All Chapters of 会社を辞めてから始まる社長との恋: Chapter 911 - Chapter 920

森川晋太郎の頭に最初に浮かんだのは入江紀美子のことだった。彼は急いで携帯を取り出し、紀美子に電話をかけた。今、紀美子はきっとパニック状態になっているはず！彼女に連絡しなければ！しかし、いくら電話をかけても、電源が切れていた。晋太郎はイラついてネクタイを引っ張り、事務所に向かって早足で歩き出した。暫く考えた後、彼は渡辺裕也に電話をかけることにした。しかし、裕也も出なかった。「晋様、晴さんに電話してみたらいかがでしょうか？」杉本肇はその様子を見て、晋太郎に提案した。晋太郎はハッと我に返り、すぐ田中晴に電話をかけた。晴はすぐに電話に出た。「もしもし？」「今どこだ？」晴のだるそうな声を聞いて、晋太郎は厳しい口調で言った。「家にいるけど、両親のことを聞きたいの？帰ったらちょっとビビっちゃった」「そのことじゃない！」晋太郎は彼の言葉を打ち切った。「渡辺翔太の車が墨馬川に転落したんだ。なのに、紀美子に連絡がつかないんだ！」「はっ？」晴は急に目が覚めた。「翔太が墨馬川に転落した？！」「今すぐ現場に行け！紀美子は絶対そこにいるはずだ！紀美子に電話を替わって！」「彼女はそこにいないって！」晴は考えもせずに言ってしまった。「どういう意味だ？」晋太郎は眉を寄せた。晴は自分が失言したことに気づいた。「な、何でもないよ。今すぐ行ってみる」「晴！」晋太郎は怒鳴った。「何か隠してるんじゃないのか？」「そんなことないって……」晴は動揺して言った。「自分で調べさせる気か？」晋太郎は脅しのように言った。「うそをつかれるのが一番嫌なんだ！」晴は電話越しに晋太郎の怒りを感じ取り、もはや隠せないと悟り、ため息をついてから言った。「もう直接言うね。結婚式の夜、静恵が紀美子に向かって二発撃ったんだ。二発とも胸に当たって、今ICUにいる。危険な状態だよ」晴の言葉を聞いた瞬間、晋太郎の頭は真っ白になった。体は氷のように冷たくなり、胸に激しい痛みが走った。紀美子が連絡を返してこなかったのは撃たれたからだったのか……彼は何も知らずにただA国で問題処理に追われていた！！すぐ帰国しなければ……彼女のそばに行くんだ！冷たいICUで一人で待たせるわけに

男が森川晋太郎の襟を掴もうとした瞬間、彼は手に持っていたスマートフォンを使って、男の顔に一撃を見舞った。この一撃は男にしっかりと当たった。彼は晋太郎が突然攻撃してくるとは思っていなかったのだ。痛みを感じる頬を押さえながら、男は歯をむき出しにして二歩後退した。彼は晋太郎を見つめ、嘲笑を浮かべて言った。「ハハッ、まさかお前にそんな技があるとはな」晋太郎は立ち上がり、一歩ずつ男に近づいた。開いた機体の扉から吹き込む冷たい風が、彼の黒いコートを激しく揺らした。その凛とした佇まいは、まるで修羅の如く、見る者を恐れさせた。「一体誰がお前を仕向けたんだ？」晋太郎は冷たく問いかけた。男は口元の血を拭き、にやりと笑い、拳を握りしめて言った。「知りたいなら、俺を倒してみろ！」男は体格こそ大きくないが、その攻撃は非常に鋭かった。しかし、男が何度も攻撃を放っても、晋太郎にはかすりもしなかった。狭い機内で、いつ落下してもおかしくない状況を考えると、晋太郎は巧みに男を抑え込むしかなかった。彼は故意に男の攻撃を避け続け、相手の警戒が緩んだ瞬間、強烈な一撃を男の腹部に叩き込んだ。その一撃を受けた男は、後退した。晋太郎は前に出るそぶりを見せて、椅子の背もたれを支えた。身体を浮かせる瞬間、足を上げて男の頭を横蹴りした。男は操縦席に叩きつけられ、ヘリも制御を失った。晋太郎は素早く近くのものを掴んで身体を安定させたが、男は無様に倒れ込んだ。男がようやく我に返ると、ヘリは落下し始めた。それに気づいた男は、必死に身体を支えてパラシュートパックを探した。晋太郎も周囲を見回すと、パラシュートパックは彼のすぐそばのシートの下にあった。彼は急いでそのバッグを取り出し、背負おうとしたが、男の視線が彼に向けられた。「そのパラシュートをよこせ！！」男は感情を爆発させながら叫んだ。晋太郎は無視してバッグを背負ったが、男はまた飛びかかってこようとした。晋太郎は再び一蹴りで男を蹴り飛ばし、同時にパラシュートを背負った。男はもう奪うことができないと理解し、冷笑を浮かべた。「調べた資料が全部偽物だったとは！お前がこんなに強いなんて思わなかった！クソっ、今日は運が悪かった！」そう言って、彼は地面に伏せて座席の

