All Chapters of 会社を辞めてから始まる社長との恋: Chapter 771 - Chapter 780

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第771話 人間としてあるまじき行為

杉浦佳世子がまだ考えているうちに、入江紀美子が急に立ち上がった。しかし次の瞬間、彼女は力が抜けたように思い切り椅子に倒れこんだ。佳世子は慌てて彼女を支えたが、怒りを抑えきれなかった。「紀美子!警察を!こんなことは警察を呼ぶしかない!こんな悪女、法律で裁いてもらうのよ!」「違う……」紀美子は佳世子を押しのけ、再び立ち上がった。「子供達に……会いに行かなきゃ……彼達を連れ戻さなきゃ……」紀美子はふらふらと個室を飛び出し、佳世子はカバンを持ってついていった。車に乗り込み、紀美子は震えながらボディーガードに、大急ぎで学校へと頼んだ。「今から警察に通報するわ!」佳世子は携帯を取り出した。紀美子は佳世子を構っている余裕がなかった。今は、少しでも早く子供達を病院に連れて行きたかった。本当に耐えられない!子供達にエイズを感染させるなんて信じられない!彼達はまだ幼いのに!彼達の人生はまだまだこれからなのに!なのに……何故こんなことがおこるのだろう!紀美子は爪を掌に食い込ませながら、胸元の痛みで窒息しそうになった。彼女は、静恵と松沢楠子がどれほど狂っているのか、また、こんな人間としてあるまじき行為がなぜできたのか、想像がつかなかった。車は暫く走った。すぐに紀美子は子供達の学校についた。佳世子は、途中で紀美子の携帯で学校の先生に連絡をいれておいた。そのため、先生はすぐに子供達を連れてきてくれ、紀美子は慌てて彼達を車に乗せ、病院に向かった。途中、紀美子はずっと彼達をきつく抱きしめ、一刻も離さなかった。入江ゆみと入江佑樹は息が詰まりそうだった。「お母さん……」ゆみは虚ろな目で紀美子を見て尋ねた。「どうしたの?ゆみ、怖い……」佑樹も母のこんな姿は初めてみた。まるで大きなショックを受けたようだった。彼は辛うじて佳世子の方へ振り向いて尋ねた。「佳世子おばさん、お母さんはどうしたの?」「君たち、楠子が持ってきたものを食べた?」佳世子は真剣な顔で聞き返した。「秘書のおばさん?」ゆみは頷いた。「一緒に食べた!」紀美子の体は激しく震えた。彼女は娘を見て、真っ青になった唇で尋ねた。「なぜ食べたの?」ゆみはただ瞬きをした。どう答えたらいいか
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第772話 だが手短に

「ごめん……ゆみ……お母さんが悪かった……」入江紀美子は先ほどの失態の悔しさで涙が止まらなかった。子供はまだ幼く、まだ何も分からないのに。彼達にとって松沢楠子は母の秘書に過ぎず、悪い人だと思わないだろう。全ては自分が悪かった。もしもう少し早く、楠子と狛村静恵の関係に気づいていたら、こんなことにならなくて済んだ!杉浦佳世子も胸が痛んで目元が赤く染まった。「紀美子、私はもう警察に通報したから、あいつらは必ず捕まる。もう泣かないで、私達で子供達を病院につれていこう」そう言いながら、佳世子も涙を堪えきれなかった。入江佑樹は大体これまでの経緯が分かってきた。楠子が細工をほどこした食べ物を彼達に食べさせ、それを最近母が知った。しかし、彼女は一体どんな細工をほどこしたのかのだろう。もしかして自分達の体に害があるものだろうか?佑樹は頭を垂らして黙り込み、恐怖を感じた。病院にて。紀美子は慌てて子供達を検査に連れていった。検査室の外で焦りながら待っていると、紀美子の携帯が鳴り出した。佳世子は放心状態の紀美子を見て、代わりに電話に出た。「もしもし、どなたですか?」佳世子は尋ねた。「入江さんでしょうか?」電話からは男の声が聞こえてきた。「どうかしました?」「警察の者です。先ほど通報のお電話をいただきまして会社のビルに到着しましたが、あなたの許可がないと入れないようです」警察は説明した。「今本人に代わりますので、ちょっとまってください」佳世子は携帯を紀美子に渡した。「警察が会社に入ろうとしてる」紀美子は携帯を受け取った。「入江です」「入江さん、容疑者を連行したいのですが、受付に知らせてください」「分かりました、電話します」すぐに紀美子は受付に連絡を入れた。受付は警察をビルに入れ、事務所のフロアに向かった。警察は楠子のいる秘書事務室のドアを押し開けた。資料を整理していた楠子は、警察を見て一瞬動きが止まった。しかしすぐ、彼女は冷静を取り戻した。「松沢楠子か?我々は通報を受けたため、あなたに犯罪行為の疑いで同行してもらいたい」楠子は大人しく警察の前に来て、手錠をかけられた。「一度病院で入江社長に会いたいのですが、いいですか?」「話がある
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第773話 ご冷静に

