All Chapters of 拗れた愛への執着: 結婚から逃げた総裁に愛された: Chapter 511 - Chapter 520

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第511話

「どうした?」翔太が尋ねた。「彼女は逃げたりなんてしないわ。だけど、彼女がいなくなったってことは、もしかしたら誰かに捕まったか、害されたんじゃないかしら?」香織は由美の失踪と松原家や橋本家に関係があるのではないかと強く疑った。しかも、あの悠子もろくでもない人間だ。由美が一人でいて、もし本当に捕まったり、害されたりしていたら……香織はそれ以上考えるのが怖くなった。胸が重苦しくなる。どうしよう?圭介も香織と同じような考えだった。生きている人間が、無事なのに突然姿を消すわけがない。つまり、彼女は害された可能性が高い。たとえ命が無事だとしても、どこかに監禁されているかもしれない。圭介は香織の背中をそっと撫でながら言った。「心配しないで、俺が探してあげるから」香織は彼を見上げた。言葉には出さなかったが、その視線は明らかに「どうしてもっと早く、このことに気づかなかったの?」と言っていた。しかし、彼女もわかっている。圭介にはそんな義務はない。彼を責めるべきではない。ただ、由美が危険にさらされているかもしれないと思うと、気持ちが焦ってしまい、冷静でいられなくなるのだ。翔太も香織の目から非難の意図を読み取り、すかさず愚痴をこぼした。「水原さんに会いに行ったんだけど、彼に会わせてもらえなかったんだよ」この時ばかりは、彼は圭介を義兄と認識することなく、単に「水原さん」と呼んだ。翔太の心の中では、圭介に対する不満が大きく膨らんでいた。「……」圭介は言葉を失った。「香織……」彼は言い訳しようとした。しかし、香織はそれを遮った。「わかってるわ、これはあなたのせいじゃない」彼女はただ、自分を責めた。感情に引きずられて離れてしまったことを。もし自分がいれば、由美は自分を頼れたかもしれない……そうすれば、ここまで事態が悪化することはなかったはずだ。香織は今、頭の中が混乱していた。少し冷静になる必要があった。「翔太、もうお酒は飲まないで。しっかりして。後で、あなたにお願いしたいことが出てくるかもしれないから」翔太は頷いて、「わかった」と返事をした。……帰り道、香織の気持ちは一向に落ち着かなかった。「知ってる?憲一と悠子の結婚式で、あの長い横断幕をかけたのは悠子だったのよ」彼女は圭介に
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第512話

圭介はまだ怒っていない中、先に恭平が怒鳴りながら近づいてきた。「香織!」彼は圭介に嫌がらせされた件を処理したばかりで、すぐに香織を探しに来た。そして、香織が圭介と和解したことに気づいた。二人して、俺をからかっていたのか?!しかも、香織は圭介が彼女を好きではないと言っていたのに、なぜまた彼と一緒にいるんだ?「香織、ちゃんと説明してくれ!」恭平はまるで彼女に裏切られたと言うような口調で、悲しげに訴えた。香織には、なぜ恭平がこんなにも怒っているのか全くわからなかった。彼女は探るように聞いた。「私が何をあなたに借りたと言うの?なぜ説明しなければならないの?」恭平は一瞬呆然とした。確かに、特に何かを貸したわけではないなと恭平は思った。「君が言ったじゃないか、圭介に君の身元を隠すようにと。それを俺は守ったのに、君はまた彼と一緒になったじゃないか。君の言ったことは無駄だったのか?」恭平は考えていた。圭介と香織の間に誤解があるうちに香織の心を掴み、圭介の女と子供を奪うつもりだった。しかし……その計画は見事に失敗し、彼は当然怒りが収まらなかった。「俺が先に彼女を見つけた。何か文句でもあるか?」圭介も車から降り、鋭い目で恭平を見つめた。もし恭平がM国にいた時点で香織の身元を知っていて、故意に隠していたことを知っていたら、当時、圭介が嫌がらせしただけでは済まなかっただろう。恐らく彼を完全に廃人にしていただろう。恭平は香織の前で恥をかきたくないため、胸を張って言った。「文句はあるさ。彼女はお前のものではないんだから、俺が彼女を探しに行くことは自由だろう」圭介はその言葉に思わず笑ってしまった。「彼女が俺のものではなくて、お前のものだとでも言いたいのか?」彼の声は冷たく、鋭かった。「そうだ。彼女はお前の子供を産んだが、彼女がお前の妻だと知っている人がどれだけいる?正式な結婚証明書はあるのか?結婚式は挙げたのか?誓いを立てたのか?結婚写真は撮ったのか?結婚証明書に二人の写真は載っているのか?」恭平は一言一句、圭介に問いかけた。そのたびに、圭介の表情は徐々に暗くなった。彼の厳しい顔に陰りが差し、まるで嵐の前の暗い空のようだった。恭平の言葉は彼の心の奥深くを突き刺したのだ。反論することができなかった。そのため、圭
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第513話

