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会社を辞めてから始まる社長との恋 のすべてのチャプター: チャプター 941 - チャプター 950

962 チャプター

第941話

「余計なことを考えないで。おばあさんが美味しいものを作ってあげるわ」真由は目尻の涙を拭いながら言った。佑樹はうなずいた。階上。念江が部屋に入ると、ゆみが一人で隅っこにしゃがみ込み泣いている姿が目に入った。彼の胸はきゅっと痛んだ。念江はゆみのそばへ歩み寄り、彼女の隣にしゃがみこんだ。時が刻々と過ぎる中、ゆみはようやく小さな手で涙を拭き取り、念江の方を見上げた。「念江お兄ちゃん、ゆみは大丈夫だから、心配しなくてもいいよ」ゆみが言った。念江は口元を少し上げ、穏やかな笑みを浮かべながらゆみを見つめた。「ゆみ、なんだか一晩で大人になったみたいだね」泣き疲れたゆみは念江の胸に飛び込んだ。彼女の柔らかい声には鼻声が混じっていた。「念江お兄ちゃん、ママに会いたい……パパにも、叔父さんにも、朔也おじさんにも会いたい……」「兄ちゃんも会いたいよ」念江は目を伏せた。「念江お兄ちゃん、叔父さんとパパは、まだ生きてると思う?」「ゆみ、まだわからないということは希望を持ってもいいということだ思うんだ」まだわからないということはまだ希望がある……ゆみは念江の胸に顔を埋めたまま考えた。その言葉の意味が、彼女には分かる気がした。「ゆみ」念江はゆみの髪を優しく撫でながら言った。「ゆみは、自分が役に立たないなんて思わなくていいんだよ。ゆみには僕たちにはない才能があるんだから。」それを聞きゆみは顔を上げ、ぼんやりと念江を見つめた。念江は穏やかな目でゆみを見つめた。「ゆみには、僕たちには見えないものが見えるし、感じ取れる力がある。それが君の才能だよ」念江の漆黒の瞳はまるで広大な星空のようで、その光がゆっくりゆみの心を覆っていた霧を晴らしていった。そうだ……自分には才能がある……ただ、その才能がまだ十分に発揮されていないだけだ。もし……もし師匠について学ぶことができたら、自分はきっとパパと叔父さんを見つけられるだけの力を得られるだろう。そうなれば、ママも喜んでくれる。自殺なんて考えなくなるかもしれない。ゆみは深く息を吸い込み、心の中で決心した。師匠に会いに行こう。そして、師匠に弟子入りして技を学ぶんだ!!一週間後。紀美子はVIP病室のベッドに腰掛け、虚
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第942話

瑠美から何とか安心できる情報を引き出そうと、その瞳はとても切実だった。瑠美は唇を噛み、静かに答えた。「紀美子、私たちは現実を受け入れるしかないのよ」「どんな現実よ?」紀美子の唇が震え始めた。「兄さんがいないって現実を受け入れろってこと?彼の遺体も見つかってないのに」「見つからなかったの」瑠美は視線をそらした。「川はあんなに広いのよ。生き残るのはほとんど不可能だと思うわ」紀美子が握りしめていた瑠美の手は力を失い、布団の上に落ちた。瑠美はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。「それから晋太郎兄さんのことも……もう乗り越えるべきよ」紀美子の顔色はますます青白くなり、か細い声でつぶやいた。「晋太郎の……」その言葉を途中まで言いかけて、紀美子は深く息を吸った。「晋太郎の体の一部でも……見つかったの?」そう口にした時、彼女の唇も体も小刻みに震えていた。瑠美には、紀美子が必死に耐えようとしているのが分かった。布団を掴んだ手の関節は、白く浮き出ていた。瑠美は首を横に振った。「わからない。晴たちに連絡すれば、何か知っているかもしれない」紀美子は首を横に振った。「彼らに連絡する手段がないわ。悟が私の携帯を取り上げたから」瑠美は嘲笑交じりに鼻で笑った。「何も知らないくせに、自殺なんてよくもまあやったものね」紀美子はぎゅっと唇を結んだまま、何も言わなかった。「本当に幻滅したわ」瑠美は続けた。「私はてっきり、あなたはもっと芯の強い人間だと思っていた。実際には少しの衝撃で打ちひしがれてしまう無力な人間だったなんて」紀美子の目には涙があふれ視界を覆っていたが、彼女は黙ったままだった。その姿に瑠美はますます腹を立てた。「自分だけが苦しいと思ってるの?お兄ちゃんを失ったことで、私たちだって苦しんでるんだから!」そう言うと、瑠美は紀美子の包帯が巻かれた手首を力強く握りしめた。「痛いでしょ?こんなことをして、何か結果が出ると思ってるの?紀美子、あなたは復讐を考えたことがある?お兄ちゃんと晋太郎をこんな目に遭わせて、あなたの家族を引き裂き、あなたを囚われの身にした彼を、このまま放置するつもり?」紀美子の瞳が揺れ動いた。瑠美は彼女の手を振り払うと、冷たく言い放った。
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第943話

