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第51話

「里香ちゃん、もう少し寝てて」

その言葉が背後から聞こえ、男の顎が優しく里香の頭に触れた。

里香は一瞬驚いて固まった。

これはかつての二人の日常だった。

朝早くに目が覚めると、雅之はいつも優しくこう言ってくれた。

里香はぼんやりとベッドに横たわり、過去と現在の区別がつかなくなっていた。

だって過去も今も、彼女にこう話しかけるのは雅之だから。

心が苦しくなるけれど、里香は自分の指を噛みながら、動かずにそのままいた。

この抱擁が恋しかったのだ。

雅之の温もり、彼の香り、すべてが恋しい。

このまま時間が止まってほしい。離婚も夏実も、二宮家のこともどうでもいい。

いつもの二人でいられるのなら。

再び目を覚ましたとき、里香は雅之が微笑みながら自分を見つめていることに気づいた。

里香は一瞬固まって、「なんでそんな風に見てるの?」と聞いた。

朝早くから、少し怖いと思った。

雅之は低い声で「どうしてここにいるんだ?」と言った。

里香は雅之の顔を見つめ、「覚えてないの?」と問いかけた。

雅之は眉を上げて、「何を覚えてるって?」と答えた。

里香は起き上がり、昨晩の出来事を淡々と話した。

雅之はスマートフォンを取り出してチラッと見て、「つまり、俺が間違えてお前に電話したってことか?」と言った。

「その通りよ」里香はそう答えた。

しかし、雅之はスマートフォンを里香に差し出し、「俺がかけたのは桜井の電話だ」と言った。

里香は眉をひそめ、雅之のスマートフォンの画面を見ると、通話履歴の一番上には桜井の名前が表示されていた。

こんなことがあり得るのか?

里香は目を大きく見開き、雅之のスマートフォンを取ろうと手を伸ばしたが、雅之はそれを引っ込めた。

「だから、どうしてここにいるんだ?」雅之はベッドの方をちらりと見た。

里香は息が詰まるような感覚を覚え、飲み込めずに苦しんでいた。

「私があなたに会いたくて夜中に来たと思ってるの?」

雅之の美しい顔には少し考え込む表情が浮かび、しばらくしてから頷いた。

「そういう可能性もゼロじゃない」

「はは、本当に自己中心だね」

里香は冷笑し、自分の手で通話履歴を開こうとしたが、その履歴画面は真っ白だった。

「私のスマートフォンをいじったの?」里香はすぐに雅之を見つめ、疑いの目を向けた。

「いじってない
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