恭平は近づいてきた人物を確認し、一歩後退した。別に相手が特に強いわけではない。ただ、彼には助っ人がいなかったのだ。彼は理解できなかった。なぜ、あの越人がここに来るのか?しかも、こんな人里離れた道端に、どうしてこんなにタイミングよく現れるのか?考え込んでいるうちに、車の中に座っている香織が目に入った。彼女は手に携帯を持っている。まさか、彼女が呼んだのか?「香織、越人を呼んだのは君か?」恭平は尋ねた。内心では、彼女がそんなことをするとはあまり信じられなかった。彼女はそんなことはしないはずだ。しかし、香織は否定しなかった。恭平の姿を見た瞬間、彼女は心配し始めていた。圭介のことではなく、むしろ恭平のことを心配していたのだ。恭平は圭介に対して、今まで得をしたことがなかった。彼が不利な立場に立たされるのを防ぐために、彼女は動いた。ちょうど圭介の携帯が車の中に置き忘れられていたので、彼女はその携帯で越人に電話をかけた。越人を呼び寄せたのは、圭介が恭平をいじめるのを手伝わせるためではなく、恭平をここから連れ去るためだった。二人が本当に喧嘩をしないように。香織は恭平の目を真っ直ぐに見つめ、「あなたのためにしたのよ」と答えた。恭平は言葉に詰まった。「......」彼は眉をひそめた。「君が俺のためにしてくれたとは感じない。むしろ、君と圭介が手を組んで俺をいじめているように感じるよ」香織はじっと彼を数秒見つめてから、もう放っておくことにして、「じゃあ、やりたいならやればいいわ」と言った。彼女は元々善意で言ったのに、相手がそれを受け入れる気がないなら、自分もわざわざ口を挟む必要はない。「......」恭平は言葉を失った。二対一で戦えと?勝ち目があるのか?明らかにないだろう。これは自分を陥れるためではないか?彼は自分では、香織に対して良くしてきたつもりだった。彼女を友人として扱い、彼女を追いかけようとした。しかし、彼女はどうやら自分に対して無情なようだ!「分かった、覚えておけよ」彼は車に向かって大股で歩き出した。今この瞬間、彼の心には少し恨みが芽生えていた香織の自分へ向ける冷淡な態度に対する恨みだ。どれだけ自分が彼女のために尽くしても、彼女はそれをまったく見ていな
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第514話

