、あんたがどれくらい稼いでいるかではなく、自分にどれほどの利益をもたらしてくれるかよ」「なら、私がどうすればいい?」珠代は焦った様子で尋ねた。「私がいくら稼いでも意味がないってこと?」「もし私の意見を受け入れてくれるのなら、これから私の言う通りにすれば、その嫁さんの態度を改めさせることができるはずよ」珠代はしっかりと頷いた。「入江さんのいう通りにするわ。今後は何でも言って。彼女が私を家に入れてくれるなら、私は何だってするわ」「戻らせてもらうのではなく、彼女に自発的にあんたを迎えにこさせるのよ」紀美子は笑みを浮かべながら訂正した。珠代は戸惑い、随分時間が経ってからやっと悟ったようだ。「分かったわ、入江さん。それを私がしっかりできれば、私が頼れるお義母さんだと思ってくれるようになるわね」「もしあんたが広い人脈があって、その上にお金もしっかりと稼いでいるとしれば、彼女は絶対見直してくれるわ。珠代さん、私についてきて。こんなことすぐに解決してあげるわ」珠代は力を入れて頷いた。「ありがとう、入江さん、これからはよろしくね!」珠代が帰ってから、紀美子は暫くドアをじっと見つめた。珠代は厳しい外見をしているが、意外と頼れるところがある。やはり人は見た目によらず、か。紀美子は笑って自嘲した。そうだよね、塚原悟だってそうだったじゃない?……夜7時。エリーは空港まで加藤藍子を迎えに出向いた。2人が車に乗ってから、藍子は手に持っ
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第985話

エリーは不快そうに眉を顰めた。「影山さんが高い報酬を払ってあんたを雇ってるんだから、相応なリスクは負ってもらうわ」そう言って、エリーは振り向いてその場を離れた。沼木珠代は離れていくエリーの後ろ姿を見て、口をへの字に曲げた。やはり彼らは自分を道具としてしか思っていない!入江さんが警戒して自分の所に訪ねて来なかったら、何か起こった時自分に濡れ衣を着せられるところだった!珠代は渡された薬剤を見て、脳裏に一つの考えを思い浮かべた。30分後。珠代は紀美子に牛乳を持ってきた。ドアが開いた後、珠代はわざと声を大きく張り上げて言った。「入江さん、牛乳を持ってきましたわ」そう言って、彼女はポケットから薬剤を出し、一枚の紙切れを加えて紀美子に渡した。紀美子はそれを見て、慌てて受け取ってポケットに入れた。そして彼女は珠代に言った。「ありがとう、中で飲むから渡してくれればいい」「入江さん、このまま飲んじゃって。コップを持っていって洗うから」珠代は紀美子にアイコンタクトを送りながら言った。紀美子は理解して、すぐに牛乳を受け取って浴室に流そうとした。しかし、この時、エリーの部屋のドアが急に開いた。紀美子は横目でエリーを見て、そして眉を顰めながらイラついたふりをして牛乳を一気飲みにした。エリーは紀美子の挙動を見て、冷笑を浮かべながら部屋に戻った。紀美子は慌てて空になったコップを珠代に返した。珠代は首を振り、牛乳に何もいれていないことを示した。紀美子はやっと安心してドアを閉めた。ソファに座り直して、紀美子は紙切れと薬剤をポケットから取り出した。紙切れには珠代からの伝言があった――「入江さん、その薬剤はエリーが持ち帰ってきたものよ。そのままあなたに渡すわ。私はもう一本見た目が同じだけどただの水を入れたものを用意したの。だから私のことは心配しないで安心してください」紀美子は掌の中の薬剤を見つめた。暫く考えた後、彼女は吉田龍介とのチャットを開き、その薬剤の写真を送った。数分後、龍介からの返信が届いた。「その薬剤、暫く私に預けてくれるか?」「帝都に来ているの?」「うん、今日は昼頃MKの株主との打ち合わせがあったけど、順調に終わった。明日の午後、そちらの会社に行くから、その時に受け
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第986話