「分かったわ。叔母さんに少し時間をちょうだい。どうすれば会えるか考えてみるから」瑠美は答えた。「待ってるね」ゆみは答えた。電話を切ると、佑樹と念江はじっとゆみを見つめた。「ゆみ、本当に決めたの?」念江は眉をきゅっと寄せながら尋ねた。ゆみはしっかりと頷いた。「決めたよ。ゆみもみんなを助けるために何かしたいの」「でも、修行はどのくらいかかるか分からないよ。もう一度考え直さない?」念江は言った。「もう決めたの、念江お兄ちゃん」ゆみは無理に笑顔を作って言い切った。「ゆみも強くなりたいの!」「でも……」「もういいよ、念江!」念江が続けようとしたところで、佑樹が強引に遮った。佑樹はぎゅっと唇を噛み締め、視線を逸らしながら言った。「行かせてあげて!」念江は少し怒りを込めて佑樹を見つめた。「佑樹、ゆみはまだ五歳だよ」「誕生日を過ぎたらもう六歳だ!」佑樹は鋭い目で念江を見返した。「もう自立し始めてもいい頃だろ!」「でも佑樹、ゆみは妹なんだよ……」「結局は、僕たちが役に立たないからだろ!」佑樹は拳をぎゅっと握り締めた。「もし僕たちがもっとちゃんとしていたら、ゆみは僕たちから離れる必要なんてなかった!」念江は自責の念に駆られ、目を伏せた。ゆみは深く息を吸い込んで言った。「お兄ちゃん、ゆみが決めたことに怒ってるのは分かるよ。でも、ゆみも強くなりたいの。お兄ちゃんたちがあんなに頑張ってるのに、ゆみはもう隠れていたくないの。ゆみも……ママを守りたい……私たちにはママしかいないから……」ゆみは話し終えると再び大粒の涙をぽろぽろとこぼした。本当は行きたくない。ママに抱かれて、そのまま成長していきたい。でもそれ以上に、自分が何もできないことが本当に辛くてたまらなかった。「分かった!もう言わなくていい!」佑樹は歯ぎしりしながら言った。ゆみは唇をぎゅっと噛みしめ佑樹を見上げた。そしてそっと手を伸ばし、佑樹をぎゅっと抱きしめた。「お兄ちゃん、ゆみも本当は行きたくないよ……」佑樹の体は緊張し、赤くなった瞳に涙が浮かんだ。ゆみは顔を佑樹の首元に埋め、すすり泣きながら続けた。「でも、パパを見つけたい……おじさんも……ただ、ママを笑顔にしたいだけな
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第944話