「どうしてこんなにわがままなことができたの?母親を置いていくのはともかく、子どもまで放っておいて、しかもお腹に赤ちゃんを抱えたまま、私と圭介を毎日心配させて。本当に成長したわね、立派なものだわ……」恵子は娘が死を偽装していたことを知り、怒りが収まらず、延々と叱り続けた。香織は口答えできなかった。圭介は息子を抱きながら、一方で話を聞いていた。彼自身、言えないこともあるが、同意していないわけではない。恵子の口から出た言葉を借りて、香織に教訓を与えられるなら、彼女が今後こんな無茶をしないようになるだろうと考えていた。たとえ理由があったとしても、死を偽装するのはやりすぎだ。「妊娠中にもし赤ちゃんに何かあったら、圭介にどう説明するつもりだったの?あなたはもう大人なのよ。しかも、すぐに二人の子供の母親になるのよ。もっと慎重に行動して、無茶をしてはいけないわ」恵子は双を指差しながら言った。「見なさい、この子、もうこんなに大きくなって、あなたのことを知らないのよ。母親として、あなたは失敗していない?」双は状況がわからず、大きな瞳をパチパチと瞬きし、その目はまるで黒い葡萄のように輝いていた。くるくると動き、明るくて元気な目だ。今、双が一番懐いているのは圭介だった。恵子が一番面倒を見ていたにもかかわらず、双と圭介の間には特別な絆があった。「自分に間違いがあると思う?」恵子が尋ねた。香織は自分に非があることをずっと自覚しており、母親の言葉を謙虚に受け入れていた。しかし、圭介の面白がっているように見えた表情が、彼女をひどく苛立たせた。そもそもこの状況を招いたのは彼なのに、今はまるで彼女の失敗を楽しんでいるようだった。「私が悪かった」彼女は認め、早く叱責を終わらせたいと思った。しかし、恵子は彼女が謝罪しても止まらず、むしろ「火に油を注ぐ」ように、恵子は続けた。「香織、これからは、何かをする前にしっかり考えなさい。自分の感情だけで突っ走ってはいけない……」ブブブ……その時、香織の携帯が突然鳴った。彼女は「救いの手」だと思い、すぐに電話を取った。電話の相手は主任だった。「ジェーン先生、すぐにホテルに戻ってください」「分かりました」香織は答えた。電話を切り、彼女は母親に向かって言った。「お母さん、ちょっと用
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第515話

香織は主任の様子がおかしいことに気づき、隣にいた同僚に視線を送り、何が起こったのかを尋ねた。「うちの研究成果が、華遠研究センターに出ていて、しかも私たちより先に論文を発表し、全世界に研究成果を公開したんだ」同僚は言った。香織は冷静に感情を抑え、「どうしてそんなことが?」と尋ねた。主任は鋭い目で彼女を見つめ、「知らなかったの?」と詰め寄った。「知りません」香織は冷静に答えた。「本当に?」主任は明らかに香織を疑っており、故意に試すように言った。「まさか、あなたが私たちの研究成果を盗み出して、Z国の華遠研究センターに渡したんじゃないでしょうね?」この言葉を口にするとき、主任はずっと香織の表情を観察していた。もし彼女が犯人なら、きっと緊張して表情に出るはずだ。しかし、香織は優れた心臓外科医として、この程度の冷静さは持ち合わせていた。彼女は主任の目を真っ直ぐに見返し、「私はやっていません」と断言した。それでも主任は諦めず、さらに問い続けた。「あなたに資料の整理を頼んだことがあったでしょう。その時、あなたは核心データに触れることができたはず。その時にデータを盗んで持ち帰ることはできたんじゃない?」香織は依然として落ち着いたまま、「そんなことはしません」と答えた。「あなたはZ国人。立場上、そうすることもあり得るでしょう」主任は言った。「でも、私はメッドの医師でもあります。私の立場は明確です......」「ジェーン、今日の討論会で、あなたはスピーチを原稿通りに話さなかった。あなたが言ったことはすべてZ国の研究を支持するような内容だった。メッド内部でも既に調査が始まっているわ。あなたがそのデータに触れたかどうか、すぐに結果が出るでしょう」香織の脇に垂れていた手は、少しずつ握りしめられた。主任は彼女の動きを見逃さず、目に暗い光を宿した。明らかに彼女は動揺している。主任は深くため息をついた。同情心が湧いても、情に流されるわけにはいかない。仁愛の心を持ちながらも、立場を守る必要がある。これが、この世界のルールだ。彼女はまだ弱すぎて、世界を変えることはできない。だから、自分のやるべきことをしなければならない。「主任、私は……」「En palabras simples ……」主任の携帯が急にスペイン
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第516話