レスキュー隊員たちはすぐに遺体を湖のそばに運び、渡辺裕也と渡辺瑠美に確認させた。遺体を見た瞬間、2人はその場で固まった。遺体はすでに水に浸かって酷く膨張しており、顔はまるで空気が入ったかのように見えた。唯一分かるのは、その金色の短髪だけだった。瑠美は地面に崩れ落ち、強い吐き気に襲われて、思わず口を抑えた。信じられないという表情で、目の前に静かに横たわる露間朔也を見つめ、涙がこぼれ落ちてきた。警察が近づいてきて尋ねた。「この方を知っていますか？」裕也の表情には苦痛が浮かび、彼は目を閉じてぼんやりと頷いた。「はい……うちの子の友達だ」「この方のお名前は何ですか？」裕也は深呼吸してから、震える声で答えた。「……露間朔也です」警察はため息をついた。「我々のレスキュー隊は、まだ渡辺翔太さんの遺体を回収できていません。川の流れが激しいため、捜索範囲を拡大する必要があります。時間がかかるので、先に帰って待っていてください」「時間がかかるってどういうこと？」突然、横から声が聞こえた。皆が遠くから歩いてくる女性の方を振り向いた。警察は眉をひそめて尋ねた。「あなたは？」「松風舞桜と申します」舞桜は冷たく言った。「時間がかかるって、何ですか？もっとレスキュー隊を派遣できないんですか？！彼らは車の中で何かあったんでしょう？車も朔也も見つけたのに、翔太はどうして見つからないんですか？」「我々はすでに全市のレスキュー隊を派遣して調査している……」警察は答えた。「なら、他の都市のレスキュー隊にも連絡してください！！」舞桜は怒鳴った。「あなたたちがしないなら、私が申請します！」警察は舞桜を疑わしげに見つめた。「あなたは一体誰なんですか？」「澄川県出身、海軍上将・松風拓海の孫娘、松風舞桜です！」警察は軍関係者の家族だと知り、すぐに口調を和らげた。「松風さん、この件はご心配なく。すぐに上に申請します」舞桜は拳を握りしめ、冷静さを保った。彼女は目の前の川の水を見て、心が引き裂かれるような痛みを抱えた。見つからないということは、まだ死んでない！翔太が死んだとは信じない！彼はどこかに流れていったはずだ！こんなに簡単に死ぬわけがない！渡辺裕也と瑠美は止めよ