「ママ……」ゆみは泣きながら言った。「ママに会いたかった……」「ゆみ、泣かないで……ママはここにいるよ。もう泣かなくていい……」紀美子はゆみをしっかりと抱きしめ、嗚咽交じりに言った。ゆみは必死で自分を紀美子の胸に押し込もうとしたが、母の胸の傷に触れないよう、力加減を慎重に保った。「ママ、もう自殺なんてしないで」 ゆみは泣きながら続けた。「ゆみはもう叔父さんもパパも朔也おじさんも失ってしまったの……ママまで失いたくない!」「ごめんね、ゆみ……ママが自分勝手で、弱かったから……ママが悪かった……」紀美子は胸が締め付けられるような思いで嗚咽しながら謝った。ゆみは首を横に振った。「ママが辛いのはわかってるよ。でもママにはゆみとお兄ちゃんがいる。私たちにはママが必要なの!」「分かったよ、ママはもうあなたたちを置いていかない……絶対に」紀美子は涙を拭い、小さく頷いた。「ママ、ゆみはパパと叔父さんを見つけに行くよ」ゆみはすすり泣きながら言った。「生きてるなら会いに、亡くなってるなら魂を見つける!」その言葉に、紀美子は愕然とした。彼女はそっとゆみを離し、その小さな顔を覗き込んだ。「ゆみ……何を言っているの……生きてるなら会いに、亡くなってるなら魂を見つけるって……どこで聞いたの?」「わからない。ただ、ゆみの頭にふと浮かんだの……」ゆみは涙を拭きながら言った。「……それで、パパと叔父さんを探しに行くって、どういうこと?」「ママ、ゆみは師匠に会いに行く」ゆみは真剣な目で紀美子を見つめた。「それって……小林さんのこと?」紀美子が尋ねた。ゆみはうなずき、小さな手で自分の頭を指しながら言った。「ゆみにはただ一つしか思いつかなかった。それは師匠に会いに行くこと。師匠を通じて叔父さんやパパを見つけられるかどうかはわからないけど、そうすべきだって感じるの」娘の成熟した考えに、紀美子は胸が痛むほどの辛さを感じた。「もう、行くの?」紀美子は別れを惜しんだ。子どもに次いつまた会えるかもわからないこの状況がつらかった。「明日出発するの」ゆみはそう言いながら、再び紀美子の胸に顔を埋めた。「ちゃんと自分を大事にしてね」紀美子はこの日がいつか来ると覚悟していた。
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第945話

舞桜は紀美子の手を握りしめた。「しっかり体を治して、悟の犯罪の証拠を何としても掴み取って!朔也のためにも、翔太君のためにも、森川社長のためにも、そしてあなた自身と子どもたちのためにも!」紀美子は深く息を吸い込み、力を込めてうなずいた。「わかっているわ、舞桜。この仇は必ず晴らしてみせる!」舞桜はその言葉を聞いて頷いてさらに続けた。「紀美子さん、自分のことをちゃんと大事にしてね。私たちがずっとそばにいるから」紀美子はしばらく黙った後、ゆみの手をそっと舞桜の手に託した。「ゆみのこと、お願いね……」紀美子は声を震わせながら続けた。「彼女をしっかり守ってあげて。道中も気をつけてね」「はい、任せて!」……翌朝。真由はボディーガードが注意を払っていない隙を狙い、ゆみを舞桜の車にこっそりと乗せた。ゆみのために用意しておいた服も車のトランクに詰め込んだ。すべての準備が整うと、真由は車の横に立ち、ゆみの手をぎゅっと握りしめた。「ゆみ、到着したらおばあちゃんに教えてね」ゆみはうなずいた。「おばあちゃん、お願いだから兄ちゃんたちに伝えて。ゆみのことは心配しないでって」真由は涙を拭いながらうなずいた。「わかったわ、おばあちゃんが必ず伝えるからね。師匠の言うことをしっかり聞くのよ」「わかった!ゆみはお利口に、どんな困難も乗り越える!」ゆみは力強く頷いた。真由はゆみの頬を優しく撫でながら言った。「行きなさい。そして、自分の道を切り開くのよ。疲れたら帰っておいで。ここはいつまでも、あなたの帰る場所だから」「うん!ちゃんと覚えておくよ!」舞桜はエンジンをかけた。「そろそろ行く時間よ」真由はゆっくりと手を離し、別れの挨拶をした。「ゆみ、元気でね」ゆみは車の窓に身を乗り出しながら、別れを告げた。「おばあちゃんも元気でね!」車が走り出すと、真由はつい追いかけたい衝動に駆られたが、ゆみを泣かせないためにぐっと我慢した。ただ手を振って遠ざかっていくゆみを見送った。上階。佑樹と念江の二人は、窓際に立って下の光景をじっと見つめていた。佑樹は顔をこわばらせ、目元が赤く潤んでいた。念江もまた目を赤くし、視界から徐々に消えゆく車を見つめた。彼は感情を抑え、唇を震わせなが
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第946話