すぐに、子供達が出てきた。入江紀美子が彼達を連れて帰ろうとした時、警察からまた電話がかかってきた。「入江さん、松沢容疑者はがなたに会いたいと言っていて、今病院の入り口にいます」それを聞いて、紀美子は拳を握りしめた。「今から行きます」「分かりました」電話を切り、紀美子は深呼吸をしてから杉浦佳世子を見た。「ちょっと入り口まで行ってくるから、子供達をお願いね」「何をしにいくの?」佳世子が焦って尋ねた。「警察が楠子を連れてきたから、ちょっと会ってくる」「あのクズが会いに来たの?彼女はあなたに会わせる顔があるの?」「とりあえず行ってくる」紀美子は怒りを抑えながら、佳世子にそう言うと、出ていった。病院の入り口にて。2人の警察に連れられた楠子を見て、通りすがりの人達は興味津々に振り向いた。楠子は気にせず、静かに紀美子が来るのを待っていた。病院のビルを出ると、紀美子はすぐに楠子を見つけた。彼女は大きな歩幅で楠子の前に来て、おもいきり彼女の顔に平手打ちをした。警察達が慌てて紀美子を阻止しようとした。「入江さん、ご冷静に!例え彼女が罪を犯したとしても、人を殴ってはなりません!」紀美子は警察に返事せず、殴られて顔を背けた楠子に怒鳴った。「なぜだ?!あんなに優しく接してあげていたのに、一体なぜこんなことを?!彼達はまだ5歳なのに、よくも子供達に手を出したわね!彼達の人生はまだまだこれからなのに、どうしてそんなことができたの?」楠子は返事をしなかったため、紀美子の怒りは更に燃え上がった。「何か言えよ!楠子!一体なぜこんなことしたのよ?」「申し訳ありません」楠子はようやく口を開いた。「私は、狛村静恵に協力して卑怯なことをしました。けれど私は、静恵の指示に従って子供達を傷つけるようなことはしていません。」「どういう意味?」紀美子は戸惑った。「最初の頃、確かに私は、静恵への借りを返す為に子供達に手を出そうとしました。しかし、いざとなった時私はどうしてもできませんでした。今回会いにきたのは、一つ白状したいことがあったからです。この前の工場の火事の犯人は、私です。私は法律の裁きを受けます」「子供に危害を加えなかったの?」紀美子は問い詰めた。「し
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第774話 子供達はどうなってる?