入江紀美子は深く眉を顰めた。「龍介さん、彼ら2人を挑発して仲たがいをさせるとでもいうの?」「そうだ」吉田龍介は真顔で言った。「私は、塚原が君に手を出していないのは、まだ君に未練があるからだと思っている」「そんなのありえないわ!」紀美子はきっぱりと否定した。龍介は紀美子を見て、無力そうにため息をついた。「ならば彼が君を残しているのは何の為だ?」「私を殺したら、世論が彼に対して否定的になるからじゃない?」龍介は首を振った。「君は考えたことないか?晋太郎のこともあるが、塚原は君の死を事故によるものに装うことだってできる。そうすれば彼に全く影響はない」紀美子はぼんやりと放心状態になった。彼女は随分の間考え込んでから呟いた。「つまり、彼がまだ私を殺していないのは、まだ私に未練があるから?」「それ以外思い当たる理由はない」龍介は言った。「如何せん今の君は彼にとって、もう利用価値はないのだから」紀美子は段々と拳を握りしめた。塚原悟が自分にまだ未練がある可能性を考えると、彼女は激しく吐き気がした。これまでは彼をただ憎んでいた。しかし今となってはもう、気持ち悪さ以外何も残っていなかった!殺人鬼に未練を持たれるなんて、誰でも気持ち悪さ以外感じないだろう!紀美子は歯を食いしばりながら深呼吸をした。「分かった、龍介さん。頭に入れておくわ」「君から何回か彼を招き入れれば、その事実を察することができるはずだ」龍介は言った。「立ち向かわなければならん」紀美子は爪を掌に刺して、険しい表情になった。「彼の顔を見るたびに、殺された大事な人達のことを思い出すの!彼を殺してしまいたい!彼に死んでもらいたい!!」龍介は紀美子の眼差しを見て、心底に悔しさが募った。彼は思わず彼女を抱きしめたい衝動に駆られたが、どうにか我慢できた。「紀美子、困難に立ち向かうこと以外、問題を解決する方法はない」紀美子は唇を噛みしめて頷いた。「龍介さん、注意してくれてありがとう」そして彼女は深呼吸をしてから、例の薬剤を出してテーブルの上に置いた。「この薬剤を預けるわ」紀美子は言った。龍介は薬剤を手に取り、一目見てから握った。「分かった、後で連絡する」「龍介さん、今MK社の方は
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第987話

「ゆみ、十分凄いよ。まだ始めたばかりなのにここまで上手く描けるなんて」森川念江は妹を褒めた。入江佑樹は念江を見て、「ちょっと甘やかし過ぎていないか」と注意した。「ゆみは自発的に努力しているんだから、褒めてあげるべきだ」念江は説明した。佑樹は口をへの字に曲げた。「それにしてもちょっとやりすぎだよ」すぐ、ゆみからの返信があった。「ちょっと!随分の間会っていないのに、お兄ちゃんは相変わらず冷やかししか言わないのね!!お兄ちゃんのバカ!お兄ちゃん大嫌い!やっぱり念江お兄ちゃんの方が優しい。念江お兄ちゃんとお母さんに会いたいよ」佑樹はメッセージを読んで暗い顔になった。「僕が悪いのか?」「お兄ちゃんはゆみをからかうから!フンッ!」憂鬱になりかけた佑樹は、携帯をタップしてさらにメッセージを送った。「やっぱり君と会話して損した!」「なら黙っててちょうだいよ!」二人がまた兄妹喧嘩を始めたのを見て、入江紀美子の先ほどまでのイラつきは殆ど吹き飛ばされた。「はいはい、喧嘩はやめて。ゆみ、凄いわ。お母さん、ゆみが描いた呪符を受け取れるのを楽しみにしてる」「お母さんも、甘やかし過ぎないで!あんな呪符、怖くて付けられないよ!」「もう!お兄ちゃん、うるさい!!」そしてすぐ、ゆみは悔しい顔のスタンプを貼った。「お母さん、ゆみは頑張ってるよ。掌もみなしさんのお仕置きで腫れてるんだから……」ゆみは赤く腫れたちいさな掌の写真を撮り、グループチャットにあげた。紀美子は心が痛んだが、みなしさんが、ゆみに早く成長してもらいたくてそうしているのが分かっていた。