「ジェーン、どうしたの?」同僚が尋ねた。香織は気を取り直して、「なんでもないわ」と答えた。主任が戻ってきた。「どうしてまだ食べていないの?」彼女は尋ねた。「主任を待っていたんですよ」同僚が答えた。「さあ、食べましょう」主任は箸を手に取った。「主任、箸を使えるんですね」同僚が驚いたように言った。主任は笑って、「そんなに難しいことじゃないわ。Z国に来たからには、この国の風俗や文化を体験しないとね」と言った。その時、ウェイターがコーヒーを運んできた。「あれ?コーヒーは頼んでいなかったはずだけど」同僚は不思議そうに言った。「私が頼んだのよ」主任は答えた。彼女はミルクを香織に差し出し、「あなたはコーヒーが飲めないから、特別にミルクを頼んだの」と言った。同僚は笑って「私と主任はコーヒーを飲む」と言いながら、自分のカップを取った。香織は主任が差し出したミルクを受け取り、「ありがとうございます」と言っった。確かに少し喉が渇いていたので、一口だけ飲んでみた。……食事の途中で、香織の頭が少しぼんやりしてきた。同僚が彼女の様子に気づき、「ジェーン、大丈夫?」と心配そうに尋ねた。香織は軽く頭を振り、「大丈夫、ちょっと疲れたかも」と答えた。「疲れているなら、帰って休むといいわ」主任は言った。香織は立ち上がり、「それでは、先に失礼します」と言った。だが、その時、自分の体調がどんどんおかしくなっていることに気づいた。立ち上がった時、彼女の視線は自然とそのミルクのカップに向いた。すぐに悟った。「このミルクに何か仕掛けたでうか?」そうでなければ、どうして急にこんなに力が抜けてくるのか?主任は彼女を冷静に見つめた。「反応が早いわね。そうよ、ミルクに薬を入れたの。さっきの電話は、あなたを連れ戻すように言われたのよ。すでに調査が終わって、データを漏らしたのはあなたってことが分かったわ。もしあなたを連れ戻さなければ、私は病院から追い出されるどころか、私のこれまでのキャリアが全部おしまいになるのよ。退職前に辞めさせられるわけにはいかない。だから、こうするしかなかったの」同僚はその場で動けなくなり、予想外の事態に唖然としていた。それとも、主任の冷静な計画に驚かされていたのかもしれない。香織は椅子を掴んで体
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第517話

[お前と憲一の結婚式での横断幕、お前が手配したものだね。私の手元にはその証拠がある]憲一は越人が送信したメッセージを見て言った。「それは俺と彼女の結婚式だぞ。彼女が自分の結婚式でそんなことをするわけがないだろう?」彼は明らかに信じていない様子だった。越人は特に説明せず、結果を待つことにした。松原家。悠子は風呂から上がり、高価なスキンケアを使いながら鏡の前に座っていた。彼女の気分は上々で、表情も生き生きとしていた。由美という目障りな女を排除し、憲一からの同情を引き出した彼女は、勝利に近づいたと感じていた。あとは憲一が由美のことを完全に忘れるのを待ち、彼の心を掴めば、この「戦争」は全面勝利となるだろう。憲一は自分の戦利品となり、今後、この男は自分だけのものになるのだ。その時、化粧台に置かれた携帯が突然鳴った。悠子が画面を確認すると、その表情は一変した。彼女はすぐに、自分が買収したあの人物を思い出した。あの男以外、誰も知らないはずだ。もしかして、あいつはさらにお金を要求しているのか?悠子は携帯を凝視し、少し動揺したが、まだ冷静さを失うほどではなかった。彼女は必死に感情を抑え、冷静さを取り戻そうとした。もし相手がお金を要求しているのなら、さらにメッセージを送ってくるはずだ。今返信してしまうと、こちらが焦っていることがばれてしまう。……一方、憲一は皮肉な口調で言った。「見ただろう、悠子は純粋な女の子だ。彼女がそんなことをするはずがない」「お前、悠子に惚れてるんじゃないのか?」越人はじっと憲一を見つめた。「違うんだ!」憲一は慌てて否定した。「俺が彼女に悪いことをしたんだ。結婚前に彼女を傷つけ、結婚後には流産させてしまった。彼女に対して罪悪感があるんだ。ただ、それを償おうとしているだけで、愛しているわけじゃない」「どうやって償うつもりだ?心で?」越人は理解したような表情で言った。「こんな可愛い女の子を見て、惹かれるのは当たり前だろう」「話を逸らすな!だから、ないって言ってるだろ!」憲一は少し苛立ち始めた。「そうか、お前がそう言うなら、それでいいさ」越人はこれ以上追及しなかった。そう言うと、越人は再びメッセージを送った。[返事しないなら、この証拠を憲一に渡す]憲一はただ、越人が無駄な
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第518話

