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第53話

「社長は秋坂市に出張に行きました」

「雅之の具体的なスケジュールを送って」

「わかりました」

桜井はすぐに電話を切り、少し後に雅之の仕事のスケジュールを里香に送ってきた。それを確認し、里香はチケット予約アプリを開いてすぐに予約をした。チケットを手配した後、空港に向かった。

冬木から秋坂までの飛行時間はたったの三時間。里香は雅之を見つけ次第、すぐに離婚の手続きを済ませるつもりだった。手続きが済んでから戻ればいい。

二つの都市は近くて、気候もほぼ同じ。里香は飛行機を降りると、タクシーに乗って雅之が泊まっているホテルに直行した。部屋を予約した後、一階のロビーで雅之を待った。

このクソ男、私の電話に出ないなんて。

出張に行ったからって逃げられると思ってるの?

そう思われたら大間違いだ!

里香は日が暮れるまで待っていたが、ようやく雅之がゆっくりと入口から入ってきた。

目が疲れていたせいか、雅之を見た瞬間、里香の視界がぼんやりとしてしまった。彼女は目をぱちぱちさせて、雅之だと確かめると、立ち上がって雅之の方に向かった。

「雅之」

近づく前に、里香は雅之の名前を呼んだ。雅之は一瞬驚いたように振り向き、里香に視線を向けた瞬間、彼の目が一瞬暗くなった。

まさか里香がここに来たとは。

「社長、この方は?」隣の男性が疑問を口にした。

雅之は少し困ったような、でも優しい笑みを浮かべ、「私の妻です」と答えた。その言葉を聞いた相手はすぐに笑い出した。

「なるほど、本当にサプライズですね。せっかく奥様が来ているし、二人の邪魔はしませんよ。後の晩餐会でお会いしましょう」

雅之は淡々と頷き、「お気をつけて」と返した。里香は雅之の後ろに立ち、二人の会話を聞いて眉をひそめ、小さな顔に緊張が走った。雅之は視線を戻し、里香の方を向いた。

「どうして来たんだ?」

里香は無表情で答えた。

「サプライズだよ。さあ、役所はまだ閉まってないから、今から離婚証を取りに行こう」

雅之の顔にあった穏やかな笑みが少しずつ消え、黒い瞳が里香をじっと見つめた。

「さっきの会話、聞いてたか?」

里香は頷いて「聞いたけど、私には関係ないでしょ?」と答えた。

雅之は里香の無関心な様子に腹を立てて笑った。

「さっき、伊藤社長に君が僕の妻だと言ったし、晩餐会にも君を連れて行く約束をした。今
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