All Chapters of 拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された: Chapter 671 - Chapter 680

由美が出てくると、翔太はすぐに駆け寄り、何も気にせず彼女を抱きしめた。「俺を覚えているんだろう？そうじゃなきゃ、今日あんな目で俺を見たりしないはずだ。俺の勘違いじゃなかった、よかった……君が出てきてくれて」「私はあなたのことを覚えていないわ」由美は言った。この言葉は、まるで冷水を浴びせられたように翔太の心に突き刺さった。「信じられない……君は誰のことを忘れてもいい。でも、俺のことだけは忘れちゃいけないだろう！」彼は信じたくなかった。彼は由美の肩を掴み、その瞳をじっと見つめた。由美は視線をそらすことなく彼を見返しながら言った。「私はあなたのことを覚えていないけれど、あなたが私を想ってくれているのは分かるわ。さっき私を見た時の興奮や、憲一に対する怒りを見れば、それが本当だってことも分かる。あなたが良い人だってことは、ちゃんと分かっているわ」翔太の目は感激で赤くなり、声が震えた。「良い人どころじゃない。俺は君を愛しているんだ。君を守りたい、君を大切にしたいんだ」彼は由美の手を握りしめた。「一緒に来てほしい」しかし、由美は首を横に振った。「私は行けないわ」翔太はその瞬間、落ち着きを失った。「なぜだ？まさか憲一と一緒にいるつもりなのか？彼は結婚していて、君を捨てたんだ。あんなに傷つけられたのに、それでも彼と一緒にいるつもりなのか？」「そうじゃないわ」由美は説明した。「私が記憶を失ったのは、誰かが私を殺そうとしたからよ。でも、私は死ななかった。助けられて、それで記憶を失ったの。でも、私を殺そうとしたのは憲一の母親。だから私は復讐するって決めたの。だから、あなたと一緒には行けない」翔太は彼女をじっと見つめた。「そんなことをしたら、君が危険な目に遭うんじゃないのか？」「大丈夫よ」由美の瞳は決意に満ちていた。「憲一は、私が彼の母親のことを知っているとは思っていないから、私に対して無防備よ。だから簡単に手を打てるの」「でも、もしバレたら君が危ないじゃないか？復讐なんて、俺が手伝うから、君はすぐに彼の元を離れるべきだよ」翔太は心から心配していた。一度命を狙われた彼女がまた危険な目に遭うのではないかと心配だったし、それ以上に、憲一と一緒にいるうちに、また彼に心を許してしまうのではないかという不安が頭を離れなかった。「私は自分で復讐

圭介は目を伏せ、じっと彼女を見つめていた。「どうしたの？なんでそんなふうに私を見てるの？」香織は微笑んで言った。彼女はつま先を立て、圭介の首に腕を回して軽く引き寄せ、自ら唇を寄せた。唇が触れ合った瞬間、圭介の硬直した体が小さく震えた。彼女はそっと唇を離した。「怒ってるの？」圭介が答える前に、彼女は続けて言った。「あれ、私の日記よ」圭介は感情を表に出さず、ほんの少し眉を下げた。まさか、彼女が自分から言うとは思っていなかったようだ。香織は彼の首に腕を回し、つま先を立ててようやく顎を彼の肩に乗せると、彼のセクシーな首筋に頬を寄せて甘えるように擦り寄った。「その日記を書いたのは、私がまだ十四、五歳くらいのときよ。ちょうど思春期で、好きとか愛とかが何なのかもわからなくて、異性に対してなんとなくぼんやりとした感情を抱いていた頃だったの。でも、あの時期を過ぎてからは、その人のことなんてとっくに忘れていたわ」「そうか？」圭介は半信半疑の様子で問いかけた。「本当よ。あなたの様子がなんだか変で、もしかしてあの日記のせいで怒ってるのかなって気づいてね、そして確認したの。理由がわかったから、あの日記は捨てたわ。私にとっては、記念するほどのものでもないし、保存する価値もないから。だって、私の未来はあなただもの」香織のそんな率直さに触れ、圭介の心は大きく揺さぶられた。「香織」彼の瞳が深く燃えるように輝いた。「うん？」香織は彼を見上げて応えた。圭介は彼女の顎を軽くつまみ、少し持ち上げると、そのまま身をかがめて唇を重ねた。最初は優しく、次第に深く、熱を帯びた濃密なキスが彼らを包み込んだ。その情熱的なキスに、香織は思わず足元がおぼつかなくなりかけたが、圭介が彼女の柔らかくしなやかな腰を腕で支えた。その腰は細くて弱々しく、彼が少し力を入れるだけで折れてしまいそうだった。彼は彼女を抱き上げ、窓際にある低いキャビネットの上にそっと座らせ、自分はそのまま彼女の両足の間に立った。その体勢に、香織は思わず顔を赤らめ、視線を伏せた。彼女は恥ずかしそうに薄い唇を軽く噛んで言った。「ここじゃ……ダメじゃない？」圭介は何も言わず手を伸ばし、窓のカーテンをさっと引いた。香織は慌てて彼を押し返しながら、「ちょ、ちょっと待って！まだお風呂に入