もちろん、この話は越人自身が香織から直接聞いたわけではなく、圭介から得た情報だった。このアイデアは圭介が考え出したものだ。「彼女は自分の結婚式を利用して由美を陥れることができるのだから、自分の子供を利用して、お前が完全に由美を諦めるように仕向けることだってあるかもしれないだろう?」越人は鋭くも現実的な質問を投げかけた。憲一はしばらくの間、携帯の画面を見つめ続けた。越人の言葉を聞いていないようにも見えるが、実際にはちゃんと聞いていた。ただ、現実に直面して衝撃を受け、受け入れられずにいたのだ。自分が知っている悠子は純粋で、優しく、気配りのできる人間だったはず。実際には、目的を達成するためには手段を選ばない人間だったのだろうか!?「人間は、こんなにも悪意に満ちていられるのか」欺瞞、隠蔽、陰謀、罠、そして陥れ……越人は彼を見つめ、「お前はもう若くもないし、ビジネスの世界で駆け引きは慣れっこだろう?こんな小さなことにショックを受けるなんて」と冷静に言った。「ただ、理解できないんだ。女の子がそんなにも策略に長けていて、こんなに——残酷だなんて」憲一は悠子によって深く傷ついていた。彼は本当に彼女を信じていたのだ。結果は……「横断幕の件が彼女の仕業だとすれば、由美の件もほぼ間違いなく彼女が関わっているだろう」越人は注意した。「松原家や橋本家の力をもってすれば、一人を排除することなんて難しいことではない」憲一の目は真っ赤になり、越人を睨みつけた。「お前の言いたいことは、由美が殺されたってことか?」越人はその鋭い視線に怯み、手を振った。「ただの推測だ、推測。そんな風に見るなよ、怖いじゃないか……」「証拠もないのに勝手なことを言うな!」憲一は大声で叫んだ。越人は瞬きを繰り返し、これはもう完全に気が動転しているのではないか?叫んでいるなんて!?「由美は無事に決まっている」憲一が怒っているのは、越人が由美が——殺されたかもしれないと言ったからだ。そんな結果を彼は信じたくなかったのだ。だからこそ、怒っている!越人はこれ以上彼を刺激せず、「言葉を間違えたよ。由美は囚われているだけかもしれない。突破口はまだ悠子にある……だから……」と宥めようとしたが、その言葉が終わる前に憲一はすでに走り去っていた。
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第519話