「紀美子!」後ろから男性のかすれた声が聞こえてきた。入江紀美子が振り返ると、森川晋太郎と田中晴が慌てて走ってくるのが見えた。「何であなた達がここにいるの?」晋太郎は焦っているようだった。「子供達はどうなってる?」紀美子はこれまでの経緯を忠実に教えた。「まさか狛村静恵がこれほどまで極悪な手を使ってくるとは」「佳世子は?」晴は周りを見渡したが、杉浦佳世子の姿が見当たらなかったため尋ねた。「彼女は子供達と一緒に検査室の所で待ってるわ」「分かった、ちょっと見てくる。後で一緒に飯でも食おう!」晴はそう言って病院に入っていった。晋太郎は、紀美子の腫れた目を見て胸が痛んだ。「こんなことが起きているのになぜ教えてくれなかったんだ?1人で全て受け止めようと思ってたのか?」「あの時は子供達のことで頭が一杯で、他のことに構っていられなかったの」紀美子は視線を垂らして答えた。晋太郎は手を伸ばし、紀美子の冷え切った手を握った。「行こう。コーヒーでも飲んでリフレッシュしよう」2人は病院近くの喫茶店に入って、アイスコーヒーを注文した。紀美子はコーヒーを一口飲むと、何だか気持ちがすっきりした。「晋太郎」紀美子は口開いた。「何だ」晋太郎は低い声で返事した。「今回のことの元凶が狛村静恵だったと分かった今でも、あなたは彼女を助けたいの?」「全体的な計画を考えると、今はまだそれを変更できない」晋太郎は冷静に答えた。「今彼女の罪を問うと、彼女はきっとオヤジに助けを求める。だが安心してほしい。これらを片付けたら、俺はこの手でヤツを仕留める」「あいつがこれだけの悪事をやらかしているのに、彼女に頼らなければならないなんて、皮肉だわ」紀美子は悔しくてコーヒーカップを握りしめた。「皮肉なんかじゃない」晋太郎は紀美子と一緒に病院に向かって歩きながら言った。「彼女を利用する為に助けるんだ。こう言ったら受け止め方が変わるだろ」紀美子はやや驚きながら、微笑んだ。「そう言われると、確かにそうね」紀美子の笑みを見て、晋太郎は思わず動揺した。彼女はようやく、自分の前でも素直に笑えるようになったのか?晋太郎も口元に笑みを浮かべ、彼女と一緒に子供達を迎えに行った。松沢楠子の事件はす
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第775話 本当にないって!

まさか、松沢楠子は何もしていなかったなんて。あんなクズを身の周りに残すなんて、とんだ失策だった!彼女が失敗した以上、加藤藍子に急いでもらうしかない。狛村静恵はベッドの裏に張り付けていた携帯を取った。藍子の番号を見つけ、電話をかけた。暫くすると、藍子は電話に出た。静恵は彼女の声を待たずに口を開いた。「ものは既に手に入ったはずよね?まだどう動くか思いつかないの?」「狛村さん、あんた思ったより随分とせっかちだね。ものは手に入れたけど、計画は一歩ずつ立てる必要があるじゃない?」「早く入江紀美子と杉浦佳世子の苦しむ顔が見たいのよ!」静恵は声を低くして叫んだ。目を大きく開き、髪の毛がばさばさと乱れている彼女は、まるで地獄から這い上がってきた悪魔のようだった。「落ち着いて、狛村さん」藍子は軽く笑って言った。「いいお芝居には段どりが必要だもの」静恵は歯を食いしばった。「そこまで言うなら、待ってあげる。もししくじったら、その時は、あんたも道ずれにしてあげるわ。覚悟しといて」藍子は眼底の笑みをしまい、嫌悪に溢れた表情で携帯をテーブルに置いた。静恵のやつは狂っている!「狛村さん、そんなキツいことを言われても仕方ないわ。ちょっと用事ができたから、切るわ」そう言って、藍子は電話を切った。彼女はテーブルに置いていたコービーカップを手に取り、窓越しに外を眺めながら、優雅に一口飲んだ。実は、彼女は静恵に言われなくても急いで計画を実施するつもりだった。田中晴の両親が、徐々にあのビッチを受け入れ始めている。そのため、急ぐ必要があった。これ以上対策を練らないと、自分と晴はもう終わってしまうかもしれない。晴は……必ず自分のモノにする!藍子の眼底には冷たさが浮かび、佳世子の携帯にメッセージを送った。「こんにちは、加藤藍子です。明日は空いてるかな?会って話したいことがあるわ」晴と一緒に家に戻る途中の佳世子がメッセージを受信した。メッセージを読み、彼女は眉を寄せた。「晴!あんた、最近も藍子と連絡を取ったりしてるの?」「藍子?何で?」晴は佳世子を見て戸惑った。「してねえよ!俺、ずっと君と一緒にいるじゃないか!」佳世子は目を細くして彼を疑った。「本当に連絡取ってない?」
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第776話 お二人の婚約