圭介を見た瞬間、愛美は急いで車の中に乗り込んだ。彼と視線を交わすのが怖いわけではないが、彼の冷たい態度には慣れていないのだ。それに、自分が彼と親しくなろうとしていると誤解されるのも嫌だ。彼女は自分の立場をわきまえており、距離を保つほうがいいと考えていた。圭介は車の方向に目を向けたが、特に何も言わなかった。由美もその場を去った。香織は彼の腕を取り、家の中へと戻った。「今日、誰かに物を送らせたの？」圭介は彼女を見て言った。「気に入ったか？」香織は微笑んだ。気に入らないと言えば嘘になる。輝く宝石を嫌う女性などいない。ただ、彼女は特別ジュエリーに執着するわけでもなく、どうしても欲しいと思うわけでもなかった。彼女が一番嬉しかったのは、圭介のこの心遣いだった。彼が自分のために気を配ってくれたことが伝わったのだ。「とても高価なものだから、書斎に置いておいたの。書斎には金庫があるみたいなんだけど、パスワードが分からないから、あなたが帰ってくるのを待って入れようと思って」圭介は微笑んだ。「その言い方だと、俺が金庫のパスワードを教えなかったのを責めてるみたいだな」香織は甘えた声で言った。「そうよ。他の家では妻が家を切り盛りしているのに、うちは財産も渡されてないし、結納金ももらってないわ」「じゃあ、どれくらいの結納金が欲しい？」圭介は尋ねた。香織は考えるふりをして、「相場でいいわ」と言った。圭介は彼女の頬を軽くつまんだ。「勝手なこと言うな。他の人と君が同じだと思うのか？」「何が違うのよ？みんなと同じく嫁ぐんでしょ」「俺は命だって君にあげられる。他の人にそれができるのか？」圭介は彼女を抱きしめ、耳元で囁いた。香織は彼を押しのけた。「口が上手いわね。昔はそんなじゃなかったのに」「じゃあ、昔の俺はどんなだった？」圭介は尋ねた。香織は彼と言い合うつもりはなく、テーブルを指さして言った。「しまってちょうだい」そう言って彼女は歩き去ろうとした。「待って」圭介は彼女の手を引いた。彼は香織を抱きしめたまま、金庫のダイヤルを回し始めた。香織はわざとそっぽを向いた。先ほどの発言はただの冗談だったのだ。圭介の財産はあまりにも多く、彼女には管理しきれないとわかっていた。数回ダイヤルを回すと、金庫は「カチャ