午前九時。ゆみがいなくなったと知った悟は、真っ先に病院へ向かった。病室の扉に近づいたその瞬間、苛立った口調のボディーガードの声が耳に入った。「絶食したところで、君を解放するとでも思っているのか?全く馬鹿げた考えだ!」悟は足を止め、軽く眉をひそめた。傍らにいたエリーが彼の様子を見て問いかけた。「影山さん、あの者を始末しましょうか?」エリーの言葉が終わるか終わらないうちに、再び中からボディーガードの声が聞こえてきた。「食べないつもりなら、無理やり口に押し込むぞ!」悟の顔色が次第に曇り、扉を押し開けて病室に入った。すると、窓の外をじっと見つめて物思いにふける紀美子の姿が目に飛び込んできて、彼の胸の奥には言いようのない不快感が広がった。悟の登場に驚いたボディーガードは、一瞬固まったが、すぐに頭を下げて挨拶した。「影山さん!」悟は冷え切った目でボディーガードを見た。「お前に、彼女にそんな態度で接する権利を与えた覚えはない」その声は穏やかだったが、どこか冷たい威圧感が漂っていた。ボディーガードは体を硬直させ、すぐに弁解しようとした。「申し訳ありません、影山さん。ただ、彼女はもう何日もまともに食事を取っていなくて、彼女の体が心配で……」「エリー」悟はボディーガードの言葉を遮った。エリーが一歩前に出た。「はい」「もう必要ない」エリーは即座に頷いた。「かしこまりました」そのやり取りを耳にしたボディーガードの目は大きく見開いた。紀美子もは眉をひそめ、エリーがボディーガードに近づく様子を不安げに見つめた。次の瞬間、エリーが急に素早く動いた。ボディーガードが反応する間もなく、その喉元が切り裂かれた。空中に血が弧を描くように飛び散った。その光景を目にした紀美子は、目を大きく見開いたまま凍りついた。恐怖が彼女の理性と思考をすべて奪い去っていった。つい先ほどまで自分に食事を強要していた男が、悟のたった一言で命を失った。しかし、悟は何事もなかったかのように冷静で、平然としていた。彼は紀美子のベッドの傍らまで歩み寄ると、椅子に腰を下ろした。そして食事にまで血が飛び散ったのを見ると、顔に嫌悪の色を浮かべた。「エリー、これ、変えてきてくれ」「かしこまりました
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第947話

その言葉を聞いた瞬間、悟の瞳が冷たく光った。「紀美子、俺の限界を試すな」「限界?」紀美子は抑えきれない笑いを漏らした。「限界があるって言うの?好き勝手に人を殺し、侮辱して!あなたなんて、この世に存在すべきじゃない!死ぬべきよ!」悟の目に暗い影がよぎった。「感情に任せて言いたいことを言う前に、子どもたちの状況を考えろ」その一言で、紀美子の怒りは瞬く間に消えた。ハッと我に返り、子どもたちが悟の手中にあることを思い出した。紀美子が静かになったのを見ると、悟も態度を改めた。「今日は二つ話がある」悟は言葉を続けた。「一つ目だが、ゆみはどこに行った?」紀美子がシーツをぎゅっと掴み何かを言いかけたその時、悟がまた口を開いた。「紀美子、嘘をつこうとするな。俺のことはよく分かっているだろう?」紀美子は唇をかみしめ、しばらく考えた末、正直に答えた。「ゆみは師匠について修行に行ったの。私は、子どもたちの選んだ道は邪魔しない」「分かった」悟はあっさりとした様子で頷いた。「それについては約束しよう。ゆみのことにはこれ以上口を出さない」悟があまりにもあっさりと承諾したので、紀美子は一瞬、耳を疑った。「それから」悟は続けて言った。「俺はMKを引き継いだ。明日のニュースで取り上げられるだろう」引き継いだ!?紀美子は驚いた。彼は一体どうやってMKを引き継いだのか。晋太郎がいなかったとしても、次郎や裕太がいるはずだ。悟と森川家には何の関係もないのに、どうやって実現させたのだろうか?また幹部達を脅迫したのか?「どうして俺がMKを引き継げたのか、不思議だろう?」悟は薄く笑った。「次郎はすでに死んだ。そして裕也は、いまだに行方不明だ。さらに……俺の手には遺言書がある」「どうしてあなたが遺言書を持っているの!?」悟の言葉に、紀美子は背筋が凍るような感覚に襲われた。まさか悟は貞則と関係があるのか!?悟は唇をわずかに動かし、ゆっくりとベッドサイドテーブルにある水を手に取り、紀美子に差し出した。「喉を潤せ。それから話してやる」コップの水を見た瞬間、紀美子は先ほど鮮血が飛び散ったボディーガードの姿を思い出した。胃の奥から嫌悪感が込み上げ、思わず顔を背けた。そん
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第948話