一方、越人は少し困惑していた。さっき、「必要のないことは連絡するな」と言われたばかりではなかったか?どうしてこんなにも早く電話をかけてきたのだろう。それに、香織が病院に行っただってどいうこと?まだ出産予定日には早いはず。だが、彼はあえて質問しなかった。なぜなら、圭介の声がとても切迫していたからだ。「すぐに調べます」と越人はすぐに答えた。……電話を切った後、圭介も車を走らせ、ホテルに近い病院にナビを使って向かい始めた。なぜか、彼の胸は急にざわつき、落ち着かなかった。理由も分からなかった。きっと彼女が心配でたまらなかったからだろう。久しぶりに再会したばかりで、まだ一緒に過ごせていない。彼女をしっかり見ることすらできていない。彼女ときちんと話すこともできていない。「本当に君に会いたかったんだ」と、まだ伝えられていないのだ。彼女のためにしたこと、そして綾香に関すること――その手紙のことはもう読んだ。彼女に、綾香のためにしてくれたことに感謝したいということも、まだ伝えていなかった。病院に到着すると、彼は車を停めて、すぐに中へと入っていった。病院は人で賑わっており、彼は電話をかけ、いくつかのコネを使って、ようやくフロントで名前を調べてもらった。その時、越人からも報告が入った。「すべて調べたけど、香織さんの入院記録も、ジェーンという名前もありませんでした」越人は言った。圭介は、何かがおかしいと気付いた。自分は彼女にすべてを説明したはずだ。彼女がまた無断でどこかに行ってしまうはずがない。彼は越人にホテルへ行くよう指示し、自分もホテルに戻ることにした。事の真相は、どうやらホテルでしか見つけられそうにない。圭介は、ホテルに近いため先に到着し、監視カメラの映像を調べた。監視カメラは正常に作動しており、映像も非常に鮮明だった。香織が主任の部屋に入り、しばらくしてから出てきて、ホテルのレストランで食事をしている様子が映っていた。食事の途中で、彼女は体調を崩し、そのまま倒れ、同僚に抱え上げられて運ばれていく姿も確認できた。しかし、映像には音声が含まれておらず、彼女たちが何を話していたかは分からなかった。その時、越人が到着した。圭介の焦りが伝わってきたため、越人も事態の重大
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第520話

「華遠研究センターが論文を発表したのはいつなの?」「携帯を見ていないのか?」……「私たちも電話で知ったんだ。メッドは世界最高の心臓研究センターだと自負していたのに、今や華遠に先を越されて、新しい研究成果を発表されたなんて、まるで顔に泥を塗られたようなものだ。これからメッドはどこに顔を向ければいい?」「そうね」……「このミルクに何か仕掛けたでうか?」「反応が早いわね。そうよ、ミルクに薬を入れたの。さっきの電話は、あなたを連れ戻すように言われたのよ。すでに調査が終わって、データを漏らしたのはあなたってことが分かったわ。もしあなたを連れ戻さなければ、私は病院から追い出されるどころか、私のこれまでのキャリアが全部おしまいになるのよ。退職前に辞めさせられるわけにはいかない。だから、こうするしかなかったの」「もう諦めなさい。あなたは医者だから、この薬の量がちょうどあなたに効くことを理解しているでしょう。抵抗しても無駄よ。完全に意識を失う前に、あなたは何もできない」これを読んで、圭介はほぼ全てを理解した。おそらく香織がメッドの研究成果を漏らしたため、秘密裏に連れ戻されることになったのだろう。M国の人々の性格は、世界中で知られている。絶対に容赦しないだろう。香織は今、妊娠中であり、彼は非常に心配していた。「国内でどうやって研究成果が流出したのか、調べてみる必要があるんじゃないですか?彼女は長い間離れていたのに、どうして華遠と繋がっているんですか?」と越人は疑問を抱いた。この件には何か裏があるようだ。圭介は突然、香織があの夜、文彦に会いに行くと言っていたことを思い出した。彼女が文彦を訪れたのは、おそらく研究成果に関することだったのだろう。「文彦を連れて来い」彼の声は低く、怒りが込められていた。「今すぐ文彦を連れてきます」越人は言った。彼の意図は、どんな手段を使ってでも文彦を連れてくるということだった。「それと、彼らがどうやって離れたのか調べろ」国内では、痕跡を残さずに移動することは不可能だ。「はい」越人はすぐに行動を開始した。圭介は周りの人々を散らし、あのスタッフもお金を持って立ち去った。彼は一人でテーブルの前に座り、その瞳は深い闇のように暗く、手はゆっくりと握り締められた。彼は何
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