「あまり良い予感がしないわ」入江紀美子は不安そうに言った。「でしょ?」杉浦佳世子も疑っていた。「何だか、彼女と晴の間には、絶対何かあった気がするの!」「……そんなことはないと思うわ。だって晴が一緒に行くと言っているんでしょう?彼は肝が据わっているわ」「いや、違う!彼はきっと、私に何かを悟られるのを恐れていて、ついて行くと決めたはずよ!例えば、話がヤバくなったら、目で藍子に合図をして止めるとか」佳世子は意味深く分析した。「それだったら、彼が藍子に電話をすればいいじゃない?ところで、晴は今傍にいるの?」紀美子が尋ねた。「いるよ」佳世子は台所の方を眺めた。「彼は今夜食を作ってくれてるの」「へえ、かの遊び好きの貴公子様が、自らご飯を作るほど完全にあなたにハマってるのね」そう言われた佳世子は、幸せの笑みを浮かべた。「でしょ?彼はこう見えて、結構いい所あるのよ!」「はいはい。もう遅いし、私は子供達を寝かせなきゃ。そろそろ切るね」紀美子は時計を眺めながら言った。「分かった、明日戻って来たら連絡する!」「は~い」電話を切った後、紀美子は1階に降りて子供達を寝かせようとした。階段を降りると、松風舞桜が戸惑った顔で入ってきた。「どうしたの?」紀美子は尋ねた。「紀美子さん、隣の別荘って、売り出されたの?」「よく分からないわ」紀美子は答えた。「私は普段忙しくて、全て秘書に任せているの。家を見にきた人がいたの?」「はい、でも夜に見に来る人は初めて見たわ」紀美子は窓越しに外を眺め、携帯で竹内佳奈に電話をかけた。「もしもし、佳奈?最近誰か別荘を見にきたいって言ってきた人いる?」「はい、連絡がありました」佳奈は答えた。「今日不動産屋に、連れていってもらいたいと連絡がありましたが、今来たのですか?」「そう。相手はどんな人とか、知ってる?」「何かのビジネスをやっている夫婦だそうです」佳奈は答えた。「そう、分かったわ。ありがとう」「いいえ、それじゃ」電話を切り、紀美子は桜舞に、そちらの方をよく注意してと指示した。今までの経験上、夜部屋を見にくる人はどうも怪しかった。もし相手が怪しい人だったら、彼らに売るつもりはない。3人の子供達がここに住
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第777話 贈り物

杉浦佳世子は加藤藍子の話が気になった。「どうして晴が優しい男だと分かったの?」彼女は藍子の目を見て尋ねた。藍子は手を引き、自分にお茶を注いだ。「晴兄ちゃんと私は幼い頃から一緒に育ってきたじゃない。彼にはお世話になってきたし。こんな些細なこと、佳世子さんは気にしなくていいと思うわ」さすがトップクラスの清楚系ビッチだ!佳世子は心の中で罵った。田中晴が優しい男だとか、そんな些細なことを気にするなとか!いい加減あの口を無理やり塞いでやりたかった。何もったいぶってんのよ!「ねえ、晴。藍子さんって、本当に賢くて優しい方だね」佳世子は軽くあざ笑いをして、笑顔で晴を見た。佳世子に言われた晴は、思わずぞっとした。「ちょっ、デブ……藍子、何言ってんだよ」彼は佳世子が怒っているのを感じ、慌てて藍子を止めようとした。「あれって、もう随分昔の話だろ?」こんな状況では、「デブ子」のあだ名すらも口にすることができない。「ごめんなさい、つい……やはり晴兄ちゃんの言う通りだわ」は藍子が意味深な笑みを浮かべながら謝った。そして、彼女は用意しておいた二つのギフトバッグを出して、机の上に置いた。「これ、つまらないものだけど、間もなく生まれる赤ちゃん、そしてお二人への結婚祝いだよ」藍子は微笑んで言った。「無駄な金を使わなくていいのに。俺達は自分で買えるから」晴は戸惑いながらも受け取った。「晴、これは藍子さんの気持ちだから、受け取らないと失礼だわ。藍子さんは祝福の贈り物を渡したくて誘ってきたんだから、断られたら可哀想だし」佳世子は眼底に笑みを浮かべながら、晴を注意した。あんたが受け取らなかったら、絶対何かある!晴は佳世子に逆らえず、仕方なく藍子のものを受け取った。そして彼はそれを佳世子に渡した。「見てみる?」佳世子は藍子を見て、「今開けていいの?」と尋ねた。「はい、どうぞ」藍子は頷き、落ち着いた声で返事した。佳世子は贈り物を一つずつ開けた。赤ちゃんへの贈り物は金で作った首輪で、ボディには「平安健康」の文字と刻印されていた。佳世子と晴への贈り物は、唐物茶碗のセットだった。茶碗の高台が金色の釉薬が施されており、胴には墨絵がある。そのうちの一つが、寄り添う2羽の鳥、
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第778話 一緒に行ってくる