入江ゆみは小さな手で母の腕をしっかりと掴んで泣き叫んだ。「お母さん……うぅ、お母さん……」 何千もの言葉が、今この瞬間、「お母さん」という一言に集約されていた。 紀美子は鼻の奥がツンとして、目の端から涙がこぼれ落ちた。 「ゆみ、泣かないで。お母さんは元気だよ、ね？」 紀美子がそう言った途端、ゆみの泣き声はさらに大きくなった。 紀美子は疑問の表情を浮かべ、そばに立っている長澤真由に目を向けた。 真由は呆然としてその場に立っていた。 彼女の目は赤く腫れ、いつもの華やかさを失っていた。目の下にはクマができていて、青白い顔色が疲労を物語っていた。 「おばちゃん？」紀美子は小声で呼びかけた。 真由は反応しなかった。 「ねえ、真由おばちゃん？」紀美子は再度呼びかけた。 今度、真由はやっと反応した。 彼女は紀美子の方を振り向き、涙をふいて近づいてきた。「紀美子、おばちゃんはここだよ。どこか具合が悪いの？私が医者を呼んでくるね」 紀美子はゆっくりと首を振り、眉をひそめて尋ねた。「おばちゃん、何だか様子が変だけど、何かあったの？」 真由は唇をきゅっと結んでおり、何かを隠しているような様子だった。 彼女の表情を見て、紀美子はあることを思いついた。「兄は？朔也は？おじちゃんは？」 紀美子が翔太と朔也の名前を口にすると、真由の涙が勢いよく溢れ出た。 他の三人の子どもたちも悲しみの表情を浮かべていた。 紀美子の心は「ドキリ」と音を立て、声のトーンが徐々に高まった。「誰か、何が起こったのか早く教えて！」 しかし皆沈黙したままだった。 紀美子が胸を抑えて起き上がろうとしたため、真由は急いで近づき、紀美子を支えた。「紀美子、教えるから、落ち着いて！」 紀美子は息が荒くなり、表情には何とも言えない恐怖が浮かんでいた。「一体何が起きたの？」 真由は涙を拭き、話そうとしたその時、病室のドアが突然開かれた。 皆が一斉にドアの方を見ると、塚原悟が華やかな果物の籠を持って入ってきた。 彼を見ると、子供たちの視線は一瞬で憎しみと鋭さを帯びた。 真由も怒りの目で悟を睨んだ。 紀美子は彼らの異様な雰囲気に気づき、思考が固まっ

森川晋太郎が乗っていたヘリコプターが墜落した？ 機体は壊れ、搭乗者は皆死んだ……いや、これは絶対に嘘だ！ 紀美子は激しく首を振った。「私を騙すな！あなたの言葉なんて信じない。私を壊そうとしているの？そうすれば、晋太郎が悲しむと思っているの？私の兄も、朔也も無事よ！これは全部あなたがでっち上げた嘘だ！」悟は紀美子が信じないことを分かっていたため、ゆっくりと彼女のスマートフォンを手に取った。 「ここに書いてある通りだ。電話で確認してみて」悟は淡々と言った。 携帯を見た紀美子は、すぐに手を伸ばしてそれを掴んだ。 杉本肇に電話をして確かめる！ これは嘘だ！絶対に違う！紀美子は連絡先を探した。肇の名前はちゃんとあるはずなのに、焦ってどうしても見つからなかった。 涙が彼女の目から溢れ出る。 紀美子が感情を抑えきれなくなり、くじけそうになった瞬間、漸く肇の電話番号を見つけた。 震える手が、彼女の恐怖と不安を如実に表していた。 数秒後、肇が電話に出た。 「入江さん」肇の重い声が電話越しに響いた。 その言葉を聞いた瞬間、紀美子は心の中が空っぽになった。「杉、杉本、晋太郎はどこにいるの？！」電話の向こうで、肇は沈黙していた。 紀美子は自分の感情を必死に抑え、肇が口を開くのを待った。 長い間待ったが、彼は何も言わなかった。紀美子は焦り始めた。 彼女は携帯をしっかり握りしめ、歯を食いしばりながら再度尋ねた。「晋太郎はどこにいるか教えて！」「ごめんなさい、入江さん」肇は真剣に謝った。「晋様が……事故に遭って……」 その言葉を聞いた瞬間、紀美子の涙は止まらなくなった。「事故って何よ？！はっきり言いなさい！」 肇は深く息を吸い、涙を堪えながら言った。「晋様は本来、ヘリコプターで帰るはずでしたが、パイロットが……晋様を狙っていたようで……」 肇はブラックボックスから抽出した録音の内容を大まかに紀美子に伝えた。 紀美子の頭の中は次第に真っ白になり、意識を失った。 「入江さん、ごめんなさい。今回の事故は私の不手際です。私は最後まで責任を負います」 肇の言葉は、紀美子にはもはや聞こえていなかった。 彼女は肇