杉浦佳世子がまだ考えているうちに、入江紀美子が急に立ち上がった。しかし次の瞬間、彼女は力が抜けたように思い切り椅子に倒れこんだ。佳世子は慌てて彼女を支えたが、怒りを抑えきれなかった。「紀美子!警察を!こんなことは警察を呼ぶしかない!こんな悪女、法律で裁いてもらうのよ!」「違う……」紀美子は佳世子を押しのけ、再び立ち上がった。「子供達に……会いに行かなきゃ……彼達を連れ戻さなきゃ……」紀美子はふらふらと個室を飛び出し、佳世子はカバンを持ってついていった。車に乗り込み、紀美子は震えながらボディーガードに、大急ぎで学校へと頼んだ。「今から警察に通報するわ!」佳世子は携帯を取り出した。紀美子は佳世子を構っている余裕がなかった。今は、少しでも早く子供達を病院に連れて行きたかった。本当に耐えられない!子供達にエイズを感染させるなんて信じられない!彼達はまだ幼いのに!彼達の人生はまだまだこれからなのに!なのに……何故こんなことがおこるのだろう!紀美子は爪を掌に食い込ませながら、胸元の痛みで窒息しそうになった。彼女は、静恵と松沢楠子がどれほど狂っているのか、また、こんな人間としてあるまじき行為がなぜできたのか、想像がつかなかった。車は暫く走った。すぐに紀美子は子供達の学校についた。佳世子は、途中で紀美子の携帯で学校の先生に連絡をいれておいた。そのため、先生はすぐに子供達を連れてきてくれ、紀美子は慌てて彼達を車に乗せ、病院に向かった。途中、紀美子はずっと彼達をきつく抱きしめ、一刻も離さなかった。入江ゆみと入江佑樹は息が詰まりそうだった。「お母さん……」ゆみは虚ろな目で紀美子を見て尋ねた。「どうしたの?ゆみ、怖い……」佑樹も母のこんな姿は初めてみた。まるで大きなショックを受けたようだった。彼は辛うじて佳世子の方へ振り向いて尋ねた。「佳世子おばさん、お母さんはどうしたの?」「君たち、楠子が持ってきたものを食べた?」佳世子は真剣な顔で聞き返した。「秘書のおばさん?」ゆみは頷いた。「一緒に食べた!」紀美子の体は激しく震えた。彼女は娘を見て、真っ青になった唇で尋ねた。「なぜ食べたの?」ゆみはただ瞬きをした。どう答えたらいいか
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