MK社にて。杉本肇は一人の中年男性を連れて森川晋太郎の事務所に入ってきた。「晋様、冴島さんが昨晩、藤河別荘の家を見に来てくれました。写真も撮ってきてくれましたが、どこか直す必要があるところはありますか?」肇がそう言うと、冴島拓郎はカバンから何枚かの写真を取り出して晋太郎の前に置いた。「森川社長、どこの設計を直しましょうか?」晋太郎は写真を受け取り、確認した。「2階に子供の部屋を3つ作って、うち二つは色をグレーにして。あまり大きくなくていい。真ん中の寝室は、両側の子供の部屋の面積を使ってもいいが、できるだけ広くして。その寝室の天井を星空の絵にして、部屋の中に豪華な着替え室を設けること。そして、3階の壁を全部取り、プレイルームにする」そう言ってから晋太郎は肇に指示した。「最高級のスペックのパソコンを2台用意して、二つの小さめの寝室に置いてくれ」「……」晋様は思い切りゆみさんを贔屓しているな!ゆみさんには一番大きな寝室と、丸ごと一フロアのプレイルームも用意するのに、他の二人のぼっちゃまにはパソコン室をケチるのか?「あの……晋様、こうすると二人のぼっちゃまのお部屋が残り100平米しかないのですが……」「その二人には寝るところさえあればいい。もっと広い部屋が欲しければ、自分で稼いで買うのだ」「森川社長、その家ですが、今日中に買われるのでしょうか?」デザイナーの冴島が尋ねた。「いつまでモタモタするつもりだ?」晋太郎は軽く眉を寄せて彼を問い詰めた。「2週間以内に完成してくれ」「かしこまりました、森川社長。今日中に買取の手続きを済ませておきます!」「肇、小切手を」晋太郎が頷いて肇に命令した。デザイナーが帰った後。「晋様、これはぼっちゃま達とゆみさんを自立させるためなのでしょうか」肇はもう一度晋太郎に確かめた。「時には、子供がお荷物でしかなくなることもある」晋太郎は肇を見て淡々と述べた。「えっ?」「お前はまだ独身だから分からないんだ。」「はい?」なんだか、すごく馬鹿にされた気がする!午後。竹内佳奈が入江紀美子の事務所に入ってきた。「社長、隣の別荘ですが、買取手が出ました。手続きは午後に進めるのですが、お時間はありますか?」紀美子は
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第779話 遠慮はしなかったわ