しかし、表情に出すわけにはいかなかった。何しろ悟の思考は非常に緻密だからだ。紀美子は、感情を抑え込み冷淡な声で言った。「好きにすれば」「分かった」悟は立ち上がりながら言葉を続けた。「三日後に迎えに来る」病室を出ると、エリーはすでに遺体の処理を終えて戻ってきていた。彼女は病室にちらりと目をやり、悟を見つめて言った。「影山さん、この女……」言いかけたところでエリーは言葉を止めた。悟が眉をひそめ、不快感をあらわにしていたからだ。「何だ?」悟は短く問いかけた。エリーは言葉に詰まりつつ、思い切って口を開いた。「影山さん、この女はあなたの秘密を知りすぎています。どうして殺さないのですか?」どうして殺さないか?悟は視線を落とした。時折自分もその問題については考えていた。紀美子が銃で撃たれたその瞬間を目にした時から、自分の中で何かが揺らぎ始めたのは感じていた。紀美子を手放せないというわけではない何しろ、紀美子には利用価値しか感じておらず、一片の感情もない。では、この胸騒ぎの正体は何なのか?おそらく今は、その答えを探るためだけに、紀美子を生かしている。「エリー、自分の仕事をきちんとしろ。これはお前には関係のないことだ」悟は冷たく言い放った。「影山さん!」エリーは焦った様子で言った。「彼女をずっと閉じ込めておけないなら、災いは起こり続けます!」「俺が決めたことに、お前が口出しする権利はない!」悟の声には、怒りがあらわれていた。「影山さん、まさか彼女のことを好きになったのではないですか?」悟の温和な表情に、不機嫌の影が差した。「今日は余計なことばかり話すな」しかし、エリーは心配そうに続けた。「影山さん、ここまで来るのにどれだけ苦労されたか、どうか慎重に……」「もう黙れ!」悟は冷たく一喝した。エリーは悔しそうに唇を噛んだ。エリーは、悟が去って行くのを見送りながら病室を忌々しげに睨みつけ、彼の後を追った。翌日。いくつかのホットニュースが、金融界や帝都全体を震撼させた。──《MKの森川晋太郎社長、飛行機事故で爆発。遺体はいまだ見つからず!》──《森川家の長男、森川次郎が交通事故で死亡!》──《森川家の当主、他者を陥れた罪
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第949話