この前もみなしさんに、ゆみの体質は不潔なモノを惹きつけやすいと言われたばかりだった。「今度お母さんが揉んであげるから。ゆみは本当に頑張ってるのね」紀美子は娘を慰めた。「お母さん、会いたいよ……」「もう赤ちゃんじゃないんだから」佑樹はすかさずまた妹にツッコミを入れた。佑樹の発言を見て、念江は目元が赤く染まった彼を見た。「佑樹くんもゆみのことを心配してるじゃないか」佑樹はフンと鼻を鳴らした。「そんなことない!」念江は口元に笑みを浮かべた。「ゆみ、戻ってきたらお兄ちゃんが美味しいものを奢ってあげるから」「ありがとう、念江お兄ち
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第988話

月曜日の午後。入江紀美子が退勤して会社を出ると、塚原悟の車が入り口の前に停まっていた。彼女が近づくと、悟は車の窓ガラスを下ろした。夕日の光が彼の褐色の瞳に映り込み、その表情はより一層優しく見えた。「紀美子、乗って」悟は優しい声で呼んだ。紀美子の精緻な顔には冷たさが浮かんでいた。彼女は車に乗り込み、真っすぐに前を見つめて口を開いた。「今度は迎えに来なくていいわ」悟はエンジンをかけ、紀美子の話を逸らした。「何か食べたいものある?今日は外食して帰ろう」「あんたに聞きたいことがあるの」紀美子は悟を見て尋ねた。「あんたの手下って、皆あんな失礼な人ばかりなの?」悟が真っ先に思いついたのはエリーのことだった。「もしかして、エリーにまた変なことを言われた?」悟は軽く眉を顰めて尋ねた。「私が仕事のパートナーと会う時に四六時中監視されるのはともかく、なぜ彼女はいつもあんな身も蓋もない言葉で蔑んでくるの?まさか彼女は、皆英語が分からないとでも思ってるの??」悟の目つきが明らかに冷たくなってきた。「彼女が何か言っていたのか?」悟は尋ねた。「彼女は私に、『変な真似をするな、違う車に乗ったからって私を振り切れると思うな』と言ってた」そう言って、紀美子は真っすぐに悟の目を見つめた。「もし彼女にそう指示したのはあんただったら、やめてもらいたいわ。私を犯人扱いにでもしてるの?何でそこまでして私を見張らせてるの?私の日常生活を妨げるのはやめて!!」悟の目つきが更に冷たくなった。「分かった。その件は私から彼女に言う」「そうしてくれると有難いわ!それと、彼女に、あの不満そうな顔をやめてもらいたいの」「分かった」悟の回答を聞き、紀美子はある程度確かめることができた。悟は確かに自分に対して寛容だが、まだ本当に自分のことが好きだとは断定できなかった。紀美子は手を握り緊め、幾分と緩めた口調で続けて言った。「もう一つ聞きたいことがあるわ」「言ってごらん」悟は優しく返事した。「あんたは最初私を殺そうとしたのに、未だに私に手を下していないのはなぜ?」紀美子は深呼吸をしてからその質問をした。悟の眼差しは少し動揺して見えた。「私の言うことを信じてくれるのか?そんな質問は意味がな
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第989話

「影山さん、私は彼女を貶してなどいません」エリーは言い訳をした。「もう一度だけ回答のチャンスを与える」塚原悟はエリーを見つめながら言った。「し、したかもしれません。でもあれは彼女が私に尾行されたくないと言ったからです!だから私が……警告を……」まだ話が終わっていないうちに、彼女は悟に首をきつく締められた。彼は絶えず指に力を入れ続け、冷たい声で注意した。「これからは、彼女にそんなことを言う前に自分の命の心配をしておけ!」エリーは全身が震えながら、辛うじて声をだした。「わ、分かりました……影山……さん」悟は手を引くと、エリーは猛烈に咳をした。「今後貴様は彼女の会社の下で送り迎えをしろ。彼女が仕事で出かけても、貴様は中までついていくな」悟は冷たく彼女を睨みながら言った。