入江紀美子はてっきり露間朔也が帰ってきたと思ったが、来たのはまさかの塚原悟だった。悟は果物を持ったままディナールームの方を眺めた。紀美子を見て、彼は手に持っている袋を振ってみせた。「果物しかもってきていないけど、タダ飯を食べていいかな?」紀美子はいきなり訪ねてくる悟を見て驚いた。「来るなら言ってくれればいいのに」「君と子供達がきっと家にいると思って、ちょっと寄り道をしてきたのさ」悟はスリッパを履き替えながら説明した。紀美子は頷き、悟と一緒にディナールームに入った。子供達は一斉に悟を見つめた。「念江くん、随分と顔色がよくなってきたな。ちゃんと薬を飲んでるか?」悟は森川念江に言った。「悟おじさん、こんにちは」入江ゆみは悟が持ってきたチェリーを見ると、嬉しくてはしゃいだ。「悟お父さん、やっぱりゆみの大好物がわかってるね!」悟は微笑んでゆみの頭を撫でた。「後でご飯を食べたら、悟お父さんと一緒にリビングで食べよう、ね?」「うん!悟お父さん、こちらへ!」ゆみは頷いて、紀美子の隣の席を指さした。「やっぱり、悟お父さんはゆみのことしか心にないんだ?」悟が座ってから、入江佑樹が冗談を飛ばしてきた。「ごめん。みんなで一緒に果物を食べるつもりだったんだ」悟は少し驚いて、慌てて説明した。松風桜舞が悟に茶碗とお箸を渡した。「佑樹くんは最近ますますませてきたわね。気にしないで、悟さん」紀美子が言った。悟はリビングを見渡して、「朔也はまだ帰ってきていないのか?」と尋ねた。「最近工場の方が忙しくて、いつも食堂で食べてるのよ。彼が帰ってくると大体食事の時間は過ぎているから」紀美子は説明した。悟はただ頷いて、何も言わなかった。食事の後、子供達は悟が買ってきたチェリーを持ってはしゃぎながらリビングに走って行った。紀美子と悟は隣で子供達を見守った。「今日、単にご飯だけを食べにきたわけじゃないよね?何かあったの?」紀美子が尋ねた。「いいえ」悟は素直に答えた。「暫く来ていなかったし、主任になって少し時間的に余裕ができたから、寄り道をしただけさ」「病院はこの藤河別荘に近いし、もし食堂の飯が飽きたらいつでも桜舞の手料理を食べに来て」「それじゃお言葉に甘えて」悟
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第780話 俺たちの言うとおりにして

塚原悟はチェリーを一個取り、入江紀美子に渡した。「この話はあまりにも現実的すぎだ。そうだろう?」紀美子はじっと悟を見つめた。通常であれば、彼女と森川晋太郎がこれからやろうとしていることを、悟が分かるわけがなかった。なぜ悟はいきなりそんなことを聞いてきたのだろう。「そうよ」紀美子は彼の話に合わせることにした。「だから」悟は続けて聞いた。「もし彼の父親がいなくなったら、君は彼と元通りになるのか?」「わからないわ。それまでに自分と晋太郎との間に何かが起こるかもしれないし、今ははっきりとした答えを出せないの」「分かった、もうこんな煩わしいことを話すのは辞めよう」そう言って、悟は立ち上がった。「もう遅いから、そろそろ帰るよ、明日朝早いし」「まだ19時半だけど?」紀美子は時計を眺めた。「君は、俺に帰ってほしくないのか?」悟はコートを着ながら冗談を言った。「い、いいえ、私はそんな意味じゃ……」紀美子は恥ずかしくて顔を赤く染めた。「大丈夫だ」悟は腰を下ろして紀美子の耳元で囁いた。「本気で受け止めてなんかいないさ」その挙動は、紀美子の顔を更に赤く染まらせた。彼女は急に立ち上がり、悟の後ろに回った。「送ってあげる!」二人は玄関まで行って、悟は隣の別荘を眺めた。「さっき来たときに気づいたんだけど、隣の別荘はもう売りに出したのか?」「うん、今日の午後手続きを終わらせたけど、なんだか買主が随分と急いでるみたい」悟は暫く隣の別荘を眺めていた。うす暗い街灯の光が、彼の瞳に映りこんで揺れていた。紀美子が気になって聞こうとすると、悟は視線を戻して車の鍵を出した。「もう帰るね、外は冷えてるから、君は部屋に戻って」紀美子は玄関で悟に手を振り見送った。夜。夜9時半頃。森川晋太郎は田中晴、そして鈴木隆一と一緒に外で酒を飲んでいた。「佳世子はもうお前を手放したのか?なんだか随分と自由だけど。晋太郎が憂鬱な目で晴を見て聞いた。「俺が遊びに出てきたとでも思ってんのか?俺はあいつに、あんたと紀美子の幸福のための対策検討会に出ると言って来たんたぞ!」晋太郎はテーブルに並んでいる酒のボトルを眺め、あざ笑いをした。「酒の場で俺の幸せを検討する?」「いや、俺
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