圭介が話している間、思い出に浸り始めた。どれだけ時間が経っても、あの日のことを忘れることはない。香織は何かに気づいたようだった。手の中の箱を見つめながら、少し期待を込めた表情を浮かべた。彼女はゆっくりと箱を開け、そして驚愕した！これ……これは自分がなくした翡翠の仏のペンダントではないか？それは、祖父がくれたもので、一歳からずっと身に着けていたので、はっきり覚えている。間違いない、これは自分のペンダントだ。全体が緑色ではなく、緑が混じったもので、彫刻された仏はまるで生きているように精巧だ。彼女はペンダントを手に取り、しっかりと握りしめた。圭介は彼女の様子に気づかず、自分の感情に浸っていた。あの出来事以来、彼は水をとても恐れるようになった。でも、彼は水原圭介だ。こんなことで怯むわけがない。自分の恐怖を克服することしか考えられない。「あなたを助けたのは、小さな女の子だったんでしょう？でも、それは彼女一人じゃなかったわよね。もし彼女の祖父が間一髪で来ていなかったら、彼女はその男の子と一緒に、池で溺れていたかもしれないから」圭介は突然目を上げ、漆黒の瞳が微かに揺れた。どうして彼女がこんなことを知っている？彼自身も疑問に思っていた。助けてくれたあの小さな女の子は、自分よりもずっと年下に見えた。いくら泳ぎが上手でも、自分を引き上げることなんてできるはずがない。でも、そんな細かいことまで……彼女の祖父？圭介は、香織の祖父が自分の祖父の運転手であり、水原家に自由に出入りしていたことを思い出した。もしかして……香織こそが、自分を助けてくれた人なのか？そうでなければ、彼女がこれほど詳しいことを知っているはずがない。「あの時、君を探したんだ。すごく長い間……」圭介の声は低く、かすれていた。「おじいちゃんは多分、あなたが誰かに害されたことを知っていたと思う。トラブルに巻き込まれたくなかったから、私に余計なことを言わないようにしたし、自分からも誰にも話さなかったの」二人の目が合った。香織は微笑んだ。圭介の表情は複雑だった。彼自身も思いもよらなかっただろう。自分と香織の縁が、こんなにも早くから運命づけられていたなんて。よかった。彼女でよかった。ずっと彼女だったのだ。香織

翔太はまだ状況を飲み込めず、疑問を口にした。「上に行ってどうするんだ？」専門家でもないし、上に行ったところで誰も助けられないだろう。下には記者がたくさんいるし、下手をすればもっと面倒なことになるかもしれない。「おかしいと思わない？」エレベーターに乗り込みながら、香織は翔太を見つめた。「どこが？」翔太はまだ理解できていなかった。おそらく、事態は自分に関係ないと思っているのだろう、彼の敏感さが足りない。「まだ飛び降りていないのに、記者がもうこんなに集まっている。彼らはどこで情報を得たの？」香織はこれが偶然だとは思えなかった。ここは住宅街ではないからだ。もしその人が本当に自殺したいなら、他の場所でもできるはずなのに、どうしてわざわざここで飛び降りようとしているのか？しかも、自分と圭介がここで結婚式を挙げることはすでに広まっている。ここで死人が出たら、結婚式はどうなる？こんな縁起でもないことがあっていいのか？「確かにおかしいな」翔太もようやく気づいた。彼は急いで香織の後を追いかけた。「こうして急に上に行くのは、危険じゃないか？」「女の子みたいだから、もし説得できるならそれが一番いいけど」「説得できなかったら？」翔太は聞いた。香織は答えなかったが、心の中には答えがあった。もしここで死者が出たら、この場所で結婚式を続けることはできないだろう。エレベーターがすぐに停止した。二人は迅速に外へ出た。しかし、中には誰もいなかった。こんな大きなビルで、人が一人もいないなんてありえない。しかし、今このフロアには誰もいない。明らかに、背後で何者かが計画しているとしか思えない。窓辺に立っている女性は、何かを感じ取ったのか振り返り、香織を見て微笑んだ。「久しぶり」香織は眉をひそめた。「彩花？」幸樹の彼女だ。幸樹はもう水原家に帰ったはずでは？「誰が指示したの？幸樹なの？」香織はすぐに本題に入った。「フッ」彩花は皮肉げに笑った。「あなたたちがやったことを、自分でわかっていないとでも？彼の記憶を全部消したんでしょう？私のことも含めて。そんな彼が、私に指示できるわけないじゃないでしょ」香織は、圭介が彩花をどう扱ったのか知らなかった。だから、彼女がここに現れるなんて、全く理解でき