「お前はこの問題をあまりにも簡単に考えすぎだ!」晴は隆一を一瞥した。「晋太郎すらも眼中に入れない男が、俺たちを相手にすると思うか?」隆一は肩を落とし、意気消沈した様子で言った。「じゃあどうすればいいんだ?何日も経つのに、糸口が全然見つからないじゃないか!」晴はしばらく考え込むと、こう提案した。「紀美子に会いに行こう」「紀美子に?」隆一は困惑した表情で聞き返した。「会える見込みでもあるのか?」「何か方法を考えるしかない」晴は言った。「今の俺たちでは、どんなに彼女を助けたいと思っていても意味がない。鍵となるのは紀美子自身がこれから何をするつもりなのかだ」隆一は驚きのあまりしばらく黙った。「つまり、紀美子が悟と一緒になる可能性があるってことか?」「その可能性も否定できない」晴は頷いた。「お前だったら、復讐したいと思わないか?」「そんなの当たり前だろ!」隆一は呆れたように言い返した。晴は彼をじっと見つめながら言った。「だからこそ、俺たちがどう動くかではなく、紀美子をどうサポートすべきかを考えよう。彼女が悟のそばに残れば、必ず奴の犯罪の証拠を手に入れることができる。それこそ、ここで頭を悩ませているよりも有効だ」「……確かに一理あるな」隆一は眉間に皺を寄せながら小声で呟いた。その時、晴の脳裏にある人物の名前が浮かんだ。「そうだ、瑠美だ!」隆一はきょとんとして彼を見つめた。「何が言いたい?」晴は悔しそうに頭をかきながら言った。「どうして今まで瑠美のことを忘れてたんだ!彼女なら紀美子と連絡を取れるかもしれない!」「でも、皆悟に捕まってるんじゃないのか?」「いや」晴は答えた。「裕也さんは悟が子どもたちとおばさんだけを監禁したって言ってた」「瑠美の連絡先は持ってるか?」隆一は興奮気味に言った。「早く彼女に連絡してみろ!」「裕也さんに聞いてみる!」数分後、晴は瑠美の電話番号を入手した。彼女に電話をかけると、すぐに繋がった。「瑠美か?」晴が尋ねると、電話の向こうで瑠美が驚いた声を上げた。「晴兄さん?」「そうだ」晴は続けた。「時間あるか?ちょっと会って話したいんだ」「いいわ。場所を教えて」それから二十分後、
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第950話

「分かったわ、任せて」瑠美は言った。隆一は少し考えて言った。「瑠美、今君は何してるんだ?」瑠美はしばらく考え込んで答えた。「悟を追跡するつもりよ。今のところまだ彼に気づかれていないから」「いいだろう」隆一は言った。「もし助けが必要になったら、いつでも俺や晴に連絡してくれ。手伝うよ」瑠美は頷き、隆一と連絡先を交換した後、その場を離れた。その日の午後、瑠美は紀美子に密かに携帯を渡すことに成功した。携帯を受け取った紀美子は、呆然と瑠美を見つめた。瑠美は言った。「晴兄さんと隆一兄さんがあなたと連絡を取りたいって。携帯をしっかり隠して、絶対に見つからないようにしてね」「わかったわ、瑠美、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」瑠美は腕時計を見て言った。「言ってみて。ただ、あまり時間はないからね」「朔也の遺体は……」紀美子の目には悲しみが宿っていた。瑠美は小さくため息をついた。「お父さんがちゃんと葬儀を手配したよ。心配しなくていい」「叔父さんに迷惑をかけたわね」紀美子は静かに頷いた。「あなたが自殺なんて考えさえしなければ、誰も迷惑だなんて思わないわ」瑠美はつぶやくように言った。「携帯には私の連絡先も入れておいたわ。これからも悟の動きを追い続けるつもりだから。進展があったら知らせるわ」紀美子はその顔を見つめながら、胸中に込み上げてくる感情を押し殺して一言だけ言った。「気をつけて」瑠美は一瞬言葉を失い、その後、耳まで赤く染まった。「べ、別に病弱なあなたに心配されるほどヤワじゃないわ!」そう言い捨てて、瑠美はそっけなく背を向けて去っていった。紀美子は少し感動した。瑠美はただツンデレなだけで、本当はとても優しい人なのだ。そうでなければ、危険を冒してまで何度も自分の様子を見に来るはずがない。瑠美が去った後、紀美子は布団に潜り込んで晴の番号にメッセージを送った。「私よ、紀美子」晴は紀美子からの連絡を確認し、すぐに返信した。「紀美子?無事なのか?」「大丈夫。要件を簡潔に言って」「分かった、じゃあ、はっきり言うよ。今、出たいか?それとも悟のそばに留まるつもりか?」晴は返信した。「私は出ないわ。証拠を手に入れる必要があるの」「もう決め
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