「はい……」そう言って、悟は車に乗り、帰っていった。エリーもすぐ別荘に入った。入江紀美子はドアの近くで二人の様子を見ていたため、そのままエリーが入ってくるのを待っていた。エリーは紀美子を見て、眼底に怒りを浮かべて口を開いた。「よくも影山さんに言いつけてくれたな!」紀美子も負けずに彼女を睨み返した。「あんたが言えるのに、私に言えないわけがないでしょ?」エリーは歯を食いしばりながら紀美子に近づいた。「私があなたに手を出せないなんて思うなよ!」「そう?」紀美子は視線をエリーが掴められて赤く腫れた頸に落とした。「どうやら自分の命の心配を全くしていないようだね」「どういう意味?」エリーは驚いて尋ねた。「その頭、中身が空っぽなんじゃない?何か入れてきたら?」そう言って、紀美子は階段に向かって歩き出した。「いつまでそんなデカい口を叩き続けられると思ってんの?」エリーは彼女の後ろ姿を見て言った。「じゃあ、私達どっちがもっと長く生きられるかみようじゃない」紀美子は足を止め、振り返らずに言った。部屋に戻った後。紀美子はドアに寄り添い大きく息を吐いた。彼女は強烈に跳ねている心臓を抑えた。背中には冷や汗が滲んでいた。彼女はエリーが手際よく人を殺したのを近くで見たことがあるので、先ほど彼女にあんなに強く言うのに実は自分の最大の勇気を尽くしたのだった。それにしても、悟のやり方には驚
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第990話

「紀美子」塚原悟は入江紀美子を呼び止めた。紀美子は足を止め、振り返って淡々と返事した。「何しに来たの?」「学校まで送ってあげる」学校?紀美子の目つきは一瞬で冷たくなったが、素直に悟の方へ近寄っていった。会社の前なので、彼女は社員達の注意を引きたくなかった。紀美子は車に乗り込み、悟も乗り込んだのを確認してから厳しい声で問い詰めた。「何で私が今日学校に行くのを知ってんのよ!学校にまで子供達の監視役を付けたの?」悟はエンジンをかけながら淡々と説明した。「監視役など付けていない。ボディーガードがそれを聞いて私に報告してきたのだ」「それって監視と変わらないじゃない」紀美子は怒りを抑えながら尋ねた。「あんたが子供達に私へと同じことをしていたら、彼らは他のクラスメイトに差別されるわ!」「紀美子、考えすぎだ」悟は説明した。「ボディーガード達はただ、学校の入り口で彼らを見守っているだけだ」「もういいわ!そうだとしても、あんたはどうして私と一緒に行こうとしてるの?子供達は既にあんたがやらかしたことを知っているのに、よく行く気になったわね!それとも、私が子供達に会って、あんたに不利なことを計画するとでも疑ってるの?」悟は口を閉じたまま何も言わなかった。彼自身にも、なぜ今日突然紀美子と一緒に学校に行こうとしたのか分からなかった。あの2人の子供が自分のことをどう見ているかなど、彼は気にしたことはなかった。確かに、彼らの能力は気になった。彼らはいつもインターネットという仮想の世界を駆け巡っていたので、もしかしすると、ネットを介してとんでもないスキルを持つ人に出会ってしまうかもしれない。しかし、懇談会があることを聞いた瞬間から、悟の脳裏にはたった一つの考えしか思い浮かんでいなかった。自分が紀美子と一緒に行かなければ、彼女が自分の目の前から消え去る、と。その不安の気持ちが彼を自然とTycの前に導いたのだった。皮肉なことに、彼にはそんな考えを言い出す勇気はなかった。悟が返事してくれないのを見て、紀美子はあざ笑いをした。「エリーに監視を辞めさせたら、あんたが直々尾行しに出向いてくるとはね。本当にいい迷惑よ!」悟は軽く眉を顰めた。「紀美子、それはどういうことだ?」「どうやら、藍
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